クリスマスに降る雪は
Netflix映画『クリスマスに降る雪は』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Let It Snow
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ルーク・スネリン

クリスマスに降る雪は

あらすじ

クリスマスイブに記録的な大雪に見舞われた田舎町。珍しく降り積もるこの雪は人の気持ちや行動に影響を与えるのだろうか。高校最後の冬を過ごす若者たちにとって、友情、恋愛、そして未来を変えるかもしれない運命の聖夜が幕を開ける。 

『クリスマスに降る雪は』感想(ネタバレなし)

誰と過ごそうが映画は観よう

そろそろです。トナカイが来襲し、赤い服の不審者が街を徘徊する日が…。そう、クリスマスです。

クリスマスと言えば誰と過ごすかということが日本では話題になりがち。レオパレス21が2018年に18~29歳までの男女計600名を対象にアンケート調査した結果によれば、クリスマスをひとりで過ごす予定であると回答した人は「56.2%」だったそうです。欧米だと家族と祝う日という風習が色濃いですが、日本はどうも恋人と過ごすものだという商業的なイメージがしぶとく浸透しており、クリスマスに相手がいるかどうかという問いは“恋人がいるかどうか”の踏み絵になっている節があります。別に日本人もどんな年齢であろうと家族とクリスマスを過ごしてもいいのに…。

大丈夫。今は家で楽しめるコンテンツがいっぱいある幸せな時代です。ひとりでも恋人同士でも家族でもそれを楽しめば結局はみんな同じ。どうですか、動画配信サービスとかで映画を観るのは

私はクリスマスであろうとその時期に関係ないものでも好きに映画を観る、極めて貪欲な映画鑑賞スタイルなのですが、まあ、せっかくですからクリスマスに関係する映画を鑑賞するのも気分的にはいいものです。日本だとそれほどですけど、アメリカではクリスマス時期にはクリスマス映画を観るのが定番化しています。

幸いなことに巷の動画配信サービスはそういう季節的行事に同調して映画を配信してくれる気遣いをしてくれるので、クリスマス映画には困りません。選択肢が多すぎて逆に悩むくらいでしょう。

そんな中、Netflixが2019年のクリスマスに贈ってくれる映画のひとつが本作『クリスマスに降る雪は』です。

お話はシンプル明快で、この雪降る聖夜にそれぞれの想いを抱える高校生たちがあれやこれやと交差していく青春群像劇。特別、大きな大事件も起こりませんが、軽やかなストーリーテリングであなたのクリスマス気分をほんの少しパーティーな飾りつけにさせてくれます。

原作はヤングアダルト小説で、原作者のひとりである“ジョン・グリーン”は著名な作家であり、すでに彼の作品の多くは映像化されています。「さよならを待つふたりのために」は『きっと、星のせいじゃない。』(2014年)という題名で映画化され、他にも『ペーパータウン』(2015年)もそうでした。また、処女作「アラスカを追いかけて」は2019年にドラマシリーズ化したばかりです。

『クリスマスに降る雪は』の原作は「Let It Snow: Three Holiday Romances」というタイトルで、2008年に出版されたものです。映画の脚本は、下ネタ・コメディの新しい道を切り開いた『ブロッカーズ』を監督した“ケイ・キャノン”や、『ファインディング・ドリー』の脚本を手がけた“ビクトリア・ストラウス”が担当しています。


青春をフレッシュに彩る登場人物たちを生き生きと演じる俳優陣も、等身大の今まさにピカピカと輝く若者たちばかり。『トランスフォーマー 最後の騎士王』や『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』といった大作でも活躍する“イザベラ・モナー”。『DOPE ドープ!!』にも主演し、『スパイダーマン スパイダーバース』の主人公の声としても記憶に新しい“シャメイク・ムーア”。『ザ・サイレンス 闇のハンター』など近年その影響力を増しているティーンである“キーナン・シプカ”。『ダンプリン』などで活躍を広げるイスラエル系アメリカ人の“オデイア・ラッシュ”。MCU「スパイダーマン」シリーズではすっかりおなじみの同級生にして椅子の男“ジェイコブ・バタロン”。他、多数です。

誰かしら「この人、面白いな、気になるな」という役者を見つけられると思いますし、もし見つけたらその俳優の他の出演作も合わせて鑑賞してみてください。

プロデューサーにクレジットされているのは“ディラン・クラーク”という人で、『猿の惑星』リブートシリーズなど大作も手がけていますが、こういう青春映画も撮るんですね。今後は『バットマン』も控えているので要注目のプロデューサーかもしれません。

2019年11月8日からNetflixオリジナル作品として配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(時間のあるときに)
友人◯(気楽に観れます)
恋人◯(ほどよい暇つぶしに)
キッズ◯(ティーン向けですが)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『クリスマスに降る雪は』感想(ネタバレあり)

どんな立場でも、言えない気持ち

イリノイ州ローレルでは珍しい雪のクリスマスイブとなりました。『クリスマスに降る雪は』はそんな田舎町に暮らす若者たちの一日のドラマです。

登場キャラクターはポスターには8人が写っていますが、もうひとり“アンナ・アカナ”演じるケリーというキャラも割と重要なポジションな気がするのですけど、なんでいないんだろう(というかJPがなぜいる…)。田舎なせいなのか、だいたい顔見知りみたいです。とにかくこの面々のドラマがパーツごとに分かれつつ、ときおりクロスしていきます。

まずスチュアートジュリーの物語。

スチュアート・ベイルは音楽業界で成功をおさめており、巷でも非常に名前も顔も知れた有名ミュージシャン。まだ若いですが、その才能は確かなもののようです。しかし、彼の心には孤独がありました。「クリスマスは誰と過ごす予定?」と聞かれ、困ったように言葉を濁すスチュアート。実は彼は子ども時代は決して恵まれず、音楽だけが頼りで、今のキャリアにもなんとかたどり着いたらしく…。けれども厳格なマネージャーのもとプライベートまで徹底管理され、その現状にどこか自分ではどうしようもない物足りなさを抱えています。

一方、ジュリーは冒頭でコロンビア大学に合格したことを知らせる通知書に目をやり、それを引き出しの奥に隠しています。彼女は大学に行きたい気持ちはあるものの、病気がちな母親を心配し、置いてはいけないと奨学金も諦めて入学をやめようと考えているのでした。

この日、スチュアートとジュリーは偶然、電車で遭遇。知り合いになります。そして、流れのままに一緒に行動することになり、ソリをしてみたり、劇を観に行ったり、自由気ままな時間を過ごします。当然スチュアートは有名人なので顔バレして騒ぎになることもありましたが、上手く回避。ジュリーの家にもスチュアートを招待、楽しいひと時を満喫。

その中で「有名人だから奉仕活動をするの?」となぜかついてくるスチュアートに疑問をぶつけると、自分の幸福感の欠乏と、今この瞬間の幸せを伝えるスチュアート。そんな彼に励まされ、母に本心をぶつけるジュリー。二人の心は最後に重なり…。

このペアのエピソードで印象的なのは“シャメイク・ムーア”の非常に抑えた消極性そのものな人物像。どうしても黒人アーティストというと、ガンガンイケイケな感じ(ヒップホップやっている人はどうせみんなパリピでしょ…的な先入観)を連想しますが、そうではないフッと吹けば消えそうな粉雪みたいな存在感は新鮮でした。

あと、作中に出てくる劇。イエス・キリストに始まり、ラクシュミー神から、なぜか獅子舞まで、あらゆる文化圏の神的存在が一堂に会するカオスさがなんかシュール。いろいろ真面目に配慮したらギャグになった…という典型例みたいで、個人的に好きです。

男らしさも女らしさも気にしないで

お次はトビンアンジーの幼馴染ペアの物語。

この二人は昔からの旧知の仲で、アンジーは「公爵」と呼ばれ、そんなに男女っぽさを感じさせません。しかし、トビンの方は現在、そのアンジーに恋心を抱いている様子。告白したい、でも今さらそれもなんか…というジレンマ。乳首の毛が気になっていじっていたら出血するという情けない姿を見られる始末です。

アンジーがJPという大学生からパーティに誘われたので行こうかと言われ、連れ立って車で向かうことに。その先で待っていたJPはいかにもしっかりした男という感じで途端に焦り始めたトビンは「ブルームボール(カナダの氷上球技)、得意だ!」と虚勢を張り、地元で悪として有名なレストン双子兄弟にコテンパンにされます。またしても失態。

腹いせもあってレストン双子兄弟のビール樽を奪って出発するトビン・アンジー・JPの3名。プチ・カーチェイスが勃発するも、トビンの車はコースアウトで雪につっこみ、レッカー待ち。その間、JPと良い雰囲気になったアンジーに嫉妬全開のトビンは、関係を断ち切ってしまいます。「君が好きだ」と言える勇気まであと少しだけど…。

このペアのエピソードでの私の好印象ポイントは、二人のキャラクター性、とくにアンジーですね。アンジーは良い意味でステレオタイプな女の子っぽさがないキャラクターで、その立ち位置が最初から最後まで一貫しています。私がたまに恋愛モノで残念だなと思うことがあって、それは男勝りな女性キャラが恋をしていく過程で“女を見せる”ことでその愛が成就する…みたいな描写。別にそのままでいいのに…。対して『クリスマスに降る雪は』は自分らしさをずっと貫きます

そのアンジーとの対比なのか、トビンはどこかなよなよしたキャラになっており、男らしくあろうと振る舞って空振り。彼もまた最終的には素の自分を曝け出すことで理解を得ます(喧嘩に勝つでもなく)。

こういう「男は男らしく、女は女らしくしないと、恋愛は成り立たない」という、社会に蔓延る偏見をサラっと除雪する…とても気持ちのいいロマンスだったのではないでしょうか。

クリスマスに降る雪は

恋も友情もジェンダーでは語れない

最後はアディードリーの友情の物語。

アディーはジェブというカレシがいましたが、すでに破局しているのか、彼からのメッセージもないことに不安を爆発させています。ジェブが誰にいいねしたか、その絵文字の意味…スマホから窺える情報に翻弄されまくるアディー。現代のスマホ・ファーストな若者代表という感じですね。

たまたま通りかかったアルミホイルおばさんに車で送ってもらい、その車内で半ば強引というか、事故的に脱スマホを完遂したアディーは、ジェブに詰め寄り、どうなんだと真意を直接聞きだします。その答えは「鬱陶しい」でした。しかも、友人のドリーとも決裂してしまい…。

失意のどん底でトボトボ歩いていたアディーは、またもアルミホイルおばさんに再発見され、そこで「親友と仲直りしたい」とポロリ。

一方、ドリーはケリーという女子にキューピットの矢をあてようと必死なのですが、彼女の気があるのかないのかわからない、思わせぶりな態度に自分でも打つ手なしで困惑。彼女の周りはいつも女子集団に囲まれており、なかなか二人っきりで会うチャンスもなく。でもトイレで偶然に二人になると、いきなりのキスもしてきたりで、“もうなんなのでも好き”状態。

パーティで盛り上がるその夜、ドリーはケリーに謝られます。そして彼女の本心を知ります。「私はカミングアウトしていない」「でもあなたはしている」「それはカッコいい」…そんなことはないと謙遜しながら、二人の間にあったほんの少しの氷の壁をパキンと壊し、やっと思う存分キスを交わせて…。

アディー&ドリーのエピソードの良さは、女同士の友情と女同士の恋愛が同時並行的に成り立つことを見せていることですかね。別に同性愛者は同性すべての人間を恋愛ターゲットに見ているわけじゃない。それは「男と女の間に友情は成り立ちますか?」という古臭い質問にも似ているものであり、つまり、ジェンダーの組み合わせだけで記号的に愛を推測しないで…という話。

またカミングアウトという行為にまつわる、「カミングアウトできる人は凄い」という一方的なお手本化への「別にそんなことはない」という優しい投げかけでもあり、セクシャル・マイノリティを少数派として浮きだたせることなく、自然に馴染ませるストーリーだったのではないでしょうか。

俺がサンタだ!

あと忘れてはいけないDJパーティ野郎、キオンです。

彼は実質この物語におけるサンタクロース的存在。「(W)AFFLE TOWN」の店をパーティ会場にチェンジし、あらゆる出会いを支える。本作の最大の功労者(まあ、そんな何もしていない気もするが…)。

ちなみにキオンを演じた“ジェイコブ・バタロン”、コミュニティ・カレッジでは音楽理論を学んでいたらしいです。役に立ったかな…。

彼がワッフルを作っている店はなんか美味しそうな気がしてきますね。なんとなく。

クリスマスは恋愛だけのものじゃない、場を作ることでも輝ける…そんな姿勢を“クリスマスに浮かれる恋人たちに毒を吐く”ヴィランたちにも気づいてほしい。そう、私たちの“ジェイコブ・バタロン”は言っているのです(勝手に代弁)。

クリスマスに降る雪は誰にでも分け隔てなく積もります。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 70%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Dylan Clark Productions