ロストガールズ
Netflix映画『ロストガールズ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Lost Girls
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:リズ・ガーバス

ロストガールズ

あらすじ

20代の女性が行方不明になった。その若い女性の母親であるメアリーは直ちに警察に通報したが、その対応は雑でろくに捜査は進展しない。そうこうしているうちに事件は大きな進展を見せ、ただの行方不明ではなく大量連続殺人の疑いが出てくる。メアリーは事件の真実を解明するために、そして愛する娘の安否を知るために、警察を批判しながら五里霧中で悪戦苦闘するが…。

『ロストガールズ』感想(ネタバレなし)

あの事件は終わっていない

どこかの作品のようにどんな殺人事件も名探偵がズバッと解決してくれればいいのですが、現実はそうはいきません。アメリカでは20万件近くの殺人事件が未解決のままになっているという報告もあるそうです。

いわゆる「迷宮入り」と呼ばれる状態。現在は科学技術も進歩したし、情報監視社会なわけですから、捜査は以前と比べてやりやすいようにも思えるのですが、一向に未解決殺人事件が激減することもないです。むしろ積みあがっていくばかり。

その理由の中には、そもそも警察がろくに捜査をしなかった、もしくは怠慢や事件の軽視のせいで雑な捜査しか行われなかったという、被害者にとってなんともやるせない背景があるケースもあります。

アメリカでは殺人事件に時効はないとは言っても、やはり年月が経ってしまえば証拠も新たに出る可能性は薄く、犯人特定につながるよほどの新証言や証拠の発見がないかぎり、未解決殺人事件に再び光があたって解決に前進するということもあり得ません。

そうやって風化していく事件は数知れず…。

でもその事件を拾ってあげられる方法があります。それが映画のような創作の力です。映画の題材になることでその人々の記憶から消えかけた事件が再び声を上げる。そういう役割を果たすことも映画の大事な使命なのではないでしょうか。もちろんそれは安易な扱いにはできないものでもあるのですが…。

今回の紹介する映画も、アメリカで起きた“とある未解決殺人事件”を題材にしたものです。その作品が本作『ロストガールズ』です。

題材になっている事件とは、2010年に発覚したニューヨーク州ロングアイランドで見つかった複数の遺体。捜査を進めていくうちにこの地域一帯は誰かが遺体の遺棄場所として利用していたらしいことが判明し、続々と遺体が見つかるものの、犯人は…。この事件の犯人は「Long Island serial killer」の頭文字をとって「LISK」と呼ばれているようです。

ロングアイランドは一応は島なのですが、かなり面積は大きく約783万人も住んでいると記録されています。ニューヨークの都市圏とも近く、目と鼻の先なので、その都市部で働く労働者だった暮らしています。なのでそこまで辺境の未開地ではないはずなのに…。そこが死体捨て場になっていたという、ゾッとする事件でした。

一方でこのロングアイランドの一部地域はかなり閉鎖的な土地柄になっていた側面もあるらしく、それは『ロストガールズ』でも描かれていきます。やっぱりどんな地域も暗い一面を持っているものなのか…。

その陰惨な事件発覚から10年後となって作られた『ロストガールズ』。原作があって、ロバート・コルカーが2013年に上梓したノンフィクション「Lost Girls: An Unsolved American Mystery」です。こうやってみるとかなり早い段階で本になったんですね。

監督は『ニーナ・シモン 魂の歌』『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』など主にドキュメンタリーの世界で活躍してきた“リズ・ガーバス”。その彼女が実話犯罪ものを手がけるということで、この『ロストガールズ』も割とドキュメンタリーチックに作られている部分も目立ちます。

主人公は被害者の母親のひとりであり、それを演じるのが“エイミー・ライアン”です。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』で高く評価され、その後も『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や『ブリッジ・オブ・スパイ』など要所要所で良い演技を披露していましたが、なんか久しぶりの目だった主演作な気がする…。

脇を固めるのは『ジョジョ・ラビット』で魅了された人も多いのではないでしょうか、注目の若手女優“トーマサイン・マッケンジー”。『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』の“ウーナ・ローレンス”。『ミストレス・アメリカ』の“ローラ・カーク”もなかなかに印象的な役柄で登場。

『ヘレディタリー 継承』で酷い目に遭う(まあ、あの映画はだいたいの人間が悲惨な状況になるのですが)“ガブリエル・バーン”は警察の役で出演しています。ブロードウェイでのキャリアが印象的な“リード・バーニー”は地域の有力者という重要な役で、こちらも地味ながら引っかかりを残す良い演技です。

残酷な事件ですし、悲惨な遺体の描写もあるのでかなりキツイ作品かもしれませんが、理不尽な暴力によって今は声を上げることもできなくなった被害者の無念を少しでも共有するためにも、時間があるときにぜひ鑑賞してほしい一作です。

日本ではNetflixオリジナル作品として2020年3月13日から配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(じっくり物語に向き合って)
友人◯(実話サスペンスが気になるなら)
恋人△(気分は盛り下がるけど)
キッズ△(残忍な事件を描くものです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ロストガールズ』感想(ネタバレあり)

ロングアイランドの惨劇

真っ暗闇な夜。灯りはほぼない草むらに囲まれた道を、錯乱したように逃げる女性がひとり。何かから追われているのか。車のライトが彼女を照らし…。

2010年、ニューヨーク州エレンヴィル。中年女性のメアリー・ギルバートは貧しい生活を支えるために今日も働いており、それでも若い労働者に仕事のシフトをとられたりして「仕事増やしてって言ったのに」と文句を垂れていました。一番年下の娘のサラが学校で問題を起こしたらしいと連絡を受け、迎えにいき、なおも働きづめの1日は続きます。

おもむろにシャナンという人に電話するメアリー。それは長女であり、今は一緒には暮らしていないようです。おカネに困っている話をすると、なんだか快く助けてくれるふうな会話をし、明日の夜に会う約束をします。

家に帰ったメアリーは、居間で幼いシャナンが1999年にタレントショーに出た時のビデオを愛おしそうに見ていました。ちょうどそのとき、帰宅してきたのは次女のシェリー。母の様子にも興味なさげです。

夜、待てどもシャナンは来ませんでした。露骨にガッカリする母。シェリーはこっそりシャナンに留守電を入れ、「ママに謝って、会いたいよ」と気持ちを伝えます。

翌日、何者から電話が来ましたが、医者のようでしたが今はシャナンが来ないことに苛立つメアリーはそそくさと切ってしまいます。シェリーはシャナンのカレシからも電話があったことを伝え、これは少しオカシイと主張しますが、メアリーはそれは杞憂だと言わんばかりにスルー。

しかし、さすがに連絡が一切ないので焦って探し始める3人。車を飛ばし、ニュージャージー州のジャージーシティへ。携帯会社を問い詰め、情報は開示できませんと言っている担当を押し通し、なんとか通話記録を入手。それによれば携帯を5台も持っていたらしく、そのことに不信感を感じます。

今度はシャナンのカレシだったアレックス・ディアスに問いただすと、あいつはロングアイランドへ行ったと返答。連れていった運転手の場所を聞きます。

次にその運転手のマイケル・パクに問いただすと、顧客のいるオークビーチに連れていったこと、あの晩はシャナンはひどく取り乱していたことを教えてくれます。

このあたりでシェリーは姉であるシャナンは売春行為でカネを稼いでいたことを薄々感じ取ります。

ニューヨーク州ロングアイランド。サフォーク郡の警察署に乗り込んだメアリーたちは通話記録でここの警察に電話していると問い詰め、その音声を聞かせてもらいます。激しい雑音の中ですが、明らかに助けを求めるシャナンの声が記録されていました

しかし、警察は「家に帰らないからといって大騒ぎすることもない」と重視していないようで、「ドラッグをやっていたのでは?」「家庭環境に問題は?」とひたすらに事件性を否定。捜査すらしようともしません。

ところが状況は一転。偶然、ロングアイランドのある場所で警察犬をトイレをするために外に放した警官が、4体の白骨化した遺体を発見したのでした。死因は絞殺。遺体の身元はそれぞれモーリーン・ベイナード、メリッサ・バルテレミ、アンバー・コステロ、メーガン・ウォーターマンの4名。4人とも「Craigslist」というコミュニティサイト(いわゆる出会い系サイトとして利用されています)で売春業を営んでいたらしく、古くて2007年から行方不明だったことも判明。

シャナンの行方は相変わらずわかりませんが、事件性を確信したメアリーは焦ります。対応してくれたリチャード・ドーマー警視総監は「徹底的に探します」と約束してくれましたが、実際は騒ぎにしたくない上層部の意向を考慮し、全然行動をしませんでした。

誰にも頼れないと考え、独自に動き出すメアリー。シャナンは今、どこにいるのか…。生きていてほしい。その希望にすがりつきながら…。

ロストガールズ

大事なのは被害者に寄り添うこと

『ロストガールズ』は鑑賞してわかるとおり、未解決殺人事件を扱っており、犯人は今なお不明。被害者数は10~16人と考えられ、誰が殺めたのかはわかりませんが、現時点では警察はひとりの同一犯の犯行と考えているようです。

こうした史実を取り扱う際はかなり慎重になると思うのですが、それでもこうやって10年前の事件を映画化できてしまうのは凄いなと思います。下手をすれば単なる邪道な好奇心で事件をネタにして稼いでいるようにもなりかねません。それこそ作中で描かれていたようなマスコミの姿勢のように。

それでも本作が一定の正当性を保っているように見えるのは、一貫して被害者(とその遺族)に寄り添って作られているからなのだと思います。本作の主人公であるメアリーを始め、その中心にいるのは遺体の見つかった犠牲者の遺族たち。それは犠牲者と同じく女性です。

こういう実話ベースの犯罪ドラマでは、主役になりがちなのは、まずは捜査する側、警察です。一番事件に対して客観的に(それが本当に客観的なのかは置いておくとして)向き合っていく存在なので、単純にストーリーテリングさせやすいのもあるのでしょう。その場合は犯人当てがメインになってきます。

また加害側である犯罪者を主役にすることもあります。最近でいうと『テッド・バンディ』みたいに、殺人犯とそれをとりまく人を主軸にした物語も定番です。


これは殺人犯の存在が観客の興味関心を引きやすいという理由もあるのでしょう。確かにシリアルキラーの存在は何かと印象的、さらには伝説的にすらなって語り継がれる傾向があります。

でもそれは本当にいいのでしょうか。殺人犯の存在ばかりで。被害者のことは忘れていないのか。

犠牲となった人たちについては、被害者A・被害者Bのように軽々しく扱われ、まるで対象物でしかない。遺族もただなんだか感情的に振りまいているだけの存在として添え物になる。そういうことが創作の世界でも結構普通になってしまっていた部分もあると思います。

そういう薄情な世の中に対して、この『ロストガールズ』はカウンターとして一発ぶつけるような映画だったように私は受け捉えました。

『ロストガールズ』でも実際のところ犯人は不明ですが、容疑者候補になるような存在をちらつかせてはいました。最も怪しそうなピーター・ハケット医師は筆頭ですし、史実では警察署の人も疑われたこともあり、そのせいか作中のリチャード・ドーマン警視総監もなんだか裏があるように見えます。顧客のJ・ブリュワーや、情報提供者になったジョー・スカリスも信用できない感じを漂わせます。これらは全部実話ベースをなぞっているかたちです。

でも犯人特定というエンタメになりがちなポイントをメインにはしていません。主題はあくまで被害者と遺族の心情に寄り添っていました。

偏見が遺体や犯人を隠している

『ロストガールズ』では盛んに強調されているように、この事件の被害者は出会い系サイトで知り合った不特定多数の相手に体を売っていた、いわば「セックスワーカー」です。

そしてこの職業は偏見を受けがち。そんな仕事しているのだから犯罪に巻き込まれるのは自業自得、どうせろくでもない女なのだろう…人権などまるでないかのような言われっぷりで対等に扱われません。マスメディアも警察も、おそらく世間の一般市民でさえも「売春婦」を哀れには思いません。これが幼い子どもだったらコロッと態度が変わるでしょうけど…。

だから捜査は雑になる。報道も無神経になる。こうした女性差別、セックスワーカー差別というのは、殺害された被害者を二重で苦しめるものであり、その悪質さが静かに描かれている作品でした。

追悼式前に集まった遺族の中にいたキムは、被害者アンバーの姉で、自分もセックスワーカー。あの中では誰よりもこの事件に対して飄々としている感じに一見思えますが、それはこの職業に付き物の偏見意識を嫌というほどに経験しているからこその慣れ。本当はキムだってうんざりするほど傷ついています。

また親子関係への偏見も表出する物語でもありました。

メアリーは昔にシャナンを捨てるかたちになっており、おカネだけを恵んでもらうような、傍から見ればずいぶん酷い親に見える存在でした。シェリーはそのことを終盤に知り、憤慨し、母に噛みつきます。

でもメアリーは決してダメな母親ではないことが作中でもさりげなく描かれていました。シャナンのホームビデオを愛おしそうに見つめる姿もそうですし、あの実は心の病を抱えている三女サラに対して序盤でなにげないものですが絵を褒めるひと言があり、あそこでも「ああ、この人は根は優しいな」とわかります。

しかし、メアリーは貧乏であり、自分では躁うつ病と向き合って子どもを育てる自信が当時はなかった。だからなくなくシャナンを手放した。そういう境遇を抱えてきた存在です。

けれども世間はそんな存在をやはり理解してくれない。

警察はメアリーを人間失格な親だと見なしてここでも対等に扱いませんし、犯行時に錯乱状態にあったと思われるシャナンをドラッグだと決めつける。

『リチャード・ジュエル』でも描かれていましたが、そういう偏見こそが、本当は正しさの最前線であるべき捜査という世界すらも曇らせ、正義がなされずに悪が蔓延る状況を生み出してしまう

白骨化したシャナンの遺体が見つかったのは誰も足を踏み入れもしない沼地。重機を投入してやっと踏破できるようなエリア。あのロケーションはまるで偏見そのものの根深さを暗示するような場所でしたね。

シェリーは姉シャロンの素顔を知っている。ディーバと愛称で呼ばれるほどに歌が上手くて、学力も優秀で大学に行って…。偏見を乗り越えて生きる存在として映画ではシェリーに託すように描かれていましたが、本来は私たち世間に課せられた義務です。

偏見がなければ何がが違っていたかもしれない。偏見が遺体や犯人を隠しているなら、それを解き明かすのも私たちですから。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 33%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Archer Gray, Langley Park Productions ロスト・ガールズ