夜明け告げるルーのうた
映画『夜明け告げるルーのうた』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:夜明け告げるルーのうた 
製作国:日本 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年5月19日 
監督:湯浅政明 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

寂れた漁港・日無町で、父親や祖父と3人で暮らす男子中学生カイ。両親の離婚が原因で東京からこの町へ引っ越してきた彼は、両親に対し複雑な思いを抱えながらも口に出すことができず、鬱屈した日々を送っていた。そんなある日、クラスメイトの国男と遊歩に誘われて人魚島を訪れたカイは、人魚の少女ルーと出会う。

ネタバレなし感想

宮﨑駿、高畑勲に続く3人目の登場

世の中にはいろいろな映画祭がありますが、アニメ映画専門の映画祭も当然存在します。とくに世界で最も長い歴史を持ち、世界最大規模と言われているのが「アヌシー国際アニメーション映画祭」です。開催地は、アヌシーという人口1万2千人程度の街で、フランスに属しますが、位置的にはスイスのジュネーヴに近い場所にあります。

毎回、出品された作品の中からグランプリを決めており、最高の作品として選ばれると「クリスタル賞」が与えられます。過去にはクリスタル賞に輝いた作品の中で、日本で劇場公開されたものとしては、『コララインとボタンの魔女』『ファンタスティック Mr.FOX』『父を探して』『ぼくの名前はズッキーニ』などがありました。アニメ映画の賞といえば、「アニー賞」も有名ですが、それと比べて大手有名企業の大作ではなくインディペンデント系作品を評価する傾向が強いようです。

嬉しいことに、日本の作品もこのクリスタル賞を受賞しています。それが1993年の宮﨑駿監督の『紅の豚』と、1995年の高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』でした。さすがアヌシー、いち早くこの二人の日本アニメ界を代表する巨匠の才能に気づいているんですね。

そして、なんと2017年、3人目となるクリスタル賞を受賞した日本人が現れました。その人こそが“湯浅政明”です。

正直言って、大多数の日本人は「“湯浅政明”って誰?」状態だと思います。まあ、でも宮﨑駿も高畑勲も映画監督キャリア初期は“知る人ぞ知る”だったわけですし、今の時点で“湯浅政明”の世間の知名度が低いのは当然でしょう。

個人的には“湯浅政明”の名は2004年の『マインド・ゲーム』で知り、その独創性に一気に魅了されました。以降は、テレビアニメで活躍していたのですが、2017年になり13年ぶりに映画界に帰ってきたという経緯があります。だから余計に知られにくいんですよね。

ところが2017年はこれまでの映画界での目立たなさを吹っ飛ばすかのように“湯浅政明”監督作が2本も公開ですよ。その最初のひとつが『夜は短し歩けよ乙女』。相変わらず変わっていない…いや、安定性という意味ではパワーアップしている。凄まじいアニメーションでした。
『夜は短し歩けよ乙女』感想(ネタバレ)…今世紀で最高の出来(ボジョレー・ヌーボー風)
そして続くもう一作が本作『夜明け告げるルーのうた』です。

『夜は短し歩けよ乙女』と比べて雰囲気が子ども向けに見えますが、確かに子どもも楽しめますが、大人もその愉快さを味わえるようになっています。本作も“湯浅政明”らしさが全開。この“湯浅政明”らしさというのは言葉で説明しづらいのですけど、観ればわかります。それでいて見やすさもトップクラスなので、“湯浅政明”入門にオススメ

ぜひ“湯浅政明”ワールドに触れてみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

好きと言うために他者を悪く言わない

“湯浅政明”監督、公式サイトのインタビューでこんなことを語っています。
僕は大ヒット作を監督したことがないので(笑)、反響がないとよくネットでエゴサーチをして、自分の作品を観た人の反応をこまこま確かめるんですよ。すると、「人には薦められないけど、好き」「皆には薦められないけど、面白かった」なんてコメントがよく見つかる。謙虚というか、消極的というか、最初はなぜそんな言い訳が必要なのか不思議だったんです。本来、 自分が感じた「好き」は、言い訳なしで「好き」と言っていいはずなのに。
なんか、なんかすみません…。

私、この映画好きです。いや、湯浅監督も好きです。大好きです!(突然の告白)

茶番じみたことはおいといて、本作のテーマはまさにそれであり、「好きなものは好きと言おう!」というメッセージが恥ずかしげもなく直球で観客にぶつけられてきます。

こういうテーマ自体は別に珍しくないのですが、私が感心したのは、本作はその主張のために誰かを咎めたりすることはしないということ。よくありがちなのは、作品が推したい理想に反する人物や行為はことさら悪く描かれるじゃないですか。しかし、本作の場合、そういう“上から目線”感はゼロ。なので、本作は全く嫌味も批判も感じられない。非常にすんなり飲み込めます。

これはなかなかできることじゃないんですよね。「好きと言うために他者を悪く言わない」。これぞ本作の肝だと思います。

遊歩の“ルーへの嫉妬”だったり、人魚を敵視する町民だったり、他者を悪く言うような行為は本作では事態を悪化させるだけでした。それが素直になった瞬間、事態が一気に回復していくのは、寓話として非常にわかりやすいです。

「日の当たる町になったね」

本作の「好きなものは好きと言おう!」 を象徴するのが、人魚の少女「ルー」。

人魚ということで『崖の上のポニョ』を連想する人も多かったと思います。まあ、『崖の上のポニョ』は厳密には人魚じゃなくて魚が人間になったのですけど。

この2作は、純粋無垢な人魚の女の子が主人公に率直に好意を向けてくれるという点でも共通しています。

でも、観終わって考えてみれば、方向性が全然違う話でしたね。

『崖の上のポニョ』は、徹底して子どもだけの世界を構築していたのに対し、『夜明け告げるルーのうた』は子どもだけでなく、大人や町、言い換えれば閉鎖的な田舎コミュニティという広いスケールに拡大する物語性を持っているのが特徴でした。つまるところ、「好きなものは好きと言おう!」を阻害する要因である“同調圧力”を描く社会批評にも踏み込んでいました

だからか決して子ども向けアニメーションに収まるような作品ではないんですね。カイの祖父の母子のドラマや、タコ婆の恋人のドラマなど、結構、大人の琴線に触れるようなキャラクターの関係性も目立ちました。

これもやっぱり“湯浅政明”監督らしさで、「人と人のつながりが連鎖して生み出される無限大の可能性」がしっかり示されたかたちです。

夜明け告げるルーのうた

瞬間的に非日常化するアニメーション

こんな感じで“湯浅政明”監督らしさが本作でも満載なのですが、監督自身「王道の長編アニメーションを目指した」と言っているとおり、これまでの過去作と比べて比較的“湯浅政明”監督特有のクセは抑え目でもありました。たぶん昨今のアニメ映画で脚本を手掛けている“吉田玲子”が本作でもシナリオを担当していることも大きいのかなと思いますが。絵もおとなしめです。

それは一般的な見やすさというメリットを生んでいるともいえるし、逆に強すぎる個性が抜けて物足りなさを感じるデメリットにもなっているわけですが…。私としては強烈な独創性が好きなので若干寂しくもあり…。

ただ、過去作の「ギアがどんどん入っていって指数関数的にテンションが上がっていく」感じはないにせよ、テンションが瞬間的に爆発する感じはあってそこが良かったです。基本は硬いドラマとしっかりした絵作りなのですが、ルーの歌とダンスが始まると見た目どおり“ぐてんぐてん”に緩み始めて日常が非日常化するあれはクセになります。

キャラクターも相変わらずユニークで楽しいかぎり。企画当初は吸血鬼だったという人魚たちの独創性も素晴らしく、愛嬌あるルーはもちろん、ルーのパパも憎めなくて愛らしい。まあ、個人的にベストはあの犬魚(わん魚)ですけど。一匹、飼いたい…。

“湯浅政明”監督、今度は何を見せてくるのかますます楽しみでしょうがないです。

(C)2017ルー製作委員会