マローボーン家の掟
映画『マローボーン家の掟』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Marrowbone
製作国:スペイン・アメリカ(2017年)
日本公開日:2019年4月12日
監督:セルヒオ・G・サンチェス

マローボーン家の掟

あらすじ

1960年代末のアメリカ・メイン州。緑豊かな片田舎にひっそりとたたずむ古めかしい屋敷に、マローボーンと苗字を変え4人兄妹が母ローズとともに引っ越してきた。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが、ある悲劇が起こる。

ネタバレなし感想

映画鑑賞の掟

映画の楽しみ方は人それぞれ。とくに「ネタバレ」をめぐる対応は結構センシティブな問題です。このブログでも感想記事にクドイくらい「部分的に後半からネタバレがありますよ」と忠告しているのは、そういう“スポイラー”に関するクレームが過去にあったりしたため。無論、私も読み手に不必要に不快な思いをしてほしくないので、可能限りの対応はとります。

でもややこしいこともあって。鑑賞前にネタバレなんて当然されたくない…というのが一般常識…だと思いきや、案外そうでもない人もいます。事前にネタバレに目を通して最初から最後まで物語の大筋を頭に入れてから映画を観に行く人も決してゼロではありません。あれですかね、小説なんかでも最終章を読んでから最初を読み始める人もいると聞きますし、それと同じなのでしょうか。私は絶対にやらない楽しみ方ですが、まあ、個人の問題ですし…。ただ、劇場での映画鑑賞中にスマホで作品のあらすじチェックをするのはやめてくださいね(もし今この記事を劇場上映中に観ているならすぐにスマホをオフにしてください)。

といってもやっぱりです。押しつけがましいかもしれないですけど、私としてはネタバレなしでまずは鑑賞してほしいもので。とくにネタバレが絶対にダメなタイプの映画があるじゃないですか。いわゆるオチでサプライズがあるやつとか、ストーリーにトリックがあるやつとか。あれらはもうネタバレでもされようものなら、なんらかの罪に問いたいくらいの許せなさを感じることも否定はしないです。だからこの感想ブログでもそのタイプの映画は積極的に事前警告を発していきます。

そして、はい、来ました。本作『マローボーン家の掟』ネタバレ絶対厳禁の映画です。もう“何が”とは口にもできないけど、アウトです。どの作品に似ているかと言及するだけでも一線を超えてしまうかなと。それくらいの作品です。あとは察してください。

一応、これだけは書いておきますけど、なんとなくなルックだけを見ると、典型的なホラー映画に思えるかもしれませんが、そういう感じではないです。あの…うん、ダメだ、もうなんも言えない。とにかくハリウッド系のエンタメ作品を連想はしないでおいたほうがいいです。

それもそのはず、監督は“セルヒオ・G・サンチェス”というスペイン出身で、この人はあの最近では『ジュラシック・ワールド 炎の王国』でハリウッド大作監督として名をあげた同じくスペイン出身の“J・A・バヨナ”の監督デビュー作『永遠のこどもたち』の脚本を手がけています
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『永遠のこどもたち』以外にも“J・A・バヨナ”監督の『インポッシブル』でも脚本を担当する、いわば名コンビであり、今回は“セルヒオ・G・サンチェス”が長編映画監督デビューするターンがやってきたということですね。

元をたどれば“J・A・バヨナ”もメキシコ出身(つまりスペイン語圏の)ギレルモ・デル・トロによって見出された人なので、このスペイン系列映画人のキャリアアップ循環は凄いものです。才能の宝庫なのかな。

『永遠のこどもたち』の脚本家が監督ということで(『マローボーン家の掟』では監督と脚本を兼任)、その作品を観た経験のある人は「あ、じゃあ、ってことは…」となったかもしれませんが、それ以上は言わないで。少なくとも『永遠のこどもたち』が好きな人は『マローボーン家の掟』も好きになる可能性は高いでしょう。

出演陣では、いつもトラブルに巻き込まれる役回りの不幸感が漂うことで有名(?)な“アニャ・テイラー=ジョイ”がでています。『サスペリア』でも強烈な演技を見せた“ミア・ゴス”も登場。この時点でろくでもないことが起こりそうなフラグだらけですね。
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あとは語ることはありません。公式サイトも情報量の多いあらすじが書かれているので(致命的な核心部分は配慮されてはいますが)、それらも見ずに思い切って鑑賞してください。なるべくみんなで観ると、鑑賞後の語り合いが盛り上がると思います。

オススメ度のチェック
ひとり◎(じっくり余韻と噛みしめて)
友人◎(議論が盛り上がる物語)
恋人◎(意外にラブストーリー要素も)
キッズ◯(シリアスだが極端な恐怖ではない)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

4人で1人の子どもたち

大丈夫ですか? 映画を観終わってますか?(しつこい)

いや~、まさかあのアライグマがね。宇宙に飛び出して大冒険をするとは思わなかったですよね(違う映画の話です)。

真面目に『マローボーン家の掟』の話をします。

本作は最後まで観た人ならおわかりのとおり、ある“どんでん返し”的な結末が待っており、その事実が観客に提示されることで、物語全体の秘密が明かされる構成です。これは『永遠のこどもたち』にもみられた類似の見せ方であり(ただ詳細な類似点を言うと今度は『永遠のこどもたち』のネタバレになるので伏せますが)、“セルヒオ・G・サンチェス”監督の得意とする武器なのでしょうね。

この“どんでん返し”的な部分に関しては、観客にも咀嚼させるための材料が必要だと判断したのか、公式サイトで懇切丁寧にオチの解説がされています。突然のことすぎてよくわからなかった人はそちらのサイトを確認してみるのが良いと思います。なので、私の感想記事ではオチについてを長々と文字数を消費して語ることはしません。

もっと映画的な見せ方の面白さについて感想を書いていこうと思います。

まず本作は登場人物、とくに子どもたちの面々が非常に素晴らしいです。ローズが連れてきたジャック、ジェーン、ビリー、サムの4人。もうこの子たちが見るからに、(こう言っては失礼ですけど)不幸体質そうな儚さがあるじゃないですか。外見は全然似ていないにせよ、終盤で明らかになるように、ジャックが他3人の子の人格を代弁することになる展開に説得力を持たせるかのごとく、4人とも絶妙に共通した“何か”を持っている雰囲気を漂わせています。1人1人に華はないからこそ、4人でひとつの集合体として完成する…明らかに狙ったキャスティングですね。

対してこの4人の前に現れるアリーは、彼女単独だけで一瞬で画面の視線を奪う存在感があります。さすが“アニャ・テイラー=ジョイ”、オーラを放っていました。だからこそ最終的に4人の父親で凶悪殺人鬼でもあるサイモンと真正面から向き合って挑んでもおかしくないわけで。というか、『スプリット』に続き、またしても多重人格者と共生関係を築けるポジションでしたね。やっぱりそういう特性なのかな…。
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また、マローボーン家の秘密を嗅ぎつける弁護士のトムもまた童顔なせいか子どもっぽさがあり、こちらは余計な好奇心で貧乏くじをひくホラー映画でありがちな人物。“カイル・ソーラー”という主にTVドラマシリーズを中心に活躍している俳優が演じていますが、彼もこの物語に良い味を加えていました。

このキャストの座組だけで私の中で本作は一定の高得点を叩き出している感じ。ホラー映画は有名俳優の起用で安易にウケを狙うのではなく、こういう作品性とのマッチを最大限、気を遣ってほしいところですね。物語に合っていれば全然有名俳優でなくとも、むしろそこまで知名度がないからこそノイズにならずにストーリーに素直に入り込めるのですから。

マローボーン家の掟

オチを知れば恐怖は切なさに変わる

恐怖をじんわりと漂わす主に前半から後半1/2のパートでのホラー演出も良かったです。

ハリウッド系のエンタメホラーにありがちな、BGMでガンガン盛り上げて音でびっくりさせるベタさがないのも嬉しいところ。

アライグマを使った“穴の奥に誰かいる”ホラーも良いですし(ホラー映画ではアライグマはなぜか少しマヌケでいつも酷い目に遭う役なのが面白い)、なによりもサムという一番年下の子の体験する怖さが個人的には響きました。サイコロのシーンとかがまさにそうですけど、ああいうなんでもないはずの暗がりに足を運ぶのが無性に怖くなること、小さい時によくあったなぁと昔を思い出します。

サムはジャックの深層心理における“屋根裏に閉じ込めた父への恐怖”と“母への忘れられない想い”が最も色濃く表出している存在なので、切ないです。オチを知ったあとにシーンを振り返るとさらに余計に切なさが増します。母のぬくもりを感じるためにこっそり部屋に忍び込み、怯えてシーツをかぶる自分が鏡に映ると…という場面も。

サスペンスでいえば、訪ねてきたトムに対応し、書類の署名偽造に悪戦苦闘してハラハラする展開がありますが、あそこもオチを踏まえれば全部ジャックひとりの必死な苦労なわけで。

このように本作のホラー部分は(父親絡みを除き)、結末のネタバレを知ることで、単純な恐怖ではなく、少し哀愁が滲み出るような印象に転換してくるのがユニークです。

邦題もそうですし、日本の宣伝では5つの掟がクローズアップされています。
1「成人になるまでは屋敷を離れてはならない」
2「鏡を覗いてはならない」
3「屋根裏部屋に近づいてはならない」
4「血で汚された箱に触れてはならない」
5「"何か"に見つかったら砦に避難しなくてはならない」
ただこれらをあまり露骨にアピールしすぎると「ミスリードさせますよ~」という狙いが見え見えになるので、難しいところですね。本作はどんでん返しがあるにはありますが、決して"どうだ、参ったか、予想できなかっただろ!”というしたり顔な映画ではないので、個人的な気持ちとしてはそこまで誇張しなくても…とは思わないでもない。

扱いに困る映画ですよ、ほんと。

OUR STORY

物語としてはホラー風味のメルヘンチックなドラマです。

正直、リアリティで考えればツッコミどころだらけなのですが、そこは考えないのはマナー。というか、その点についても本作は一応“立場の表明”を最初と最後のシーンでやっていると思います。

まず、冒頭、母・ローズとともに子どもたち一度が歴史ある家に引っ越してくる場面。埃の被った床にローズが足で線を引き、この線を跨いだら家族5人だけの新しい生活(OUR STORY)が始まると宣言します。またその前のシーンで「OUR STORY」と題された絵日記でもその部分は強調されます。

つまり、本作はリアルなら誰でも共感できる普遍的な話…ではない、“私たちだけ”の物語ですよという前置きとも解釈できます。この時点で本作は一種の「信頼できない語り部」のような不確かな世界に足を踏み入れることになると観客に告げています。

そんな不確かな「OUR STORY」に唯一交じり合ったのがアリーです。アリーとの最初の出会いがミステリアスな大きな穴の開いた岩場というのも『不思議の国のアリス』みたいで象徴的でした(よくあんなロケーションを見つけますね)。本作はずっとジャックの視点で物語が進むため、このアリーの方が異質な存在に見えてきますが、実際は逆です。アリーが異質な世界に入ってきました。

そしてなんだかんだ悲劇が起こって、終盤に物語はジャックの視点からアリーの視点へと変移。真実が描かれると同時に、「OUR STORY」を完全に理解したアリーはジャックを突き放すことはしません。

ここでラストにリアルを代表するようにジャックを診断する医者の“もっともらしい”意見を聞くアリーが映ります。でも処方された薬を一切ジャックに与えていないことがハッキリ示され、アリーは悲劇が起こる前の海辺で撮った兄妹4人の写真を見せます。悲劇に沈んだ「OUR STORY」をもう一度幸せな姿として救いあげるには必ずしも“リアル”が大事とは限らない。そんな優しい目線が本作にはありました。

社会の片隅に理解者不在で苦しむ人…そんな人たちに寄り添ってあげる物語。ギレルモ・デル・トロから脈々と続くこの精神は、私はやっぱり好きですね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 46% Audience 56%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)2017 MARROWBONE, SLU; TELECINCO CINEMA, SAU; RUIDOS EN EL ATICO, AIE. All rights reserved.