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映画『悪魔と夜ふかし』感想(ネタバレ)…本当にコワい絶恐映像!

悪魔と夜ふかし

本当にコワい絶恐映像?…映画『悪魔と夜ふかし』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Late Night with the Devil
製作国:オーストラリア(2023年)
日本公開日:2024年10月4日
監督:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
悪魔と夜ふかし

あくまとよふかし
『悪魔と夜ふかし』のポスター。

『悪魔と夜ふかし』物語 簡単紹介

1977年、放送局UBCの深夜のバラエティ番組「ナイト・オウルズ」の司会者であったジャックは、人気低迷を一発逆転させるために、生放送でオカルトを題材に渾身のショーを届けようと狙っていた。特別なゲストを招き、超常現象が次々と披露して視聴者を釘付けにしようとする中、何やら不穏な空気が漂い始める。そして番組がクライマックスを迎えたとき、ジャックも予想していないことが起こる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『悪魔と夜ふかし』の感想です。

『悪魔と夜ふかし』感想(ネタバレなし)

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この心霊番組はヤバイです

日本でも2024年になってもたまに特番として心霊番組がテレビで放送されることがあります。現在はYouTubeなどのインターネット動画サイトが主流になり、心霊を取り上げる場合でもそうした動画コンテンツのほうが気軽に触れられるようになりました。確かにネット動画は心霊現象と相性がいいかもしれません。身近に恐怖を与えることができますから。

それでもテレビの心霊番組特有の…何というか…仰々しさと言いますか、スタジオでやけに大仰かつ真剣に心霊を取り上げて、ギャーギャー騒いでいるあの感じ。あれはあれで独特な味わいがあったなと思います。真実かどうかはもうどうでもよくて、あの場の雰囲気だけ楽しんでいればいいという俗悪なノリがありますよね。凄まじい速度で次々と消費されていくネット動画にはない、覗き見ることで共犯者になる共有体験があった気がします。

今なら下手したら「テレビの心霊番組なんて1度も見たことがない」という若い人もいるでしょうけど…。

今回紹介する映画は、そんなテレビの心霊番組に疎い人からしたら余計に「何じゃこりゃ!?」という反応を引き出す作品になるでしょう。

それが本作『悪魔と夜ふかし』です。

本作は、とあるテレビのバラエティ番組で心霊特番が組まれ、司会者が張り切る中、いろいろなオカルト絡みのゲストが招かれるのですが、そこでとんでもないことが起きてしまう…というホラーです。

特徴として、本作はモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)になっています。舞台となっているテレビ番組も架空の放送局による1977年に放送された回という設定で、その収録映像が何かしらのきっかけで発見され、それをまとめたドキュメンタリー…のような感じになっています。

いわゆるファウンド・フッテージですが、とてもよく作り込まれており、この年代の番組の雰囲気を巧妙に再現しています。随所に1960年代~1970年代のホラー作品のオマージュも散りばめられ、玄人向けのマニアックな映画ですね。

オチについては当然言及できませんけど、なかなかにぶっ飛んでいますので、誰でも楽しめるホラー・エンターテインメントとしての敷居の低さはないです。むしろ「何なんだこれは!?」と変なものを頭から浴びせられたい人に推奨します。

この珍作である『悪魔と夜ふかし』を監督・脚本で作り上げたのが、オーストラリアの“コリン・ケアンズ”“キャメロン・ケアンズ”の兄弟コンビ。人間の死体を肥料にする工場を描く『モーガン・ブラザーズ』(2014年)、ドッキリ番組の撮影現場に本物の殺人鬼が現われてしまう『スケア・キャンペーン』(2016年)など、捻ったプロットで盛りつけした惨劇をみせてくれるクリエイターです。

最近も『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』といい、オーストラリア製のホラー映画は活きがいいですね。今やホラー映画ならオーストラリアを無視することはできなくなってきました。

『悪魔と夜ふかし』で主演を務めるのは、『アントマン』『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』など大作でも脇から盛り上げてくれていた“デヴィッド・ダストマルチャン”。今回は主役ですが、“デヴィッド・ダストマルチャン”の魅力全開で輝いています。堂々のベストアクトを決めてくれましたよ。

心霊番組を見たことがない人、ましてや1970年代をよく知らない人には、『悪魔と夜ふかし』は困惑の感情ばかりが溢れてくるかもですが、当時の背景などを知ってみてください(後半の感想で少し説明してます)。結構面白い時代だったのです。

普段は映画は映画館で観るのが一番と言いがちですけども、今作に限って言えば、テレビで鑑賞するのもいいですね。パソコンのモニターやスマホではなく、あえてブラウン管のテレビとかで観てみたい…。

テレビのチャンネルはそのまま。画面から離れて視聴しましょう。

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『悪魔と夜ふかし』を観る前のQ&A

✔『悪魔と夜ふかし』の見どころ
★当時のテレビ業界を模倣した物語や演出の数々。
★観てはいけないものを楽しむ俗悪な視聴体験。
✔『悪魔と夜ふかし』の欠点
☆癖が強いので見る人を選ぶ。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:作風が好きなら
友人 3.5:ホラー好き同士で
恋人 3.0:趣味が合いそうなら
キッズ 2.5:子どもにはわかりづらい
↓ここからネタバレが含まれます↓

『悪魔と夜ふかし』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

ジャック・デルロイは放送局「UBC」の深夜のトーク・バラエティ番組「ナイト・オウルズ」の司会者として有名でした。

ライバルの番組であるジョニー・カーソンのトゥナイト・ショーと視聴率を競い合っており、常に張り切っていました。このバラエティ業界はいかに面白いことをして大衆を惹きつけるかにかかっています。ジャックの持ち前のトーク・スキルは冴えわたっており、どんなテーマでもどんなゲストでも、毎回面白く扱って、スタジオを沸かせていました。

しかし、妻のマデリンが癌になり、その絶好調にブレーキがかかります。ジャックは一旦は番組をやめ、エンターテインメントの世界から遠ざかってしまいました。

ところがその妻のマデリンが闘病も虚しく亡くなってしまい、ジャックは悲しみを乗り越えてテレビへと復帰を果たします。みんなが温かく迎えてくれました。ジャックは気を取り直して番組を作ろうと奮起します。

それでも番組の低視聴率は依然として問題です。やはりブランクがあるのが大きな欠点で、このままでは人気も急落して這い上がれることなく業界から消えるしかないです。

そこでジャックは起死回生の一手にでました。1977年のハロウィンの夜。特別エピソード 生放送をやることにしたのです。題材は超常現象

最初はジャックは白い布をすっぽりかぶって驚かせるなど、いつものおちゃらけたノリで始まります。手慣れた饒舌なトークでスタジオを盛り上げていき、オープニングから良い調子です。

今回の特番では、自称超能力者で死者のエネルギーを聴けるという霊媒師のクリストゥ、超常現象懐疑論者で元マジシャンのカーマイケル・ヘイグ、『悪魔との対話』の著者のジューン・ロスミッチェル、そしてそのジューンが取材した本のモデルとなった悪魔憑きの少女リリーが登場する予定です。

まずクリストゥがスタジオに顔をだし、能力をみせます。しかし、聴衆を巻き込むも、全く空振りで、笑いが起こるだけ。それでも次は聴衆の中の女性の関わる死者と繋がりを感じ取り、盛り上がってきます。

ひととおり終わったところで、急にクリストゥは絶叫して苦しみだしました。何でも苦し紛れに「ミニー」という名の人物を口にします。でも誰も聞き覚えのない名前です。スタジオの照明も火花が散って暗くなります。

気を取り直して一旦ここで休憩。CMの最中、クリストゥを落ち着かせるジャック。まだどこか神経質になっているクリストゥを椅子に座らせ、収録を再開します。

次にカーマイケルが登場。さっそく手品を披露し、クリストゥと険悪なムードになります。クリストゥはカーマイケルに水をかけ、出ていこうとします。

そのとき、おもむろに立ち上がったジャックは「ミニー」という名が実はジャックの妻であるマデリンにつけたニックネームだと明かし、スタジオはどよめきます。

しかし、もっととんでもないことが起きます。クリストゥが倒れ、凄まじい勢いで黒い液体を吹き出したのです。

これは一体どういうことなのか…真実を知っている者は誰…?

この『悪魔と夜ふかし』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/10/06に更新されています。
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信じるとかどうでもいい俗悪な見世物

ここから『悪魔と夜ふかし』のネタバレありの感想本文です。

冒頭からドキュメンタリー・スタイルで遠慮なく始まる『悪魔と夜ふかし』。

このような「超常現象番組の最中に本当に超常現象が起きてしまう」風に演出して作り上げた番組が実際に存在し、それはイギリスのBBCで1992年のハロウィンの夜に放送された『Ghostwatch』です。この『Ghostwatch』の放送時は大混乱があったそうで、放送直後から大量の視聴者の問い合わせが相次ぎ、やりすぎだと批判も殺到しました。実際に何も事前に説明なく放送したら、それはもう勘違いする人が続出するのも無理ないですね。

本作『悪魔と夜ふかし』はこの『Ghostwatch』を元ネタにしている部分も大きいのでしょうが、あくまで映画だとわかるかたちでこちらに提供されているので騙される人はいないでしょう。そのぶん、俗悪に楽しんでくださいというサービス精神豊富でした。

番組開始時から、やらせっぽい臭いがプンプンしています。ハウス・バンドも番組の音楽を奏でることで、この作り物っぽさがことさら強調されますし…。現代のテレビ番組はここまで露骨に作り物を丸出しにしなくなってますからね。懐かしき粗悪さが逆に味があります。

そして、クリストゥとカーマイケル・ヘイグという、正直、2人とも胡散臭い奴にみえる男が、醜い喧嘩を始めていきます。

カーマイケルという男は、作中では「IFSIP(超常現象科学的調査国際連盟)」に所属する懐疑論者ということになっていますが、モデルになった人物は明らかに「ジェームズ・ランディ」です。カナダ人のジェームズ・ランディは「世間で注目を集める超常現象を売りとする人物たちはイカサマだ!」と主張し、番組に出演して、その超常現象がどう紛い物なのかを解説する論者として活躍していました。とくにこのジェームズ・ランディが激しく非難したのが、スプーン曲げで有名だった「ユリ・ゲラー」。1970年代は「ジェームズ・ランディ vs ユリ・ゲラー」の対決でテレビは大盛り上がりしていました。日本の番組にも出演していましたね。

本作『悪魔と夜ふかし』の「カーマイケル vs クリストゥ」は完全に「ジェームズ・ランディ vs ユリ・ゲラー」の再現になっています。ほんと、こういうネタが当時のテレビ番組によってお茶の間に届けられていたのです。

視聴者にしてみれば、どっちが勝とうがどうでもいいわけで、要するに面白い見世物が鑑賞できればそれでOK。この気まずくなる2人のバトルを悪趣味に眺めていることができます。本作でも同質の楽しさを提供しています。

前半はクリストゥがまさかの黒い液体を盛大に嘔吐するという映像で強制終了するのですが、これも絶妙にやらせ感を漂わせていて、上手い塩梅ですね。

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視聴率は悪魔におまかせ!

後半になると『悪魔と夜ふかし』は別の気まずさを漂わせてきます。

悪魔崇拝者サンダー・ディアボが運営するカルト教団「アブラクサス第一教会」による集団自決から生き残ったという少女リリーの口からなぜか語られたのは、ジューンとジャックの秘めた関係性。不倫関係が示唆される中、最終的にはマデリンの死の真相まで露呈します。

ジャックは人気番組の司会者になるという成功が欲しいあまり、悪魔に妻の魂を売り、その犠牲によってキャリアを獲得していたのでした。クソ野郎です。

ここでその悪魔との取引の場が、序盤にちょこっと触れられた「The Grove」という集会。これは実在した「ボヘミアン・グローブ」を元ネタにしており、芸能界や政界で有名な男性が集まって親睦を深めるクラブです。「実は悪魔的な儀式を行っている」という陰謀論のネタにもされてきました。

本作ではジャックの強欲さが最悪の惨劇を招きます。つまり、テレビ業界の視聴率至上主義がいかにおぞましいのかというストーリーが裏に隠されていたのでした。

1976年には『ネットワーク』というテレビ業界の醜い組織体質を痛烈に描いた映画も公開されましたが、70年代からこのテレビ業界の酷さは周知の事実だったのでしょう。

『悪魔と夜ふかし』においてはジャックが主体ですけども、こういうどんな手を使ってもキャリアが欲しい(それが男の全てだ!)という考え方に憑りつかれた男性は、まあ、あの時代にはいくらでもいたと思いますし、それは今もそう変わってないのですが…。

本作ではそんな社会風刺に重ねて、こってりしたハチャメチャ映像をぶっかけるのが愉快です。カーマイケルがガス・マッコーネルに催眠術をかけて集団幻覚をみせるのはまだまだ序の口。でもこのシーンも変ですけどね。番組内の映像確認であれは幻覚だったと証明するのですが、よく考えるとこの映画を観ている私たちにも奇怪な映像(腹からワーム&目から巨大ワーム)が視認できている時点で「あれ?」ってなりますし…。

その違和感を考えている時間はありません。リリーが覚醒しますから。大殺戮です。この終盤になるとモキュメンタリーであることも忘れてきます。

ここまでやってしまうと、もうこの映画についてこれる人も選ばれます。「こんなのただ滅茶苦茶にやっているだけだよ!」とうんざりして呆れかえる人もいれば、「いいぞ、もっと滅茶苦茶にしろ!」とガッツポーズになる人もいるでしょう。私はこういう映画もたまにはいいなという悪魔的な笑みを浮かべる畜生なので…。

テレビにせよ、インターネットにせよ、動画コンテンツ制作者の皆さん。いくら視聴再生数を稼ぎたいからといって悪魔に身を売ると破滅しか待ってませんよ。

『悪魔と夜ふかし』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED レイト・ナイト・ウィズ・ザ・デビル

以上、『悪魔と夜ふかし』の感想でした。

Late Night with the Devil (2023) [Japanese Review] 『悪魔と夜ふかし』考察・評価レビュー
#テレビ業界 #悪魔