このギフトは“贈り物”か“毒”か…映画『ザ・ギフト』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年10月28日
監督:ジョエル・エドガートン
ざぎふと
『ザ・ギフト』物語 簡単紹介
『ザ・ギフト』感想(ネタバレなし)
ギフトの意味
「ギフト」という言葉を聞いて嫌なイメージを連想する日本人はいないでしょう(贈り物で苦い思い出がある場合を除く)。
「ギフト」はもちろん英語(gift)で「贈り物」のことであり、「才能」の意味もあります。
ところが、ドイツ語では「gift」は「毒」を意味するそうです。なぜそうなったのかはよく調べていないのであれですが、同じ“与えられたもの”でもこうも違うとは…。
本作『ザ・ギフト』は、贈り物によって展開される物語ですが、この「gift」の意味は何なのか…それが鍵となります。ネタバレは絶対にしない方がいい映画なので、これ以上は魅力を語れないのが悔やまれます。少なくとも言えることは「gift」の意味が物語の進行に合わせて変化します。最後の「gift」が意味するものは良い「gift」か悪い「gift」か…それは観てのお楽しみ。人によっては胸糞悪すぎる!と吐き気を及ぼすくらいのスリラーにも感じるかもしれません。
本作は俳優ジョエル・エドガートンの初監督作としても注目できます。俳優としては最近は『ジェーン』や『ラビング 愛という名前のふたり』が目立つ主演作でした。『ジェーン』では脚本も担当していて、正直あんまり面白いシナリオではなかったので、大丈夫…?と半信半疑だった私。
ところが、本作では見違えるように洗練されて綺麗にまとまっていたからびっくり。実際、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家の93%から好意的なレビューを得ているくらい、満足度の高い作品に仕上がってます。
ただ、満足とはいっても、後味がズーンと重く残るタイプの映画なので、ノれるかどうかは人によって結構別れる作品だと思います。
ひとりでじっくり観るのがオススメです。
『ザ・ギフト』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):善意の贈り物?
サイモンとロビンの夫婦は転職でカリフォルニアに新居を見に来ます。そこはミッドセンチュリーモダンな優雅な家でした。池もあります。落ち着いた広々した家を2人は気に入ります。
今度は街で家具を買いに来た夫婦。そこである男に話しかけられます。
「お邪魔してすまない。君を知っている」と言われ、サイモンは「思い出せないんだが」と戸惑っていると「同じ高校にいた」とその男は答えます。その人はゴードン(ゴード)・モーズリーと言って同級生なのでした。その場で旧友との再会のように会話し、サイモンは電話番号を交換。今日は忙しいので慌ただしく立ち去ります。
実は正直に言えば最初は全然わからず、サイモンは困惑していたのでした。
翌日、ロビンは荷物をほどきます。2人は赤ん坊を欲していましたが、シカゴに住んでいたときに妊娠したのですが残念な結果に終わっていました。
ロビンはお隣の家族と挨拶。赤ん坊がいるようです。
サイモンは仕事に出て、ロビンはシャワーを浴びていると、玄関にワインが置いてあるのを発見。ゴードからのようです。住所を教えていなかったですがなぜかわかったようです。
ある日、家にゴードがふらっと現れます。「サイモンはいる?」「今はオフィスで…」「まだ連絡をもらってなくて」というやりとりをしつつ、地元の便利なサービスの企業のリストをくれるゴード。ガラスクリーナーまで渡してくれます。「いい家だね」と褒められ、気を良くしたのかロビンは家に招くことに。
「子どもがいるのか?」「いいえ」と答えつつ、そのままディナーを一緒に。
ゴードは陽気に高校時代を語ります。「絶対に出世すると思った」
企業向けのセキュリティシステムを販売しているサイモンは、高校時代は生徒会長だったそうで、「彼に要求は現実になるんだ」とサイモンはなぜか得意げ。「君は卒業後何していた?」とサイモンは聞くと「卒業後は軍隊にいた」と返事。
「正しい心を持っていれば悪い出来事も自分への贈り物(ギフト)になる」
この食事の間、サイモンは妙に気まずそうにしています。その空気を感じ取り、違和感を持つロビン。食事後、「俺と友達だと思っている」とサイモンは素直に告白。本当はそこまで親しくもないようです。ロビンは「もう彼を夕食に呼ばない」と言います。
サイモンは自分のオフィスに妻を招きます。ビジネス拡大のために腐心しており、サイモンはキャリアアップに野心を燃やしていました。ロビンは企業コンサルタントでほとんど家にいます。「私はもう働かないほうがいい?」なんて尋ねる妻に「君の好きにしていいよ」と答える夫でした。
帰宅すると玄関前にまたプレゼントとカードが。魚の餌です。どういうことかと思ったら、池に鯉が泳いでいました。無断で家に入ってこんなことまで…とサイモンは不快感。ロビンはそこまで気にしなくてもと思いつつも夫に合わせます。
サイモンいわくゴードは昔は不気味がられていたそうです。
ゴードは性懲りもなくまた訪れてきました。「サイモンはいるかな?」とまたも同じ質問を繰り返し、ロビンは「鯉をありがとう」とお礼を言います。彼を不憫に思ったのか、ロビンはお茶を入れると誘いました。ゴードはテレビの設定までしてくれて、丁寧で謙虚な態度です。
しかし、サイモンは友人たちの前でゴードの悪口を平然と言い放ち、彼に「もう来なくていい」と直接言うことに決めました。
ところがそれは最悪の始まりにすぎず…。
素敵なプレゼントでしょう?(笑顔マーク)
いきなり苦言から書きますが、本作、オチ含めて非常に綺麗にまとまっている良く出来たシナリオだと思うのですが、綺麗にまとめすぎた感じもします。
どういうことかというと、劇中の2つの疑惑にあえてツッコんでいないのが気になる。例えば、学校時代にゴードが性的虐待を受けたというサイモンのウソ。さすがに児童へのこのような事件は警察も重くみて調査するでしょうし、調べればウソが簡単にバレるはず。また、最後のロビンの子の父親はゴードかも?という疑いも、DNA鑑定すれば一発でバレるので、あんまり復讐としては長期的な実用性はないです。
しかし、そんな欠点は無視したくなるくらいストーリーテリングと演出が巧みでした。正直、オチは読みやすいのですけど、ぐいぐい引き込まれます。
初監督でここまでのものを作れるのは、ジョエル・エドガートン、素直に凄いと思います。ジョエル・エドガートンは本作とよく似たストーリーの短編を制作したことがあるらしく、もしかしたら自分の中で相当熟考を重ねていたのかもしれません。
とにかく最後のオチに至るまでの勢いは素晴らしいです。リベンジものとしても、ロジックの整った綺麗な復讐が成立してます。残酷な行動無しで、ここまでの復讐を完結するのはなかなかです。
本作は最後の「gift」の解釈が夫と妻で別れてしまい、まさに夫婦の関係性の崩壊とシンクロします。本作は胸糞悪いストーリーだと言われがちですが、事実上はそこまで嫌な事態にはなっていません。ゴードがロビンをレイプしたように匂わせますが、あれはかつて自分がサイモンに嘘をつかれたことの意趣返しとして素直に解釈するなら、レイプというのはハッタリでしょう。というか、本作の別エンディングでは、はっきりとゴードはロビンをレイプしていないと描写されているそうなので、これは確定事項ですね。サイモンにとって赤ん坊は疑心暗鬼という名のギフトとして残っただけです。
一方の妻・ロビンは、天からの授かりもの(ギフト)である赤ん坊を念願かなってやっと手にできました。しかも、夫の醜い実態を知ったロビンにとって、真に愛すべき存在(赤ん坊)を見つけたわけですから、もう迷うこともないでしょう。きっと精神安定剤も必要ないんじゃないでしょうか。
じゃあ、いじめによって人生が崩壊して今回復讐を遂げたゴードはどうか。たぶん「ざまあみろ!」とは思っていない気もするし、そもそもゴードは復讐に積極的ではなく和解の機会も窺っていたような雰囲気さえあります。メッセージの「笑顔マーク」も嫌がらせとかではなくただ不器用なだけかもしれません。ゴードにとってあの赤ん坊は、復讐の道具としての「gift」でもあり、未来の希望としての「gift」でもあるのでしょう。
「gift」を多角的に解釈できる練られたシナリオを支える役者陣も良かった。サイモンを演じた“ジェイソン・ベイトマン”、ロビンを演じた“レベッカ・ホール”、それぞれ表情の変化が見どころでした。そして、それと対比するかのようなゴードを演じた“ジョエル・エドガートン”の表情の無さ。魅入りました。
これだけ成功すると、ジョエル・エドガートンは今後、監督業も続けるのかな? 今のところ俳優の仕事ばかりみたいですが…。才能のある俳優はどんどん監督に挑戦していってほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 75%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C) 2015 STX Productions, LLC and Blumhouse Productions, LLC. All Rights Reserved.
以上、『ザ・ギフト』の感想でした。
The Gift (2015) [Japanese Review] 『ザ・ギフト』考察・評価レビュー