この映画を美味しくいただくには賞味期限に気を付けて…映画『スプリット』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年5月12日
監督:M・ナイト・シャマラン
性暴力描写
すぷりっと
『スプリット』物語 簡単紹介
『スプリット』感想(ネタバレなし)
衝撃のラスト(変化球)
まさかのオチを見せてくれる予想外のストーリーが売りになっている“M・ナイト・シャマラン”監督の最新作が2017年、公開されました。
それが本作『スプリット』です。
実は私、本作を観る前から”M・ナイト・シャマラン”監督に騙されてました。タイトルを勘違いしてました。『スピリット(Spirit)』だと思ってて、観る直前に気づきましたよ。はい、ただの私の凡ミスです。本当のタイトルは『スプリット(Split)』。「分裂する」という意味の単語ですね。そりゃあ、多重人格(解離性同一性障害)の人間が中心となるお話しなのだから、そういうタイトルになるのは当然。なぜ誤解したのか…。
まあ、そんなどうでもいい話は置いといて、語るべきなのは監督の”M・ナイト・シャマラン”。彼のフィルモグラフィーはなかなかの山あり谷ありです。『シックス・センス』(1999年)で一躍有名となり、『アンブレイカブル』(2000年)や『サイン』(2002年)と続くと、「”M・ナイト・シャマラン”監督作品=衝撃的なラスト」という感じが鉄板となっていったのですが、その後は迷走期に投入。得意なはずのサスペンススリラーを捨てて、なぜかファンタジーやファミリーSFに走りだし、「どうした? シャマラン」と多重人格を疑いたくなるレベル。なかには”M・ナイト・シャマラン”監督ファンでさえ擁護できないような黒歴史映画もあって、完全にネタ監督として嘲笑される存在に終わるのかと思いました。
ところが、2015年の『ヴィジット』で見事に復活。「やっぱり俺たちのシャマランは小規模サスペンススリラーでこそ光るんだよ!」となったわけです。
そんな”M・ナイト・シャマラン”監督の最新作である本作『スプリット』。案の定、宣伝では「衝撃のラスト」と書かれてるのですが、本作の衝撃はこれまでの過去作の衝撃とは種類が違います。ネタバレになるので言いづらいですけど、ストーリーのトリックによるものじゃないです。はっきり言って今回のオチは、「そうきたかぁー!ヤッホーイ!!」みたいな人と「えっ…だから何? 何なの?」みたい人に真っ二つに分かれると思います。“M・ナイト・シャマラン”監督ファンは確実に楽しいはず。
あと、「女子高生3人」vs「23の人格の男」という宣伝文句はあまり期待しないほうがいいでしょう。
オチの関係上、良くも悪くも「今」しか楽しめない、賞味期限の短い映画なので、早めに観た方がいいのは絶対に間違いありません。もちろんネタバレなしでね。
『スプリット』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):誘拐犯は底知れない
女子高生のケイシー・クックは同年代の仲間と群れることなく、ひとりで佇んでいました。クレアはケイシーだけ呼ばなければイジメをしているとSNSで叩かれるのが嫌で仕方なく彼女をパーティに招いたとこぼします。
ケイシーはバスで帰ろうとするも車で送っていこうと言われ、付き合うことに。クラスメイトのクレアとマルシアと一緒に車に乗り、クレアの父が車の後ろで荷物を詰め込みます。
助手席に座っていたケイシーは後方で物音を聞きます。そしてトランクが閉まり、運転席に乗ってきたのは…見知らぬ男。
その男は淡々とマスクをしたかと思えば、後部座席のクレアとマルシアに失神スプレーを吹きかけ、気絶させます。
怯えるケイシー。男はこちらをじっと見つめ、またもマスクをつけ…。
ケイシーが目覚めると目の前には怯えたクレアとマルシアがいました。
そこは冷たい部屋で、窓はありません。
部屋に入ってきたのは自分たちを誘拐・監禁した張本人である眼鏡のスキンヘッド男。「最初はお前だ」
マルシアを連れていってしまいます。しかし、抵抗されたからなのかすぐに戻ってきます。
一方、精神科医のカレン・フレッチャー博士は3人の高校生が誘拐された事件のニュースを見ます。
そのとき、メールが来ます。差出人は「バリー・S」。担当している患者です。「会いたい」と書いてあります。
クレアは対抗しようと持ちかけますが、ケイシーはそう簡単にはいかないと弱気な発言をします。「3人で一緒にぶつかるしかない」と言われ、マルシアからも「力を貸して」と頼まれますが、それでも跳ね返すケイシー。
反抗する意思を持てないのには理由があります。ケイシーはある幼い頃の記憶がフラッシュバックしていました。
カレン・フレッチャー博士のもとにやってきたのはバリーです。親しく会話をしますが、「何かあった?」と心配します。実はバリーは多重人格であり、このバリーは複数の人格を管理している存在です。「来週いつのも時間に」…そう言ってバリーは立ち去りました。
そして監禁された3人も犯人が複数の人格を抱えていることを知り、ますます動揺することに…。
バック・フィーバー
劇中で「バック・フィーバー」という言葉がでてきます。ケイシーの回想シーンで登場するこのフレーズ。これは狩猟においてハンターが獲物を前にしたときに恐怖や興奮などの感情の乱れのために思いも寄らぬ行動(引き金を引くのをためらったり、逆に撃ち過ぎてしまったりするなど)をとることを意味します。「バック・フィーバー(buck fever)」の「buck」は雄鹿のことです。
この言葉、まさにシャマラン監督作品にぴったり。
例え弱者であってもひとたび“武器”と“環境”が揃ってしまうと予想外の行動をとっていく…本作におけるその弱者がケヴィンとケイシーです。
ケヴィンがバック・フィーバーのすえにいきついたのが、あの超筋肉男“ビースト”。一方、ケイシーがこの先どこにいきつくのかハッキリさせない終わり方でしたが、続編で語られるのでしょう。
今回、多重人格者のケヴィンを演じた“ジェームズ・マカヴォイ”はさぞかし役者冥利に尽きる体験だったでしょうね。『X-MEN』シリーズでプロフェッサーXを演じた彼ですが、本作における終盤のあの刃物も銃弾も効かない姿はもはやミュータントの領域。シャマラン監督は『X-MEN』がしたかったのか…。
シャマラン監督らしい「いや~な感じ」の描写も随所にあって楽しかったです。冒頭の車での拉致シーンも素晴らしかったですが、個人的にはケイシーに性的行為をしていたことが判明するあの叔父が「野生動物は裸だから君も裸になりなよ」と裸で言っているシーン。あの気色悪さったらないですよ。
その逆にクスッと笑わせるシーンもシャマラン監督の持ち味。ヘドウィグがなぜかノリノリで踊りまくる場面は別にあそこまで長尺で撮ることもないのに、でも愉快だから良し。あとケイシーと一緒に拉致された女の子のひとりが部屋から脱走して隠れた先が“ロッカー”という、ホラーにおいて一番ダメな場所なのもギャグなんでしょうね。
シャマラン・フィーバーしてました。
賞味期限のあるオチ
このオチは想像してなかった。というかこれをオチにするとは思わなかったというほうが正しいかも。
普通はストーリーのトリックを身構えますよね。多重人格の話なら「実は多重人格じゃなかった」とか「実は別のキャラも多重人格だった」とか。でも、本作は違って、むしろ多重人格の部分はミスリードでさえあるという…。「女子高生3人」vs「23の人格の男」を期待しているとがっかりするし、そもそも23の人格も出てこないし…。
本作『スプリット』のオチは簡潔です。
実は『スプリット』は『アンブレイカブル』と同一世界の話だった! そして、物語は今後公開予定の『Glass』へ続く…。
これをオチだと言い放つシャマラン監督がいろいろな意味で凄い。仮に劇中で過去作の要素が出てきても、ファン向けのイースターエッグかな?と思うのが一般的ですから。
個人的なこのオチの第一印象は、そういう“どんでん返し”でくるのか!とニヤニヤでしたが、ふと冷静になってみるといろいろ思うところはあります。良くいえば“攻めている”、悪くいえば“突っ走りすぎ”。だって、『アンブレイカブル』を観てないと「ぽかーん」だし…。数年後に本作を観ても、たぶん作品の関係性は明らかになってますから、何が衝撃なのか全然通じないでしょうし。だから「今」しか楽しめないのです。
これは前作『ヴィジット』で高評価を得たシャマラン監督が勢いに乗ってるからできたこと。観客も俺の勢いに乗ってこいよ!ってことなんでしょう。それにたぶんシャマラン監督もストーリーのトリックで観客を騙すのに飽きてきたのかもしれないですね。
私として今回のオチに対する評価は…「保留」で。いや、元も子もない言い方をするなら、結局、『Glass』が面白いかどうかにかかっているんじゃないですか。これで『Glass』がつまらなかったら、赤っ恥ですからね。
シャマラン史上、最後の衝撃的なラストにならないことを祈るばかりです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 79%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
以上、『スプリット』の感想でした。
Split (2017) [Japanese Review] 『スプリット』考察・評価レビュー