シャドー・オブ・ナイト
Netflix映画『シャドー・オブ・ナイト』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。 

原題:The Night Comes for Us 
製作国:インドネシア(2018年) 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:ティモ・ジャヤント

あらすじ

少女の命を見逃したその日から、組織から追われる身になった殺し屋の男。少女を守るため、残虐な闇社会を敵に回し、仲間とともに凄惨な闘いに身を投じる。

ネタバレなし感想

好きな人は即死級にハマる

日本政府は国内の甚大な人手不足に対応するために外国からの労働者受け入れ拡充することを掲げており、2019年4月から導入を目指している新しい在留資格「特定技能」を創設する入管法改正案を臨時国会に提出したとニュースにでていました。最初の1年間に4万人、5年間で25万人の外国人労働者を受け入れる方針だそうです。その外国人労働者はどこの国の人が多いのかというと、急増しているのは東南アジアです。いよいよ日本も「移民」が身近になってきました(政府は「移民」という言葉を頑なに使いたがらないですけど)。

ところで、映画脳になっている訓練された皆さんはこのニュースを聞いてピンと考えたことがあると思います。

きっと日本で働くための資格と当面の資金を手に入れるために闇組織の手を借りる貧困層がたくさん出てきて、その人材資源で動く大量の金や権力をめぐって、血生臭い闘争が起こるパターンだな…。そんな映画でよくあるシチュエーションを妄想した人(あれっ、私だけ?)。

そんなことが本当にあるかどうかは別にして、実際、この東南アジアの裏社会を牛耳る存在はいて、それは「トライアッド(TRIAD)」、日本語では「三合会」と呼ばれています。香港を拠点とする巨大な犯罪組織ネットワークの総称で、基本、金のためなら何でもやります。

そのトライアッドの闇社会を、若干の“中二病”的な設定を交えて、痛快なバイオレンスで描いたインドネシア映画が本作『シャドー・オブ・ナイト』です。

お話はもう100万回は聞いたことがあるテンプレどおりのもの。ある男が少女を救って闇社会に立ち向かう…おなじみのやつ。たまには120歳の高齢者を救うとかではダメなのかと思いますけど、まあ、これが定石なのです。

ただ、本作はストーリーよりも何よりもアクションです。インドネシア映画でアクションといえば『ザ・レイド』を思い浮かべますが、その系譜として脈々ととんでもないアクション映画を生み出しているのが本作の監督“ティモ・ジャヤント”。監督が手がけた前作『ヘッド・ショット』を観た人ならわかると思いますが、「やりすぎじゃないか」というぐらいの勢いで本編ずっと続く暴力の連続は、極悪アクション熱狂者を陶酔させるのにじゅうぶんなアルコール度数。それが本作ではさらにパワーアップしているので、もう即死級です。

主演は『ザ・レイド』でおなじみで、監督の前作『ヘッド・ショット』でも終始暴れまくった、もはやシラット以外のイメージが全然ない“イコ・ウワイス”。最近だと『スカイライン 奪還』にてエイリアンと互角以上に戦っており、もはや人間かどうかも怪しいです。
今作ではライバルキャラのポジションにいるというのがちょっと新鮮。

そして、その“イコ・ウワイス”と対峙する主人公を演じるのが“ジョー・タスリム”という俳優。この人、幼いころから武術に親しみ、とくに柔道に関してインドネシア柔道代表チームに選ばれ金メダルを獲得するほどの実力の持ち主。マジで強い人です。インドネシアはあれなんですか、格闘家にとって映画は第2のキャリアになる国なんですか。良い国だなぁ…。

この二人のドラマが加わって、前作『ヘッド・ショット』以上に、この手のジャンルが大好きな人が好むアツい展開が畳み掛けるように襲います。これ以上書くとネタバレになるので控えますが、アクション映画ファンは絶対に観ておくべき一作でしょう。

Netflixオリジナル作品として配信中です。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

男の友情がアツい

浜辺で目覚める少女レイナ。凄惨な現場が周囲に広がり、親らしき男女が目の前で撃たれます。金をくすねた村を住民ごと壊滅させることも造作なくやってのけるトライアッドの極悪さがよく伝わる幕開け。そんな全てを失った少女を救ったのは、トライアッドで実力を認められていたイトウという男。イイトウは弱き者を守り、自分の信念を貫けるのか…!?

こんな感じの超シンプルなストーリーなので、そこにオリジナリティを求めるのはお門違い。

ただ、本作は“ティモ・ジャヤント”過去作から明らかにパワーアップしており、この手のジャンルが大好きな人が好む「正しいバージョンアップ」を遂げた順当な一作だったと思います。

まず、今回も監督の前作『ヘッド・ショット』と同様に、選ばれし身元不明の男女6人で構成された通称「6つの大海(SIX SEAS)」といったように、なかなかのフィクション度高めな敵キャラ設定が用意されており、そいつらを次々倒すという非常に楽しい見世物が待っています。敵の戦闘スタイルも個性があって、全部がシラットをベースにしているのかは知りませんが、そもそもシラットという武術自体が多様で幅のあるものらしいので、だからこそ成せる技なのかもしれません。

今作でも『ヘッド・ショット』で見られたような割と調子に乗っているヘタレそうな奴が敵として序盤に出てくるのは、もうこの監督のお約束なのでしょうか。本作序盤に登場する、精肉店のヨハンがまたいい感じのクレイジーさで良いですね。絶対にコイツからは肉は買いたくないです。肉をあんな顔に血を浴びながら解体している時点で、この人、いろいろ間違ってますからね。

そして、ここで本作の正しいバージョンアップによって追加されたアツい展開その1「仲間との共闘による男の友情」

少女を連れてイトウは元ガールフレンドのシンタの家に逃げ込むのですが、その後に力になってくれたのがかつてのギャング仲間のファティやボビー、ウィスヌといった面子。こいつらがまた良い奴で。イトウの行動に文句を言いつつ、なんだかんだでパスポートづくりまで支援してくれる。そして、イトウが留守の間に襲ってきた敵集団と文字通り死闘を繰り広げます。

この「男の友情」シーンがカッコいい。もはやゾンビじゃないかというくらいの大量のナタ集団が大挙して狭い建物内に押し寄せるのですが、ファティもボビーもそう簡単にはやられない。

ボビーなんて、撃たれまくって「ボビィィィィーー!」と悲壮感ある演出が入るものだから「ここで退場か…」と思ったら、即死ではなくその後も結構戦いまくるという…。全体的にそうですけど、この作品の世界の人、耐久力高すぎます。だから、ひとりに何十発と撃ち込むのがデフォルトなのかな…。で、雰囲気からして違う白髪の女が登場し、ボビーは弁慶のごとく立ちふさがり、ナタを喰らうわけです。「ボビィィィィーー!(2度目)」…今度こそ絶命。

少女を託されたファティも見事な健闘。車を武器に攻撃し、最期まで雄姿を見せてくれました。

ここまでの闘いを見せられたら、観客としては「よくやった」と盛大に拍手を送りたくなります。

シャドー・オブ・ナイト

女の戦いがアツい

続いての、本作の正しいバージョンアップによって追加されたアツい展開その2「容赦ない女の戦い」

一時的に少女と再会したイトウですが、敵との決着のためにある女性に少女を託します。この謎めいた女性「オペレーター」がまた強い。

『ヘッド・ショット』では女性は主人公のロマンスの相手としての意味合いが濃かったのですが、今作では完全なる戦闘狂として対等に登場。まさに究極のジェンダーフリー(弱肉強食)。

オペレーターはこの後、敵のアルマとエレナという女と「1 vs 2」の戦いを繰り広げるのですが、この戦闘が凄惨。『アトミック・ブロンド』など女性が闘う映画というのはこれまでもたくさん見てきましたが、今作の場合、何が凄いって、とにかくグログロのバイオレンスだということ。指はちぎれるわ、内臓はボロンするわ、「女性だからこうします」みたいな偏見も配慮もゼロ。ここまでストレートに死闘を見せる女のバトルは新鮮でした。

どんどん建物内の場所を変えて戦闘が継続し、途切れることのない緊張感がまた素晴らしく、チェーン女との決着、ナイフ女との決着と、それぞれの最期の“決め”が本当にクール。敵の二人の女も負けはしますが、やっぱり観客としては「よくやった」と盛大に拍手を送りたくなるんですよね。

ラストの決着がアツい

ただ、一番の本作の正しいバージョンアップによって追加されたアツい展開は、その3「最高のライバルとの真剣勝負」でしょう。

『ヘッド・ショット』にもこの要素はあったのですが、今作はこの部分をとくに純化させています。

イトウの昔からの友であり、今は組織の手先として、イトウの命を狙う状況になってしまったアリアン。この二人のドラマがベタですが、熱すぎる。イトウって名前でしたけど、たぶん中華系の人という設定なのでしょう。アリアンとは人種が違います。でも、二人は社会の底辺に這いつくばっていた弱者として、いつかたとえ非合法な組織でも上位に行きたいという共通の夢でつながっていた…そんな二人が今まさに試される。

そのドラマを把握したうえでラストバトルを観ると涙もの。

イトウは車内で手りゅう弾を爆破させても生きているぐらい、不死身系ですが、同じく不死身系なアリアンとの戦闘は「一体この二人はどうやったら死ぬんだ」と観客はハラハラしながらも、どっちも負けないでほしいとつい思ってしまう切なさ。

この二人の最期の決着が本当に名シーン。カッターでイトウの口の中にブスっと頬に内側から突き刺すアリアン。「内側」というのがかつて仲間だったアリアンの立場を示しているような感じもしてきます。そのカッターをイトウは気合で噛み折り、反撃、アリアンに致命傷を負わせます。組織の犬だった彼がまさしく犬のひと噛みで意地を見せた瞬間です。「死んでるやつは殺せない」と立ち去るイトウの後ろ姿と、自分なりの意地で最期を迎えるアリアン。

2018年の「ベスト・ライバル賞」をあげたい…。

さらにさらにまだ楽しませてくれる本作。アツい展開その4「最高のラスト」

少女をひとり船に乗せ、残ったイトウは組織の集団に包囲されるなか、決死の車、突撃、ここでエンディング。黒幕との決着を見せないのが、実際にリアルで暗躍している組織に対するパンチにもなっていて良いですし、ウェルメイドじゃない勢いまかせなオチもマニア心をくすぐるじゃないですか。

あのレイナという少女だって、あの先で待っているのは決して楽な道じゃないはず。でも幸せになれと願わずにはいられない。ただのアクション特化なだけの映画じゃない、アツさ120%の映画でした。

まあ、レイナが成長してイトウの仇のために組織を壊滅させる続編とか、観たいと思ったりもしましたけど(本末転倒な感想)。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 87%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『ヘッド・ショット』…頭部に銃弾を撃ち込まれ、記憶を失った男が暴れまわる。そんな状態で動いていいのかとかツッコんではいけない。
(C)Netflix