ご注文ありがとうございます…映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:フランス・ドイツ・アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年3月18日
監督:ナヴォット・パプシャド
ゴア描写
ガンパウダー・ミルクシェイク
がんぱうだーみるくしぇいく
『ガンパウダー・ミルクシェイク』あらすじ
『ガンパウダー・ミルクシェイク』感想(ネタバレなし)
ミルクシェイクに火薬と血を混ぜて
はい、クッキングのお時間です。今日は「ミルクシェイク」を一緒に作っていきましょう。
まず牛乳を用意します。新鮮な牛乳ですよ。賞味期限が切れている腐ったやつではダメです。続いてバニラアイスを用意します。これは市販のアイスを買ってくるだけでけっこうです。
このバニラアイスをミキサーに入れて、牛乳も加えてなめらかになるまで混ぜます。アイスは事前に室温で少し溶かしておくと混ぜやすいです。ミキサーがない人はボールの中で手動で混ぜ合わせることもできます。じゅうぶんに混ぜったらコップなどに注いで完成。
でもちょっと待ってください。ここでトッピングもしてもいいですし、他の素材を混ぜるのもアレンジになります。例えば、ガンパウダーなんていかがでしょうか。火薬ですね。このガンパウダーを追加することで、ミルクシェイクの爽やかな舌触りが台無しになり、無垢な白い色も消え失せます。自分を痛めつける感覚が喉越しを上回るでしょう。
これで「ガンパウダー・ミルクシェイク」の出来上がり。
ということで今回紹介する映画はそんな絶対にマネしてはいけない、なんて美味しくなさそうな名前なんだと真っ先に思ってしまう、そんなタイトル。それが本作『ガンパウダー・ミルクシェイク』です。
正直、タイトルからはどういう映画なのかさっぱりわからないのですが(料理映画ではないだろうなとは推察できるけど)、本作はアクション映画です。それもゴリッゴリにバイオレンスな…。『ガンパウダー・ミルクシェイク』は“殺し”の仕事をしている主人公が裏社会で追い詰められつつも死闘でサバイバルしていく、バイオレンス・アクション映画です。
特筆点があるとすれば、まずひとつは主人公側には多くの殺し屋がでてくるのですが、全員が女性だということ。女性殺し屋モノですが、女性のチームアップものでもあります。最近だと日本でも『355』が公開されましたけど、この『ガンパウダー・ミルクシェイク』も殺意に溢れる女たちの熱気が凄まじいです。
そしてこの『ガンパウダー・ミルクシェイク』はそのバイオレンス度がかなり過激。レーティングでは一応は「PG12」なので「子どもも観れますよ」ということになっていますが、盛大に血しぶきをあげながら、残酷に人がバッサバサと死んでいくので、保護者の方はそのつもりで…。
なにせこの『ガンパウダー・ミルクシェイク』の監督は、2013年のイスラエル映画『オオカミは嘘をつく』を監督して、その内容で一部界隈で話題騒然となり、カルト的に支持された“ナヴォット・パプシャド”なのです。『オオカミは嘘をつく』は権力の腐敗、私刑による憎悪の連鎖、そして何よりも目を背けたくなるような残虐な拷問描写があり、なかなかにショッキングな一作でした。こっちの映画のレーティングは当然の「R18+」。
今回の『ガンパウダー・ミルクシェイク』は“ナヴォット・パプシャド”初の単独監督作であり、久々の映画なので、待ちわびていたファンもいたはず。残酷度合いは抑え気味ですが、エンタメ性が増して、やりたい放題にバイオレンスをぶちかまわしており、ノリとしては『キングスマン』に近いかもしれません。
その『ガンパウダー・ミルクシェイク』の主役を飾るのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のやりすぎ姉想いなネビュラ役でおなじみの“カレン・ギラン”。今回も人間関係がこじれていて面白いです。
その“カレン・ギラン”の周りを固める女たちとして、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で強烈な印象を与えてきた“レナ・ヘディ”、『TINA ティナ』で受賞歴もある“アンジェラ・バセット”、ドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』の“カーラ・グギーノ”、そして『シャン・チー テン・リングスの伝説』の“ミシェル・ヨー”。この女5人組がもう最高に暴れてくれます。
ちなみに主人公の少女時代を演じるのは、ドラマ『ウィッチャー』でこっちでも殺意ガンガンの目つきをしていた“フレイヤ・アーラン”です。
『ガンパウダー・ミルクシェイク』はアメリカではNetflix配信だったのですが、日本では劇場公開ということになり、これを機に女たちの大暴れをスクリーンで満喫してください。鑑賞した後はミルクシェイクでも味わってね。
オススメ度のチェック
ひとり | :痛快な映像で気分リフレッシュ |
友人 | :バイオレンス好きの人と |
恋人 | :ロマンス要素は無し |
キッズ | :暴力描写も多いけど |
『ガンパウダー・ミルクシェイク』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):殺しの世界から飛び出す
自宅にて自分で腕の深い切り傷を縫うサム。彼女は「ファーム」と呼ばれる組織に所属する殺し屋でした。今日は想定したよりも敵が多く、思わぬ怪我を負いました。連絡係のネイサンという男から電話がかかってきて、いつものダイナーで会うことになります。
そのダイナーに座ってミルクシェイクを注文。ここはサムにとって因縁深い場所です。それは15年前に遡ります。
そのときもダイナーのこの位置に座って、ミルクシェイクを頼んでいました。サムはまだ少女。そこに前に女性が座ります。母のスカーレットです。母は殺し屋で、手に血がついており、戦闘してきた帰りの様子。
「持ってきた?」と言われ、本の中に収納された銃を差し出します。母はしばらく姿を消すと言い、ネイサンが面倒を見ると告げます。サムは「図書館がいい」とお願いしますが、危険すぎるからと却下。母は詳細は話そうとせず、「もう子どもじゃない」とサムがごねても、一緒にシェイクを飲んで見つめ合うだけ。
急ぎの電話があるからと「待ってて」と言って母が席を立ったとき、そこへ男たちが乱入。ひとりの男がサムの前に座り、「ママはお前と似ているな」とナイフを見せつけて脅し、サムの顔に刃を突き立てて少し切りつけます。
その瞬間、母が銃をぶっ放し、サムが目をつむっている間に男たちは殲滅。母は娘に何も言わずに車で行ってしまい、サムは追いかけようとするも止められ…。
現在。母と同じく殺し屋になったサムの前にはネイサンがいて、「言われたとおりにやってくれ」と怒られます。次の仕事があるらしく、何でもカネを盗まれたそうです。それを取り返すのが任務。
古い武器ではダメだと言われたのでサムは図書館へ。マデリンが応対し、サムがバックいっぱいの武器を受け付けにどんと置くと「どんな本が好みですか?」と事務的に聞いてきます。
図書館長のアナ・メイと事務員のフローレンスも出てきて、名前を質問されます。サムの名を言うと「スカーレットの子ども?」と把握し、親しくしてくれます。そしてオススメの武器を提案。ジェーン・オースティン、シャーロッテ・ブロンテ、ヴァージニア・ウルフ、アガサ・クリスティ…著名な女性作家の名がついた銃火器です。
サムはカネを強奪したと思われる奴が潜伏するホテルの部屋に侵入。その部屋のベッドの上の電話が鳴る中、男と揉み合いになり腹部を撃ちます。瀕死の男は電話に出て、その会話から幼い娘エミリーを誘拐されてカネが欲しかったことをサムも察します。そして「お願いだ、どうか娘を…」と懇願されてしまいます。
放置できなくなったサムは、瀕死の男を組織提携の契約医に連れていき治療を受けさせ、医者に必ず治せと命令しつつ、自分はその誘拐された子の奪還に向かいます。
一方、ネイサンはサムの独断行動を知り、3人の刺客の男を送りこむことにします。しかも、サムが先日の任務で殺したのは裏社会で有名な御曹司だと判明し、引き返せない状況を自覚。
何も知らないサムはすでに窮地でした…。
最高じゃないか、この女たち
『ガンパウダー・ミルクシェイク』のアクションはなかなか楽しかったです。そこまで際立ったオリジナリティがあるわけではないのですが、変にカメラをぐりぐり動かさず、じっくりと長回しでカメラを横移動させてアクションを見せてくれるので本当に格闘している感じが伝わってきます。
序盤のボーリング場での3人の刺客男との戦闘はいたってノーマル。その場しのぎのスカジャンも何気に着こなしつつ、ボッコボコに3人を圧倒。“カレン・ギラン”も過去の出演作があれだけに、すっかりアクション慣れしていますね。
続いてのバトルフィールドは病院。ここがもう『ガンパウダー・ミルクシェイク』らしいシュールさで、また3人の刺客男と再戦するのですが、相手は笑気ガスでハイになっているので、ちょっとテンションがおかしい。それでいてサムは腕が強制注射で麻痺して動けないので、エミリーの助けも借りて回転椅子に固定されたまま戦うという斬新スタイル。この戦闘の愉快さがもう気持ちいです。
さらにトッピングは続きます。今度は駐車場でのカーチェイス。エミリーにハンドルとギア操作を任せて、サムはアクセルとブレーキ、そして指示係。この一心同体のカーアクションがまたもフレッシュです。しかも隠密で逃げ潜むかと思えば、思いっきり追突して突破したり、派手で良し。車から飛び出す敵もあちこちに体をぶつけて酷い目に遭い、この過剰な暴力の味付けがまたGOOD。
後半は、図書館での待ってましたのチーム戦。シスター・ハードボイルド・アクションと宣伝では紹介していましたが、これはもう妄想していた乱闘の具現化でしたね。チェーンで首を折る“ミシェル・ヨー”、ガトリングをぶっ放す“カーラ・グギーノ”、トンカチで相手を凹ます“アンジェラ・バセット”、銃剣でグサグサにする“レナ・ヘディ”。最高じゃないか、この女たち…。
終盤はダイナーでのラストバトル。ここで横移動をまた繰り返す。この見事な映像構成も良かったです。
スマートで無駄がないわけではない、むしろその無駄な暴力のトッピングが『ガンパウダー・ミルクシェイク』の中毒性。あらためて“ナヴォット・パプシャド”監督にぴったりすぎると思うし、こういうのを待っていた!というアクション映画の誕生じゃないでしょうか。
この映画はプリンセス・ストーリーです
『ガンパウダー・ミルクシェイク』は現代のプリンセス・ストーリーだと思います。
まず主人公のサムは非常に夢も希望もない人生を強いられており、いわば羽ばたけない世界に閉じこめられたも同然です。しかも今作ではわざわざ「ファーム」という組織名にしているだけあって、そこには男たちが女を搾取しているという構造も提示しているわけです。
そんな中、サムはこの世界から飛び出そうともがき出します。そこで母との和解がある。決して母と軋轢を抱えたままにはしない。それは『シンデレラ』の継母との救いなき確執とは違います。サムは母さえも引っ張り出して、状況を変えてみせます。
敵だらけの四面楚歌に陥りつつあるサムとスカーレットの母娘ペアに助っ人になってくれるのが、あの図書館の3人なのですが、あの3人はそれぞれ青、緑、赤の服を着ており、『眠れる森の美女』の妖精のゴッドマザーっぽいです。苦しむ女の子に必要なのは愛の魔法ではなく銃火器なのですよ。
そう言えば『ガンパウダー・ミルクシェイク』は男との恋愛が全然でてこなくて、そこも良いなと思いました。女性が主体性を確保するのにロマンスは必須ではないし、ましてや男の庇護なんていらない。ここらへんもまさしく現代にふさわしいプリンセス・ストーリーである部分。
本作の敵であるマカレスターはラストでダイナーにて対面するだけなのですが、そこでの会話だけでも「あ、こいつとは一生わかり合えないな」という感触が一発でわかります。「自分をフェミニストだと思っている。女所帯なんだ。娘たちを愛している。でも女はわからない。息子ができるとその息子とはわかり合えた」と淡々と自分の思考に陶酔しながら語るその男。気持ち悪いほどに自覚のない偏狭頭に何を言っても無駄です。
マデリンの戦死を悼みつつ、エンディングでは5人でドライブ。世界を飛び出した女たちがどこへ向かうのかはわかりませんが、いくらでも道は続いています。
こういう抑圧の世界からの脱出をシスターフッドで達成する作品は、『ガンパウダー・ミルクシェイク』以外にも『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』など、最近は増えています。
そしてこういう映画には「シスターフッド“ありき”すぎる」とか「敵がしょぼくてカタルシスがない」とか、そんな感想もぶつけられがちですが、こういう作品はフィクションでも特定の人にとってはリアルで等身大のドラマに映るものです。つまり、今まさに抑圧を感じている人には…。だから必要な人に届けばいいと私は思います。注文していない人にミルクシェイクをプレゼントしても意味ないのでね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 58% Audience 47%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved. ガンパウダーミルクシェイク
以上、『ガンパウダー・ミルクシェイク』の感想でした。
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