オーヴァーロード
映画『オーヴァーロード』(オーバーロード)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Overlord
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年5月10日
監督:ジュリアス・エイバリー

オーヴァーロード

あらすじ

第2次世界大戦下の1944年6月。ノルマンディー上陸作戦が開始された直後、ナチス占領下のフランスに、侵攻作戦の成功を担う重要な使命を帯びた米軍の落下傘部隊が送り込まれる。しかし、その戦地にいたのは、敵兵だけではなかった。何も知らない若い兵士たちを想像を超える恐怖が襲う。

ネタバレなし感想

超科学ならナチスにおまかせ!

最近、ドイツの自動車メーカーで世界的に有名なフォルクスワーゲンのCEOが社内のイベントでナチスを想起させる発言をしたとして謝罪するに至ったというニュースがありました。日本人の中には“そんな大袈裟な”と思う人もいるかもしれませんが、フォルクスワーゲンという会社自体の歴史を知っているとそうも言っていられません。というのもこの企業は実は第二次世界大戦前にナチス政権の国策企業として設立されたという原点を持っているからです。なのでナチスに絡める発言など冗談でも笑えないんですね。

こんな風に“えっ、これもナチス関連だったの!?”と驚くようなものが今の世の中にもいろいろと存在していたりします。

一方で完全にフィクションとして語られる、通称「ナチス・ファンタジー」も世間にはいっぱいあるので、どれが真実でどれが架空なのか、たまにわからないこともしばしば。それだけ私たちの現代社会に色濃く存在を刻み付けるナチスのインパクトは良くも悪くも凄いものです。

そんなナチスのリアルとファンタジーを織り交ぜた映画も多く作られており、中にはナチスは実は月の裏側で生きていて地球侵略の機会を窺っていたという仰天の設定が話題となった『アイアン・スカイ』(2012年)みたいな“ぶっとびすぎ”な作品もありますし、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)のようにさらなる巨悪の踏み台にされる場合もあります。どちらにせよ、ナチスとSFはなぜか相性が良く、たいていは超科学技術に傾倒しているのがお約束。もうこれはナチスの専売特許と言ってもいいくらいです。なぜなんですかね。日本も戦時中は人体実験していたし、アメリカだって原子爆弾を作ったりした科学の汚点があるのに…。

まあ、その疑問はともかく、今回紹介する『オーヴァーロード』はナチスのリアルとファンタジーを織り交ぜた映画群の中でもなかなかの巧みなセンスの光る秀作でした。

あまり言うとネタバレになって面白くないので控えますが、極端に“おふざけ”に走ることもなく、かといって真面目過ぎもしない、ほどよいナチスを題材にした戦争エンターテイメント映画になっています。

とにかくネタバレ厳禁で鑑賞した方が最高の体験ができると思うので、予告動画とかもなるべくは見ない方がいいと思います。結構、宣伝では気にせずバラしているみたいですけどね。すでにアメリカなどでは公開済みの映画なので少しググるとガンガンにネタばらしだらけですし。

物語部分以外で言及できることがあるとすれば、『オーヴァーロード』の制作スタジオは、あの今は「スター・ウォーズ」で大忙しのはずの“J・J・エイブラムス”率いる「Bad Robot Productions」だということです。“J・J・エイブラムス”が関与した『クローバーフィールド』シリーズとの関連も指摘されたくらい似た雰囲気のある本作ですが、確かに事前情報の少なさで見せるサスペンスは共通しています(実際は『クローバーフィールド』シリーズとは無関係です)。
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『オーヴァーロード』では製作に“J・J・エイブラムス”が関わっており、実際に鑑賞してみるとかなり“JJ”節が濃いめな印象。

監督は『ガンズ&ゴールド』で長編監督デビューを飾り、本作が2作目となるオーストラリア人の“ジュリアス・エイヴァリー”。この人、『フラッシュ・ゴードン』のリメイク企画で監督予定だそうで、ちょっと今後も気になりますね。

キャスト陣は比較的フレッシュな顔ぶれ。実質主人公ポジションのキャラを演じる“ジョヴァン・アデポ”は『フェンス』で長編映画デビューしたばかりの新人。
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他にもあの名俳優カート・ラッセルの息子である“ワイアット・ラッセル”、映像作品制作にも携わっている“マティルド・オリヴィエ”など、普段あまり見ない若手俳優が揃っており、それが逆に“誰が死ぬかわからない”緊迫感につながり良い効果になっています。一方、悪役はデンマークの名俳優“ピルー・アスペック”が堂々熱演しており、貫禄じゅうぶん。

かなりグログロな残酷描写のオンパレードですが、嫌悪感よりもエンタメ感が強めなので、気持ちよく観られると思います(個人差あり)。絶対にスクリーンで鑑賞した方が面白い、映像の迫力が売りの映画です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ほどよいエンタメの刺激)
友人◯(仲間内でワイワイと)
恋人◯(このジャンルが好きなら)
キッズ△(グロいのでそれがOKなら)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

色々なジャンルのフルコース

『オーヴァーロード』の良さは何と言っても“リアルとファンタジーを織り交ぜ方”の巧みさ。

前半は完全に本格戦争映画。冒頭、軍用輸送機のシーンから戦争映画らしい“最初からクライマックス”状態。ドイツ占領下のフランス・シエルブランという村に落下傘で降りて連合軍の通信を妨害している教会の電波塔を破壊するという、重要なミッションを与えられた若き兵士たちの第101空挺師団。しかし、いきなりの激しい猛攻で輸送機で空を移動している最中にすでに死者多数。ほぼ墜落しながらの状態で何人かは飛び降りて敵地になんとか着地。ここまでで凄まじい緊迫感。

ちなみに本作のタイトルである「オーヴァーロード」は戦争史に詳しい方ならご存知のとおり、第二次世界大戦においてドイツ軍占領中の西ヨーロッパへの侵攻にした連合軍の作戦「オーヴァーロード作戦(Operation Overlord)」のこと。フランス侵攻を成功させて勝利に小躍りしていたアドルフ・ヒトラーに一泡吹かせるために連合軍が反撃を開始する、まさにあの戦争の転換点。

本作の物語もノルマンディー上陸作戦の史実に組み込まれた歴史フィクションとしてスタートします。

生き残った兵士たちで村に到着後は、これまたベタな“ナチスに見つかるか見つからないか”サスペンスが持続。異なる言葉での異文化要素で生じる駆け引きなど、さりげない緊迫感の演出も上手いものです。

しかし、ただの戦争映画ではありえない不吉さが徐々に顔を見せ始め、ついに主人公であるエド・ボイス二等兵がナチスの地下施設に入り込んでしまうくだりから、一気にジャンルはスリラーへ。ここで恐怖の対象を一方的にナチスだけにせずに、捕らえたナチス将校を容赦なく残酷に尋問するフォード伍長にも恐怖を受ける展開を用意することで、観客の分身であるボイスが立ち位置に困り、右往左往する…このあたりのスリルもしっかりしています。

そして後半からはチームミッションものとしてのベタな戦争映画にまた戻り、さらには終盤にはもはや能力者バトルに近いケレン味のあるラストスパートを用意する。このジャンルの贅沢なフルコースっぷりが『オーヴァーロード』の満腹感につながりますね。

これだけしてくれたら、そりゃあもうお腹いっぱいですよ。

“JJ”お得意のチームワーク

『オーヴァーロード』はチームワークも魅力のひとつ。

というか、このチーム性は昨今の“J・J・エイブラムス”らしさの特徴な気がするほど。

『スタートレック』のリブート版(まあ、『スタートレック』はもとからですが)や、『スター・ウォーズ』の新3部作といい、“J・J・エイブラムス”は多様なメンバーが徐々にチームとして構成されていく過程を描くのが好きなんですかね。

最初はいかにも典型的な軍隊らしい上下関係の主従が輸送機シーンでは描かれています。しかし、大半の兵士が散り散りになり、トップにいるはずの軍曹が早々ナチスに銃殺され、指揮系統は破壊。そこでとりあえず階級的にフォードが生存チームのまとめ役になるのですが、仲間割れだらけで連携はとれず、対立ばかり。

ところがボイスが正直に自分の正義を力説するとみんなが納得。そこからのチームプレイはまさにパーフェクト。ボイス、フォード、チベット、ローゼンフェルド、クロエ…バラバラだったはずの弱き人間たちがそれぞれのほんの少しの長所と勇気で未知の敵に挑む。プチ・アベンジャーズですよ。

このチーム感はすごく『スター・ウォーズ フォースの覚醒』を思い出させます。とくにボイスはもろに『フォースの覚醒』のフィンですよね。あの非暴力な正義や女性への思いやりとか、一途さは共通点だらけですから。もういつライトセーバーで戦うのかとヒヤヒヤしましたよ。まあ、あの敵相手ならそれくらいの武器を使っても良さそうでしたけど。

チベットがクロエの幼い弟ポールを助けるシーンや、フォードが最期に決め台詞でライターで自爆するシーンなど、終盤の見せ場の畳み掛けもチームプレイの醍醐味ですね。

こういうチームワークは戦争映画では定番といえばそうなのですが、『オーヴァーロード』のように年齢も人種も性別も垣根を超えて一体になるスタイルは、やはり今の潮流にぴったりだと思います。

オーヴァーロード

特撮マニアには嬉しいこだわり

あと『オーヴァーロード』は「特撮」の観点でもマニアには嬉しい映画でした。

本作は実はあまりCGやグリーンバックによるVFXを多用せず、極力実物をその場で再現して撮るSFX重視の作品になっているんですね。

森や街、研究施設も当然本物でそこにある中で役者が演じていますし、序盤の輸送機シーンだけはセットですが、それもリアルな雰囲気そのまま。爆発や炎も可能な限り実際に発生させています。

また、本作の白眉である「ナチスが科学実験で生み出した怪物」も今なら全部CGで作る方がお手軽なくらいですが、それでもあえて特殊メイク&最小限のCGで造形。とくにワフナー将校の、顔半分が欠けたあの歯磨きしやすそうな怖い顔は迫力ありましたが、あれもそのまま。

つまり、全体的な作品のルックが、CGが主流になる前の往年のホラー映画を思わせます。『遊星からの物体X』とか“J・J・エイブラムス”がインタビューで挙げた作品に近く、それらのクラシック化しつつあるホラーの流れをくんで現代に再構築した映画なので、マニア大喜びです。

とにかくグロさ全開でいく直球さも昔っぽいですよね。終盤の潜入作戦で派手に敵をひきつけるために、捕獲した敵兵をバイクにくくりつけて自爆させるとか、やりすぎな感じも嫌いじゃない。フックに胸部ぶっさしで吊るされたフォードが自力で抜け出す痛々しいシーンも、やりすぎだけど楽しい。

また本作は色のコントラストも強めで、序盤の輸送機パニックの場面から、色がハッキリしているので観客には状況がわかりやすいですよね。よくありがちな暗くて何もわからないタイプのリアル重視な戦争映画とは違います。ちょっとゲームっぽくすらある感じ、やはりエンタメを大事にしているのでしょうか。

たぶんストーリー的な“ナチスが実は裏でクリーチャーを作っていた!”という部分にサプライズを感じる人はあまり多くはないと思いますし(ナチス・ファンタジーではコーヒーを入れるくらい日常)、そこを持って新鮮味がないという人の気持ちもわかりますが、本作はレトロな特撮というマニアックな視点で観ればもっと楽しさを見いだせる映画です。ぜひともそういう撮影の裏側にも思いをはせながら観ていくと、より映画オタクの沼にハマっていくと思いますよ(望んでいないかもしれないですけど)。

俳優の人たちも実際に目の前に不気味なクリーチャーがいたり、爆発や煙が上がったりする方が演じていて楽しいでしょうからね。

「任務は終わってない。ヒトラーが待っている」という“俺たちの戦いはこれからだ”エンディングもこのエンタメなノリにぴったりだったので、ここから真の『ワールド・ウォーZ』を見せてくれると嬉しいのですが、どうですか、ナチスさん。クリーチャー、まだいっぱい隠し持っていますよね?

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 67%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『アイアン・スカイ』…ナチスが月から攻めてくる。書かなくてもわかると思いますが、バカ映画です。
作品ポスター・画像 (C)2018 PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.