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『ライトハウス The Lighthouse』感想(ネタバレ)…極限の灯台で2人の男は己を考察する

ライトハウス

ロバート・エガース監督はやっぱり只者じゃない…映画『ライトハウス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Lighthouse
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2021年7月9日
監督:ロバート・エガース

動物虐待描写

ライトハウス

ライトハウス

『ライトハウス』あらすじ

1890年代、ニューイングランドの外界から閉ざされた小さな孤島。4週間にわたり、その灯台と島の管理をおこなうため、2人の灯台守が島にやってきた。ベテランの老いた男と未経験の若者は、初日からそりが合わずに衝突を繰り返す。若い方の男はひたすらに重労働ばかりで精神が参っていき、しかも老いた男は理不尽な命令を好き勝手に飛ばし、やりたい放題だった。しかも、険悪な雰囲気の中、さらなる試練が2人を襲う。

『ライトハウス』感想(ネタバレなし)

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 ロバート・エガース監督を畏れる

2021年6月3日、静岡県熱海市伊豆山地区で突如として発生した土石流災害は、いつ終わるかもわからないコロナ禍で危機意識がやや減退していた私たちにじゅうぶんすぎる衝撃を与えました。情け容赦ない土砂の濁流に流れる車、家、人…。あのショッキングな映像は東日本大震災の津波を思い出した人もいたと思います。どうしても忘れてしまいますね、私たち人間は自然を前には無力でちっぽけな存在だということを…。

人類はずっと自然を相手にしてきた歴史があります。その大自然と上手く向き合う知恵も身に着けてきました。その長い歴史を感じさせる建造物が「灯台」です。灯台は船舶の航行目標となり、広大な海で人が迷うのを防ぎます。その歴史は古く、紀元前には最古の灯台があったそうです。日本も島国ですから灯台はいくつもあります。

今の日本の灯台は全てが無人化しているらしいですが、以前はどの灯台も基本は人が常駐することで管理されてきました。いわゆる「灯台守」という職業です。今やすっかり廃れた職業になりつつありますけど、人々を自然の中で無事に守るための欠かせない仕事でした。

その灯台守を扱った映画もいくつも公開されてきたものです。最近だと『アクアマン』も灯台スタートでしたね。

そして新たな灯台映画の傑作が加わりました。それが本作『ライトハウス』です。

タイトルの「Lighthouse」は灯台のこと。その名のとおり、灯台で暮らす2人の灯台守の男を描いており、物語はすべてがこの灯台だけで動きます。まさしく究極に灯台映画ですね。

『ライトハウス』はまず監督を語らないといけません。この映画を手がけたのが“ロバート・エガース”。この人物、今では最も注目されている若手アメリカ人監督のひとりであり、私は彼がアカデミー賞で作品賞をとるのも時間の問題だと思っています。

“ロバート・エガース”の名を一躍有名にしたのは監督デビュー作である2015年の『ウィッチ』。魔女狩りの圧力が社会を蝕む17世紀のニューイングランドの家庭を描いたホラーであり、とにかく言語化難しいほどに強烈でした。私も何度も鑑賞しましたが観るたびに魅了される。魔術にでもかかった気分…。

私としては『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督と、この“ロバート・エガース”監督は突如として異界からやってきた謎のクリエイターのように思ってる…。

その異界からの新参者“ロバート・エガース”監督の次なる一作となった『ライトハウス』ですが、これがまたやってくれました。話としては灯台守の男2人の地味なドラマになりそうなものを、ここまで禍々しく異様に描けるとは…。ジャンルも何なんだか判定しづらいし、他人に内容を説明しづらいったらありゃしない。これ、ファスト映画であらすじを断片的に説明しても全くの意味不明だろうなぁ…。

とにかく観れば「なんじゃこりゃ…」と絶句するか困惑するか興奮するか、それはあなたしだい。私の好みとしては手を叩いて喜ぶ一作でしたけどね。でも、うん、万人ウケするものじゃないことは重々承知してる…。

俳優の怪演も見物。主演は“ロバート・パティンソン”“ウィレム・デフォー”。『トワイライト』シリーズから『TENET テネット』、そして公開予定の『The Batman』といつのまにやら色とりどりの世界で活躍する俳優になっていた彼ですが、こういう『ライトハウス』のようなインディーズ系作品にもまだ出ているあたり、信頼感があります。本作では「いいのか、ロバート・パティンソン…」と心配になるほどのアレな姿を披露するし…。一方の“ウィレム・デフォー”は言わずと知れた名俳優。素晴らしい演技は当然のように保証されていますが、今作も凄まじい。『トーゴー』ではあんなに犬にデレデレな可愛さを見せていたのに、今回の“ウィレム・デフォー”は人間に厳しすぎる…。

登場するのは基本はこの2人だけ。『ゴジラvsコング』ならぬ「ロバート・パティンソンvsウィレム・デフォー」です。いや本当に「vs」なんです…。

その『ライトハウス』なのですが実は2019年の映画で日本ではなかなか公開されるという吉報がありませんでした。私も無理なのか…と諦めかけていたところやっと2021年に日本公開。良かった…。でももっと早くに観たかった…。

ちなみに本作は全編がモノクロで、画面比が「1.19:1」のほぼ正方形になっています。

覚悟ができた人はこの『ライトハウス』の異界へと足を踏み入れてみてください。たぶん家には帰れる…はず。

オススメ度のチェック

ひとり5.0:強烈なクセのある体験を
友人3.5:趣味の合う者同士で
恋人2.0:デート向きではない
キッズ1.0:大人でもドン引きする
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『ライトハウス』予告動画

【予告公開!】『ライトハウス』狂っているのは一体誰だ?【A24が贈る傑作スリラー】
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ライトハウス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):男と男とカモメ

1890年代、ニューイングランド。荒れ狂う海。その他者を拒絶するような荒波をなんとか進む一隻のボート。そこに乗っているのは2人の男です。ひとりは老いており、もうひとりは若く見えます。2人の前には寂れた小島にそびえ立つ灯台が…。

着岸し、荷物を両手いっぱいに抱え、2人は大きな音を鳴らす灯台へ。2人は4週間という期間の新しい灯台守としてこの辺鄙な島に派遣されてきたのでした。

今後の居住地となる室内へ。静かで活気など経験したことのないような空気。上にあがると頭を天井にぶつけてしまうくらいに窮屈で、2人はそれぞれ固いベッドに座ります。2人に会話はありません。互いに名前も知りませんでした。若い男は自分のベッドの布団の中に女性の姿をした人魚の彫り物(木彫りじゃなくて漁師がよく作る「scrimshaw」と呼ばれる鯨の骨か何かだと思います)があるのを見つけ、それを懐にしまいます。

食事。老いた男は口を開き、ベテラン口調で海や灯台守の知識を自慢げにベラベラと語りだします。見かけによらず話し出すと饒舌です(ちなみにすごく訛りの強い英語を両者とも喋りますね)。一方の若い男は黙っているのみ。酒を飲みまくる老いた男は言動が汚く、重労働は全て若い男に押し付け、自分は灯台のてっぺんの灯りの場所を独占します。

若い男はその理不尽な圧力にひたすら耐えつつ、あの人魚の彫り物で自慰をして気分も紛らわします。しかし、しだいに精神が参っていき、自分が海に沈んで人魚が迫ってくる悪夢を見るように…。ときには自分を挑発しているかに思えるカモメにも八つ当たりをします。

一度は家政婦みたいな扱いにうんざりした若い男は老いた男に抗議しましたが、逆に老いた男はまくしたてられ、従うしかりません。

ある日、ロープで吊るされて危険な高所作業をしていた若い男。ところがロープが急に切れてしまい、それなりの高さから落下してしまいます。

その日、身体的にも心理的にも擦り減った若い男は老いた男と共にやけくそ気味で酒を飲み、自分の名前はイーフレイム・ウィンズローだと勢いよく明かします。

また別の日、若い男(ウィンズロー)が水道を何気なくひねると、普通ではありえないどす黒い液体が流れ出しました。すぐに外の貯水槽を確認すると、中にはカモメの死体が…。完全に怒りに支配されたウィンズローは目の前に降りてきたカモメを捕まえるなり、その場で強引に何度も何度も打ちつけて殺してしまいます。他の上空のカモメたちは騒がしく飛ぶだけ。

するとこの灯台のある島の空気が一変。風向きが不安定になり始め、得体の知れない恐怖が増します。

天候悪化で迎えの船は来れなくなり、この孤島に取り残される2人。終わりの見えない苦痛。それは2人の関係性にも引き返せない影響を与えることになり…。

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男のメンタルヘルス(荒療治)

“ロバート・エガース”監督の前作『ウィッチ』は魔女を題材にしているだけあって「“女性”性」がテーマとして内在していたと思います。一方、今回の『ライトハウス』はガラッと反転して明らかに「“男性”性」がピックアップされています。

寂れた孤島に半ばたどり着いて同性同士で触れ合うという意味では『燃ゆる女の肖像』も思い出しますが、『ライトハウス』はその男性版でしょうか。

まずその舞台がいかにも「男」っぽい。灯台という存在がそそりたつ男根のようなものですから。それがいかにも威嚇的なブォーっというけたたましい音をたてて出迎える。わかりやすすぎる象徴ですね。

そしてこの地に居座ることになった2人の男。トーマス・ウェイクとイーフレイム・ウィンズロー(トーマス・ハワード)。実は2人には封印していた過去があることが物語が進んでいくとわかります。つまり、このストーリーは2人の男が自分の人生を見つめ直していくという“男らしさ”のメンタルヘルスにもなっていくフィールドとしてじゅうぶんなはずですが、それはあまりにも荒療治でした。

ウィンズローにとってウェイクは職業上のベテラン先輩にあたるのですが、それは尊敬心をかきたてるものではありません。気難しく、威張り屋で、ハッキリ言ってパワハラ体質(おならもするし…)。嫌になるのも納得です。

ここで重要なのはウェイクはウィンズローに「女性的なジェンダーロール」を押し付けているということであり、それはこの灯台島に女性が存在しないことにも起因しています。いわば“女なき世界”で疑似的に“女”になれと強制されたようなものです。これは同時にウェイクに対してエディプスコンプレックスを発動させることにも…。

ウィンズローにはそれが苦痛でしかたなく…。結局はカモメに当たり散らすことに。『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』みたいに野生動物と触れ合って心を癒していく男性用ヒーリングなんてものはない。なんとも無慈悲なカモメ虐待…。

ともかく泥酔し、踊り、叫び、騒ぎ…醜態をさらしつつも、ホモ・ソーシャルにもなりきれないし、歪んだマスキュリニティから抜け出せもしないという哀れな状態がひたすらに悪化していく物語でした。

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あらゆる文学がカオスに融合した灯台

『ライトハウス』は実話が土台になっており、1801年にウェールズ南西部のペンブルックシャーにあるスモールズ灯台で起こった実際の事件で、2人の灯台守のうちひとりが死亡し、もうひとりはその死体とともにその灯台でしばらく暮らしたのだとか。

ただ映画自体では伝記でも何でもなくかなりクラシックなゴシックホラーの王道をいっていました。ベースになっているのはエドガー・アラン・ポーの「The Light-House」なのかな。孤独とパラノイアの要素はまさに同じ。

そこに非常に“ロバート・エガース”監督が得意とする視覚的な魔術が加わっています。一番わかりやすいのはラヴクラフトのクトゥルフ的エッセンスです。フジツボタコ人間や人魚のシーンは直球で該当しますし、あそこで人魚の生殖器(たぶんモチーフはサメの生殖器)が魅惑と嫌悪をミックスした禍々しさとともに描写されるあたりもなんとも悪趣味。

まあ、カモメという要素で言えば、ヒッチコック監督の『鳥』ですけどね。“ロバート・エガース”監督は『ウィッチ』でもそうでしたけど動物でホラーを醸し出すのが本当に上手いなぁ…。

また2人の男も象徴的な存在感を背負っています。老いたウェイクの方は、ギリシャ神話の海神「プローテウス」を連想させます。「海の老人」と称されるこの神は押さえ込むのも大変な厄介さであり、それは作中で相対することになるウィンズローの苦労に反映されています。プローテウスの件はそのまま本作のラストの展開とも一致します。一方でウィンズローの方は、「シーシュポス」の神話を思い出させます。神話では神々の怒りを買ってしまい、大きな岩を山頂に押して運ぶという罰を受けることになるのですが、それは作中でも重いドラム缶を必死に1段1段孤独に運ぶウィンズローの姿に投影できますね。

さらに作中でウェイク自身が灯台にでもなったかのように目からピカーと光をウィンズローに照射するという謎の場面がありますが、あれはサシャ・シュナイダーという画家の「催眠術」と呼ばれる絵そのままな構図です。サシャ・シュナイダーは同性愛者であり、本作でもウェイクとウィンズローがキスするように見えるぐらいに顔を近づける意味深なシーンがありますが、本作はそういう抑圧された同性愛といった葛藤も混合させているのかもしれません。

他にもサミュエル・ベケット、ハーマン・メルヴィル、ロバート・ルイス・スティーヴンソンなどなど古典文学の要素がいっぱいで、あの灯台はさながらあらゆる文学がカオスに融合したホットスポットでした。

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ラストの意味するものは

『ライトハウス』は全編が意味深ですがラストはもっと意味深です。オチを書くだけなら簡単です。ウィンズローは螺旋階段から落ちてカモメに食われて死にました…と事もなさげに言い放つこともできます。でもそれでは意味がわかりません。

もちろん本作は明確に答えを用意しないタイプの作品であるのはわかることだと思いますし、あくまで私の解釈しか書けません。

ただ本作が丸ごと「“男性”性」を濃厚に扱っている以上、あれは結局はある種の男性の行き着く破滅を示唆しているのかもしれません。灯台の光に吸い寄せられるのはまるで蛾のようですが、それが人生の道標になってくれることはなく、自身の罪(加害性)と向き合えなかった男の顛末は死しかない

世間の男性たちを見ていると偽りの理想を追い求める人はいくらでも発見できます。もしかしたら自分が慰めてくれる女性が現れるんじゃないか、自分は誰よりも強くなって憎き男を倒せるんじゃないか、ただ無関心で冷笑的に振舞って酔いしれていればいくらでもやり過ごせるんじゃないか…。

でも現実は違う。灯台は道を示す光であって、道のゴールにはならない。そこを勘違いすると孤独と偏執と劣等感に憑りつかれて地上で溺れ死ぬだけ。そんな警告的な映画ではないでしょうか。

『ライトハウス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 72%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
10.0
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おすすめ PiCKUP!

↑『ウィッチ』…同じくロバート・エガース監督のデビュー作。こっちも禍々しいです。

作品ポスター・画像 (C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

以上、『ライトハウス』の感想でした。

The Lighthouse (2019) [Japanese Review]