パッセンジャー
映画『パッセンジャー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Passengers 
製作国:アメリカ(2016年) 
日本公開日:2017年3月24日 
監督:モルテン・ティルドゥム 

パッセンジャー

あらすじ

新たなる居住地を目指して地球を出発した、乗客5000人を乗せた豪華宇宙船アバロン号。乗客たちは目的地の惑星に到着するまでの120年の間、冬眠装置で眠り続けていたが、エンジニアのジムと作家のオーロラだけが、何故か90年も早く目覚めてしまう。一体何が起こったのか。その裏にはとんでもない理由が隠されていた。

『パッセンジャー』感想(ネタバレなし)

クリス・プラットは独り…じゃない

マッド・デイモンの次は“クリス・プラット”が孤独生活を送る番ですか…。でも、クリス・プラットの傍には美女(ジェニファー・ローレンス)がいるという、マッド・デイモンが嫉妬でジャガイモをやけ食いしそうな設定なのが、本作パッセンジャーです。

監督は『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)の“モルテン・ティルドゥム”。前作は伝記でしたが、今回はSFと、思いっきり毛色を変えてきました。


あらすじだけ聞くと、火星に独り取り残された宇宙飛行士を描いたSF映画『オデッセイ』を完全に連想するんですけど、実は本作は、観る前と観た後で印象が変わるタイプの映画です。観ていくうちに「えっ、そんな話だったの?」となるでしょう。

とくに恋愛映画として、本作を観た場合、かなり意表を突かれるはず。予告動画を観てもらうといいのですが、壮大なSFロマンスのように見えると思います。いかにも純愛っていう感じの運命的な出会いを期待しますよね。宣伝側もそんな風に思わせるように明らかに狙っています。

でも、違うんです。

詳しくはネタバレになるので記事後半で書きますが、ちょっと言うと『ゴーン・ガール』的なダメ男の物語です。でもどうなのか。ここまでの一線を越えると“さすがにない”と思う人も多いのではないか。そう考えると、この『パッセンジャー』は迂闊にカップルで鑑賞しようものなら気まずい空気になるのかもしれない。それこそ相手の気持ちを探り探りで進めていかないと、とてつもない亀裂を生んでしまうのかも。大袈裟かもしれないですが、そういう題材ですからね。

あとは観てのお楽しみ。

基本的にクリス・プラットとジェニファー・ローレンスの二人の役者だけで展開されるので、この二人が好きなファンの皆さんはたっぷり満喫できます。幸せな宇宙旅行を楽しめるでしょう。あと、ジェニファー・ローレンスのファンはDVDスルーになってしまった『ジョイ』もよければ観てね。

あまりSFとしては期待しない方がいいかもしれません。おそらく作り手もその部分の精密さやマニア向けのサービスを主軸にはしていません。何度も言っているようにドラマ性に思いっきり舵を切った、大胆な作りです。

SF的な科学考証はゼロに等しいですが、映像の美しさや遊び心はかなり凝っているので、こちらも注目です。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『パッセンジャー』感想(ネタバレあり)

美女が欲しかった…男の悲しい性

『パッセンジャー』を観ての第一印象は、なんかいろんな名作映画がごちゃまぜになった闇鍋みたいだな、と。映画のジャンルがかなりめまぐるしくコロコロ変化してました。

序盤はよくあるシチュエーション・スリラーです。はるか遠くの星に向けて航行する超大型宇宙船アヴァロン号にて、まだ目的地まで90年の距離なのに、コールドスリープから醒めてしまった男・ジム。でも、このジャンルはもう終わり。よくありがちなB級映画なら、この手詰まりな状態からいかにして脱するかという展開だけで延々と観客に見せていこうとするかもしれませんが、本作はさっさと打ち切ってしまいます。

コールドスリープに戻ろうとしたり、コールドスリープ故障の原因を探ろうとしたり、奮闘するジムでしたが、「もう無理だ」と割とあっさり諦めます。その後は、広大で設備の整った宇宙船生活を独りドンチャン騒ぎで満喫。このギャグ感は、演じるクリス・プラットの持ち味というか、実に楽しそうでした。こういう本来は不特定多数の大勢で楽しむはずのアメニティやレクリエーションをひとりだけで満喫するというのは、子どもでも夢に抱くことのある、ちょっとした妄想ですよね。独占欲を満たせるというか…。

そんな独り暮らしも1年を過ぎたある日、急に寂しくなって自殺を考えるも、死ぬに死ねず、ふと目に留まったのはオーロラという女性が眠る休眠ポッド。いつしか彼女に癒され夢中になっていったジムの頭に禁忌の思いつきが浮かび、そして、オーロラの休眠ポッドを操作し、冬眠から起こしてしまう…。

ここまでの時点で私はかなり「この映画、斬新というか攻めてるな…」と思って評価していたんです。ジェニファー・ローレンス演じるヒロインの「オーロラ」という名前は『眠れる森の美女』に由来するのでしょうけど、『パッセンジャー』のストーリーはまさに『眠れる森の美女』の真逆。美女を眠らせるのではなく、起こすことで不幸にさせる、そんなお話しです。

そりゃあ、殴られるのも当然ですよ。気持ちはわからなくもないですが、同情の余地なしなダメ男です。寂しいからって、しかも美女に手を出すなんて…男の悲しい性ですね。このへんもクリス・プラットらしい(失礼)。

パッセンジャー

さあ、どうやって物語を着地させるんだとワクワクで観てました。この時点では相当に難しい倫理観を綱渡りするようなアグレッシブさで突っ走っていますからね。

ところがですよ。後半にいくにつれどんどん甘い話になっていく…。正直、がっかり感は否めない。

愛と犠牲によるお涙頂戴な『タイタニック』展開は、コアなSF好きが一番嫌いな部類だと思いますが、それをやっちゃったか…。映像のクオリティと“愛”の力で気にならず誤魔化せた人もいるでしょうけど、「おいおい」となる人も少なくないのでは? このへんは完全に個人の好みの問題ですけど…。

なんでこんな脚本になっちゃったのか。本作の脚本はSFスリラーの『プロメテウス』(2012年)でも脚本を担当した“ジョン・スパイツ”だそうですが。うーん、序盤のスリラーのノリで続いてくれれば…。

エモーショナルな勢いだけで、二人の人間関係も、宇宙船の危機も解決しちゃうのですから。「オーロラを身勝手な理由で起こしてしまった」問題は、吊り橋効果的な流れでいつまにかうやむやになっただけ。あんなことされたのに、オーロラがチョロすぎる。また、オーロラをコールドスリープにするのも、それでできるのか…という残念さでしたし。そもそも、今回の事態を解決できたからと言って、残り90年近くを航行できるのかは別問題だろうというツッコミも。

でももう一度振り出しに戻りますけど、ああいう前半で描かれた、ひとつの極限空間で人間はどうやって孤独に耐えるべきなのかというのは大いに議論する価値のあるテーマ性であって、その中で否応なしに起こってしまうジェンダーギャップ的な思考の違いは、余計に残酷に響くもの。そこを容赦なく攻めていれば本当にユニークで、あらゆる意味で示唆を与える、実にSFらしい映画になったのに…。

ただ、なんか妙に「こんな映画は駄作だ!」と切り捨てる気持ちにもなれない自分。もっとうまくやれたような気がするという、いじらしい諦めの悪さ。ああ、こういうのが『パッセンジャー』のあの男と同類なのか…。反省…。

まあ、『パッセンジャー』は完全にSF的な追究はしちゃいけないタイプの映画です。あらゆる点において『オデッセイ』とは対極にある映画でした。早々に諦め、欲に溺れるジムはエンジニアを名乗れないですよ。

『オデッセイ』の主人公のマーク・ワトニーさん、ちょっと叱ってやってください

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 63%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★