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韓国映画『THE MOON』感想(ネタバレ)…月も行けば行くほど泰山

THE MOON

月も行けば行くほど泰山…映画『THE MOON』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Moon
製作国:韓国(2023年)
日本公開日:2024年7月5日
監督:キム・ヨンファ
THE MOON

ざむーん
『THE MOON』のポスター。月が近い宇宙空間に漂う主人公の姿を映したデザイン。

『THE MOON』物語 簡単紹介

韓国が国家の威信をかけて開発に全身全霊を注いだ有人月探査ロケット「ウリ号」はついにその船出の時を迎え、多くの韓国宇宙開発関係者や庶民が見守る中、宇宙へと飛び立った。月面の有人探査という困難なミッションを託されたのが、3人のクルー。しかし、月周回軌道への進入を前に突発的な太陽風の影響で地球との通信が途絶えてしまう。そして最も若い宇宙飛行士ソヌに重圧が圧し掛かることに…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『THE MOON』の感想です。

『THE MOON』感想(ネタバレなし)

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韓国も月に行きたい

2024年5月11日の夜から12日の明け方にかけて、日本列島の各地でオーロラが観測されるという珍しい現象が起きました科学衛星ひので。北海道の北部だけに限定されず、日本あちこちで見られたというのは異例です。

その理由は直前に起きた「太陽フレア」でした。太陽フレアとは、太陽の表面で起きる大爆発のこと。この爆発によって電子や陽子などの電気をおびた素粒子が飛び出し、場合によっては地球に到達します。すると地球の電離層や地磁気を乱すことになります。これがオーロラを引き起こします。

その例の日本全国でオーロラを巻き起こした太陽フレアはかなりの規模で、太陽フレアは観測されるX線の強さによって活動規模を「B」「C」「M」「X」の4つのクラスに分けるのですが(Xクラスは最も大きな規模にあたる)、この2024年5月のものは「X8.7」だったそうです宇宙天気予報

珍しいオーロラが身近で観察できて良かったなと浮かれてばかりもいられません。太陽フレアは規模が大きいと悪影響ももたらすからです。実際、2024年5月のときも、無線通信に支障がでたり、GPSの誤差が大きくなったりする障害が懸念されました。幸いそこまで大きなトラブルはなかったですが、油断はできません。太陽フレアは自然災害にもなり得るのです。

今回紹介する映画はそんな太陽フレアがきっかけで宇宙で大変なことに巻き込まれる作品。ちょっとGPSがズレたかなとか、そういう次元ではない大問題が起きます。

それが本作『THE MOON』です。

本作は、有人月探査ロケットに搭乗した宇宙飛行士が太陽フレアの直撃でトラブルに見舞われ、なんだかんだでひとりだけが月に取り残されてしまう…という宇宙パニック・サスペンスとなっています。

設定だけ聞くと、火星にひとり取り残される『オデッセイ』”月”バージョンみたいにも思えますが、細々とした点も含めて、最終的な感触はだいぶ違ってくるのではないかな、と。

また、本作『THE MOON』は韓国映画でもあります。韓国が、宇宙が舞台のリアルなパニック・サスペンスのジャンルに手を出すのは新鮮ですが、今の韓国映画界のプロダクション・レベルであれば、こんな挑戦も可能なのでしょう。

実際の映像クオリティはハリウッドと比べても遜色のないものとなっており、青龍映画賞で最優秀技術賞を受賞したのも頷けます。2023年の韓国映画界はVFXの面では本作と『コンクリート・ユートピア』が好評で、パニック・ジャンルが韓国のVFXを引っ張っているんですね。

『THE MOON』を監督するのは、『カンナさん大成功です!』(2006年)などの話題作で初期から勢いよく発進し、最近は『神と共に』シリーズ二部作でも大胆な映像を繰り出していた”キム・ヨンファ”。VFXにも手慣れています。

主演は、男性アイドルグループ「EXO」のメインボーカルとして有名な“ド・ギョンス”。今はもう俳優活動が板についてきているので「俳優」として認知するほうがいいのかもしれません。以前の主演作『スウィング・キッズ』はアイドルらしいパフォーマンスで魅せる役柄でしたが、今回の『THE MOON』は歌いも踊りもしません。

もうひとりの主人公的なポジションに立つのは、『キングメーカー 大統領を作った男』『PHANTOM ユリョンと呼ばれたスパイ』のベテランな“ソル・ギョング”『殺人者の記憶法』『夜叉 容赦なき工作戦』などヒリヒリするサスペンスフルな演技でいつも魅了させてくれますが、今作『THE MOON』では地球の宇宙センターの物語の中心でドラマを引き立ててくれます。

なお、2023年の韓国における映画の興行収入ランキングとしては、あまり上位に食い込まなかったのですけども、同時期に他の大ヒット作が出てきてしまい、競争に負けた感じですかね。月は韓国国内にはそんなに響かなかったのかもしれないけど…。

後半の感想では、韓国の宇宙開発事情も交えつつ、作品を深掘りしています。

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『THE MOON』を観る前のQ&A

✔『THE MOON』の見どころ
★宇宙パニックのジャンルを盛り上げる映像の迫力。
✔『THE MOON』の欠点
☆物語がやや単純な国家主義に偏りがち。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気軽なエンタメ
友人 3.5:興味ある人同士で
恋人 3.5:恋愛要素は無し
キッズ 3.5:宇宙好きなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『THE MOON』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

5年前、韓国で国力を総動員して月面探査を目的とした「ナレ号」という有人ロケットが打ち上げられました。しかし、発射後すぐに大爆発。空中で四散したロケットと共に3人の宇宙飛行士の命が失われます。韓国社会はその犠牲に深く悲しみ、追悼することになります。

それでもこの失敗に全てを諦めることはありませんでした。まだ未開発の月に眠るとされる資源「ヘリウム3」の重要性は無視できず、国際社会の視線も感じながら、開発者はこのミッションに挑み続けました。

こうして改良を重ねた有人月面着陸ロケットの2号機となる「ウリ号」が完成。

乗員に選ばれたのは、空軍所属のイ・サンウォン、同じく空軍所属のチョ・ユンジョン、そしてUDT(海軍特殊部隊)所属の若手ファン・ソヌです。それぞれが抜群の精神と肉体を備え、厳しい訓練に耐え、月を目指します。

しかし、大きな問題が生じました。至上かつてない強力な太陽フレアが発生したのです。地球上でも航空機などに支障があり、経済社会は混乱。月の周回軌道上に建設されたNASAの宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」でもトラブルが起きていました。

3日前に羅老宇宙センターから無事に飛び立ったウリ号も例外なくその影響を受けていました。通信は途絶えてしまい、情報はなく、宇宙センター側は記者会見でもまともに答えられない状況で…。

その頃、宇宙空間で動けなくなったウリ号では、船体の損傷を修復すべく、イ・サンウォンとチョ・ユンジョンが船外活動に出ていました。ファン・ソヌは不安でしたが、残りの2人は冗談も飛び出すくらいにリラックスしています。

動力も回復し、また動き出すウリ号。そのとき、船外の2人はソーラーパネル付近で微かに火花が散ったのを目撃します。

一方、韓国の宇宙センターでは通信が少しずつ回復し始め、慌ただしくなります。映像には想定外の船外活動をしている船員が断片的に映っており、心配が募ります。

ウリ号では燃料漏れが見つかり、宇宙センターでもその異常を把握。しかし、何かする時間もなく、火花が引火。大爆発が起きます。チョ・ユンジョンが吹き飛ばされ、イ・サンウォンも激しく強打。ヘルメットは空気漏れを起こし、破片も体に刺さり、自身の運命を悟ります。

宇宙センターは再び通信を失い、今の状況がわかりません。

焦るファン・ソヌはイ・サンウォンを助けようとしますが、窓越しにミッションを託し、足を引っ張るまいとイ・サンウォンは宇宙の暗闇に身を投げました

宇宙センターの通信が完全に回復したとき、そこに映っていたのは茫然自失のファン・ソヌ。2人の死亡を報告してきます。

科学技術情報通信部長官は苛立ち、宇宙センター長チョン・ミンギュは困り果てていました。自分たちだけでこの最悪の事態を乗り越えられるのか。そこで白羽の矢が立ったのが、5年前の宇宙センター長でかつての事故の責任を負い今はソベク山天文台に籠っているキム・ジェグクです。

ファン・ソヌは先輩たちの意思を受け継ぎ、月への任務を続行しようとしますが…。

この『THE MOON』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/07/07に更新されています。
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月をステージにしたアイドル映画

ここから『THE MOON』のネタバレありの感想本文です。

『THE MOON』は映像作りとしてはリアルな方向でやっていますが、起きること自体は現実離れしているものばかりで、荒唐無稽なディザスター・パニックの系譜だと思っていいです。

まず現実における韓国の宇宙開発の現状と計画をかいつまんで説明しておくと、韓国は「韓国航空宇宙研究院(KARI)」という公的研究機関のもとで宇宙開発を進めており、作中にもでてくる羅老宇宙センターも本拠地です。現在、韓国は官民一体で宇宙開発を行うことにしており、2022年には月への到達が可能な独自のロケットを5年以内に開発し、2032年に資源採掘を実施する計画を発表しています。

とは言え、韓国独自の有人宇宙探査は未経験で、本作は「有人宇宙探査計画が試行された」という完全なフィクションを前提に物語を進めています。

そもそも月の資源を採掘調査するくらいならどう考えても有人ではなく無人探査ロボットなどを開発するほうが将来性がありますし、「有人でやる意味なくない?」というツッコミは本作には付きまといます。そこを本作は「とりあえず有人なんですよ!」と結構ごり押しで強行突破しています。

そんな始まりの本作。冒頭10分もしないうちに太陽フレア問題が勃発。このさっそくトラブルから始まる感じがディザスター・パニックですよね。しっかりフラグを立てつつ、問題から次の問題へと派生していく。このあたりもジャンルのお約束を通過。順調です(起きている事態は悪化の一途をたどっているけど)。

そして月への着陸。ここはわりとあっさりいきます。しかし、隕石群のダイレクトアタックで一気に大忙し。ちなみにこの月での作業パートは、ドローンで撮っているということにしてダイナミックな映像が観客だけでなく宇宙センター側にも届いているようですが、すっごい見せ場ありきの設定でちょっと笑ってしまいました。動画配信者かよ…。

ドローン、最初から最後まで大活躍だったな…。だいたいドローンのおかげと言っても過言ではない…。こんなにドローンが万能で優秀だとやっぱり「このドローンに採掘を任せればいいのでは…」という根本的な疑惑がまた頭に浮かんできてしまう…。

宇宙船に戻るも今度はそれが壊れて洗濯機状態でまたも月に不時着。最初の月の着陸があっさり気味だったのはこのためだったのか…。

ここでついにやっと(?)月でのひとりぼっちの孤立を経験します。

でも火星と比べると月だとそんなに絶体絶命感はありません。地球との距離的に、迎えに行くことはじゅうぶん可能です。ここからの展開は「そんなに回りくどいことしないといけないの?」って感じなんですが、みんなで可哀想な“ド・ギョンス”を応援するムードで雰囲気だけは上手にこしらえます。

そんなこんなで本作『THE MOON』は月ディザスター・パニックに思わせておいて、中身は月をステージにしたアイドル応援映画なのでした…。

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ストーリーはもっとやれたはず

月をステージにしたアイドル応援映画があっても全然いいのですけども、『THE MOON』の問題は地球パートで、ここのサスペンスがだいぶ面白さに欠ける…。いっそのこと地球パートは無くてもいいのではと思わなくもなかったです。

前代未聞のピンチに駆り出されてきたキム・ジェグクがどうこの難問を解決するのか…というのが本作の見せ場のはずではあるのですが、あまりジェグクひとりに焦点があたりすぎており、みんなで解決するという科学の本来の良さが減退しているなと思いました。

そのジェグクの助手である“ホン・スンヒ”演じるハンビョルもたまに何かに気づいてくれるアシストをするものの大部分は愛嬌を振りまくだけにとどまり、若い女性の表象としてはステレオタイプだったし…。

女性と言えば、NASAの宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」の管制を取り仕切るユン・ムニョン。韓国側とNASA側での駆け引きが生じていき、NASA内でも韓国系のユン・ムニョンがどう信念を貫けるかというあたりもプロットになっていましたが、人類一丸の訴えもそんなに響くものではなかった…。

『THE MOON』の最大の失敗は、国威発揚や愛国心高揚のような雰囲気を作品全体で醸し出し過ぎるという部分だと思うのです。「日本スゴイ!」ならぬ「韓国スゴイ!」のノリで最初から最後まで行ってしまったかな…。

ただでさえ、本作の主演の“ド・ギョンス”は本作が兵役後初の長編映画出演であり、ナショナリズムな空気をどうしても放ってしまいますから。

映画冒頭からドキュメンタリー調で開幕するなら、「こんな表向きの体裁は装っているけど、裏ではこんなハチャメチャになってますよ」というギャップをだす狙いで使えばよかったのですけど、ずっと真面目に描くだけになってしまっているのは…。

”キム・ヨンファ”監督は、過去作でも『国家代表!?』『ミスターGO!』のように韓国大衆を一丸にさせる熱狂を題材にすることがあって、『THE MOON』もその流れだとは言えるのですが、宇宙開発はどうしても政治も絡みますからね。単純に感動させればいいものでもないし、やっぱり自己批判的な部分は求められるだろうし…。

別にゴリラが宇宙飛行士になるくらいに振り切ったらもう何も言うことないですけども、今回のリアルなアプローチでいくならもうちょっと捻りがいるかな。

このジャンル分野に関しては、ドラマ『フォー・オール・マンカインド』という非常に難しいテーマをクリアして最高に面白くやってみせた傑作の先行例がすでにあり、私も比較はせざるを得ず、この『THE MOON』は数段は劣るなと思ってしまいました。韓国と北朝鮮が朝鮮半島融和の証として月に2か国のそれぞれの代表宇宙飛行士を送るという希望のプロジェクトを始動させるも、地球では政治情勢が緊迫してしまい…とか、そんなサスペンスを観たかったなぁ…。

『THE MOON』
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2023 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS, BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED ザ・ムーン

以上、『THE MOON』の感想でした。

The Moon (2023) [Japanese Review] 『THE MOON』考察・評価レビュー
#韓国映画 #宇宙 #ディザスターパニック