PK
原題:PK
製作国:インド
製作年:2014年
日本公開日:2016年10月29日
監督:ラージクマール・ヒラーニ

【個人的評価】
 星 9/10 ★★★★★★★★
 
あらすじ

留学先のベルギーで大きな失恋を経験したジャグーは、いまは母国インドのテレビ局で働いている。そんなある日、ジャグーは、地下鉄で黄色いヘルメットを被って大きなラジカセを持ち、あらゆる宗教の装飾を身に付けてチラシを配る奇妙な男を見かける。その男は「pk(ピーケイ)」と名乗った…。

宗教って何?

インド映画界の巨匠・ラージクマール・ヒラーニ監督は、アメリカのドキュメンタリー映画(最近だと『マイケル・ムーア イン トランプランド』)でおなじみのマイケル・ムーア監督みたいです。国が抱える根深い問題を情け容赦なくピックアップして表に出す姿勢が似ています。日本で2013年に公開された『きっと、うまくいく』では大学教育や学歴社会に切り込みましたし、『Lage Raho MUNNA BHAI』という日本未公開の映画ではインドの偉人であるマハトマ・ガンディーを再認識するというチャレンジに挑んでいました。


マイケル・ムーア監督と違って、ラージクマール・ヒラーニ監督の凄いところは、インド映画らしくエンターテイメントなドラマで表現してみせるという点。そのため難しいテーマでありながら親しみやすい作風という両立を実現しています。世界的にみても稀有な監督です。

今回、最新作でラージクマール・ヒラーニ監督が的にしたのは「宗教」。「宗教」を題材にした作品といえば今年は『神様メール』がありましたが、この映画はキリスト教だけでした。本作『pk』は地球上に存在するあらゆる宗教がターゲットです。「宗教って何?」という子どもが質問してきそうな問いかけにちゃんと答える…収拾つくのかと心配になりますが、そこをうま~くクリアしてみせる手腕はさすが。

ラージクマール・ヒラーニ監督と再タッグを組んだ主演のアーミル・カーンもやっぱりすごい役者だと実感。変幻自在です。何歳に見えますか? 撮影時は40代後半なんですよ。2016年時点では50歳超えてます! 本作ではムキムキの肉体とコミカルな演技を駆使して暴れ回ってます。ちなみにアーミル・カーン本人はムスリム(イスラム教徒)だそうです。

自分は無宗教だから本作のテーマにはノれないんじゃないかとか気にする必要はありません。「宗教」とまでいわなくても、家族のルール、組織のシステム、社会の仕組み、はては占いまで私たちが信じて従っている全ての概念に当てはまるテーマですから。

『きっと、うまくいく』が好きな人は必見ですし、インド映画初めてでも問題なし。友人・家族・恋人誰とでも観てもOKです。





↓ここからネタバレが含まれます↓




信仰は大切。でも盲信には気をつけて

インド映画だしどうせ大味長編なんでしょう?と思ってたら、油断してました。結構どころかかなりストーリーテリングがしっかりしています。難しいテーマでありながら上手くバランスのとれた脚本だなと思いました。

留置場からの回想が、長い!相変わらず歌ってるし!どこまで続くの!とはツッコミたくなりましたけど。

事前にネタバレを見ていなければ、冒頭からビックリです。「おまえ、宇宙人だったの?」と。まさかのSFものです。そう考えると『PK』という原題も宇宙人映画の代表作『E.T.』に響きを重ねているのかもしれません。ただ、冒頭で宇宙人という設定をみせるからこそ、本作が投げかける全ての宗教に疑問をぶつけるという最大級の暴挙が成り立つわけで、これくらいしないとダメだなという製作者のクレバーな判断だと思います。

本作の良さは、宇宙人・pkの思考や行動原理がとにかく明快で気持ちがいいこと。嫌味がないです。例えば意外なところだと、pkがお金を恵んでもらおうと道端に立つ盲目の人から逆に金をとっていく場面。単純にみるとただのギャグです。このシーンでpkがやっていることは一見すると非道徳的ですが、これも考えようによっては深い疑問提起をしているのではないでしょうか。もちろんpkは「慈善」という概念を知らないだけなんですが。私たちの信じる「慈善」というものは、救うべき相手を見た目で判断し、とりあえず金をばらまくだけ。これは本当に正しいのか? pkなら本当の意味でハンディキャップを抱えた人を救う方法を見い出しそうです。そういえば宗教でも見た目だけで人の宗教を判断しており、中身を全く見ていないという指摘をpkがしていました。「慈善」も「宗教」と同じあなたこそ盲目になるなというメッセージともとれます。

このように本作のシナリオは「宗教」から話を広げるのも上手いです。「かけ間違い」の例えがそのままヒロインの恋愛にも波及していくのはそうきたかと思いましたし。

PK

言語や物の使い方はすぐにマスターできるpkも、宗教という地球上最も抽象的な概念だけは理解できないというのも頷けます。それでも、ひとつひとつ理解しようと奮闘しながら、既存の宗教を悪用している人には矛盾点をつく…このカタルシスは素直に興奮します。

本作ではヒンドゥー教のとある導師が明確な悪役として登場しますが、ヒンドゥー教徒にしてみれば悪く描きすぎだと怒る人もいるのかもしれません。実際、上映反対運動もあったみたいです。

でも、インドの宗教事情を良く調べてみると結構深刻らしい。

なんでも劇中に登場した導師のような人は「ゴッドマン」と呼ばれており、こういうカリスマ的な人物が支配するカルト宗教集団がインドではたくさんあるそうです。なかには子どもに銃を与えて武装化したり、独自の政府を築く組織もいて、警察と衝突して死傷者を出す事件も起きているとか。それを知ると、この映画の重みが増します。下手したら『カルテル・ランド』状態になりますしね。また、インドでは死者は少ないものの、1日2件以上のテロが発生しているのだとか。劇中の鉄道爆破テロも全く大げさなものではないんですね。

でも、本作では宗教を否定はしません。嘘で騙すことが悪で真実を話すことが正義というような安直な結論にもしません。pkも最後は嘘をついていました。

不穏な流れも多い今の世の中で、こういう映画を作れるというだけで、世界に希望がもてます。