サーホー
映画『サーホー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Saaho
製作国:インド(2019年)
日本公開日:2020年3月27日
監督:スジート

サーホー

あらすじ

犯罪組織が街を支配する大都市ワージー。ある日、組織の頂点に君臨する大物が交通事故と見せかけて殺害された。組織内では実力者の1人である人物の後継の座を狙うが、別の存在がボスとして名乗りでたことで混迷を極める。そんな中、200億ルピー相当の大規模な窃盗事件が発生。潜入捜査官アショークは女性警察官アムリタらとともに事件の捜査を開始する。

『サーホー』感想(ネタバレなし)

今度のプラバースは空を飛ぶ

今、最も国際的に有名なインド人俳優はこの人なのかもしれない。その人とは、そう、“プラバース”です。

本名は「Uppalapati Venkata Satyanarayana Prabhas Raju」。タミル・ナードゥ州の州都にしてインド有数の世界都市として今では工業やITなどの業界の最先端ともなっているチェンナイで生まれたこの男。この男はいつのまにやらインド映画界の最先端になっていました。

2002年に俳優活動を開始。2005年にはS・S・ラージャマウリの監督作品『Chatrapathi』で主演を務めて国内では知られていきます。しかし、“プラバース”の存在感を決定づけたのはやはり何と言っても主演作『バーフバリ』シリーズです。

2015年に前編となる『バーフバリ 伝説誕生』が、2017年には後編となる『バーフバリ 王の凱旋』が公開され、インド国内では独立記念日より盛りがっているんじゃないかというくらいの大フィーバーが起きました。もうこのままインドは「マヒシュマティ王国」に改名してもいいんじゃないか…。



そのバーフバリ旋風は世界にも届き、もちろん日本も直撃。映画館はバーフバリ信者となった観客で溢れ、王を称えたのも良い思い出です。まず間違いなく日本国内のインド映画の認知度をさらに底上げしましたし、配給側もインド映画のポテンシャルに気づかされる一件になったと思います。

そこで主人公を堂々たる熱演で体現した“プラバース”に魅了された人もわんさかいたのではないでしょうか。もちろん私もそのひとりです。

“プラバース”は映画ではカリスマ性全開なのに本人は内気でシャイ…という性格がまたクリティカルヒットですよね。Instagramのフォローも4人しかいないです。

そんな“プラバース”の次なる主演作にも当然無視できなくなってくるというもの。そして、お待たせしました。ネクスト・“プラバース”の登場です。それが本作『サーホー』

この映画はどういう作品なのか。まず『バーフバリ』シリーズとは世界観含めて雰囲気が異なる作品です。この『サーホー』の舞台は架空の近未来都市「ワージー」。ここはテクノロジーの発展を感じさせるビルディングが立ち並ぶモデル都市のようですが、内側では犯罪組織が支配する、とんだアンダーグラウンド・ワールド。まあ、あれです、「バットマン」のゴッサムシティみたいなものです。

そのヤバい都市で犯罪捜査チームを率いることになるのが“プラバース”演じる主人公です。

で、『サーホー』の特徴は言うまでもなく映像。なんでもインド映画史上歴代3位に製作費がかかった作品だそうで(現時点の1位は『ロボット2.0』)、とにかく映像が頭おかしいレベル。やっていることは『ワイルドスピード』と『ミッションインポッシブル』の合体みたいなことなのですが、桁が違う。

予告動画を見てもらえるとチラ見できますが、空を飛びます。もう一度、言いますよ、空を飛びます。車が空を飛ぶんじゃなく、生身の人間が…です。反動で飛ぶんじゃなく、飛行です。

もう劇場版「名探偵コナン」なんて子どもの遊びに見えてくるくらい。「ひとりアベンジャーズ」という表現もありましたが、誇張でも何でもなく適切な気がしてくる。犯罪捜査チームなのに大規模人災級の事態をボンボン起こしていますからね。

私も『サーホー』を鑑賞している間は脳内の思考スイッチを極力OFFにすることにしましたから…。

2013年設立の「UVクリエーションズ」というスタジオが製作したそうで、監督は1990年生まれの若さが光る“スジート”。おそらくイマドキのハリウッド映画もバンバン見ているであろう若い世代が生み出した、新時代のインド映画の進化系…なのかな。

共演は『愛するがゆえに』の“シュラッダー・カプール”。他にも俳優陣は多数ですが、やはりあまりにも“プラバース”がメインすぎる映画なので霞がち。実質、本編約170分が“プラバース”のプロモーションビデオと言い切っても過言ではないですからね。

世界が不安定になっている今だからこそこの『サーホー』を見ましょう。なんかどうでも良くなってきます(それでいいのか?)。

オススメ度のチェック
ひとり◯(プラバースを拝みに行こう)
友人◯(娯楽作を満喫するなら)
恋人◯(かなりの長尺でもOKなら)
キッズ◯(インド映画耐性があるなら)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『サーホー』感想(ネタバレあり)

タイトル、そのタイミングか!

どこかにある大都市ワージー。ビジネスとテクノロジーの中心地であり、繁栄を極めたこの最先端都市には裏の顔がありました。実はこの都市を支配していたのは「ロイ・グループ」と呼ばれる財閥組織。この悪事にも手を染める反社会的組織は政治家とも深いパイプがあり、事実上、都市そのものをあらゆる方面で牛耳っていました。

その「ロイ・グループ」の現在のトップは、かつての首領プルドヴィラージの後継者となったロイです。ロイはこれまでの抗争と内部対立ばかりの組織の現状を問題視し、裏社会との決別を図り、合法的な事業に乗り出そうとしていました。

ところがそのロイを快く思っていない人物がひとり。それがプルドヴィラージの息子であるデーヴラージです。実の息子なのに後継になれなかったことに苛立つ彼は不満を溜め込んでいました。

そんなとき、ロイがムンバイで暗殺されてしまいました。それを画策したのは言うまでもなくデーヴラージ。これで組織の実権は自分のもの。誰もがそうなると確信していた、その瞬間、予想外のことが起こります。重役会議の場に颯爽とヘリから現れたのはヴィシュワクという男。摩天楼で彼は自分はロイの隠し子であると語り、ここに組織の手綱を賭けた争いが勃発する予感がビンビンと…。

一方、ムンバイ市警察はある事件を追っていました。それは莫大な金額のカネが消えた事件。この窃盗グループを捕まえるものの、それは末端の駒に過ぎず、中心にいる暗躍者を掴むことはできないでいました。

市警幹部のシンデは「覆面捜査官」に捜査を主導してもらうことになったとみんなに伝えます。そこで現れたのがアショークという伝説の捜査官。

アショークはタフガイで見かけだけに見えますが、事件現場を見ただけで犯行の様子を推察するなど(これは重要な伏線になっていますが)、圧倒的なスキルを持っている実力者のようです。

彼を中心にチームができました。熱心な仕事に取り組む正義感を持つアムリタ、アショークの相棒として連携するデヴィッド、優秀かつオーラのある面々についていくゴースワミ

その頃、ロイ・グループでも激震が走っていました。ロイの残した2兆ルピー(=約2兆9600億円)の資産の在り処をめぐって抗争は激化。ヴィシュワクいわく、その遺産の金庫のカギとなるブラックボックスはムンバイにあるらしく、秘書のカルキはブラックボックスを手に入れるためムンバイへと赴きます。それをデーヴラージが黙っているわけはありません。

アショークたち特命捜査チームもまた例の大金の鍵となるブラックボックスの存在を知り、ロイ・グループの法律顧問であるカルキをマークしますが、現場は修羅場に。さらに謎の男の存在が浮かび上がります。この男こそが犯罪シンジケートの黒幕なのか。

犯罪組織と警察組織、2つの存在が邂逅したとき、単純な2つの善悪の対立だと思っていたものがひっくり返って、意外な一面が顔を覗かせます。

そしてアショークを信頼し始め、心をときめかせるようになってきたアムリタに衝撃の事実が突きつけられます。自分たちがアショークだと思っていたその男はアショークではなく、サーホーという人間だったということ。謎の男だと思っていた人こそ本当にアショークですっかり騙されていました。そして、デヴィッドもサーホーの仲間であり、明らかに警察側ではないということ。

一体サーホーの目的はなんなのか。

遅すぎる映画タイトル出現。乱れ狂う美女たちとのダンス。ショータイムはここから始まる…。

it's showtime

一作品の映画鑑賞だけで疲労感が久々に満タンになったかもしれない。この『サーホー』の映像オーバードーズに私の映画漬けの頭もさすがにクラクラしてきました。

本作は観ていて何度もこう思いました。「どうやってだよ!」と。

それくらいこの映画、映像が売りではあるのですが、映像自体に説明力が皆無なんですね。普通、映像って視覚的な情報が加わるので一番説明能力の高い手段のはずじゃないですか。それなのに全然わからない。

説明ゼリフが欲しいと思ったというレアな感想ですよ。一般的には説明ゼリフがくどい作品は上手くない脚本なのに、本作は逆。説明ゼリフが足りない。足りなさすぎる。

そもそも『サーホー』はストーリーが案外と単純ではなく結構二転三転する展開が長尺の中で何度も挟まれます。アショークはサーホーだった!という主役の立ち位置すらも変化しますし、他の脇役たちもどんどん立場が席替えしていきます。唯一変わらないのはヒロインのアムリタくらいなのですけど、彼女自身に不動の信念があれば良かったものの、基本はサーホーにLOVEで振り回されることに幸せすら見いだし始めてくるので全然ブレブレ。ということで落ち着く土台になるキャラクターがひとりもいません。

そして急展開がいくら起きても映像上で各キャラがどや顔の決めポーズをとるだけで説明はない。いや、説明という概念すらもないのかもしれない。

結果、映像で見せられているのにわからない。映像が説明になっていないという稀有な例の映画になりました。

一番説明が欲しくなるサーホーの正体判明という衝撃シーンの後にさすがに解説パートがくるのかなと思ったらダンスシーンですからね。ほんと、ここは作中のいくつかあるダンスシーンの中でも別格に謎だった…。まだ最初のナイトクラブのダンスシーンは「あ、まだ公で踊る場所で踊っているから普通かな」と思っていたのに、これだもん。いや、それ以降のダンスシーンも意味不明の満漢全席だったか。なお、サーホーの狙いの解説は本当に最後の最後まで後回しです。

まあ、映像をただ流し込んでいくだけの早食いわんこそばみたいな感じで満喫していくならこれでいいのかもしれないですけど。

サーホー

まだ進化の途中だと思っておこう

これほどまでに映像に全振りしてゴリ押す映画というのも昨今はなかなかなく、ただそれでもチープにはならないのは映像のクオリティは一流に高いからです。

これに関しては全くハリウッド映画と遜色ない質で、今のインド映画のポテンシャルをじゅうぶんに見せつけていました。なにせインド映画はこういう歴代トップ級に食い込む映画を昨今は連発していますからね。それだけ業界が盛り上がって投資も進んでいるのでしょう。凄い勢いです。

本作はアクションに力を入れまくっていますが、序盤の傘を差しながらアショーク登場からの一連の団地戦闘シーンからして見ごたえあり。相手を圧倒していくわけですが、団地特有の高低差を活かした縦方向アクションも気持ちがいいですし、どこかの映画で見たことがある横カメラでの次から次へと現れる敵のなぎ倒しシーンも快感。もうサーホーが凄腕プレイヤーのコントローラ操作でコマンド入力を決めて技を繰り出しているゲームキャラみたい。

なお、なぜこんなにもサーホーが人外レベルで強いのかはわからない(どうやってだよ!ポイント)。

続いてカーチェイスが展開される場面になり、車がアイススケートのように滑る。あれ、車ってこんな風に滑るのだっけ…。それにしても私、インドの車事情に詳しくないのですけど、ああいうタイプの車は好まれているのだろうか。

さらにサーホーとアムリタが密会中に敵が乱入。室内で銃撃戦になりますが、ここでまさかのミニガン。室内で使うものじゃない…。なぜかそれをかわして部屋を横切れる二人(どうやってだよ!ポイント)。

さらにさらにバイク疾走&トラック暴走&ウィングスーツ猛追の、なにがなんだがわからないカオス度は本作トップクラスの場面。ここでサーホーがウィングスーツのひとりにしがみつき、ビルにつっこみながら自分がウィングスーツを装着してアムリタを助けるという、本作の白眉があります。ここは素直にカッコいいシーンですが、もういっそのことずっとウィングスーツ常備でいいのに。

なお、ここでトラックが替え玉に替えられるというトリックが出ていますが方法はわからない(どうやってだよ!ポイント)。

他にも廃村での乱闘とかいろいろあるけど語り疲れたのでカット。

『サーホー』を総括すると、映像のクオリティは最先端なのに、物語のクオリティはあれれな一作だったなぁ…。なんかプロット自体は20年前くらいのインド映画みたい。最近のインド映画は女性の描かれ方もかなりジェンダー平等になってきたのに、今作に関しては大幅に後退していますし。『バーフバリ』を観た後だと余計に落差に失望しやすいですね。

これは邦画でも同じですけど、非アメリカの国が安易にハリウッド映画のモノマネをしだすと途端にスカスカに見えてきますね。やっぱり真似るのはほどほどが一番。

同じように映像に特化した『ロボット2.0』はまだ唯一無二のインド映画らしさが残っていたけど、この『サーホー』には感じられない…。プロットはいつもの世代を超えた因縁の対決のパターンですけど、それをオチに隠すほどでもなかったというか。もっと別のところで力を入れてほしかったというか。


でもまだ進化の途上なんじゃないかなと思います。作り手も若いですし、いくらでもアップデートできるでしょう。これでシナリオも洗練されてきたら無敵ですからね。インド映画はまだまだやってくれる。そう信じられるから楽しいのです。

信じられなくなった国にいるとツラいんだよ…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 9% Audience 55%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)UV Creations