サンド・ストーム
映画『サンド・ストーム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sufat Chol 
製作国:イスラエル・ドイツ(2016年) 
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信 
監督:エリート・ゼクサー 

サンド・ストーム

あらすじ

イスラエルの荒涼とした砂地にたたずむ小さな村に暮らすある家族が、若い2番目の妻を迎えようとしていた。お祝いムードで浮かれる周囲の人間をよそに、準備に追われながら当惑する最初の妻は、年頃となり自由を夢見る娘のひとりと衝突する。そして、家族それぞれの価値観が浮き彫りになっていく。

『サンド・ストーム』感想(ネタバレなし)

現代のベドウィンの葛藤を描くドラマ

父系制が支配する社会に生きる女性を描いた映画は、近年のフェミニズム・ムーブメントの後押しもあってか、非常に評価の高い作品が多いです。去年もトルコの保守的な地域に生きる若い女の子たちを描いた裸足の季節という素晴らしい映画が公開されました。

去年に公開された、父系制が支配する社会に生きる女性を描いた映画は、実は『裸足の季節』だけではありません。今回、感想をあげるのは、その隠れたもう1本です。タイトルは『サンド・ストーム』というイスラエル映画。2016年のサンダンス映画祭のドラマ(ワールドシネマ)部門で大賞を受賞しており、こちらの評価も上々。

こういう映画は「あぁ、イスラム教を描いた話ね」と安易に片づけられがちですが、一口にイスラム教といっても色々あるわけで、その違いを見つめながら映画を鑑賞すると深く楽しめます。

例えば、『サンド・ストーム』の主人公となる家族は、「ベドウィン」と呼ばれるアラビア半島を中心に砂漠地帯で暮らす民族です。『アラビアのロレンス』にも登場しますね。「ベドウィン」のなかにも多くの部族が存在していて、遊牧あるいは半遊牧生活をする部族もいれば、現代では定住して暮らす部族もいるらしく、実態はさまざま。ただ、共通する特徴といえば、父系の出自に対するこだわりの強い文化を持つということ。もちろん、一夫多妻制で、離婚や再婚なども多いとか。

そんな現代に生きる「ベドウィン」の暮らしをドラマチックに描いた作品としても本作は非常に興味深いと思います。

正直に告白すれば、私もこういう文化圏で暮らす人のことなんて1ミリも理解していないような軽薄な人間なので、この手の作品は本当に勉強になります。映画って教科書としては理想的ですよね。文字をひたすら追っていく参考書や学術書はどうしてもハードルが高すぎますし、テレビのニュース番組は断片すぎてイマイチ全容が掴めないし。映画はほどよい尺の中に必要最小限の構成で、知るべき要素をポンポンとわかりやすく提示してくれているので、ちょっとしたプロのサポートを受けられる専用体験コースみたいなものです。

そこまで重い話ではないですし(表面上はですが)、全体の尺も80分強と短めなので、気軽に観れるでしょう。Netflixで配信中です。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『サンド・ストーム』感想(ネタバレあり)

ベドウィンの結婚

車で村へ帰る父と娘。この日は父と2番目の妻との結婚式であり、村はお祝いムード一色。そんななかで娘のレイラと第1夫人のジャリラは新しく迎える妻のためにベットを組み立てます。そうこうするうちに花嫁衣装に身を包んだ第2夫人アファフが到着。夜は盛大な宴が開催されます。

日本にはない一夫多妻制。新しい妻を迎える古株の妻や子どもたちはどんな気持ちなんだろうか。全く経験もありませんが、本作で描かれる映像では淡々と準備しながらもどこか複雑な感情が見え隠れしていました。それにしても、結婚祝いといっても盛大に祝われているのは夫の方で、第2夫人が村に来たときも出迎えるのは女性で、やっと二人になったのは部屋だけというのも、なかなか独特な光景でしたね。結婚式といえばカップルが隣合って連れ添うのが当たり前の文化の私たち日本人にはすごく異様に映ります。この場面だけでも父系制が強く印象づけられます。

『サンド・ストーム』を見ているとよくわかりますが、女性は男性と対等ではない、というか完全に所有物という扱いです。でも忘れてはいけないのは、この世界で生きている人たちは“これが普通だ”と思ってしまっているということ。苦しいとか辛いとか、そんな気持ちを抱いたとしてもその思いは封印してしまいます。

よくこの手の文化描写に対してあれこれ言っていると、これはその国の文化なんだから、外部から余計な口出しをするなという人もいますが、問題なのはその文化を誰が決めているのかということです。みんなで話し合って決めたものではありません。たいていは権力者、男性でしょう。

文化に逆らうなという発想自体が「男に逆らうな」ということであり、やっぱりそれはまごうことなき男尊女卑そのものです。

また、やっぱりこれも明言しておかないといけないことだと思いますが、こういう映画を観て、他人事として思ってほしくはなく、日本も先進国の中でははるかに女性差別の激しさで言えば酷いものだということも繰り返したいところ。「え? そんなこと感じたことないけど?」なんて思ったのなら、ほら、『サンド・ストーム』の中の男たちと同じ思考パターンじゃないですか。そういうことです。

サンド・ストーム

“洗濯もの”はあまりにも多すぎた

父系制が支配する社会に生きる女性を描いた映画の定番だと「旧時代的な大人の価値観 vs 新時代的な若い価値観」がよく構成されがちですが、本作はそうなっていないのも深みがあって面白いです

夫は、冒頭で娘のレイラに車を運転させていたり、学歴を重視する考えを見せたりと、比較的新しい価値観に柔軟なのかと思えば、レイラに自分の決めた男との婚約を強いります。一方の第1夫人は、レイラの好きな相手との交際を部族的にありえないと一蹴するわりに、第2夫人を迎える夫にも不満げであり、最後にはレイラに「好きに生きなさい」と言います。第2夫人もまた、「早く結婚しないと私のようになる」と思いがけない心情を吐露。つまり、誰もが自分なりの方法で2つの新旧価値観の狭間で折り合いをつけて妥協してるのです。この極論では語れないベドウィンたちの立場がドラマをリアルにしており、本作の魅力でした。

また、『サンド・ストーム』は映像もメタファーに富んでいて良かったです。レイラと彼氏が会話する幾重にも並列した洗濯ものが古い社会のしがらみの多さを表しているとか、家出をして車で飛び出したレイラがトンネルを越えられない場面はまさしく古い社会から抜け出せない姿そのものだとか。

結局、レイラは父の決めた相手と結婚する道を選びます。レイラが婚約者と相対する部屋を覗き見る妹が「いや」と代弁するのがまた切ない…。妹が覗き見る窓はまるで牢屋の鉄格子みたいでした。伝統や社会という名の檻にいる姉、そしてその姉と同じ道を辿るかもしれない妹。

この砂嵐から抜け出せる世代は来るのでしょうか。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 86%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★