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『裸足の季節』感想(ネタバレ)…純潔を押し付けるのはもうやめて

裸足の季節

純潔を押し付けるのはもうやめて…映画『裸足の季節』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mustang
製作国:フランス・トルコ・ドイツ(2015年)
日本公開日:2016年6月11日
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュベン

裸足の季節

裸足の季節

『裸足の季節』あらすじ

10年前に事故で両親を亡くし、祖母の家で叔父たちと暮らしている5人姉妹のソナイ、セルマ、エジェ、ヌル、ラーレ。厳格なしつけや封建的な思想のもとで育てられた彼女たちは自由を手に入れようと奮闘するが、やがてひとりずつ嫁いでいく。

『裸足の季節』感想(ネタバレなし)

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トルコで少女たちが訴えるもの

「フェミニズム」は今や映画では欠かせないキーワードです。最近だと『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のようにフェミニズムをバン!と前面に打ち出しながら、エンタメとしてしっかり確立している作品もあって、時代の変化を感じます。
私は、異国を舞台にしたフェミニズム映画が結構好きです(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も異国といえば異国だけど…)。それはたぶん異国だからこそ客観視しやすいという理由があるのだと思います。
そんななか日本では2016年に公開された『裸足の季節』は、異国を舞台にしたフェミニズム映画の新たな名作として心に深く残る一作です。
本作はトルコのとある小さな田舎の村に暮らす5人の姉妹の物語。
何の予備知識なく本作を観ても問題ないのですが、作品の舞台背景を知っておくとより物語に入り込めると思うので簡単に説明しておきます。
親日な国柄ということもあって、日本人にとっては観光地として有名なトルコですが、地理的にヨーロッパ、アジア、中東、アフリカに近接していて多様性に富んだ国だと言われています。一方で、ほとんどの国民はイスラム教徒で、それを聞くと、なんとなく女性への社会的規制が厳しいのかなという印象も抱きがち。
ただ、それは一概には言えず、例えば同じく少女を主役としたフェミニズム映画に『少女は自転車にのって』(2012年)という作品がありましたが、その舞台であったサウジアラビアほど厳格さはないのがトルコです。

といってもトルコ国内でも地域差があります。主人公となる5姉妹が住む場所は「イスタンブールから1000km離れた小さな村」としか劇中で説明されません。トルコは東西に伸びた国であり、イスタンブールは西の端にあるので、おそらく推測するに舞台となった村はトルコの東部の端よりに位置するのでしょう。外務省のウェブサイトによればこの一帯は「十分注意」もしくは「渡航中止」するように情報が出されています。ましてやそこからさらに南に行けばシリアやイラクの国境地帯なわけで、そんな場所です。

つまり、『裸足の季節』の舞台はトルコの中でもかなり保守的で治安上も不安定な場所なんですね。それを踏まえて本作を観ると良いと思います。

第88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされ、各地の映画祭で絶賛された本作のパワーは伊達ではありません。本場のセザール賞では、脚本賞・編集賞・作曲賞・第一回長編作品賞を受賞し、作品賞・監督賞・撮影賞・音響賞・衣装デザイン賞にノミネート。国際映画祭で全員に主演女優賞が贈られたという5姉妹を演じた5人の少女たちの、眩しく切ない自然な演技にも要注目です。

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『裸足の季節』予告動画

『裸足の季節』予告編
↓ここからネタバレが含まれます↓

『裸足の季節』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):閉じ込められた5姉妹

13歳のラーレは先生にしがみつき、別れを惜しんでいました。大好きだった先生が転任で学校からいなくなることが寂しく、涙をこらえます。先生は「文通しましょう。私のイスタンブールの住所を?」と優しく言ってくれます。

やっと先生から離れたラーレを4人の姉が待っています。帰ろうとバスに乗りかけますが、ひとりが「いい天気だし、歩こう」と持ちかけます。

着いたのは海辺。5姉妹と同級生の男子たちは無邪気に遊びます。水をかけあい、ずぶ濡れになりながら、波間に身体をゆだね、肩車で騎馬戦みたいにじゃれ合います。ラーレも元気になりました。

海からあがると果実を木からとって食べていましたが、住人に見つかり、逃げ出します。

そうして笑顔のまま帰宅。しかし、その顔はすぐに凍り付きます。

祖母が厳しい顔つきでこちらを見下ろしており、「ソナイ、まずは長女のあなたからよ」と告げます。そして長女ソナイは部屋に閉じ込められ、出てきたと思ったら、次はセルマが部屋に連れていかれます。次は三女のエジェ。「私たち悪いことをした?」と抗議の声をあげる姉妹たち。祖母は「ふしだらなことをしたからよ」と怒ります。

「海岸で男の子の首に下半身を擦りつけて!」

必死に弁明する姉妹たちの声を聞こうともしない祖母。納得いかない四女のヌルは、だったら自分のお尻をつけた椅子もふしだらだろうと外で燃やそうとします。

姉妹たちは自分たちを密告したらしいペテッキの家のドアを叩きますが、今はいないようです。道中を歩いているペテッキを見つけ、ラーレは罵詈雑言を浴びせます。それを見た祖母はラーレの顔を容赦なくビンタしました。

夜。父が帰宅し、事情を聞いて祖母を怒鳴りつけます。ここまで娘たちを厳しく管理するのは父の意向のようです。生温いと父は考えているらしく、「売春婦のような奴はどいつだ?」と娘たちの前で威圧します。「傷ものになっていたらどうする?」と激昂する父を祖母はなだめ、ちゃんと証明すると言います。

翌日、姉妹は病院に連れていかれます。ソナイ、セルマ、エジェは処女検査を受けました。もちろんとくに何も異常はありません。

祖母は「少しでも疑わしいと結婚できない」と語ります。

まだ怒りがおさまらない父は姉妹たちを家に軟禁します。不埒なものとみなされた品々、パソコンであろうと何であろうと…は全て没収されました。

学校にも行けなくなり、姉妹たちは暇を持て余します。遊び相手は姉妹同士だけ。閉ざされた家では祖母が良妻になるための手ほどきを教える毎日です。料理、掃除、裁縫…。

しかし、長女のソナイはときおり家の近くまでやってくる男子に夢中です。その男子は道路にデカデカと「ソナイは俺のもの」という文字を残したりもしました。父は憎しみを露わにしながらその文字を消します。

ある日、窓から手紙が投げ込まれ、それを見たソナイは窓から抜け出して男子と連れ立っていきます。そして夜中にこっそり帰ってきます。

サッカーが好きなラーレは父に試合を観に行きたいとお願いします。けれども、乱闘騒ぎもあるために論外だと一蹴されてしまいました。サッカーをテレビで観ますが、ラーレはそこに混ざりたいという気持ちを強くします。客席では女性だけの入場を認められ、みんなが熱狂していました。

そしてあるチャンスが巡ってくることに…。

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純潔に反逆するじゃじゃ馬娘たち

『裸足の季節』は予告動画やポスターを観ると、少女たちのキラキラした青春を描く映画かな?と思ってしまいます。しかし、観てわかるとおり、全然違う作品でした。

冒頭、海岸で男子生徒に肩車されてじゃれ合う少女たち。いかにも青春!な場面ですが、この青春に突きつけられたのは「処女検査」。以後も、結構「えぇ…」とドン引きするようなショッキングな出来事が連発します。それこそ彼女たちを「カゴの鳥」と表現するのは生易しすぎるくらい。まさに純潔に陵辱されるようなものです。

これに対して「イスラム教だからでしょう?」とか「これがトルコの文化でしょう?」みたいに冷めた視線を送る人がいるかもしれませんが、別にそうじゃないと私は思うのです。

まず、本作で描かれる少女たちの境遇はトルコでは平均的なわけではないということ。先にも述べたとおり、トルコの中でもかなり保守的な村の話です。しかも、この村の中でも少女たちの家庭は一際保守的なようでした。「学校に行かないの?」と同級生っぽい子が訪ねてきたり、終盤に車に乗って家を飛び出すラーレを追いかける叔父に「行かせてやれ」と言う男性がいたりと、ラーレの家の異常さを匂わせるシーンは随所にありました。ちなみにイスタンブールでも、リベラルな家庭と保守的な家庭がいて、かなり差があるみたいですね。

こういう家族のようなコミュニティの堅苦しさというのは、日本人でも同感できるはずです。

そして、フェミニズム的な視点でいうなら、少女に「純潔性」を求めるというのも、程度の差はあれど日本も例外ではありません

こういう多様な切り口を用意しているあたりが、ただの安直な正論では片づけられない映画になっている本作の評価の高さにつながっているのでしょう。

これもどれも、本作がデビュー作であるデニズ・ガムゼ・エルギュベン監督の持っている要素が全面に表れた結果。女性であり、トルコのアンカラで生まれ、フランスのパリで映画を学んだ監督の、少女時代の体験が反映されたという本作は、まさしく彼女にしか作れないものでした。いきなり集大成な作品を作ってみせた新鋭監督の今後に期待です。

現代のフェミニズム映画は決して「シンデレラ・ストーリー」では終われないものですが、1人でも受け止めてあげたいという意思がひしひしと伝わってくる本作のラストが印象的でした。

『裸足の季節』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 88%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

以上、『裸足の季節』の感想でした。