スノーマン 雪闇の殺人鬼
映画『スノーマン 雪闇の殺人鬼』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。 

原題:The Snowman 
製作国:イギリス・アメリカ・スウェーデン(2017年) 
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー 
監督:トーマス・アルフレッドソン

あらすじ

オスロに初雪が降った日、1人の女性が姿を消し、彼女のスカーフを首に巻いた雪だるまが発見された。捜査を開始したハリー・ホーレ警部は、過去10年間で女性が失踪した未解決事件が多すぎることに気づく。やがてハリーのもとに「雪だるま」という署名の入った謎の手紙が届き…。

ネタバレなし感想

こっちの雪だるまは怖い

雪だるま つくろう♪ ドアを開けて 一緒に遊ぼう どうして出てこないの 前は仲良くしてたのになぜ会えないの…
あ、うん…今、ちょっと声変わり中なの。だから待っててね…。

世の中にはいろいろな雪だるまがいます。最近は声を変えざるを得なくなった某アニメ映画の雪だるまが話題に(日本限定)。

そして、今回紹介する映画『スノーマン 雪闇の殺人鬼』に出てくる雪だるまはちょっと怖い雪だるま

とはいっても、タイトルから「夜な夜な雪だるまが動き出して子どもたちをメッタ刺しにして殺しまくる」みたいなホラーを連想したなら、ごめんなさい。そういう内容ではありません。邦題には「雪闇の殺人鬼」とありますけど、殺人鬼なのはれっきとした人間です。ちなみに「雪闇」って、これはなんて読むのでしょうかね…ゆきやみ?

原作があって、ジョー・ネスボというノルウェーの小説家が書いた「The Snowman」というハリー・ホーレ刑事シリーズと呼ばれる推理小説のひとつの映画化です。小説家としてすでに高く評価されており、ハリー・ホーレ刑事シリーズは賞にも輝いています。ジョー・ネスボは、ロックバンド・ミュージシャンであり、サッカー選手でもあるそうで、なかなか多才な人みたいですね。

間違ってもレイモンド・ブリッグズの絵本「スノーマン」と勘違いしないように。まあ、似ても似つかないので混同する人はいないと思いますけど。

本作はなんと企画当初はあのマーティン・スコセッシが監督する予定だったそうで、それは残念ながら実現しませんでした。その代わりに監督をつとめたのが“トーマス・アルフレッドソン”というスウェーデン監督。ご存知の方は良く知っていると思いますが、少年とミステリアス少女の不思議で危険な交流を描いた『ぼくのエリ 200歳の少女』や、超硬派なリアル路線全開のスパイ映画『裏切りのサーカス』を手がけた、評価の高い監督です。『スノーマン 雪闇の殺人鬼』はノルウェーが舞台なので、本場の北欧の人に任せるのは手堅い判断、いや、ベストな人選だったと思います。

しかも、キャスト陣が異常に豪華というのも注目ポイント。

主演は『光をくれた人』で仲睦まじいリア充っぷりを見せつけていた“マイケル・ファスベンダー”。今作では幸せオーラがゼロの状態になってますが、相変わらずカッコいいです。なお、“マイケル・ファスベンダー”は本作の撮影直前まで『アサシン クリード』を撮っていたこともあって、今作でも意味もなく筋骨美ボディな肉体が映ります。

ヒロインは、最近はもっぱらトム・クルーズのアクションに付き合わされている“レベッカ・ファーガソン”。今作でも若干の強さの片鱗を見せる瞬間もあって、なんか男に襲われてもなんとかなるんじゃないかと思ってしまうのは私だけ…? 
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他にも、“シャルロット・ゲンズブール”、“J・K・シモンズ”、“トビー・ジョーンズ”、“ヴァル・キルマー”と実力派揃い。“ヴァル・キルマー”なんて久しぶりに見た気がしますが、彼は喉の癌で闘病していたそうですから、大変だったでしょうね。今作の撮影では声が上手くでなかったようなので、音声だけ後付けになっているみたいです。

それだけ関心を集めやすい要素が映画にあるなかで、日本では劇場未公開でビデオスルー作品になってしまったのは、やっぱり本国での評価が芳しくなかったからなのでしょうか。その中身については、後半の感想で。

北欧ミステリーや出演俳優のファンなら、とりあえず鑑賞しておくリストに加えておくのでもいいのではないでしょうか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優ファンはとくに)
友人◯(物語予想で盛り上がって)
恋人△(暇つぶし程度)
キッズ△(残酷描写あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

雪闇に失踪する人たち

雪深い北欧の山奥。一軒の家にやってきた一台の車。「ママ、ヨーナスおじさんだ」少年はそう言って母親らしき女性に伝えます。そして、家にあがってきた男は、コーヒー豆をいじりながら少年に質問します。「ドイツが降伏したとき国王が亡命先からノルウェーに帰国したのは?」「ノルウェーで議会選挙が行われたのはいつか?」…答えに詰まる少年。すると、突然、横にいた女性を殴り、ちゃんと教えろと威圧。少年と女と男…なにやら人には言えない関係性があるようで、男は「あなたの子だと奥さんに話す」と女に言われ、車で出ていってしまいます。その男を追いかけるように、女と少年の乗った赤い車が道路を走りますが、見失い、諦めたようにハンドルから手を放す女。コントロールを失った車は、道路脇の凍った湖を滑るように走行。女は無反応。少年は慌てて、サイドブレーキをひき、車は停車。車から降りた少年は母を降ろそうとしますが、やはり生気を消失したように反応なし。そうこうしているうちに湖の氷が割れて、車は女ごと落下。沈んでいくのでした。

そして場面は変わって、大人の男が画面に映ります。彼の名はハリー・ホーレ。オスロ警察に勤めていたようですが、休暇依頼もなしに職場を放棄。ラケルという妻がいましたが、今はその妻はマティアスという医者の男と交際し、事実上、別れている状態。ラケルとの間に生まれたオレグという息子とたまに会うくらい。

そんなハリーに上司も困り顔でしたが、とりあえず仕事してくれと、パートナーを組まされたのがベルゲンから転任してきたカトリーネ・ブラットという女性。極秘と書かれた資料をバックに入れているのに気づくハリーでしたが、そこはスルー。ハリーは失踪人に関する事件の捜査に同行することになります。

一方で、結構名の知れた凄腕らしいハリーのもとに、「刑事さんへ」と雪だるまの絵が描かれた謎めいた手紙が届いてしました。

こんな感じの序盤なのですが、すでに伏線がバリバリと張られており、ミステリーらしい読み応えのある情報量。期待を膨らませるのにじゅうぶんな幕開けだったと思います。

どこか童話的な猟奇事件

本作はまず撮影が印象的で、冒頭の湖に車がドボンするシーンに至るまでの流れるようなカットが芸術的で、それと対比する、同じく湖でのハリーと犯人の一騎打ち場面も、凝った絵作りをしていました。撮影を務めたのは“ディオン・ビーブ”という人で、2005年の『SAYURI』でアカデミー撮影賞を受賞していますし、最近は『13時間 ベンガジの秘密の兵士』や『メリー・ポピンズ リターンズ』など撮影が記憶に残る映画を多く手がけており、実力は見事すぎるほど。今作でもそのテクニックが光っていましたね。

そもそも北欧は外環境が絵になるとも言えますけど。実際に暮らすなら利便性は低いのかもしれないですけど、ああいう雪景色がぐわっと画面いっぱいに広がると、それだけで映画としてリッチに見えてきますね。

サスペンス部分も緊張感を煽る演出が良くて、襲われる前の不穏さもゾクゾクしますし、いざ犯人が襲うとなるとワイヤーを使って非常に痛々しく行為に及ぶのもスリルは満点(ちゃんと切断されるし)。

あと基本リアルなストーリーですけど、ところどころまるでファンタジーの世界と重なるように見せているのもいいですね。ラフトー回想シーンのバラバラ死体を発見する際の、どことなく芸術品のような映し出し方もそうですし、雪だるま生首も滑稽であり怖くもありで、どこか童話的。また、終盤ハリーが妻ラケルと息子オレグをさらった部屋に侵入する際に、スマホを鳴らしますが、その着信音がエドヴァルド・グリーグの「ペール・ギュント;山の魔王の宮殿にて」になっています。このちょっと間の抜けた音楽がBGMになって、一層リアルとフィクションの境界が分からなくなる感じが引き立ててられていました(グリーグの出身はベルゲンです)。

ちなみに、ノルウェーの警察は基本、銃を携帯しないことで有名。よほど緊急の場合に限って武装が許可されます。だから、作中でもハリーは個人で持っている銃を使っていましたね。でも、映画内ではよくわからないゴツいタブレット端末を持たされていましたけど、あれは本当なのかな? ともあれノルウェーの治安の良さがわかりますし、ゆえにこういう殺人事件フィクションがちょっと独自の視点で描かれたりするのかもしれないです。

スノーマン 雪闇の殺人鬼

空気を読む湖

とまあ、褒められるべき点はいっぱいある映画だと思うのですが、言葉を濁したくなる部分もあって、全体的にイマイチしっくりこないなと感じるところも、正直…。

犯人の正体はいいんですよ。結構、途中で深く推理せずともわかってしまうし、他にもカトリーネの正体も他に女性キャラが全然いない以上、自明でしたから。本作の原作がハリー・ホーレ刑事シリーズという小説群だとわかっていれば、なおさら主人公が犯人なわけがないのは丸わかりですし、最初の少年がキーマンだとしてあの子が大人になった年齢にふさわしい登場人物は消去法でわずかしかいませんし。

ただ、問題なのは謎解き云々よりも、物語運びの方のような…。

序盤はまだOK。問題は以降で、過去パートのラフトーの件とか、冬季スポーツワールドカップ誘致に尽力するアルヴェ・ステープやそれと関わりを持つ大人たちの暗躍が描かれ、ああ、これは社会の大きな闇が背後にあるのかなと思わせておきながら、いつのまにやら個人的なスケールにガクッと縮小していく世界観。その小ささを示すように、カトリーネが終盤に完全にフェードアウト。肝心のクライマックスに絡まないのはどうなのかと。一応、いろいろと因縁があったはずなのに。

それに犯人の動機もリアリティはさておき、観客が盛り上がるようなものは皆無だったのではとも思います。

あげくに、湖の穴に落ちるという末路。対比させているのはわかる、わかるけれども、あれじゃあ、ただのマヌケだし、都合が良すぎると多くの観客は思うでしょう。そのあとの余韻も何もない映画の締め方にはガッカリです。

せめて主人公にもっと感情移入できれば良かったのですが、原作では本来シリーズものなのに、それを映画では一作だけでポッと登場した男になってしまったのはマズかったかもしれないです。事件発生前にもっと主人公の過去などにクローズアップした方が良かったのか。なににせよ、筋骨たくましいあの“マイケル・ファスベンダー”では人生がフェードアウトした男の苦悩はあまり見えなかったかなと。

なんでこうも雑さが目立つ出来になったのか。なんでもかなり製作が急ピッチだったらしく、監督もシナリオをよく把握せずに撮っていたとか。はたまたそのために原作から物語のエッセンスをごっそり削ることになったとか。

うん、それは誰も得しないだろうな…。配給のユニバーサル・ピクチャーズもなんでそんなに焦って公開しようと思ったのでしょうかね。せっかく評価の高い原作なのに、もったいないですね。

本作に携わったお偉いさんはとりあえず責任をとって「雪だるまを100個つくる」の刑を宣告します。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 7% Audience 18%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

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