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『お嬢さん』感想(ネタバレ)…最低な変態たちに従属なんかしたくない

お嬢さん

最低な変態たちに従属なんかしたくない…映画『お嬢さん』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:The Handmaiden
製作国:韓国(2016年)
日本公開日:2017年3月3日
監督:パク・チャヌク
性暴力描写
お嬢さん

おじょうさん
お嬢さん

『お嬢さん』物語 簡単紹介

1930年代、日本統治下の韓国。スラム街で詐欺グループに育てられた少女スッキは、藤原伯爵と呼ばれる詐欺師から、ある大胆な計画を持ちかけられる。それは自分自身を利用した大きな潜入。侍女として欺きながら近寄り、莫大な財産の相続権を持つ令嬢・秀子を藤原伯爵と結婚するように誘導した後、秀子を精神病院に入れて財産を奪い取ろうというものだった。しかし、その企みは思わぬ方向に動いていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『お嬢さん』の感想です。

『お嬢さん』感想(ネタバレなし)

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R18の皮をかぶったヘンテコな映画

この映画がやってきました。

“パク・チャヌク”監督のフィルモグラフィーの中でも一番のクリティカルヒットになったのではないだろうかとも思う最新作『お嬢さん』。カンヌ国際映画祭、シカゴ映画批評家協会、ロサンゼルス映画批評家協会、サンフランシスコ映画批評家協会など世界各地の映画賞を総なめ!と聞いて、パク・チャヌク監督作品好きの私も楽しみに待っていました。

パク・チャヌク監督がこれまで世に送り込んできたのは、復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』、『サイボーグでも大丈夫』、『渇き』、『イノセント・ガーデンといずれも強烈な作品たちばかり。前者3作は「復讐三部作」、後者3作は「人間ではない存在の三部作」と呼ばれていますが、今作も何か三部作的な関連性があるのでしょうか(なお、上記の三部作は物語上つながりはありません)。

パク・チャヌク監督作品の特徴といえばサスペンスの中に色濃く染みるバイオレンスとエロス…とよく言われます。“グロくてエロい”というと、最近だとネオン・デーモンが公開されたばかりのニコラス・ウィンディング・レフン監督が思い浮かびますが、作家性は全く違います。

私的にはパク・チャヌク監督作品の魅力は「コメディ」にあると思ってます。いや、コメディというか、形式的な枠に当てはまらないヘンテコさというか…。緊迫したシーン、暴力的なシーン、官能的なシーン、どんな場面においてもスッとユーモアが挟まれる。唐突で観客としては戸惑いますが、笑っていいのか?シリアスなのか?…その判断にも困る…そういう映画なのです。しかも、これだけなら韓国映画ならよくあるんですが、パク・チャヌク監督の場合、そのコメディがちょっとやりすぎなくらい異常なときがある。そこがクセです。フェチというかケレン味というか、パク・チャヌク監督の作家性ですね。

本作『お嬢さん』は「R18+」指定という点が注目されがち。確かに性絡みの淫語も連発しまくりで、パク・チャヌク監督ワールド全開。そのせいかユーモアもより極端に浮かび上がる内容となっています。正直、パク・チャヌク監督作品を全く観たことがない人、『オールド・ボーイ』くらいしか観たことがない人は、面喰らう気がします。なので、過去作を観て耐性を付けておくのもいいかもしれません。個人的には『渇き』がおすすめ。

といっても、本作はパク・チャヌク監督作品の中でもわかりやすい部類だと思います。第1部、第2部、第3部の3部構成になっているので、二転三転する展開も理解しやすいです。また、世界中から高い評価を受けているだけあって、作品のテーマは万国で共感を得られるものになっています。カタルシスも明確に用意されているのも嬉しいところ。

付け加えておくと、本作は女性映画ジャーナリスト同盟や女性映画批評家サークルといった女性が投票権のあるところでも映画賞を受賞しています。なぜなら本作は女性差別という問題を抉り抜く内容になっているからでもあり…。「韓国映画は男のものだ!」と言い放つ輩も日本には多いですが、そんな戯言は無視しましょう。この映画も女性客が詰めかけるはずですから(もちろん大人のお嬢さんだけね)。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『お嬢さん』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):嘘はつかない

1939年、日本統治下の朝鮮半島。土砂降りの中、ナム・スッキという少女は並んで雨宿りするかのような赤ん坊をたくさん抱えた家族らしき人物に近づき、自分の抱っこしていた赤ん坊を渡します。そのうちのひとりの女性が「私の方がいいのに、私が日本人野郎の家に行かなきゃ…」と泣き叫びますが、スッキは汽車に乗り遅れないように傘をさして歩いていきました。

車に乗り換え、屋敷へと向かいます。深夜、広大な敷地にひっそりと建つ和洋一体の屋敷に到着。スッキはこの屋敷で侍女として働くべくやってきたのです。名前は「珠子」と変えます。「玉珠(オクチュ)」から取った名です。

侍女長の佐々木夫人に案内され、ひととおりの説明を受けます。この豪華な屋敷は、日本人の華族と結婚して「上月」という和名を手に入れた親日派の朝鮮人の男のものです。スッキはここでとくに上月の姪である秀子の世話をしなくてはいけません。

「お嬢様の日課は、裏道の散歩や旦那様と朗読の練習。旦那様は富豪の中で一番の書籍愛好家」

寝床は狭いですが、文句も言えません。ここで立派な侍女にならないといけないのです。

その夜、いきなり秀子の絶叫で目を覚まし、急いで駆け付けると、どうやら悪夢を見たようです。なんとか落ち着かせ、横で歌を歌ってあげます。

献身的に使えるスッキ。しかし、これは本心ではありません。実は策略があったのです。

スッキは悪徳商売を生業とする家で育ちました。スリもするし、ハンコの偽造もするし、赤ん坊も日本人に売り飛ばしたりもします。

以前のこと。ある時、「藤原伯爵」と名乗る詐欺師がスッキたちの前に訪れて、上月の話をし出します。その男は日本人収集家を書斎に集めて稀覯本の朗読会をして競売にかけているのですが、偽本も売っています。そしてその上月の姪である秀子にこの伯爵は狙いを付けました。その秀子と恋に落ちて日本に逃げ、結婚で財産を相続し、用済みになったら秀子を病気扱いにして施設に送りつける。これで富を強奪できる…そういう計画でした。

そのためにはスッキが侍女として潜入し、秀子が公爵を愛するように仕向けないといけません。上月は後見人に過ぎないので姪である秀子と結婚しようと企んでいますが、それを公爵が奪い取るにはスッキにかかっています。

スッキはこの仕事で大金を得て朝鮮と縁を切るつもりでいました。話に乗ります。

こうして上月の屋敷で侍女生活が始まったスッキ。秀子は驚くほど美しい女性でした。本を守るために陽の光も届かない、薄暗い部屋で退屈そうにしていた秀子。叔父のせいで日本語にさえもうんざりな様子です。

2人の生活は箸のようにつかず離れずとなり、距離が縮まっていきます。

「嘘だけはつかないでね」と…。

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変な日本語も全ては計算のうち?

メインのストーリーテーマは観る前に想像していたものと違って、意外なほどシンプルでした。「女」を慰みものにするための見世物程度としか思っていない男社会における“女性たちの反逆”を描いています。このへんは、舞台設定を原作であるサラ・ウォーターズの「荊の城」のヴィクトリア朝から日本統治時代の朝鮮に変更したのが、非常にうまく効いていました。

そのテーマがわかるのは第2部の終わり部分。それ以前と以後ではサスペンスの種類が転換するのが見どころです。前半の騙し合いか、後半の復讐か…どっちが好みかは人それぞれだと思いますが、私は一粒で2度おいしい感じでたっぷり楽しめました。

ただ、やっぱり全編とおして楽しいのはユーモア。本作の一番というか、他にないコメディ要素が「日本語」です。

本作はとにかく登場人物が日本語をしゃべりまくります。しかも、そのバランスがとても変。朝鮮語⇒日本語⇒朝鮮語と、ほぼ間髪入れず連続してセリフがあります。ときには「なんでそこで日本語!?」みたいなシーンも…。

この日本語演出について、あんまり深く考えず表面的に受け取ってしまうと、「外国人製作だから日本語に疎いだけだろう」とネガティブな評価につながりやすいポイントです。キャストはほぼ韓国人で、事前に日本語の指導を受けたらしいですが、それでもある程度は流暢でも私たち日本人にはやはり違和感はあります。

でも、本作はパク・チャヌク監督作品。日本語に疎いわけない。本当に自然でリアルな日本語にしたければ、普通に日本語ネイティブな人を起用しているはずです。むしろこれは確信犯でしょう。不自然な日本語になることをわかったうえで、ギャグにしていますよね。

それと同時にこの日本語の裏に潜む真意はどこにあるのか…という探り合いが何よりも本作の面白さの真骨頂なのですが…。

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女性を搾取する男社会をぶった切る

そんな奇妙なストーリー内で登場人物を演じたキャスト陣も素晴らしかったです。

“オモチャ”チ○ポ野郎こと藤原伯爵を演じるハ・ジョンウ。チ○ポ史上主義のような、チ○ポに始まり、チ○ポに終わるしょうもないキャラを見事熱演。今回は、まさに冴えた詐欺師と変態の中間のような顔で、顔が100点満点。指切断シーンも、どことなく変態的快感を味わっているみたいな表情で、ダメだこいつ感がビンビン。そういう“プレイ”に見えます。「チ○ポを守れてよかった」は名言です。

そして、それを上回る共生不可な変態叔父の上月を演じたチョ・ジヌン。藤原がチ○ポ野郎なら上月はもっと酷い野郎。最後の大ダコといい、極まった俗悪な変態性が凄まじかったです。他にも、秀子の淫乱朗読&人形合体を熱視する男どもの情けない醜態も、おぞましく、同時に馬鹿馬鹿しくて…。「体位がわかりませんね」じゃないよ…。

対して、キム・ミニが演じた秀子とキム・テリが演じたスッキのお嬢さんズの、文字通り組み合わさることでの最高の化学反応。本作はレズビアン映画だと、バッサリ言えないこともないですが、ちゃんと作品のテーマとして機能しているので良いと思います。変態ばかりの野郎だらけの中だからこそ、上下関係のない対等な女性二人が輝きます「同性愛=純愛」みたいな考えは、私はステレオタイプっぽさを感じて若干嫌なのですが、今作については気にならなかったです。オーディションで選ばれたキム・テリも、よくこんな個性強すぎる作風に埋もれず存在感を発揮したものです。

何よりもこの『お嬢さん』は漫然と女性を搾取する男社会に対する日韓の壁を超えた鉄槌を振り下ろす一作ですからね。春画は文化?…いやいや、それは搾取されていない側だから言えることで、搾取される側はどう思っているのか考えているのか? 本作ほどハッキリと「あんたら搾取男は気持ち悪いですよ」と言い放ってくれる映画、スカっとします。

パク・チャヌク監督作品の中でもダントツ個人的ベストの一作、観れて良かった!

『お嬢さん』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 91%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 10/10 ★★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

以上、『お嬢さん』の感想でした。

The Handmaiden (2016) [Japanese Review] 『お嬢さん』考察・評価レビュー