僕たちのラストステージ
映画『僕たちのラストステージ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Stan & Ollie 
製作国:アメリカ・イギリス・カナダ(2018年)
日本公開日:2019年4月19日
監督:ジョン・S・ベアード

僕たちのラストステージ

あらすじ

1937年、スタン・ローレルとオリバー・ハーディによるお笑いコンビ「ローレル&ハーディ」は、観客からも批評家からも愛され、出演映画は世界中で上映され、ハリウッド・コメディ界の頂点に君臨していた。しかし、時が経ち、映画を取り巻く事情も変わっていく。二人のキャリアは永遠には続くものではなく、二人の仲にも亀裂が入り始め…。

ネタバレなし感想

「ローレル&ハーディ」を知っていますか?

「映画」というものが生まれたばかりの時代。当時の「映画」は今の私たちが知っている「映画」とは大きく違いました。その違いのひとつが「音がない」ということです。

セリフも音響もないのが当たり前。「トーキー映画(発声映画)」の誕生以降、この当たり前だったスタイルは「サイレント映画」と呼ばれて映画史のクラシックの中に記録されるのみになりました。

当然、サイレント映画とトーキー映画では演出などの表現できる範囲が全く異なるため、その中身も大きく変わります。とくにわかりやすいのがコメディというジャンル。サイレント映画時代はコメディといえば「スラップスティック」が主流。体を張って大袈裟に笑いをとる喜劇の方法で、音に頼れないサイレント映画において必然的に発展していきました。そして、サイレント映画の衰退によってコメディの見せ方もどんどん多様になっていき、今日に至ります。

でも「スラップスティック」は決して過去のものにはなっていません。それどころか現在の笑いの文化を根幹で支えているといっても過言ではないでしょう。現代の子どもでも誰でも知っている「パイを投げ合う」「バナナの皮で滑る」といった古典的なギャグだって、「スラップスティック」のDNA。トム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』シリーズなんかはまさに「スラップスティック」を現代映画で発展させた“極み”みたいなものです(笑いをとる気なのかは不明ですけど)。
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今なお、あらゆるエンターテインメントに「スラップスティック」は息づいている。そんなリスペクトを心に抱きながら本作『僕たちのラストステージ』を観れば、きっと涙が止まらないはずです。

本作はサイレント映画時代から活躍してきたコメディアン二人組「ローレル&ハーディ」を題材にした伝記映画です。スラップスティック映画の黎明期を代表する名喜劇人と言えば、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドの三大喜劇王がいますが、ローレル&ハーディはもっとこう…親しみやすさがある感じでしょうか。その笑いのセンスは実にシンプル。チビで気弱なスタン・ローレルと、デブで怒りんぼのオリバー・ハーディという“凸凹”の二人がひたすら“しょうもない”やりとりを繰り広げる…それが面白い。日本でも当時は「極楽コンビ」の名称で親しまれましたが、今の子どもたちに見せても面白がってくれると思います。それくらい今の時代にも通用するテンプレを築き上げた偉大なコメディアンです。

そのローレル&ハーディがキャリアの晩年に最後に見せたステージを描く本作は、もうこの時点でじゅうぶん感動できることが予想できますけど、私は鑑賞前に想定していた10倍は感動してしまいました…。

今の映画館には人気コンテンツの大作もあれば、いろいろな社会問題を扱った作品もありますけど、やっぱり私はこういう映画愛や人物愛に溢れた作品に滅法弱いんだなぁ…。

監督は“ジョン・S・ベアード”で、この人、2013年の監督作『フィルス』で有名になるのですけど、それ以降はずっとTVシリーズ作品を手がけ、映画ではあまりお目にかかれませんでした。その“ジョン・S・ベアード”監督が久しぶりに手がけたのが本作『僕たちのラストステージ』。監督本人もローレル&ハーディには想い入れがあったそうで、それは映画を観れば伝わってきます。

肝心のローレル&ハーディを演じるのは、“スティーヴ・クーガン”“ジョン・C・ライリー”で、これがまた最高なんですよ…。いや、最高なんですよ(語彙力消失)。

ローレル&ハーディを知っている人も知らない人も、演技で忠実に体現された二人が再び劇場でボケて踊る姿をぜひ観てあげてください。笑ってハッピーになれるでしょう。

オススメ度のチェック
ひとり◎(人生の活力がもらえる)
友人◎(とくに感動したいときに)
恋人◎(とくに感動したいときに)
キッズ◯(子どもでもわかる笑いのネタ)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

本物としての説得力を持つ名演

ローレル&ハーディを演じた“スティーヴ・クーガン”と“ジョン・C・ライリー”が最高だった…(何度目?)。

いや、しつこいようですけど、でもその二人の名演が本作の90%を支えているといっても言いすぎじゃないと思ってます。

見た目が本人たちに似ているのは当然、というかそのビジュアル面についてはそれほど難しくないと思います。だってあの二人自体、誇張された対極の見た目をしていますから。だから多くの人には“あ~、あの細い小さい奴とデカイ太った奴でしょ”とわかりやすいアイコンとして認知されたわけです。

でも世間ではそういう表面部分でしか見られてこなかったあの二人の内面を明らかにしていくのが本作の醍醐味であり、価値です。そして、それは映画を観ていくうちに観客に伝わります。

後半、突然倒れて体調を悪化させたオリーに代わり、代役のコメディアンがスタンと急遽コンビを組むことになります。もちろんオリーに“外見的な”特徴上は似ている人が選ばれています。でもスタンはその姿をリハーサルで見て、“これは違う”とドタキャンします。

ここでもうスタンと観客の気持ちは一体のはずです。これは違うだろうと。“細い小さい奴とデカイ太った奴”だったらなんでもいいわけじゃないんだと。“スタンとオリー”でないと。

ここまでの説得力をしっかり観客に根付かせられるのは、やはり“スティーヴ・クーガン”と“ジョン・C・ライリー”の役者としてのパワーですよね。忘れそうになりますけど、本作だって本人ではなく俳優の演技ですし、言ってしまえばパチモンです。でもそのフィクション性を吹き飛ばして本物になってみせる…俳優として完璧な仕事じゃないですか。

公式サイトに掲載されている“ジョン・C・ライリー”のコメントが印象深いです。
現代は、誰かの人生を知りたいと思ったらすぐにGoogleやWikipediaで調べることができる。そんな時代だからこそ、ローレル&ハーディの内側にまで入り込み、彼らと一緒に仕事をしているかのような感覚を一瞬でも持つという得難い経験をすることができて、幸せだった。
単純にローレル&ハーディのギャグ掛け合いを完全に再現できていることも凄いのですが、あの内面的な人間性までをも再現してみせる。つくづく役者って凄いなと、バカみたいな感想かもしれないですけど、思うばかりです。

二人の人生そのものが喜劇

本作はメタっぽさがあるのも特徴で、この映画自体がローレル&ハーディの喜劇なんだと思わせる雰囲気が随所にあります。

まず冒頭、控室で撮影の準備を終えたスタンとオリーが今か今かと椅子に座って本番を待っているシーンから始まります。この会話する二人の後ろ姿を映したカットがシンメトリーになっていて、もうこの時点で従来型のステージ劇みたいです。

それで控室を出た二人はそのまま様々な人やモノが行き交うスタジオ内を歩いていき、その歩いていく二人をずっと追うカメラという、かなり長い1カットのトラッキングショット。スタジオ再現も素晴らしいですが、いきなりイマドキらしい映画的なテクニックを見せられ、“これから二人の映画が始まります!”という宣言みたいでワクワクしてきます。

そして1937年から時間が16年経過して1953年のイングランド、ニューキャッスル。

これ以降も、作中の二人はステージではない日常でもドタバタな掛け合いを披露します。やってきたお世辞にも立派ではないホテルで、チェックインをするために受付する過程で、スタンがどう考えたって多すぎるスーツケースを抱えまくってあたふた…なぜか勃発するベルの奪い合い…完全にコメディ。その後も、カバンが階段下にツーっと滑り落ちていくなど、あちこちで起こるコメディ的展開の数々。

もちろんこれらは実際には無かったことです(ホテルであんなことされたら、ただ迷惑)。でも本作におけるこのフィクショナルな描写はちゃんとギャグで観客を笑わせる以上の意味があります。つまり、作中でも「引退したと思ってました」と声をかけられていましたが、そうじゃないですよという否定。それも“まだまだ現役でこの二人は面白いんですよ”というアピールですよね。でもそれを見せる場がないんですと。

二人の喜劇センスが日常でもすんなり発揮できているということは、後半に起こる二人の軋轢に対するひとつの疑いようがないハッキリした回答でもあるでしょう。

僕たちのラストステージ

すれ違っている?

低迷を吹き飛ばすかのように宣伝が功を奏し、次々に各地でツアーをこなすスタンとオリー。しかし、とある会場の二人のそれぞれの妻ルシールとイーダが口論したことで、スタンとオリーと口喧嘩に発展。

ローレル&ハーディはトーキー映画の時代になっても人気が持続していたコメディアンでしたが、パートナーだったハル・ローチと決裂して以降はスタンとオリーの中もギクシャクし、ブランク状態になっていたことがあったのでした。

ただでさえ二人が得意とする喜劇のネタはいわゆる「すれ違い」のギャグ。片方がもう片方の意志に反したことをしたり、それぞれが全く噛み合わないことをしたり、そんな真逆のコンビネーションが魅力。

そういうわけですから作中で二人がリアル喧嘩しても、それを見ていた近くの事情も何も知らない一般人は「あ、いつものギャグかな?」と思ってしまうのも無理はなく。

でも二人の人生の裏側を映画という媒体で観ている私たち観客にしてみれば、“大丈夫なの…”と不安になるわけで。この映画自体がローレル&ハーディの喜劇だと思っていると、だんだんとそうじゃない、悲劇になるのかなという恐怖も物語が進むと漂ってきます。喜劇と悲劇は紙一重とも言いますし。

しかし、本作は最後の最後で最高の多幸感を用意してくれました。

二人はやっぱりすれ違ってなんかいないんだと。スタンとオリーと仲は私生活でも好調ですし、本作でもあんなに息のあった掛け合いを日常で見せている…それこそが動かぬ証拠でもあるのですが、それを最高のカタチで表現として見せるラストステージ。

それを作中でも間に1回描いた「2つの入り口から出たり入ったりしてすれ違うギャグ」という素材を再度使って、ラストステージではその裏も見せるという仕掛け。セットの裏側では、相手を気遣い、励まし、認め合う…その姿はまさに盟友。この映画的な演出がシンプルですけど心には一番響く。すれ違っている、でもすれ違ってなんかいない。二人の喜劇はその裏には悲劇ではなく優しさが詰まっている。

最後は『Way Out West』のあの陽気なダンスでフィニッシュ。ローレル&ハーディに対するリスペクトは私もあったつもりですけど、映画を鑑賞後は尊敬なんてもんじゃないです。“ありがとう”と何度拍手しても感謝しきれない。本当に素晴らしい表現者、アーティストだったんだなぁ。

しかも、この映画化によって二人の人生が補完されたような気分にもなりますよね。これぞ伝記映画の最大の素晴らしさです。

辛い時代の今こそ、ローレル&ハーディのスラップスティック精神は忘れないようにしたいものです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 87%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018