レベル・ウィルソンが20年の昏睡から目覚めて青春を謳歌する!…Netflix映画『シニアイヤー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:アレックス・ハードキャッスル
恋愛描写
シニアイヤー
しにあいやー
『シニアイヤー』あらすじ
『シニアイヤー』感想(ネタバレなし)
体型が変わってもレベル・ウィルソンです
俳優は作品演技のために肉体改造と俗に言われるような体型の調整をすることがあります。その一方で、演技とか関係なしに普通に自分のプライベートとして体型を変えようと試み、それを実際に成し遂げることもあり、その行為自体は当然各俳優の好きにしていいことです。自分の身体ですから。
たまに「あれ? この俳優、ずいぶんと雰囲気が昔と比べて変わったな」と印象を受ける人もいます。
最近の激変があった俳優と言えば、この人、“レベル・ウィルソン”でしょう。
“レベル・ウィルソン”はオーストラリア出身のコメディアン兼俳優で、2012年に大ヒットした『ピッチ・パーフェクト』で「ファット・エイミー」という強烈な役柄で一気にブレイクし、以降はそのノリを維持して、“ぽっちゃり”キャラを定着化させました。『ザ・ハッスル』でも体を張ったギャグを連発し、『キャッツ』ではさすがにふざけすぎて作品自体の評判もガタ落ちする事態になりましたが…。
そんな“レベル・ウィルソン”、実は2020年から2022年にかけてかなり体型が変化しました。ざっくりした言い方をすれば、痩せたのです。それも相当にスリムアップし、なんだかもう別人のように体のシルエットが違っています。
メディアも「なぜ痩せようと思ったのか?」「どうやって痩せたのか?」と“レベル・ウィルソン”を質問攻めにしたのですが、まあ、それは本人の自由なんですから放っておけよという話ですよね。
そういう変化があっても“レベル・ウィルソン”はマイペース。自分の肉体変化の前後画像を勝手に利用した詐欺商品広告に気を付けてと注意喚起をしたり、賞ステージの司会で「こんなに体が変わってしまったからJ.K.ローリングに承認されないかも」と皮肉を飛ばしたり(これはもちろんJ.K.ローリングがトランスジェンダー差別を繰り返していることへのイジリです)、プーチンに中指を突き立てたり、相変わらずのやりたい放題です。
その“レベル・ウィルソン”の主演・製作の最新作が登場したのですが、この映画も私をイジってくれと言わんばかりの内容であり、コメディアンとしての姿勢がブレません。
それが本作『シニアイヤー』です。
『シニアイヤー』は何よりも物語設定が目を引きます。舞台は1999年。主人公は17歳の女子高校生。青春を謳歌してやるぜ!と意気込んでいるとまさかの事故で昏睡状態に。そして20年後に目覚めてしまい、いつの間にか37歳になってしまった自分の状況に困惑しながらも、もう一度青春を謳歌するべく、学校に舞い戻り、プロムクイーンを目指す…そういうかなりぶっ飛んだ内容です。ツッコミは勝手にしやがれという勢い任せで突き進みます。
察せると思いますが、コテコテの青春学園コメディです。“レベル・ウィルソン”主演作ではもはやいつものことですけど、下ネタだらけですし、不謹慎なネタで笑いをとりまくるので、そういうノリがOKな人向けの映画だと言えます。“レベル・ウィルソン”主演の『ロマンティックじゃない?』みたいに恋愛そのものをネタにしまくりますし、そういうのが好きな人には楽しいはず。
共演陣も、“レベル・ウィルソン”のノリに飲まれつつ体を張って笑いを取ります。主人公のティーン時代を演じるのは“レベル・ウィルソン”ではなくで、ドラマ『メア・オブ・イーストタウン』で名演をみせた“アンガーリー・ライス”。かなり“レベル・ウィルソン”っぽい演技で頑張っているので注目です。
若者勢としては、ドラマ『Major Crimes 重大犯罪課』の“ジェイド・ベンダー”、ドラマ『未来の大統領の日記』の“アヴァンティカ・バンダナプ”、『IT イット』2部作でおなじみの“ジェレミー・レイ・テイラー”、ドラマ『Love, ヴィクター』の“マイケル・チミノ”など。
大人勢としては、『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』の“メアリー・ホランド”、ドラマ『アフターパーティー』の“ゾーイ・チャオ”、『トゥモロー・ウォー』の“サム・リチャードソン”、ドラマ『THIS IS US/ディス・イズ・アス』の“ジャスティン・ハートリー”など。
監督は、“アレックス・ハードキャッスル”というイギリス人で、『グレイス&フランキー』や『Love, ヴィクター』などこれまで多数のドラマシリーズのエピソード監督を手がけてきた人です。『シニアイヤー』は初めての映画監督業なのかな。
『シニアイヤー』はNetflixで独占配信中です。お気楽な映画なのでこっちもお気楽気分で鑑賞してください。
『シニアイヤー』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年5月13日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :暇な空き時間に |
友人 | :青春映画好きなら |
恋人 | :異性愛ロマンスあり |
キッズ | :下ネタ多めですが |
『シニアイヤー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):私の青春はまだですけど!
1999年、ステファニー・コンウェイ(ステフ)にとってはオーストラリアからアメリカへ引っ越したばかりで周囲に馴染めず孤立していました。14歳の誕生日会は家族とボーリング場。たまたま近くにいた憧れのイケメン男子であるブレインに見惚れるも、こんな自分では手が届くわけもない…。地味で平凡なままで終わるのかとしょんぼりです。
いや、これではダメだ。ステファニーは心機一転、イメチェンを決行します。こうして2002年、ステファニーは努力のかいもあってチアのキャプテンとなり、順調なハイスクール・ライフを送っていました。
今、目指しているのはプロムのクイーンになること。プロムまでバナナと氷だけで過ごし、準備万端。憧れのブレインとも関係はアツアツに深まっています。
朝、父からプレゼントを渡され、それは母の残したドレスでした。母は亡くなっています。親友のセスが来たので一緒に登校します。
ステファニーにとってディアナ・ルッソという元チアでプロムクイーンの家庭が完璧な理想。私もいつかああなってみせる…。
セスはおそるおそるプロムに一緒に行かないかという意図で訊ねようとしますが、アフターパーティのことだと勘違いしているステファニーはそちらをOKします。
学校ではチア・マネージャーのマーサと合流。「私はそのパーティでブレインに初めてを捧げるから」と下ネタも止まらないステファニー。授業中にブレインと激しくキスし、身体も心もいつでもウェルカム。ところが予想外のことを言われます。「別のパーティーに行くんだ」
ステファニーの最大のライバル、ティファニーの仕業でした。トイレで対峙し、「なぜ私の邪魔をするの!」と問い詰めますが、ティファニーは「私がクイーンだから。食物連鎖の頂点にコアラが立てると思う?」と挑発してきます。
イライラしつつ、ステファニーの所属するチアのチーム「ブルドゲッズ」は学校集会でパフォーマンスを披露することに。中心はもちろんステファニー。セクシーにキレキレのダンスを魅せつけ、高くリフトアップされて、自分の華々しい栄光の未来を予感し…床に落下。全身を強打。無惨に…。
20年後。目覚めるステファニー。どうやらここは自室ではなく病室のベッドの様子。周りには「37歳おめでとう」という誕生日カードがいくつもあり、意味がわかりません。
とりあえず受付にヨロヨロと行き、何か間違ってないかとクレームを言いますが、対応の職員は「先生、チアリーダーが目覚めました」と唖然としながら連絡。それも気にせず呑気に喋りまくるステファニーはふと後ろの鏡に映る女性に目をとめます。なんだこのオバサン…まさか…自分? 気絶するステファニー。
「今は2022年なの」と医者に説明され、「オバサンの体に憑依したとかでは…」と食い下がりますが、昏睡から目覚めたという事態を受け入れるしかありません。そのとき、父とマーサが駆け付けてきます。マーサはスーツ姿で『アリー my Love』みたいだとその変わり様に驚くステファニー。
退院しますが、マーサは高校の校長になっていたり、あのティファニーがブレインと結婚していたり、もう変化に追いつけません。自宅に帰るとあのままの自分の部屋があり、ドアの前にセスからのアルバムが置いてあり、自分のいない間にみんな青春を送っていたことを実感します。
そして決意するのでした。私も青春を取り戻そうと…。
世代間ギャップのネタで押し切る
『シニアイヤー』は起きることとしては頭部強打による長期昏睡状態であり、笑い事じゃない深刻な事態です。でも本作にはシリアスなトーンはこれっぽっちもありません。とことんギャグです。
覚醒した後なんて普通はリハビリとかで大変だろうに、本作ではあっさり退院し、ステファニーはチアのダンスでばりばり踊ったりしますからね。強靭すぎるだろ、その肉体…。
まずティーン時代の序盤は主人公のステファニーがいかに調子に乗った奴かをねっとり描いていきます。ここでの“アンガーリー・ライス”の演技が“レベル・ウィルソン”の完コピのようで素晴らしく、あらためて上手い俳優だなと実感。確かに“アンガーリー・ライス”は『ナイスガイズ!』とかMCU『スパイダーマン』シリーズとかで誇張されたコミカルなキャラを演じていましたし、こういうのが得意なのかな。
そこからの20年後。これ以降はいわゆる世代間ギャップのネタで押し切るスタイルです。37歳だけど心は2002年の17歳のままであるステファニーの反応がいちいち面白く、これだけずっと観ていてもいいかなと思わせるくらいのアホさ。マドンナっぽいレディーガガなんていうよくわからん奴が表紙を飾っているし、「ハリー・ポッター」は完結しているし、アバクロは全然流行っていない(ドキュメンタリー『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』を観ようね)。
現代の若者の必須アイテムであるスマホのネタも盛沢山。食堂で一斉に通知がなるシーンでの「なに、火災警報?」には笑ったけど…。USBメモリを「パソコン用のタンポン」と表現するセンスとか、自由すぎる…。
ステファニーがもう一度ハーディング高校に舞い戻ってきたパートでの、2022年の生徒たちの描写は、あくまでジェネレーションギャップを誇張するためにわざと極端なものになっています。やたら人権意識が高かったり、クィア・フレンドリーだったり、競争を嫌ったり…。“マイケル・チミノ”が弾けてたな…。
この映画自体が30代以上の年齢の作り手がZ世代を風刺しておちょくって楽しんでいるところがあるので、Z世代当事者の若い観客にはやや鬱陶しいギャグに映る部分も否めないでしょうね。
丸く収まりすぎな気もするけど
『シニアイヤー』の展開としては、心は2002年の17歳のままであるステファニーが2022年の学園にカムバックし、そのお古となった常識のまま、その身を笑いの道具にして暴れまくる。お下品さによるカタルシスを狙うという、まあ、いつもの“レベル・ウィルソン”の独壇場です。
性的同意を題材にしたチア・ダンスからの過激セクシー路線へのチェンジとか、確かに“レベル・ウィルソン”のノリならバズるのも簡単そうですよ。
最終的には、プロムキング&クイーンの選挙がめでたく復活し、クイーンはブリーの辞退でステファニーに決定し、とんとん拍子のハッピーエンド。
正直、終盤は何もかも丸く収まりすぎな気がしてちょっと雑かなと思いました。あれだけやりたい放題だったステファニーも急に改心し出すので、なんかびっくりする。20年のブランクを埋めるのも早かったし…。
とくにあのビデオで反省的なメッセージを残すくだりは、やっぱり映画の演出としてはダサいかなと思ったりも。説明台詞でキャラの心情を長々と語ってしまうのは上手くはないかな…と。
マーサが実はゲイだったとカミングアウトし、ティーン時代も辛かったと語る場面も、ステファニーの理解を補助するフォローという点でももうひと押しあるべきじゃないかと思いますし、それこそZ世代がポジティブな役割を果たす機会だったのでは…。例えば、プロムキング&クイーンを廃止にしたのだって、異性愛規範を前提にしている企画だからであり、その当事者兼教育者の葛藤はもっとあれこれあるだろうなと思うし…。
一応、プロムのクイーンになることが勝ち組を意味しないという大事なポイントは、あのディアナ・ルッソとの対話で提示されるんですけど…(演じているのが『クルーレス』の”アリシア・シルヴァーストーン”なのがニクイ演出)。とはいえ、プロム自体を否定するわけでもないですし、やはりこういうハリウッド映画はプロムに依存する傾向は2022年も同様で、それは何十年経過しても変わってないなと再確認できる映画でもあったかな…。
わかったのは“レベル・ウィルソン”はどんな体型になってもギャグの質は衰えないということですかね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 68%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures シニア・イヤー
以上、『シニアイヤー』の感想でした。
Senior Year (2022) [Japanese Review] 『シニアイヤー』考察・評価レビュー