アリー スター誕生
映画『アリー スター誕生』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:A Star Is Born 
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年12月21日
監督:ブラッドリー・クーパー

あらすじ

音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが…。

ネタバレなし感想

リアルでもスター誕生(ダブル)

世間から絶大な人気を集めて大注目される花形の俳優を「スター」と呼びますが、なんで「スター(星)」なのか考えたこと、ありますか?

諸説あるらしいですが、19世紀後期の映画が発明されたばかりの頃、無声映画時代、俳優が有名になることはなく、名前すら認知されていなかったそうです。しかし、すぐに「役者」という存在は観客の関心の的となり、存在感を増していきます。そこでポスターなどで有名な俳優の名前を表記する際に「星マーク」を付けるようになったとか。それからしばらくもしないうちに俳優のネームそのものの方が知名度が高まったので星マークの文化は消えていきましたが、特定の俳優を「スター」と呼ぶ文化は定着。今では映画のみならず多岐にわたる業界で世界中の人がトップにいる人を指して「スター」という言葉を使っています。

映画ビジネスにおいて「スター」の俳優を起用することを前提した映画企画方式、いわゆる「スター・システム」は定番化し、むしろ当たり前すぎて死語になったんじゃないかという気さえしてきますが、「スター」の力はこれからも大きいでしょうね。

そんな「スター」という言葉自体が誕生した歴史も噛みしめながら、ぜひ本作『アリー スター誕生』を観てほしいものです。

本作は、映画史に造詣が深い人ならわかるように、1937年のウィリアム・A・ウェルマン監督の『スタア誕生』、1954年のジョージ・キューカー監督の『スタア誕生』、1976年のフランク・ピアソン監督の『スター誕生』と続く、4作品目となるリメイクです。最初の1作目から80年以上の歴史を経ても、なおも物語は新生されていくあたりからも、この基本プロットの普遍性が象徴されているような気がします。それはスターが誕生するという世の中の仕組みが変わっていない証拠でもあるのかなと。

1976年版から舞台が映画界から音楽界に変わり、2018年の『アリー スター誕生』でも音楽業界が主題に。そして、特筆されるべきは、本作、本当に「スター誕生」の名に恥じないスターをリアルで誕生させてしまったということです。

監督は当初、巨匠“クリント・イーストウッド”を予定していましたが、ある人にその座を譲ります。その人物が俳優の“ブラッドリー・クーパー”。そして、主演を演じるのは音楽界ではその名を知らない人はいない“レディー・ガガ”
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それぞれ初監督と初主演の二人にこの作品を任せるのは挑戦的で面白いですけど、「大丈夫なのか…」とも思ってしまうのもしょうがない話。ところが。ところがどっこい、ミラクルが起きた。批評家&観客ともに称賛の嵐。すでに映画賞にノミネートされまくっており、アカデミー賞ノミネートも確実の模様(リメイク作品がノミネートされるのは『レ・ミゼラブル』の2012年以来)。

まさに俳優としてはスターだった男が監督として新たにスターになり、歌手としてはスターだった女が俳優として新たにスターになる。こんな映画以上に凄いことが起きるでしょうか。

『ボヘミアン・ラプソディ』といい、音楽映画は現実に波及して今の世界に多大な影響を与える現象が起きやすいですね。
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2018年最後の魂を震わす映画としてこれほどふさわしいものは他にありません。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

彼にしかできない役

本作はすでに言及したとおり4作品目となるリメイクで、元になったオリジナルは物語のフォーマットが必要最小限で完成されているので、これ以上変えようがありません。ひとりの人間が栄光への階段を駆け上がり、もうひとりは栄光のステージから降りていく…この部分は基本軸です。逆にこれを変えてしまうと「スター誕生」ではなくなってしまいますから。

つまり、こういうシンプルなフォーマットの映画は、作り手の腕がモロに問われることになります。下手すれば、やっつけ仕事みたいなお手軽料理になってしまいますし、新しい味を出そうと別の素材を投入して見るも無残な台無しになることもじゅうぶんあり得ます。

では本作はどうしたかと言えば、物語の純度とパフォーマンスを持ちうる限りの全力で最高水準まで高めて正直に映画を作った…そんな感じでした。

まずそこで大きく貢献したのが監督&主演の“ブラッドリー・クーパー”。とくに演技面に関しては彼のベストアクトと言えるぐらい素晴らしい名演を披露していました。

彼の演じる有名ミュージシャンのジャクソン・メインというキャラクターは、“ブラッドリー・クーパー”そのものと言えるほど重なっています。“ブラッドリー・クーパー”も、キャリアに苦労していた初期、薬物中毒・アルコール依存症・自殺思考と自分をどんどん追い込んでいた過去を持っており、それを反映した役を演じることが多かったです。『ハングオーバー』シリーズの乱痴気はもちろん、『世界にひとつのプレイブック』の精神障害、『二ツ星の料理人』のドラッグ依存と、“壊れた”人間を演じさせれば、抜群の説得力を見せます。

本作のジャックはその“ブラッドリー・クーパー”の究極的にシンクロしたキャラクターでした。作中で飼っている犬のチャーリーも実際に“ブラッドリー・クーパー”が飼っている犬を出演させているぐらい、これらシンクロ具合は意図的に自分をさらけ出してキャラのエネルギーに変えてやろうという“ブラッドリー・クーパー”の演出ですね。

今作はこのジャックの人生の渋みが過去作3作品と比べてもはるかに生々しく響くものになっているのに感心しましたし、そのために自分の実人生も武器にした“ブラッドリー・クーパー”の誠意には拍手するしかありません。

個人的にはジャックの年の離れた兄であるボビーとの確執が、ジャックというキャラクターの苦悩に深さをもたらしていて良かったです。このボビーを演じた“サム・エリオット”がまた名演でしたね…。全然関係ないですけど、彼の2017年の主演作『ザ・ヒーロー』もよければ観てください。

本作の企画では他にもジャックを演じる俳優候補にはいろんな大物の名が挙がっていたみたいですけど、“ブラッドリー・クーパー”はベストチョイスでした。死を選んだジャックについて、ボビーに「ジャックが悪いんだ」とハッキリ言わせることができるのは、やはり当事者的立場に最も近い“ブラッドリー・クーパー”にしかできないのじゃないでしょうか。

アリー スター誕生

彼女にしかできない役

その堕ちていくジャックと対比するように輝いていくアリーを演じた“レディー・ガガ”。

正直、鑑賞前は彼女については役者としては未知数でさっぱり検討もつきませんでした。もちろん、歌が上手いのは当然なのですけど、それだけで出演したら絶対に上手くいかないですから。しかも、観客は世界的トップ・アーティスト「レディー・ガガ」としての彼女の印象がこびりついているわけで、そんな人が本作のアリーにハマるのだろうか。不安要素の方が多いくらいです。

ところがどういうわけか、これは“ブラッドリー・クーパー”監督の演出力なのか、“レディー・ガガ”の秘めたる才能が俳優としても開花したのか、いまだに不明ですが、見事にアリーになっているんですね。

私の当初の疑問としてはアリーがスターになったら、それは結局「レディー・ガガ」になってしまうのではと思ったのですが、ちゃんとそこもフォローされているというか、メタ的にすら扱われていました。

要するに、アリーは「レディー・ガガ」ではないということ。最初のスタート時からアリーの置かれている状況は「レディー・ガガ」本人のものとは違います。しかし、華々しいパフォーマンスの後、マネージャーによって業界に入ってからは、徐々に自分らしさを失い、ある種の私たちにとって印象にある「レディー・ガガ」色に染められそうになる。でも、最終的に映画のラストで映る彼女の姿は「アリー」だった。まさに「アリー スター誕生」ですよ。

ただ、こういうアーティストとしての商業的な売り物になっていく自分と、自分らしさを追い求めることの矛盾と対立の葛藤は、ミュージシャンならみんな抱えていることでしょうし、“レディー・ガガ”自身、そのことに真剣に悩んでいたことはドキュメンタリー『レディー・ガガ:Five Foot Two』を見たりするとよくわかります。

そういう意味では、“レディー・ガガ”はその自分の苦悩を率直に世間に見せた人物。つまり、“ブラッドリー・クーパー”と同じく、“レディー・ガガ”も自分の実人生も武器にした誠実さでキャラクターとシンクロしてみせたのでしょう。

本当に初監督ですか?

音楽については私なんぞが語るまでもなく魂を震わす名曲揃いで、トリハダの連続でした。こんなの絶対にサントラが欲しくなるじゃないか…。そのサントラも仕掛けがあって、トラックリストを見てください。
1. Intro
2. Black Eyes
3. Somewhere Over The Rainbow (Dialogue)
4. Fabulous French (Dialogue)
5. La Vie En Rose
6. I'll Wait For You (Dialogue)
7. Maybe It's Time
8. Parking Lot (Dialogue)
9. Out of Time
10. Alibi - Bradley Cooper
11. Trust Me (Dialogue)
12. Shallow
13. First Stop, Arizona (Dialogue) 
14. Music To My Eyes
15. Diggin' My Grave
16. I Love You (Dialogue)
17. Always Remember Us This Way
18. Unbelievable (Dialogue)
19. How Do You Hear It? (Dialogue) 
20. Look What I Found 
21. Memphis (Dialogue) 
22. Heal Me 
23. I Don't Know What Love Is
24. Vows (Dialogue) 
25. Is That Alright? 
26. SNL (Dialogue) 
27. Why Did You Do That? 
28. Hair Body Face 
29. Scene 98 (Dialogue) 
30. Before I Cry
31. Too Far Gone
32. Twelve Notes (Dialogue) 
33. I'll Never Love Again (Film Version) 
34. I'll Never Love Again (Extended Version) 
曲数、多いな…と思ったら、ダイアローグ、つまり劇中のセリフが入っていて、物語とともにエモーショナルに曲を体験できるのです。最高じゃないですか。

音楽面以外だと、“ブラッドリー・クーパー”監督の才能冴えわたるシーンも多かったです。

まず掴みとなるジャックとアリーが出会うシーンからの最初のライブセッションでアリーが自分を解放して熱唱するという序盤。この流れが実に無駄なく、完璧すぎて困る(何が)。ここで観客の心をグッと鷲掴みする確実な魅了パワー。たいしたものです。

また、本作はアドリブを多用しているらしく、例えば、ドラッグクイーンとの会話や、バスルームで喧嘩するくだりなど、全てのシーンにナチュラルにキャラクターの交流が積み重なっていきます。そのせいか、本作を観ていても物語を見ている感覚すらなくなる自然度です。

ジャックとアリーが頻繁にやる、頭を近づけたり、突き合わせたりする演出も効果的でした(愛情が向いていることを示すと同時に、耳が聞こえないジャックの現実も突きつける)。

終盤に待つジャックの死は過去作を知っている観客には承知の事実ですが、ちゃんとバイクに乗る場面や、プールを泳ぐ場面で、それとなく過去作を知る観客だけにわかる死のフラグを見せるのも上手いですね(過去作では溺死や交通事故で死にます)。最終的な自殺シーンも、人生から降りるように帽子をそっと置き、赤と青のランプに照らせるという、歌唱シーンとは真逆の感情を抑えた演出が利いていて良かったです。

本当に初監督なんですかね? 嘘、ついていない?

ということで、音楽映画をするならここまでの最高水準まで引き上げた作品を作るべきという、プロフェッショナル魂すら見せつけられた一作。年末の雰囲気を吹き飛ばす圧巻さでした。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 81%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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↑『スター誕生』…1976年版。フランク・ピアソン監督。主演はバーブラ・ストライサンドで、アカデミー歌曲賞を受賞。
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