エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語
映画『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Art of Racing in the Rain
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:サイモン・カーティス

エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語

あらすじ

家族とカーレースをこよなく愛する犬のエンツォは、どしゃ降りの人生を歩むことになってしまった飼い主一家の心の支えとなり、彼らを、常に穏やかな眼差しであたたかく見守り続けた。老境に入ったエンツォがときにユーモラスに、ときに犬らしい視点で辛口に回想する、家族の絆の物語はどんなドラマなのか。静かに犬は語りだす。

『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』感想(ネタバレなし)

不安を和らげるためにも犬映画を

不安しかない現代社会の荒波の中、私たち人間の心に安らぎを与えてくれるもの。それは「犬」です。

さすが人類と1万年以上も付き合いがあるだけあって(『アルファ 帰還りし者たち』で描かれていましたね)、やっぱりどうしたら人様を喜ばせられるか、ちゃんとわかっていますよね(たまに失敗するのだけども)。犬は偉大なパートナーですよ、ほんと。

自宅でずっと過ごさないといけないときも犬などのペットがいるだけで落ち着くことができます。しかも、犬を飼うと人の健康も向上するなんていう話もあります(これは癒されてストレスが軽減するというだけでなく、犬の散歩で人間も運動するので健康にプラスの影響を与えるという理由もあるみたいですが)。緊急事態だからこそ犬という実直な存在のありがたみが再確認できますね。こんな不自由なご時世ですが、犬も飼い主と一緒にいられる時間が増えて喜んでいる…かもしれないし。

そんな犬を飼っていない人も、「犬映画」を見ることで“犬のありがたい存在感”を疑似体験することができます。そしてこの「犬映画」というジャンル、一般観客評価がたいていはすこぶる高いものです。犬が出てきて、加えて感動要素があったら、人は無条件に幸福に包まれてしまうのか…。「犬映画」の力、恐るべし。

最近も『僕のワンダフル』シリーズとか、またリメイクされた『ベンジー』とか、はたまた古典的な犬映画の走りとも言える作品の再映像化である『野性の呼び声』とか、犬が題材の映画が定期的に登場しています。まあ、私のマイ・フェイバリット犬映画は『ジョン・ウィック』シリーズですけどね。

毎度人類を多幸感に導いてくれる犬映画ですが、今回新しい仲間が加わりました。それが本作『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』です。原題は「The Art of Racing in the Rain」。

本作はガース・スタインが2008年に発表した小説「エンゾ レーサーになりたかった犬とある家族の物語」の映画化作品。なんでも2009年頃から映画化の企画があったらしいのですが、一向に進まず、その間に、ユニバーサル・ピクチャーズ → ディズニー → 20世紀フォックス…と映画化権を持つ会社が転々と移動。2019年にやっと公開に至った…という流れです(結局、20世紀フォックスはディズニー傘下になったのでディズニーに戻りましたね)。

お話は犬の視点で語られるのが特徴なのですが、これは昨今の犬映画でもよくあるので特別に珍しさは感じないと思います。ストーリー展開も実にベタな犬映画の定番どおりです。邦題からどことなくカーレース映画のような雰囲気を漂わせていますが、そういうレースシーンはほぼありません。純粋なヒューマンドラマだと思ってください。

でもやっぱり犬映画の魅力は王道にこそあるのか。世間の観客満足度は高めな作品です。大方の期待しているものが全部詰まっていると思います。

ただこの『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』の犬、声が“ケビン・コスナー”なんです。え、そんな渋い声なの?…という感じですが、一応設定上は老犬が昔を回想するという流れなので、別に違和感はありません。しかし、結果的にすごく“ケビン・コスナー”成分が濃い映画になってしまいましたね。本人の顔は出ていないのに…。全編が“ケビン・コスナー”の語りですからね。吹替で鑑賞すればその要素は消えますが…。

犬以外の俳優陣は、ドラマ『HEROES ヒーローズ』などで活躍する“マイロ・ヴィンティミリア”が人間側の主演です。そして『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』や『グリンゴ 最強の悪運男』の“アマンダ・サイフリッド”がその横に並ぶかたちに。なお、“アマンダ・サイフリッド”は愛犬家で、犬を飼っています。

他にも“キャシー・ベイカー”“マーティン・ドノヴァン”が共演。また、『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり』で壮絶に殺されていた顔に痣のある子を演じた“ライアン・キエラ・アームストロング”も主人公夫婦の娘役で出演しています。

監督は『マリリン 7日間の恋』で高い評価を受け、最近は『グッバイ・クリストファー・ロビン』というこれまたどこかフィクションめいた温かみのあるドラマを手がけたばかりの“サイモン・カーティス”です。


それにしても『グッバイ・クリストファー・ロビン』に続き、『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』もまた日本では劇場未公開で、配信スルーになってしまいました。運がないのか…。でも状況が状況なだけに今の時期は配信の方が見やすいという不幸中の幸いも…。日本での配給は「20世紀FOXホームエンターテイメント」です(そういえばこっちはまだ「FOX」が残っているんですね)。

見やすい作品なのは言うまでもないですが、心が不安定な今こそ家でじっくり鑑賞するのも良いと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◯(犬映画の定番どおりです)
友人◯(犬好き同士で犬愛を語ろう)
恋人◯(犬目当てで観るのが正解)
キッズ◯(犬が好きな子なら)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』感想(ネタバレあり)

ゴールしたら生まれ変われる

「私には身振りしかない。舌が長く平たいので言葉を話せない。複雑な多音節の単語を発するには適していない。だからこうしてデニーの帰りを待っている。自分の小便の池に横たわって…」

人間:「エンツォ?」

「心配そうな声だ」「オイルとガソリンとローストチキンの匂いがする」

人間:「俺がついてるぞ、相棒」

「言葉を話せたら“心配ない”と言うのに」

「前にテレビのドキュメンタリーで見たモンゴルの言い伝えでは犬が生涯を終えると人に生まれ変わる。そうなれば現世の記憶は失うだろう。だが計画がある。記憶を魂に刻みつけ、懐深くにしまって運ぶのだ。新しい体で目覚めた時、思い出せるように」

「準備はできてる。きっと思い出す」

今から数年前のこと。子犬だった私の前に人間の男がやってきてその大きな手で私を持ち上げました。その日から私はこの男と一緒に過ごすことになります。「エンツォ」という名前とともに。

車の中から外の景色を見るエンツォ。世界は自分が思っているよりもどこまでも広々としています。

家に到着。室内をクンクンして雰囲気を確認しつつ、用も足してスッキリ(なぜ男はやれやれ顔なのだろう…)。夜、寝つけないエンツォを見かねて、男はとテレビというものを見せてくれました。そこには勢いよく走る乗り物がが映っています。それはレースカー。

その男はデニーという名前で、いつもは自動車レースをしており、レースドライバーとしてキャリアを成功させることを夢見ているようでした。

実際にレースを見ることもできました。デニーのレースを見学していると、雨が降ってきて酷い状態になりますが、それでもデニーは見事に走破。一緒に喜びを分かち合います。デニーが嬉しいなら、エンツォも嬉しいのです。

二人の日課はいつも同じ。ランニングしながら互いに成長していき、エンツォはもう子犬ではありません。

そんな二人の生活に3人目が加わることになります。デニーは食料品の買い物中にイヴという女性と出会い、なんだかラブラブです。ベッドでイチャイチャしている二人に、若干居場所なしなエンツォでしたが、デニーが幸せならまあいいのです。

そしてデニーとイヴは晴れて結婚します。

ある日、幸せそうに体を見ているイヴを見かけます。どうやらそれは妊娠したということらしく、どんどん大きくなるイヴのお腹に顔を乗せると命の胎動を感じるのでした。

イヴが出産する時が来ました。しかしデニーはその場にいません。エンツォはテレビでレースカーに釘付け。でも出産するイヴのことも気になります。すると泣き声が。赤ん坊が生まれました。こうして4人目が加わります。

生まれた赤ん坊の女の子、ゾーイはすくすくと成長していき、一緒にテニスボールで遊んで、誕生日ケーキで祝って、年月が経過していきます。

しかし、そんな順風満帆に走り出していた幸せそうな家族にも、停止することになるトラブルが起きます。苦しそうなイヴ、家に帰ってこないデニー。家族は増えていくだけではないということをエンツォは知ることになります。

そしてエンツォの人生もまた最終コースを回ることに…。

エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語

犬の視点を外れない誠実さ

『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』を鑑賞前の私は、なんとなくタイトルのせいで、自分は走り屋だぜ!とレーサー魂を燃やす犬が不屈の努力でカーレース会場で車を追いかけている、どこかバカっぽい絵面を妄想していたのですけど、全然そういう映画じゃなかった…。ディズニーの『ボルト』みたいな映画ではありませんでした、ええ。

邦題は変わってますけど、中身は真っ当な犬映画でしたね。

犬が人間の家族に加わり、結婚や出産など家族の賑やかさを増していき、やがて死別という終着点に到着する。最初にそのエンディングが示される本作は、すでにその時点で観客の心を揺れ動かします。

だいたい犬映画というのはこの死別のシーンが一番涙を誘われる部分ですからね。それを冒頭で見せてしまうことで、その後の本編の楽しい家族団らんシーンにさえも、どことなく悲しい結末を忘れることはできず、謎の「先に進まないでくれ」感を与える。なんとも憎たらしいストーリープロットじゃないですか。

しかも本作は道中に妻イヴの闘病と病死という、さらに泣かせる要素が追加されてくるわけです。“アマンダ・サイフリッド”の体を張った演技も見どころですが、ここまでの感傷的なエピソードの連続パンチは観客の心を振動させるのは当然という話。ちょっと盛りすぎなんじゃないかと思うくらいなんですが、まあ、こんなものなのかな。

いや、でも本気を出せば、ゾーイの子ども時代の物語などさらなるボリュームアップもできる要素はいっぱいあるのですけど、そこは手を出していませんでしたね。

というか、肝心のデニーのレース・キャリアの部分の物語は割と薄く、断片的です。それも無理はないことで、なにせ本作はエンツォという犬の視点がベースで、その視点から逸脱しないようにかなり丁寧に作られているので、犬が認知できない世界の話は描かれません。

本作の犬の描写はリアルから外れないようになっており、勝手に外に飛び出して大冒険をしたりなどはしません。だからテレビでレースを見るしかないし、デニーの仕事で絡めるのは契約書をビリビリにする程度なんですね。

そういう意味では盛り上がりに欠ける、なんとも薄味な感じにはなってしまったのですが、でも犬が見せている世界から抜け出さないことにした“サイモン・カーティス”監督の“わざとらしさを排除する姿勢”は良かったかなと思います。

最後は一緒に風を受けて…

その代わりといってはあれですが、『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』はエモーショナルな盛り上げを与えるシーンを終盤に何発か用意しています。

ひとつはエンツォがデニーのレースカーに乗ってトラックを走るという爽快感のあるシーン。

そこに至るまでの伏線として、デニーとランニングをするという場面を何度か挟んでいます。最初は元気いっぱいなので仲良く並走できるのですが、しだいに年をとり始めるとそうもいってはいられず、最後は遅れるあまりに焦って道路に飛び出して車に轢かれ…。ついには走るのは難しい体になってしまいます。そんなエンツォも車に乗ることでまた二人で風を感じて並んで立つことができる。その幸せをあの映像一発で見せる。ここだけはあまりナレーションに頼らずに見せているのは良かったです。

そしてラストはエンツォ亡き後にエンツォという名前の子どもに出会うシーン。ここで非常にフィクショナルなオチをつけることになりますが、そんなに露骨にせずにサラッと流す。このへんも実に落ち着いた語り口なんじゃないかな。

“サイモン・カーティス”監督の前作『グッバイ・クリストファー・ロビン』に近いテイストも感じます。「くまのプーさん」が生まれる誕生譚を描く作品でしたが、あちらは真意の読めない子ども目線を映し出す作品で、そこには寓話的な物語と現実とがほんの少しクロスオーバーするという点が通じ合っています。それが嘘かどうかの真偽はともかく、接点があると考える方が楽しいかもねというスタンスは『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』も同じです。

そういえば監督前作への目配せとしての「くまのプーさん」オマージュなのか、シマウマ人形が動き出すオカルトチックなシーンもありました。あれはちょっと怖い。というか、ゾーイが絶叫していましたけど、あのシーンは冷静に考えてもエンツォが可哀想なので、もうちょっと考えてあげてよとスウィフト家に文句も言いたくなるような…。

脚本は『アンストッパブル』の“マーク・ボンバック”だったのですが、全然そこには類似点はなかった…と思う(私が気づいていないだけ?)。

挑戦的で大胆な作品ではありませんでしたが、犬と一緒の人生の良さを極端な誇張もせずにしっかり描き切っているので、これまた犬が飼いたくなる訴求力を持った映画ですかね。

なお、犬を運転手が膝に乗せたり、特段の保護もなく席に座らせたり、窓から顔を出させたりして、車を運転していると道路交通法違反の可能性があり、犬自身も大変危険ですので、注意してくださいね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 43% Audience 96%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

関連作品紹介

犬を題材にした映画の感想記事の一覧です。

・『僕のワンダフル・ライフ』


・『野性の呼び声』


作品ポスター・画像 (C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. ジ・アート・オブ・レーシング・イン・ザ・レイン