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ドラマ『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』感想(ネタバレ)…家庭料理を仕事にする難しさ

ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ

家庭料理を仕事にする難しさ…ドラマシリーズ『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Julia
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ダニエル・ゴールドファーブ
恋愛描写

ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ

じゅりあ あめりかのしょくたくをかえたしぇふ
ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ

『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』あらすじ

ジュリア・チャイルドは料理が大好きで、その熱意がついに料理本の出版にまで発展し、フランス料理の本は注目される。その著書の宣伝のためにテレビ出演するが、そこでの料理実演が反響を呼び、フランス料理の魅力を伝えようと自身の番組制作を提案。彼女は予算や偏見などの問題を克服しながら、周囲に支えられ、番組「フレンチ・シェフ」を開始させる。これがアメリカの家庭料理の味をどう変えていくのか。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の感想です。

『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』感想(ネタバレなし)

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普通のおばさん、でも料理番組の偉人

皆さんは料理番組、とくに家庭でできる料理の作り方を紹介する番組を普段から見ますか? 最近はネットで料理の方法を調べるのが主流になってきていますけどね。

料理番組の歴史は古く、世界最初の料理テレビ番組のひとつと言われるのが1937年のイギリスの『Cook’s Night Out』。どんな内容だったのか気になりますが、当時は生放送だったので映像は残っていないそうです。それ以前はラジオで料理番組が存在していました。

そんな中、アメリカの庶民の間で広く虜にした最も初期のお料理番組のひとつが1963年から1973年まで続いた『The French Chef』です。この『The French Chef』は当時は高級レストランで食べるものとされていたフランス料理を一般の家庭でも作れるという視点で紹介しており、新鮮でした。

しかし、それだけではありません。この『The French Chef』に欠かせない魅力となったのが、料理を教えるためにカメラの前に立って実演したひとりの女性、「ジュリア・チャイルド」です。

別に何の有名人でもない、ただの50代の中年女性であるジュリア・チャイルド。それがなぜ料理番組に人気をもたらしたのかと言うと、ひとえにジュリア・チャイルドに愛嬌があったから。その番組の進行から時折挟み込むトーク、さらにはトラブルが起きても楽しい時間に変えて、視聴者を楽しませました。平凡なおばさんがテレビスターになって視聴率を獲得するなど異例です。でもこのジュリア・チャイルドはやってのけたのです。

テレビ界の偉人となったジュリア・チャイルド。その人生は映像化されており、“メリル・ストリープ”がジュリアを演じた『ジュリー&ジュリア』(2009年)もありましたし、『ジュリア アメリカの食卓を変えた伝説の料理研究家』というドキュメンタリーも2022年に公開されています。

そして2022年からそのジュリア・チャイルドの成功を主題にしたドラマシリーズも始まりました。

それが本作『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』

本作では、ジュリア・チャイルドがテレビ番組『The French Chef』を始めていく姿を追いかけるものですが、それ以外にも人間模様を織り交ぜつつ、物語を見映えよく盛りつけしています。当時の男社会なテレビ業界、もちろん世の中全てが家父長的だったわけですが、その世界でいかにして何の変哲もない普通の中年女性が料理番組を先導してキャリアを成すか…その主軸があり、これは中年女性フェミニズムなストーリーと言えるでしょう。

この1960年代~1970年代のテレビ業界の裏側もわかるので、お仕事モノとしても見どころはいっぱいあります。実在の著名人もでてきて、世相も交差したり…。

企画原案はドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』“ダニエル・ゴールドファーブ”です。雰囲気も似ていて、ハートフルでちょっとシャレてるコミカルな推進力があるドラマとなっています。

主人公のジュリアを演じるのは、ドラマ『The Paradise』『Happy Valley』などで賞も獲得しているベテランの“サラ・ランカシャー”。今回も安定感のある演技です。

共演は、ドラマ『そりゃないぜ!? フレイジャー』“デヴィッド・ハイド・ピアース”、ドラマ『マダム・セクレタリー』“ビビ・ニューワース”、ドラマ『Indian Summers』“フィオナ・グラスコット”、ドラマ『ザ・ウォッチャー』“ブリタニー・ブラッドフォード”『対峙』で映画監督デビューをしたばかりの“フラン・クランツ”など。

『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』はアメリカ本国では「HBO Max」で配信され、日本では「U-NEXT」での取り扱いとなっています。シーズン1は全8話で1話あたりは約40~50分。

当然と言いますか、美味しそうな料理がたくさん画面に映ります。お腹が空いてきますので、鑑賞前に腹ごしらえをしておくといいです。料理も作りたくなってくるかもしれません。オムレツを綺麗に作ることから挑戦してみますか?

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『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』を観る前のQ&A

✔『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の見どころ
★主人公が前向きに頑張っていく姿。
✔『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の欠点
☆料理がたくさん映るので空腹を刺激する。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:元気がでる
友人 3.5:料理好き同士で
恋人 3.5:一緒に料理作りも
キッズ 3.5:大人向けのコメディだけど
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『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ボナペティ!

1961年、ノルウェーのオスロ。ロッジでゲストと一緒にディナーが催されていました。賑やかな食卓の奥のキッチンで忙しく料理しているのはジュリア・チャイルドです。そこに夫のポールが来て、「そろそろ発表したら? 大使館ではどうせすぐに知れ渡る。今夜は君を祝うために集まってもらった」と語りかけます。

ジュリアは促され、みんな集う席で手紙を読み上げます。それはクノッフ社からのもので、「見事なフランス料理の本を拝読して、これこそ我々が望んでいた本だと結論をだしました。アメリカにフランス料理を広めた本はロンバウアーの“料理の喜び”です。あなたは新しい風となり…」と続いていました。ジュリアの本がアメリカでも出版されるのです。それが何をもたらすのか、まだ本人もよくわかっていませんでした。

1年後、アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジ。ジュリアはなおもキッチンで料理していました。外交官の退職を余儀なくされた夫のポールは不満げです。オムレツを食べながら、ポールはテレビ番組について毒づき、テーブルを去ります。

実はジュリアは自身の出版した「フランス料理という芸術の習得(Mastering the Art of French Cooking)」という本を紹介するテレビ番組にでることになったのです。壁に飾られた無数の調理器具からいくつかを選び、それをバックにしまって、ジュリアは外へ。街にでて、WGBHのテレビ局に足を踏み入れます。

化粧をして準備していると企画者だというアリス・ネイマンがやってきます。「電熱器はある?」と質問するジュリア。

番組開始。ボストンカレッジ教授のアルバート・デュアメルが足を組んで堂々と座っています。彼は「料理本は読んだことはありません」と高圧的な空気です。しかし、ジュリアはそんなの気にも留めず、電熱器を取り出して今からフランス風のオムレツを作ると言い出します。そしてその場で卵を割って軽快に料理を始め、デュアメルにもかき混ぜさせます。

すぐに完成。「お世辞抜きで美味しい」と不意を突かれたデュアメルも絶賛。本の紹介はすっかり忘れて終了となりました。

夫は番組を見なかったそうで、まだ不機嫌。ジュリアも診察で更年期障害だと言われ、落ち込みます。けれども街でドロシーに出会い、「番組を見た。オムレツを作ったわ」と褒められ、自信が湧いてきます。

そこでジュリアはアリスに手紙を書き、「料理番組がしたいです」と懇願。アリスは企画をだすも、上司のラス・モラッシュなどの男たちは小馬鹿にするばかり。

一方のジュリアも、料理のアドバイザーで共著者であるシムカに連絡しますが、番組なんて上手くいかないと言われてしまいます。

チョコケーキを持参してテレビ局へ行ったジュリアは、27通の反響があったと聞かされるも、企画は進んでいないと告げられます。こうなればもっと大胆にいくしかありません。ジュリア自身が上司の男たちを説得し、「経費は私が全部を出す、ケーキもあげます」と熱弁。「公共放送にふさわしくない」と言いつつ、ラスは認めます。

あとはポールです。そこで出版社のジュディスと作戦を立てて、ポールも番組制作に一枚かんでもらうことで乗り気にさせます。お隣の未亡人エイビスにも協力を仰ぎます。

「アメリカの食卓を変えよう」…そんなことはできるのでしょうか。

この『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/06に更新されています。
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シーズン1:料理でネゴシエーション

ここから『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の主人公、ジュリア・チャイルド。彼女は『作りたい女と食べたい女』風に言わせれば、「作る」のも「食べる」のも大好きな女性です。

面白いのはジュリアの経歴。ドラマでは第1話からオスロのキッチンでごく普通に料理しているところから始まり、平凡な専業主婦なのかなという雰囲気ですが、ここに至るまでの過去もなかなかに突飛です。

まずジュリアはカリフォルニア州出身で、父がある程度の資産を持っており、その父は副知事をしていたこともあり、そんなに生活には困っていませんでした。家には料理人がおり、自分で料理を作る機会はありません。そして工科大学に入学しており、ライターになりたかったそうですが、第二次世界大戦が勃発。するとジュリアは戦略情報局に配属され、諜報活動をしていたそうなのです。その仕事の最中にスリランカで同僚のポールと出会って結婚。ポールは外務省勤めとなり、パリに赴任。

つまり、ジュリアの初期の人生に「料理」なんて全然出てこなかったわけです。そのジュリアが「料理を作るってこんなに楽しいんだ」と新たな生きがいを見い出し、本作は始まります。

で、ジュリアは『フレンチ・シェフ(The French Chef)』を始めようとするのですが、そこに大きく立ちはだかる巨大な壁。それは料理、それも家庭料理で評価されることの難しさです。シェフのプロの料理は評価されています。けれどもジュリアがやりたいのは一般のキッチンでできる家庭料理。

しかし、世間、もっと言えば男社会「そんな主婦が作る家庭料理なんてたいした代物じゃないだろ?」と前提として見下しています。序盤のアルバート・デュアメルの態度なんてまさしくそうですし、WGBHの男性たちの初めの態度も冷たいです。レストランの料理長からも格下とあしらわれます。

それをどう変えていくのか。その壁を突破するのにジュリアはおそらく大戦時に培ったであろう、ネゴシエーションを発揮していきます。

痛快なのは、ジュリアはいわゆる女性らしい女性ではありません。体型もふくよかで美人とは言い難く、年齢も中年。しかも、身長は188cmもあったそうですからね。一般的にスパイの女性と言えば、セクシーさとかを武器にするイメージがフィクションではありますが、ジュリアにはその型はあてはまりません。

その代わり、ジュリアは過去に身に着けた交渉術で挑み、美味しい料理で相手の食欲を掴みつつ、加えて仲間の女性たちとも連帯して、この難所を乗り越えます。以前は敵国と渡り合ってきたでしょうけど、今回は自国の男社会に立ち向かうというのもユニークな話です。

その思わぬ副効果として、料理番組のヒットの方程式を作り、テレビ業界の構造も一変させる。アメリカの食卓を変えたどころではない、すごい成果ですよね。

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シーズン1:保守的な女性でも意外な味を引き出す

こうやってみると、ジュリアは間違いなくフェミニストであるとも思えるのですが、ドラマ『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』ではこのジュリアを多角的に扱い、いろいろな味を引き出します。

例えば、ジュリアはフェミニストなのか?という点。ここで異を唱えてくるのが第7話に登場するベティ・フリーダン。ドラマ『ミセス・アメリカ 時代に挑んだ女たち』にもでてくる実在の有名なフェミニストです。

ベティ・フリーダンはニューヨークの祝賀会でジュリアに面と向かって「あなたは手本にならない。あの番組は良い影響を与えない」と結構辛辣に批評します。ベティ的なフェミニズム論に言わせれば、ジュリアのやっていることは女性をキッチンに閉じ込めるのを土台にしており、妻の家事のレベルを向上させるという余計なお世話なのだ…ということですね。

確かにその一面もあって、ジュリアの料理番組は古臭いジェンダーロールが足場にあります。けれども本作はそのジュリアを別のフェミニズムで掬い取ってあげています。それはジュリアが男社会の業界構造を変えてみせたことでも明らかですし、作中では夫婦一緒にキッチンで料理するようになったモラッシュ夫妻を映すことで、決してジェンダーの固定化では終わらないのでは?と投げかけてくれています。

フェミニズムって一気に理想に辿り着くわけではなくて、一段一段と手順があって、少しずつ前に進んだりする。そんな新しい女性の創造の風景でした。

また、もうひとつの描かれるジュリアの側面がホモフォビアです。実はジュリアは同性愛嫌悪をみせていたと言われていますBoston。こういう歴史的偉人がLGBTQ差別的だったというのは残念ですがよくある話です。問題はこれを作品でどう取り扱うか。一切無視して描かないという手もあります。けれどもこのドラマではあえて描いているんですね。

第4話では母校の大学で同級生のアイリスに出会い、彼女はキャロルという女性と付き合っているとカミングアウトし、そう言われてジュリアは微かに動揺しつつ、思い出をあまり覚えていないと誤魔化します。第5話のサンフランシスコではジュリアになりきったドラァグと対面し、ここでも一瞬不快そうな顔をみせます。また、その第5話で出会うジェームス・ビアードという実在の料理家ですが、彼はゲイであったことも知られています。

史実ではジュリアはしだいにホモフォビアな面を見せなくなったようですけど、ドラマでもそんなふうに態度が変わっていく過程が描かれるのかもしれません。

LGBTQキャラをどう描くかはよく議論されますけど、LGBTQ差別主義者だった人をどう描くかも実は大事な論点だったりしますよね。

このようにジュリアはどちらかと言えば保守的な人間です。ただ、保守的な女性でもその中に少しの先駆的な革新性を持ち合わせていることがある。黒人のアリスをプロデューサーにと進言したり、夫がいつの間にか妻を支える側として覚悟を決めていたり、無自覚に保守的な風潮を突き崩す瞬間がある。二項対立的ではない人間らしさの意外な味をこの『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』はしっかり引き出せていたのではないでしょうか。

『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 90%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)HBO

以上、『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』の感想でした。

Julia (2022) [Japanese Review] 『ジュリア アメリカの食卓を変えたシェフ』考察・評価レビュー