軍艦島
映画『軍艦島』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:군함도(The Battleship Island)
製作国:韓国(2017年)
日本では劇場未公開
監督:リュ・スンワン

軍艦島

あらすじ

端島、通称「軍艦島」と呼ばれるその島は、海底炭鉱の地として多くの労働者が働いていた。労働力が不足するようになると朝鮮人労働者を大量に移入させた。しかし、そこはとても危険な環境であり、過酷な現場では怪我人や死者も発生した。そんな中、劣悪さに不満を溜め込んでいた朝鮮人労働者の一部で反乱を企てる者が現れる。さらに戦争の戦火がこの軍艦島にも降り注ぎ…。

『軍艦島』感想(ネタバレなし)

猛バッシングを受けたあの映画

誰だって自分が悪いことをした事実と向き合うのは嫌なものです。私も友達につい酷いことをしてしまったとき、家族に厳しい態度をとってしまったとき、素直に反省するのをプライドが邪魔をしたりします。皆さんも普通にあることでしょう。

それはスケールを大きくして国レベルの話になった場合でも同様です。多くの国々では自国が加害者になる何らかの歴史を抱えていたりしますが、たいていはそれを否定したがります。アメリカ人の一部では原爆投下は正しいと主張する声が上がり、ドイツ人の一部ではホロコーストは捏造だと言う勢力が増し、イギリス人の一部では植民地支配の悪影響をなかなか認めず、オーストラリアでは先住民への虐殺を軽視して…。

日本も例外ではありません。日本史の加害的側面といえばやはり戦争における行為。とくに朝鮮人に対する問題に関して、いまだに国内では歴史修正主義者が跋扈しています。

それを示すかのように日本を加害者として描く映画が登場するたびに「反日」というレッテルが条件反射で撃ち込まれてきます。早撃ちですよ。最近だと『不屈の男 アンブロークン』『新聞記者』『主戦場』といった作品が槍玉になったりしていました。そんな光景はすっかり慣れっこになってきましたが、日本国内ではジャーナリズムな映画が少ないせいで、余計にそういう「自国を批判されること」に不慣れな感じが国民全体に漂っています。アレルギーみたいですね。

今回の紹介する映画もまさにそんな非難轟々にさらされた作品。それが本作『軍艦島』という韓国映画です。邦題はついていないので、これは私が漢字名をそのまま当てはめただけのタイトルです。英題は「The Battleship Island」。

本作はその名のとおり通称「軍艦島」と呼ばれる、長崎県長崎市にある小さな島を舞台にしています。正式な名称は「端島」です。軍艦島はその軍艦みたいな見た目からつけられたあだ名らしく、島というイメージからはかけ離れた異様な姿をしており、ちょっとした未知のスポットです。実際はこの軍艦島は炭鉱業が行われた歴史があり、1974年に閉山になって無人島になるまでは大勢の人が炭鉱で住み込みで働いていました。

映画『軍艦島』はその軍艦島で太平洋戦争時に雇用されていた朝鮮人労働者を描いたものになっています。朝鮮人労働者が当時労働に従事していたのは紛れもない事実です。

ではなぜこの映画が例によって例のごとく一部の日本人から烈火のように非難を受けるのかといえば、強制徴用をめぐる歴史認識の火種があるからに他なりません。そもそもこの軍艦島は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に含めるかたちで2015年に世界文化遺産に登録されたのですが、その際も強制徴用の認識をめぐって日本と韓国の政府は対立。結果、真偽を断定することなくしこりの残る薄氷な決着で終わったのでした。

本作では強制徴用があったという前提で、しかもかなり直球で描いていますので、日本の保守層の怒りを買った…というしだいです。

結局、この映画『軍艦島』は日本では劇場公開されていない状態(配信すらもない)になっています。一向に公開される気配もありませんし、たぶん配給もびびっているのか、これでは埒が明かないので、私は海外経由で鑑賞するしかなかったのですが…(海外では普通に観られる)。

別に歴史認識をめぐって映画に賛否が起きるのは日常茶飯事ですからいいのですけど、私の要望としては公開はしてほしかったです。たくさんの人が観て、たくさんの人が意見を語る方がいいですからね、何事も(それ自体が差別などの被害を与える場合を除いて)。そうやって歴史というのは議論されるものなのですから。

一方で、そんなセンシティブな小難しい話はさておき、本作は結構映画ファンには興味ありありな見逃せなさもあるのです。なにせ監督はあの“リュ・スンワン”なのですよ。デビューの頃からその才能を評価され、近年は2013年の『ベルリンファイル』、2015年の『ベテラン』と大ヒット作を生み、韓国映画界のヒットメーカーになりました。日本でも韓国映画を嗜む映画ファンなら当然知っている、そんな人物です。

出演陣も豪華。『哭声 コクソン』や『アシュラ』でおなじみの“ファン・ジョンミン”を主演に、ドラマ『ごめん、愛してる』の“ソ・ジソブ”、『私のオオカミ少年』の“ソン・ジュンギ”、『誠実な国のアリス』の“イ・ジョンヒョン”などなど、そうそうたる顔ぶれです。

そして“リュ・スンワン”監督はアクションの見せ方も上手いですが、この『軍艦島』は戦争アクション映画としてなかなかに凄まじいことをしており、さらにロケーションのセットでの再現度というプロダクションデザインも近年の韓国映画トップクラス級に凄いものを見せてくれます。戦争映画好きは大満足な映像の迫力です。

ということで本来は『軍艦島』は映画好きが語るべき作品であって、このまま保守層の口撃のネタでしか語られないのは実にもったいないので、以降でさらに深掘りして感想を書いていきたいと思います。本作は反日でも歴史捏造でもプロパガンダでもない、『アルマゲドン』だ!…という私の暴論的感想を読みたい人はお付き合いください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(迫力の映像に期待してOK)
友人◯(話のわかる友達同士で)
恋人◯(戦争映画を観たいなら)
キッズ△(残虐&残酷描写も多め)

『軍艦島』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『軍艦島』感想(ネタバレあり)

ようこそ、朝鮮人の皆さん

暗く狭い空間。地下に降りていく労働者たち。そこは炭鉱であり、常に危険と隣り合わせ。落盤事故が起きて労働者が死亡するのも珍しくありません。

こんな場所からはさっさと逃げればいい。そう思うかもしれませんが、そうはいかない。なぜならここは脱出することはできない特別な炭鉱なのです。四方を海に囲まれた、まるで要塞のような島。ここは「軍艦島」です。

日本統治下の朝鮮・京城(ソウル)。今日も多くの日本の有力者たちがもてなされて華やかな宴会が開かれています。そこで自身もクラリネット奏者でありつつ、自分の楽団を率いるカンオクという男がいました。娘のソヒは、幼いながらも歌唱と愛嬌ある素振りに自信があり、二人でステージに立つのが定番です。旭日旗がデカデカと背後に飾られた舞台でパフォーマンスを披露します。

カンオクは今よりもさらに良い暮らしがしたかったので、スギヤマという刑事と秘密の食事をし、そこで賄賂を渡してより儲かりそうな日本に向かうチャンスを得ます。

1945年2月12日。大勢の朝鮮人が乗っている日本行きの船。クラリネットのケースに金を隠すカンオク。その環境は劣悪で、乱闘が起きたり、大きな揺れがあったりと、快適とはほど遠い世界。日本人から放水をうけ、「次に騒動を起こしたら発砲するぞ」と脅される始末です。でもここさえ乗り越えれば…きっと良い生活ができるはず…。

船は下関に到着。続々と降りる他の朝鮮人にもみくちゃにされながら、カンオクはスギヤマ刑事の推薦状を見せて、たどたどしい日本語で「シムラさんに会いに来たんです!」と訴えるも、問答無用で他の朝鮮人と一緒に列車に乗せられてしまいました

そしてまた船です。娘もそろって船酔いで吐きながら、どこに行くんだろうと思っていると、目の前に見えたのは歪な形の島。軍艦島でした。

棒でガンガン叩かれながら全く人間扱いされずに船から降ろされ、「やめてください」と日本語で言ってもお構いなし。小舟に乗せられ、上陸。ソヒとは離れ離れになってしまいました。頭から血を流す人もいる中、従うしかありません。

広い場所に連れてこられ、荷物は没収。そこで統率している日本人に交じってひとりの朝鮮人を見つけて「自分は楽団です」と猛アピール。そこでこの曲は弾けるかと聞かれて待ってましたと言わんばかりに曲を演奏して実力を見せるカンオク楽団。周囲のみんなも歌い出します。

島の所長とおぼしき男がマイクの前に立ち、ようこそと歓迎されます。思わず「ありがとうございます」と元気に挨拶するカンオクに、飛び蹴りのツッコミ(“リュ・スンワン”監督作の恒例ネタ)。

「ここは石炭を供給してきた由緒ある場所です」と島の生活の基本事項が説明されていきます。宿舎の部屋割りが行われ、炭鉱労働者としての暮らしがスタート。給与はでます。しかし、ここまで来るのにかかった費用は給与から差し引く、食事は会社が提供し、給与から差し引く、給与から差し引く、給与から差し引く、給与から差し引く…。要するには何も残りません。

「君たちを朝鮮人だからといって過小評価はしない。誰よりも上手くやれるはずだ」…そう日本人は語りますが…。

すす洗い場にて、日本語が少し話せるカンオクは都合のいい通訳係になっている中、朝鮮人をまとめるリーダー格の朝鮮人に対して、ある朝鮮人の勇ましそうな男が1対1で勝負を挑みます。「面白そうじゃないか」と日本人も高みの見物。朝鮮人同士のバトル勃発。取っ組み合いのすえ、勝負を挑んだ男が勝ちます。相変わらずカンオクの楽団は場を和ませる役です。ちなみにカンオクが「おつかれさまでした!」と日本語で連発することで乗り切る感じ、日本人として凄いよくわかる…。

一方、ここに来た朝鮮人の女たちは服を脱がされ、性病がないかチェックを受けます。ソヒも含めて遊郭で日本の男たちに接待することを強要されることに。女たちをベタベタと下品に扱う男たち。そこにたまたまかけた曲はソヒの得意ソング。ソヒが自分は歌って踊れると半泣きでアピール。「天皇陛下、万歳!」も忘れません。

なんだかんだでソヒと合流できたカンオク。楽団としてここでも働けるようになり、それなりに軌道に乗っていましたが、日本は日に日に戦争で劣勢となり、この軍艦島にも戦火は迫っていました。

そして事件は起こります…。

どんどんあの監督化していく…

本作『軍艦島』は、私に言わせれば反日ではもちろんないですし、歴史捏造でもないですし、プロパガンダでもありません。間違いなく『アルマゲドン』です。誤解されそうですが、ええ、あのマイケル・ベイ監督のSF超大作で、惑星の衝突から人類を守るために戦う例のアレ

まず強制徴用の件はさておき、本作は史実と違うじゃないかとあれこれ部分部分を指摘する声もありますが、まあ、映画的な脚色は当然されるでしょう。どんな戦争映画も脚色はあります。

ただこの本作に関しては『アルマゲドン』なんです。『アルマゲドン』に科学考証する人はあまりいないと思います。いくらなんでも荒唐無稽ですから。あれは完全に地球規模ディザスター映画というジャンル作ですからね。エンターテインメントです。

そしてこの『軍艦島』もかなり振り切ってオーバーに脚色した結果、一応は原点には歴史的な事実を配置していた痕跡はあるものの、表面上のルックは完全にエンタメ化しているんですね。だからその上っ面に対して歴史考証とかするのも“暖簾に腕押し”な状態にしかなりません。

だからジャンルムービーとしては抜群に面白いです。

例えば、プロダクションデザイン。本当に素晴らしいの一言。あの軍艦島の広場で高い壁の奥から波しぶきがかかるセットといい、各建物の込み入った密集感といい、よくぞここまで再現したなというレベル。これ、撮影が終わったら取り壊しちゃったのかなぁ…もったいない…。このセットであと何本か作品を作ってほしい…。

そしてギミック的に各パートでジャンルが変化する映像面も飽きさせません。

2番坑道での鉱山ディザスターとでも言うべきパニック展開はなかなかにレアな迫力。暴走したトロッコが破壊的に転がりながら大惨事。引火でさらに大爆発。ここだけでも「ああ、面白い映像を見ている…!」という充実感があります。

次に鍵を複製したりするいわば『大脱出』的な展開。ここの連携による知略を駆使する展開もやはり定番で楽しいです。

そして、いつものビラ配り飛行機じゃない、爆撃機が空襲警報の最中、爆弾を落としていく大混乱シーン。マイケル・ベイかな?っていうくらいの爆発の雨あられ。もう島そのものが崩壊する気がする…というか、ここで防空壕に入れさせてもらえなかった朝鮮人が全滅しなかったのが不思議です…。

ラストは反旗を翻した朝鮮人と日本人との大激突。と同時に進行する脱出のための作戦のハラハラ。この両者の展開のかみ合いがまた白熱して面白く、旭日旗をそう切り裂いてそれに使うのか…とかの細かいネタも伏線になってカタルシスがあります。

ただ、とにかくラストスパートに至るまで後半からは指数関数的に映像演出過剰になっていくのが本作です。

軍艦島

誰よりも韓国はプロパガンダを嫌う

じゃあ、ジャンルムービーとして最高ならそれでいいという話なのですが、本作『軍艦島』は実は韓国の観客層や批評家の間でも批判があるのです。当初はあの“リュ・スンワン”監督作ですし、大ヒットお間違いなしと予想されていたのですが、結果はそうならず…。俳優やプロダクションデザインは高評価なのですが…。

なぜなのかという理由は以下の記事が詳しいのでぜひとも参照してほしいのですが…。


要するに韓国の観客たちの中には、歴史的事実をエンタメ映画化することに不快感を持つ人が結構いるんですね。歴史は歴史として尊重すべきであって、安易に脚色とかするべきではない、と。

つまり、日本の保守層や保守系メディアはこの映画をめぐって「日本vs韓国」の対立を性懲りもなく煽っていましたが、実は日本と韓国の大衆の基本的反応は一致しているのです。ちょっとこの映画はオーバーすぎる…と(もちろん韓国国内の中には“抗日なら何でもOK”とノリノリな保守の人もいるでしょうけど)。

私はこの意外な映画に対する両者の反応の呼応を知って、なんだか不思議な気持ちになりました。同時に歴史のエンタメ化を許さない教養を持つ韓国人を素直に凄いなと思いました。それはやっぱり『タクシー運転手 約束は海を越えて』のように韓国側の加害の歴史すらもちゃんと描く作品を生み出せる(そしてそれがヒットする)韓国ならでは世論なのでしょうね。


また韓国の観客は誰よりも(日本がしゃしゃりでるまでもなく)プロパガンダ的な映画は許さない体質を持っているということでもあります。それは過去に韓国の政権が国に都合の悪い映画を作る映画人や会社をブラックリストとして扱ったという経緯もあるでしょう。だからこそ韓国国民は例え自国の政府でもその権力者に都合がいい作品性は好まない。

『軍艦島』を通して韓国と日本、双方のクリエイティブに対するスタンスの質の違いをまざまざと見せられた気がします。

まあ、本作はカンオクらのギャグが若干過剰で、そのエンタメ性も鼻につく面もなくはないけど…。

しかし、このエンタメ化していると韓国国内から非難された『軍艦島』でさえも、ラストは『アルマゲドン』とは全然違う帰着です。船で脱出した朝鮮人一同は長崎に投下される原爆のキノコ雲を見ます。「あそこにもたくさんの朝鮮人がいるのに」と呟きながら…。

朝鮮の人々にとって太平洋戦争における日本の敗戦はハッピーエンドではありません。なぜならこの後も自分たちへの差別は続きますし、何よりも朝鮮戦争が勃発するのですから(そういう意味では作中での朝鮮人同士の対立はそれを匂わせますね)。

あの後味は韓国映画でしか出せないものでしたし、それこそがアイデンティティですね。

まずは何よりも炭鉱の歴史を知ろう

あと本作を観ていて私も反省しないとなと思ったのが、炭鉱の歴史についてです。日本って炭鉱のリアルな過酷さを描く映画があまりない気がします。そのせいか『白雪姫』の七人のこびとほどではないによ、鉱山のイメージが連想できない人もいるのではないでしょうか。

でも日本の今の経済があるのも炭鉱産業に従事した人(日本人も朝鮮人も華人も含む)がいたからです。そしてその労働は『軍艦島』並みのマイケル・ベイ状態ではなかったにせよ、とてつもなく危険なものでした。

1回の事故で何百人が死ぬ事態も普通に起き、昔は労働基準法なんてないですから平気で酷使される…。

そのブラック企業とかいう次元ですらない炭鉱の現場については以下の記事を読んだりしてほしいですし、各地に博物館とかがあるのでそこでも知識を深められるでしょう。


ただやっぱり映画でも描いてほしいな、と。本当だったら軍艦島を舞台にした映画は真っ先に日本で作られないといけないのですよね。そうじゃないと歴史を伝えるどころか、先人たちへの敬意も欠片もないです。

私たち日本人は韓国映画に文句を言う前にやらないといけないことはいっぱいあるのじゃないでしょうか。

『軍艦島』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 81%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)CJ Entertainment

以上、『軍艦島』の感想でした。