感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『グレイハウンド(2020)』感想(ネタバレ)…トム・ハンクス渾身の脚本&主演!

グレイハウンド

トム・ハンクス渾身の脚本&主演!…「Apple TV+」映画『グレイハウンド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Greyhound
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にApple TV+で配信
監督:アーロン・シュナイダー

グレイハウンド

ぐれいはうんど
グレイハウンド

『グレイハウンド』あらすじ

第二次世界大戦。大西洋でアメリカ海軍の護送船団は海を進んでいた。その船団の命運は駆逐艦に乗るアーネスト・クラウス艦長にかかっていた。これが初任務だったクラウスは緊張していたが、自分の使命を自覚していた。そして、敵は突然やってきた。ドイツ海軍潜水艦Uボートの執拗な攻撃は絶え間なく続く。全員が生き残るべく艦長は指示を次々と出すが…。

『グレイハウンド』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

コロナ禍でも品行方正を失わない男

映画好きの皆さんは「Apple TV+」を利用しているでしょうか。

2019年11月からサービスを開始したAppleの動画配信サービスであり、ここでしか見られない独占作品が並んでいます。開始当時はついにAppleもこの業界に参入か…Netflixの牙城はどんどん崩されるな…とあれこれ言われたものです。

ところが半年くらい経ちましたけど、肝心の「Apple TV+」の存在感はイマイチです。私の観測できる範囲では「Apple TV+」の作品の話題をしている人はとても少なく、仮にいたとしても「この作品があるんだ、見てみたいけどな~」という願望を口にするだけで、実際に利用している人は滅多に見かけません。どうしたんだ、Apple。日本はこんなにiPhone普及率は高いのに…。

でもよく考えるとその理由はわかる気がします。なにせまずオリジナル作品の数がまだまだ少ないです。日本人が惹かれるような目玉になるコンテンツもないので、これじゃあどうしたってスルーされます。やっぱりどんな作品を用意できるか、全てそこにかかってきますね。

そんな「Apple TV+」側も黙って傍観しているわけではなく、ちょっとずつですがオリジナル作品を増やしています。そして2020年7月にはこんな作品が追加されました。

それが本作『グレイハウンド』です。

本作はもともとソニー・ピクチャーズの配給で劇場公開を予定していたのですが、案の定、コロナ禍のせいで中止。さらにソニーは配給権を放棄してしまい、それをAppleが買ったという流れ。

実はこの『グレイハウンド』は映画ファンであれば話題になるべき一作なのです。なぜならあの名俳優“トム・ハンクス”主演のみならず脚本も手がけた貴重な映画なのですから。

“トム・ハンクス”と言えば、最近も『ブリッジ・オブ・スパイ』『ハドソン川の奇跡』『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』と良作に出演し、文句なしの見事な演技を披露していました。それだけではなく素の本人自体も人柄がよく、信頼されており、不祥事の多いハリウッドにおいても最も清い心を持つ白人男性は誰?と聞かれればこの“トム・ハンクス”は筆頭に挙げられます。

その“トム・ハンクス”ですが、2020年3月に新型コロナウイルスに感染したというニュースが飛び込んできて「あの品行方正な“トム・ハンクス”もコロナに罹るのか!」と驚かれました(性格と感染は関係ないんですけど…)。有名な主演作『キャスト・アウェイ』(無人島で孤独生活をおくる映画)に絡めてネタにもされていましたね。無事、回復したのですが、彼のコロナ関連の災難はまだ続きます。

それがこの主演&脚本作だった『グレイハウンド』の劇場公開中止。本人も映画館で公開したかったと悔しさを滲ませていました。戦争映画なのでとても巨大スクリーンに映える作品なのですけどね…。

ということでなんか“トム・ハンクス”が可哀想なので、せめて「Apple TV+」で鑑賞してあげてください。

本作は“C・S・フォレスター”という海軍をテーマにした小説家で有名な人の1955年の作品「駆逐艦キーリング」の映画化です。“C・S・フォレスター”の作品はこれまでも映画化されており、一番名が知れているのは1951年のジョン・ヒューストン監督の『アフリカの女王』でしょう。こちらの映画は主演のハンフリー・ボガートがアカデミー主演男優賞を受賞しました。

この原作を映画化に持ってくるあたり、“トム・ハンクス”の趣味全開なのですけど、ストーリーの語り口もまた“トム・ハンクス”らしさたっぷりなので期待してください。

戦争映画ですけど、バイオレンス描写はほとんどありません。しかも、約90分とコンパクト。それでいて見ごたえがある。これは確かに“トム・ハンクス”、脚本家として上手いなと思わされました。

監督は“アーロン・シュナイダー”という人で、実写短編映画『Two Soldiers』がアカデミー賞の実写短編映画賞を受賞。長編映画は2009年の『Get Low』以来なので、本当に久しぶりの監督作です。

俳優陣はほぼ“トム・ハンクス”の独壇場なのですが、“スティーヴン・グレアム”、“エリザベス・シュー”、“ロブ・モーガン”、“マヌエル・ガルシア=ルルフォ”など脇に揃う俳優も案外と見逃せません。

『グレイハウンド』は戦争映画マニアのみならず、幅広い人に見やすい作品ですので、ぜひどうぞ。なお、同名の映画が他にあるので勘違いしないように。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(戦争映画好きは絶対に必見)
友人 ◎(ミリタリー好き同士で熱狂)
恋人 ◯(心を打つドラマです)
キッズ ◯(人生のお手本になる)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『グレイハウンド』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

やれることをやるのみ

世界の大国が戦火に突入し、暴力と死が溢れた第二次世界大戦。それは陸地だけとは限らず、本来は人間の居場所ではない海もまた戦争の場となります。

1942年2月。北大西洋。アメリカからの船団がリバプールに向かって進んでいました。生活や経済のために商船はどうしても航海しないといけません。それを護衛するのも軍隊の役割。ちょうど航空支援は引き返すところで、最終的にこの複数の商船を守る大役は駆逐艦に一任されました。

その駆逐艦を率いる重責を感じているのが艦長のアーネスト・クラウスです。彼は2か月前に艦長の仕事を任せられ、これが初任務でした。出発する前、クリスマスで賑わう日常の中、愛する女性とプレゼント交換をした記憶は今も残っています。そのときに貰った船の小さい模型は彼の自室にあります。

水曜日。起床したクラウス艦長はいつものように報告を聞きます。朝食をとる間もなく、艦内で問題を起こした船員二人が呼び出され、「反省しています」と謝罪。艦長は「もうやるな」と言うだけでした。

そこへ英海軍の軍艦イーグルとハリーから、Uボート(敵であるドイツの潜水艦)を確認したと知らせがやってきます。艦長自らが操艦し、船員に指示を出していきます。そして、敵潜水艦を発見。一気に船は騒がしくなり、戦闘態勢に移行

対水上レーダーを注視し、いつ敵が来てもおかしくない状態に緊張が走りました。ついに…レーダーに光点…いた! 迎撃の準備を開始。

「目視できるまで撃つな」と指示し、艦長は荒れた波の中で慎重かつ確実に事を進めるべく絶好のチャンスを待ちます。ところが目標を消失。潜航したと思われ、ソナーで音を頼りに相手の行動を探っていきます。艦長は臨機応変に事態に合わせてなおも指示をどんどん出し、船を有利に動かします。

目標は船の左へ移動したと推測され、「右へ舵をきれ」と反対に進ませます。すぐに再探知。距離が近づき、敵の潜水艦はすぐそこ…そして真下に。すぐさま爆雷を投下。激しい轟音とともに海が爆発。しかし、手ごたえはなく、外したかと不安が漂います。

けれども、油膜と残骸を発見。撃沈できたと確認され、喜ぶ兵士。艦長は全員に報告し、「よくやった」とみんなをねぎらいました。戦闘配置も解除します。

戦闘態勢に入ったときからずっとヘルメットをしたままであると指摘され、フーっとリラックスしてそれをとるクラウス艦長。

しかし、休む間もなく船団後方から信号弾。船が燃えています。再び戦闘配置に転換。どこからともなく魚雷がとんできます。敵潜水艦が複数、4隻と報告。いや、まだいるようで、敵は6隻。ただし、ただちに襲ってきません。夜を待ち、暗くなってから集団で攻撃してくる戦法のようです。それはまるでオオカミのような…。

こちらは防御する側。状況的には不利です。しかも気温低下のせいか、レーダーが故障。正確な位置がわからない状態になります。さらに通信担当も怪我。加えて敵のおとり(ピレンヴェルファーとかいうものらしい)に釣られて、爆雷を大量に投下してしまい、使える爆雷の数はわずか。もう盛大にばらまけません。つまり、絶体絶命。この状況で多くの船を守り切れるのか…。

敵からの無線で「お前たちの船は沈む」と脅されます。

今、命を守れるのは神様だけか。いいえ、全てはクラウス艦長の手に…。

スポンサーリンク

リーダーのあるべき姿を示す

一般的に戦争映画というのはひたすらに壮大になりがちですし、ドラマも友情ありロマンスありサスペンスありのフルボリュームになることが多いです。戦場シーンではバイオレンス描写に特化することもしばしば。そのため、言ってしまえばカロリーの高い料理であり、食べ終わると満腹感が凄いです。よく食べたという気持ちだけが残るので、映画全体を覚えていることは少なく、印象的なシーンだけが強烈に植え付けられたりしますよね。

しかし、この『グレイハウンド』は90分という短い時間の中で必要最低限の描きたいことだけを詰め込んだ、非常に無駄のない一作でした。同様のスタイルであれば、『1917 命をかけた伝令』もそういうところがあったのですけど、あちらは映像面に特化するという売りを持っていました。

対する『グレイハウンド』は映像による露骨なインパクトもないので(映像面はよくできていますけど)、かなりエンターテインメント性は乏しいです。戦争映画にそういうエンタメを期待する人は物足りないかもしれませんし、逆に『1917 命をかけた伝令』は没入感重視で享楽じみていると感じた人には『グレイハウンド』は最適かもしれません。

ただ、この『グレイハウンド』は戦争の愚かさを描くとか、戦争暴力の恐ろしさを突きつけるとか、そういう類の作品でもないわけです。

じゃあ、本作は何をしたいのかと言えば、これひとつに尽きます。つまり、「未曽有の事態に襲われたときのリーダーのあるべき姿」を提示することです。

思えば本作はちょうど今の時期にぴったりな映画だったのではないでしょうか。

パンデミックの最中、私たちは「本当に頼りになれるリーダー」の存在の重要性を痛感したはずです。リーダーがいないと何も進まない。混乱が拡大するだけでどんどんと犠牲者が出てしまう。あげくに混乱に乗じて権力の増強という私欲に走るリーダーすらもいる。

私たち群衆にとって自分たちを正しく導き、責任を果たせるリーダーは要です。問題はたいていの場合、リーダーの座にいる人はそういう人間じゃないということで…。

『グレイハウンド』は戦争という舞台になっていますが、示していることはとても普遍的で、「こういう人間が理想のリーダーでしょう」というお手本を見せてくれています。教科書です。

スポンサーリンク

サーバントリーダーのお手本

『グレイハウンド』の主人公であるアーネスト・クラウス艦長は戦争映画らしくない主人公だと思います。いわゆるヒーロー性みたいなものが全然ないですし、ボスというトップにいる存在感もありません。クラウス艦長は徹底して“部下に尽くす”リーダーなのです。

組織論やビジネス業界の世界では「サーバントリーダー」という新しいリーダー像が2010年代から注目を集めていました。これはその名のとおり、「servant(召し使い)」のように部下のために従事するリーダーのことであり、これまでの正しいとされてきた“部下をぐいぐい引っ張る”リーダーとは真逆です。クラウス艦長はサーバントリーダーの典型例ですね。

まずこのクラウス艦長は部下の船員を怒鳴りつけることは絶対にしません。冒頭で問題を起こした船員が呼びつけられたときでさえ、注意するだけ。本作ではくしゃみのシーンなど、ときおり「これはギャグなのか?」と思えるような緊迫感を壊す場面が挿入されるのですが、それでもクラウス艦長は叱責もしない。

この手の戦争映画ではパワハラ的な上下関係はある種の恒例になっており、有事なんだからそういうことがあってもしょうがないという感覚で許容されてきました。それは映画だけでなく実際の軍隊でも同様でしょう。でも、クラウス艦長は力で押さえつけたり、力で引っ張ったりはしません。

そしてクラウス艦長はひたすらに働くのです。本作ではまさに休む暇もなく任務に従事する姿が延々と映し出されます。下手したら盛況時間帯に働くバイトの人みたいな酷使っぷりです。椅子にどっぷり座って悠々と部下に命令する雰囲気は1ミリもないです。

そんな中でも部下を褒めるのを忘れないのも注目ポイント。働き、褒める、働き、褒める。飴と鞭を他人に使わず、自分にだけ鞭をうつ。

その艦長を黙って見ながら船員たちは「この人は凄い人だ…」と痛感していく。立場上、無言ではあるのですが、船員はクラウス艦長をリーダーとしてどんどん尊敬していっているのがわかります。戦況としてはピンチになる一方なのに、むしろ自軍はより強固にまとまっていく。これぞ強いリーダーのなせる技です。弱いダメなリーダーは危機に陥ると求心力を失うのとは大きな違いですね。

これこそ“トム・ハンクス”だからできるシナリオです。彼自身がそういう人なのですから。

また、脚本で上手いなと思った他の部分は、戦争映画にありがちな要素をまだまだ否定しているところで、例えば、冒頭で描かれる愛する女性との会話。普通だったらここで「主人公の帰りを健気に待つ女性」を描写するところ。しかし、さりげない会話の中でこの男女の関係性はそういうベタさではないことがわかりますし、あの女性も自分の道を進んでいきそうな雰囲気さえあります。

別のところだと、葬儀のシーンで戦死者を弔う際に、海へ3人の死者を投げ入れるのですが、そこで3人目が一瞬なかなか落ちないという場面があります。ここも定番ではすごく愛国心を焚きつけられるシーンなのに、この笑っていいのか曖昧な不謹慎ですらある展開の挿入によって、その手のナショナリズムを高揚させる気持ちが削がれます。ちょっとしたことですけど、でも巧みですよね。

さらに序盤とラストの対になる自室での祈りを捧げるシーン。主人公の信仰深さを描くと同時に、決してこのクラウス艦長は神頼みをしているわけではないことも重要です。要するに結局は自分の働きが全てだとわかっている。宗教に過剰な奇跡を期待せずに、神の御業を演出もせず、己の責任を第一に行動することの大事さを説く。これもまた本作らしさ。

主人公が品行方正で信念を貫くと言えば、『ハクソー・リッジ』も同じでしたが、そこからもっと突きつめたスマートな戦争映画として本作は大切なことを思い出させてくれました。

この主人公みたいな人間がリーダーになってくれるといいのですけどね…。

『グレイハウンド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 80%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
スポンサーリンク

関連作品紹介

トム・ハンクス主演の映画の感想記事の一覧です。

・『ハドソン川の奇跡』

・『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

作品ポスター・画像 (C)Sony Pictures

以上、『グレイハウンド』の感想でした。

Greyhound (2020) [Japanese Review] 『グレイハウンド』考察・評価レビュー