流転の地球
Netflix映画『流転の地球』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Wandering Earth
製作国:中国(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:グオ・ファン

流転の地球

あらすじ

現状では生存の希望はなく、太陽系を離脱するという大胆な計画をもとに人類が一丸となって壮大な移動を始めた地球。しかし、木星との衝突の危機が迫り、地球の命運は名も無き人間たちに託された。人類の存亡をかけた、壮絶な戦いが始まる。

ネタバレなし感想

中国のSF映画への挑戦

SFファンにとって見逃せない注目の賞として「ヒューゴー賞」というものがあります。

ヒューゴー賞は、SFやファンタジーに分類される作品を小説、映像、コミックなどの部門に分けて、その年の最も優れたものに贈られます。SFというジャンルはどうしてもマイナーでマニアな扱いをいまだに受けることが多く、格調高い有名な賞ではなかなか候補になりづらいことも多いです。なのでこういう専門の賞というのはありがたい存在であり、SFの魅力を示す大事な場。アカデミー賞などと違って、登録したSFファンが投票権を持つので、とてもファンメイドな賞であり、ゆえに親近感を持ちやすいです。

ただ最近はこのファンメイドな部分が仇となり、いろいろ問題が起きたりもしました。昨今のポリコレに不快感を示し、ダイバーシティは表現の自由を脅かすと信じている一部の人たちによって、組織票が堂々と行われ、賞の正当性が損なわれる事態に。結果、選出方法の改善につながったので、終わり良ければ全て良しかもしれないですけど。

そんなアンチ多様性な人たちなんてしょせんは雑音です。当のヒューゴー賞では2015年にアジア人初の長編小説部門受賞者が誕生しました。その話題の人物の名が「リュウ・ジキン(劉慈欣)」という中国のSF作家です(ヒューゴー賞を受賞した作品名は「三体」)。

どうしてもSFという分野は白人中心なところも目立っていましたが、そこに風穴を開けるような才能が認められたことで、今後のSF業界も新しい面白さがでてきました。

そしてリュウ・ジキンの波に乗っかれ!と思ったのかどうかは知りませんが、小説から映画界へと波及するような現象がこのたび起こりました。それが中国映画である本作『流転の地球』です。

本作はリュウ・ジキンが2000年に執筆した「さまよえる地球」が原作。かなり本格なSF大作であり、物語もビッグスケール。環境破壊や太陽の消滅などで人類が住む星として展望のなくなった地球の問題に対して、なんと地球ごと宇宙を移動させて、太陽系から別のどこかに移してしまおうという壮大な引っ越し計画が始動する…というのが世界観。宇宙船で新天地を目指すのではダメなのかって? いや、ロマンですよ、ロマン。しかし、道中、木星に激突する危機に見舞われ、さあ、大変。タイムリミットが迫るなか、地球を救うための壮大なミッションがスタートする。そんな感じ。まあ、『アルマゲドン』ですよね。

とにかく本作は中国SF映画大作の出発点ともいえる記念すべき作品。これまでアジア映画市場ではこういう壮大なSFはありませんでした(日本には『SPACE BATTLESHIP ヤマト』という映画がありましたけど、あれは、まあ、うん…)。その理由にはお金がかかるというのもありますし、SF映画製作慣れしていないというのもありました。日本だったら怪獣映画がそのポジションを担っていましたしね。

ところがついに急激な発展を続ける中国映画産業がそのジャンルに進出してきたわけです。その挑戦はどうなったかというと、『流転の地球』は中国市場で大ヒットをおさめ、まさに“打ち上げ成功”。これは業界に大きなインパクトを今後もたらしていくかもしれません。

その重大な一作となる『流転の地球』、日本公開はあるのかとワクワクしていたら、Netflixオリジナルで独占配信になりました。観れるからとりあえずいいか。でもなるべく大画面で鑑賞することを強くオススメします。

あと日本の配信は2019年4月30日にスタートしたのですが、これ、たぶんNetflix側の粋な計らいなんだと思います。というのも本作は春節がキーワードになっており、中国の劇場公開もその時期に合わせています。なのでNetflixは日本で新元号が始まるこの時期に合わせてくれたのでしょう(火曜日配信も異例ですからね)。

新時代到来の門出に鑑賞するにはぴったりの映画なので、ぜひともワイワイとお楽しみください。

オススメ度のチェック
ひとり◎(SFマニアは必見)
友人◎(SF好きなら大盛り上がり)
恋人◯(娯楽作として素直に楽しい)
キッズ◯(子どもでもワクワクできる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

さようなら、太陽系

とりあえずざっくり世界観設定のおさらいから。

地球を命ある星にさせてくれた欠かせない存在・太陽は永遠ではなく、いずれ老化して膨張を続けていき、いつかは地球もろとも消えることは避けられない運命。しかし、その宿命に抗ってみせると考えた人類は「流転地球計画」を始動させるのでした。その計画の狙いは、ずばり地球を太陽系から脱出させること。そのために、連合政府を立ち上げ、1万基の巨大エンジンを地球の半分に建設。その推進力で地球ごと動かすというかつてないプロジェクト。その地球の行先を先導するナビゲーションプラットフォームとなる宇宙ステーション。そこには世界各国から派遣されたプロフェッショナルたちが重要な任務にあたります。太陽系を離れてしまえば、当然地球の温度は急激に低下するため、巨大エンジンの地下に都市を移設。選ばれた者が優先して移住し、新しいコミュニティを作り、大半の人類はそこで耐えしのいで暮らすことになったのでした。

そして舞台は計画始動から17年後。

北京3号地下都市で暮らす若者リウ・チーは今年の春節は地上で迎えようと画策して、やる気なさそうに授業を受けていた妹(義理)のハン・ドゥオドゥオをなかば強引に連れ出して、地上行きの集団に紛れ込んでいました。リウ・チーの父親リウ・ペイチアンは、流転地球計画が始動する前にまだ幼かったリウ・チーを義父のハンに預け、自らは宇宙ステーション任務にあたるために長期勤務で離ればなれに。その際、自分の妻であり、リウ・チーの母である女性を、病弱である理由から見捨てたため、リウ・チーは父に対して強い怒りと反発を抱いていました。

このあたりの物語の土台となる世界観は良しとして、映画『流転の地球』の物語のメインサスペンスとなる木星衝突のくだりは、原作にはない大幅にアレンジを利かせたオリジナル展開。木星に近づきすぎたことで、4771基のエンジンが緊急停止。エンジンを再始動させないと、地球の35億人の命が危険に。星そのものの命運をかけた一大スペクタルです。

前述したように『アルマゲドン』や『インデペンデンス・デイ』を彷彿とさせる(おそらく製作側も意識したであろう)“地球を救うための一世一代のミッションに挑む人間たちのドラマ”という超ベタなテンプレを物語の下敷きにする…ヒットの法則に沿った映画作りをしているのはしたたかなところ。今やこういうタイプのノリの映画はハリウッドでは作られづらくなったので(作りそうなのはローランド・エメリッヒ監督くらい)、逆に懐かしさと新鮮さが押し寄せてくる変な鑑賞体験でしたね。

中国といえば花火です

そんな王道ストーリーの中にも、しっかり中国らしい要素を入れているのもポイント。

連合政府の管理下にある地球なのであまり個々の国ごとの対立的なものは存在しないのも、そうした描写を規制したがる中国映画市場には都合がいいのですが、設定上の舞台は中国なので、当然、中国要素が登場します。

例えば、リウ・チーとドゥオドゥオ、ハン、ティムがCN171-11救援隊に徴用され、エンジン再起動のための着火石の運搬任務に巻き込まれていくくだり。通りかかった上海では氷壁に阻まれ、落下してきた氷の塊で車両も大破するなか、高層ビルを登っていくことになります。このビルは「上海タワー」です。現時点では中国で最も高い超高層ビルであり、中国の発展の象徴となっている建物。それがすっかり氷に覆われているというのも中国人的にはショックでしょうし、その高さが逆に主人公たちの苦行となり、そこをひとつひとつ前進しなくてはいけないというのも意味深です。その場所で中国の反映と荒廃の歴史を見てきた最も年齢のあるハンが亡くなるのも必然性のある展開ですね。

また、杭州地下都市はマグマでつぶれたことが判明し、救援隊も意見の対立が起き、分断されてしまうという展開が起きます。これは杭州がかつて中国と日本の激戦により戦火に見舞われ、占領されていった歴史を連想させるものであり、偶然ではないでしょう。

ただ、一番中国らしいなと思うのは「春節」に絡めた展開かなと。旧正月を祝う中国では一年で最も賑やかなイベントであり、花火や爆竹で盛大に盛り上がる時期。『流転の地球』も「エンジンを再起動させる」そしてそれでも木星とのロッシュ限界(詳細はネットで調べてね)でなおも危機は回避できない絶体絶命のなか「木星の大気に引火させる」という作戦に挑むビジュアルがまさに春節っぽさを漂わしています。

そもそもあの巨大エンジンもどうやってあんな莫大なエネルギーを捻出しているんだとかツッコミだしたらキリがないのですが、着火石とかいうわけのわからんものをカチャっとやってエイヤでドーン!という“細かい理屈はなしでいこう!”スタイルは、春節のノリなんです。盛り上がってる~?

各国の救援隊が協力してインドネシア・スラウェシでエンジンを爆上げすればOK。宇宙ステーションで孤軍奮闘するリウ・ペイチアンが、人間に無慈悲なプログラム機械モス(MOSS)に「新年おめでとう」の決め台詞とともにウォッカを投げつけ、炎上させるシーンといい、その後の“俺が燃料になってデカイ花火を打ち上げる!”展開といい、新時代の幕開けは派手にいくぜなテンションは実に中国らしい。アメリカだと核兵器だけど、中国はやっぱり花火なんだな…(作中で「ICBMでも無理だ」とアメリカ的戦術を否定しているのはちょっと笑った)。

流転の地球

今後の行く末に期待したい

そんな中国要素は抜きにしても、大味なだけの物語に見えて、意外に細かいところで伏線を利かせているのも上手いあたり。

終盤の「木星水素引火爆発」作戦のフラグとなる情報を冒頭の星を見る親子の会話で示すのはもちろん、序盤からドゥオドゥオがなにげなくかんでいる風船ガムもその木星爆発をイメージさせるようなヒントになっていますし、地上行きのスーツを手に入れるくだりで謎技術の球体発生装置の破裂衝撃で切り抜けるシーンも同じく(それにしてもあのアイテムは若干チートでしたね…)。最初からオチにつながる描写を断片的に入れまくっていました。

ドラマ面も丁寧。リウ・ペイチアンとリウ・チーの父子の「木星が見えたら会える」を軸にした最終的な認め合いも良いですし、ハンからの想いのバトンタッチも綺麗に構成。大型車両を運転する際の「安全第一。交通違反は家族が悲しみます」の音声メッセージが意味を帯びてくるのも地味ながら巧みじゃないでしょうか(木星衝突の件も広い解釈では交通事故みたいなものですから)。

全体的に世代交代がテーマにあり、まさしくリウ・チーはリウ・ペイチアンとハン、救援隊チームの意志を引き継ぐのですが、結局ラストの段階ではまだ大型車両を運転するぐらい(しかもまだ下手)なのが無理に背伸びしていない感じで良いと思います。万能な救世主じゃないく、これから若者たちが成長して、新しい未来を開拓してくれる…そんな展望はイマドキらしいです。

ビジュアルのクオリティはVFXにおいても海外のCG企業と共同して作っているだけあって、ハリウッドと比べても何の遜色もなく、見ごたえ抜群。重要なのは中国はもうグローバルな映画製作のノウハウを身に着けて実践できるようになったということですよ。この点についてはいまだに製作体制でもガラパゴス化した日本は一万光年遅れてしまったのか…。

モスのもろな『2001年宇宙の旅』オマージュといい、SFリスペクトもほどよく、このタイプのエンタメ・ジャンルを正統派に現代アップデートした良作がまさか中国から生まれるとは。

なにはともあれこれからの中国のSF映画の行く末が楽しみです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 80%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『アルマゲドン』…ご存知“地球を救う”系の代表作。この頃のアメリカはまだ調子に乗っていられた…。
作品ポスター・画像 (C)China Film Group Corporation

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