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ドラマ『カトラ KATLA』感想(ネタバレ)…噴火は謎の始まりにすぎない

カトラ

アイスランドの超自然現象ミステリースリラー…ドラマシリーズ『カトラ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Katla
製作国:アイスランド(2021年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
原案:バルタザール・コルマウクル、ボルクル・シグソルソン

カトラ KATLA

かとら
カトラ

『カトラ KATLA』あらすじ

アイスランドのカトラ火山の壊滅的な氷底噴火から1年。いまだに周辺環境は激変した状態であり、多くのエリアは立ち入り制限がかかり、大半の住民は避難したままだった。それでもわずかな住人が復興を夢見て生活を続け、研究者も火山活動をモニタリングしていた。ところが、長い間氷河の奥深くに閉じ込められていた謎が次々と溶けだし、にわかには信じられない未知の現象を前に人間たちは試されることになる。

『カトラ KATLA』感想(ネタバレなし)

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噴火を侮ってはいけない

2021年10月26日、十島村・諏訪之瀬島の御岳で火山活動にともなう大規模な爆発が発生し、高さ3300mもの噴煙があがり、凄まじい映像をお茶の間に届けました。コロナ禍から観光地が回復し始めて、御岳周辺も観光客が訪れていた矢先の出来事。専門家によれば「活発化する兆候は見られない」そうですが、その後も規模の大きい噴煙はあがっています。

日本は火山大国なのであちこちに火山があり、あちこちで火山活動が起きています。いちいち騒ぐことではないですし、たいていの地元は風評被害を恐れて静観な態度をとることが多いのですが、もし万が一危機的な噴火が生じたらどうするのか。どこまで本気で対策しているのか。正直、そこのところは曖昧です。そういう最悪は考えたくない気持ちも理解できるけども…。

火山の影響力は甚大です。2021年は8月中頃に小笠原諸島の硫黄島の南方約60kmに位置する海底火山の福徳岡ノ場火山で噴火が起き、それによって発生した大量の軽石が10月になって南西諸島に漂着し始め、さまざまな被害をもたらしました。この軽石などがどんな影響を生態系に与えるかはまだわかっていません。

今回紹介するドラマシリーズも火山活動を題材にしたものなのですが、噴火がまさかまさかの予想外の現象に連鎖し、「な、何が起こってるんだ…!?」というパニック状態を引き起こす超常現象ミステリースリラーになっています。

そのタイトルが『カトラ』です。

本作はその題名のとおり、アイスランドにある「カトラ火山」周辺地域が舞台になる、アイスランドのドラマシリーズです。このカトラ火山はアイスランドで最も危険な火山とされています。なぜなら周囲をミールダルスヨークトル氷河やエイヤフィヤトラヨークトル氷河で囲まれているため、ひとたび噴火すれば氷河は溶けてあたり一帯は大洪水になるからです。カトラ火山が大規模に噴火した最後の記録は1918年。約80年おきに噴火していることが歴史からわかっているのでそろそろ大規模噴火が起きてもおかしくはありません。

本作『カトラ』ではそのカトラ火山がついに大噴火を起こしたという設定になっており、その噴火から1年後の周辺地域の町を舞台した人間模様を描いています。でも『白頭山大噴火』みたいなディザスターパニックではないというのが大事なところ。

1年経過しても火山活動は続いているのですがド派手な災害シーンはほぼありません。じゃあ、何が描かれるのかというと、“とある超常現象”。これが、まあ、言いづらい…。それは火山と関係あるのか謎で、にわかには信じがたい事象。これ以上はネタバレになるので言えないですが、この超常現象に翻弄されていく地元住民や研究者を描いていきます。

超常現象を土台にしたミステリー要素がかなり強いので、同じくドラマシリーズで言うところの『ダーク DARK』なんかと雰囲気は似ていると言えるかも(題材やオチは全然違いますよ)。

物語のテンポはとてもゆっくりなので、1%ずつ不気味さがあがっていく感じの怖さを体感することになるでしょう。最初は「へぇ~そういうことね」と思っていたのが「あれ、そうなるの…?」となり、しまいには「ヤバイ、これ、どうするんだ…」という絶望に変わる…。

原案は、同じくアイスランドのドラマ『トラップ 凍える死体』を手がけた”バルタザール・コルマウクル”“ボルクル・シグソルソン”のコンビです。

『カトラ』はシーズン1は全8話(1話あたり約50分)。Netflixで配信中なので、家でじっくりこの謎に向き合ってみてください。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:ジャンル好きにはたまらない
友人 3.5:謎解きを楽しんで
恋人 3.5:王道ロマンスは無いけど
キッズ 3.5:やや暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『カトラ KATLA』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):次々と現れる生命

カトラ火山が噴火して1年。まだ噴火跡地周辺は生々しい荒廃した光景が広がっており、大量の火山灰などが堆積し、嵐になればそれが舞い上がり、呼吸さえ難しくなるほど。それでも周辺の町「ヴィーク」ではわずかに住民が残り、ひっそりと暮らしていました。

警察署長のギスリはインタビューに答え、避難住民は地元に戻りたいと思ってもまだ噴火が続いているので無理だと口にします。

地元を離れたくないと居座っている住人以外だとこの地に住んでいるのは研究者だけ。グリマもそのひとりです。実はグリマは姉のアシャが噴火時に命を落としており、いまだに喪失感を引きずっていました。婚約者のキャータンとの関係もギクシャクしており、父のトールとも良好とは言えません。

ある日、閉鎖地域でひとりの人がフラフラ歩いているのが双眼鏡で確認できました。あんな場所に人が出歩くなどあり得ません。急いで車で向かうと、その人は女性のようですが全身が真っ黒で、震えて何も喋りません。旅行者で迷子になったのか。「ここはどこ?」とかろうじて発見された女性は口にします。「名前は?」と聞くと「グンヒルド」と答えます。「1人で旅行を?」「たぶん」「誰か他に会った?」「トール・ヨンソン」…それはグリマの父の名です。

警察署長のギスリも謎の人物の発見の知らせを聞いて、家から病院に向かいます。ギスリの妻マグナーは呼吸器官の症状が悪化しており、レイキャビクに連れていかないと肺がもたないほどの状況でした。ギスリの息子のエイナーは一緒に働いています。

病院では発見されたグンヒルドの身元確認が続きます。「仕事に行かないと」と言うグンヒルド。なんでも職場は「ホテル・ヴィーク」だと言うのです。そこにグリマの父トールも駆け付けますが、グンヒルドを見て信じられないものでも目にしたような顔を一瞬見せ、そのまま立ち去ります。発見されたグンヒルドの方はトールのことを理解しており、何かしらの関係があったようです。

ギスリは聞き込みのためにホテルを経営するバーグランのもとへ。ここに今は従業員はいないそうですが、グンヒルドというスウェーデン人は15年から20年前に働いていたと知ります。2001年のことです。名前はグンヒルド・アールバーグ。その頃はバーグランの母がホテルを経営していました。不思議なことに従業員名簿に載っている2001年のグンヒルドの顔と、現在発見されたグンヒルドの顔は全く同じ。まるで年をとっていないような…。

ギスリは判明した名前からホテルで働いていた2001年のグンヒルドの所在を確認します。連絡がつきました。自宅に電話をすると息子のビョルンが対応。そしてグンヒルド本人とも会話できました。グンヒルドと名乗る女性が発見されたという話をすると、向こうのグンヒルドも不思議がります。親戚などではないようです。しかし、トールという名前を出すとグンヒルドは電話を切ってしまいました。

その頃、研究所ではカトラからのサンプルに異変は見つかり、ダリが現地に行くことにします。ダリはラケルという妻と生活していますが、3年前にミカエルという息子を亡くし、悲しみから立ち直っている最中でした。

一方、グリマは小屋で信じられない人間を目撃します。発見されたグンヒルドと同じで全身が真っ黒な人物。女性です。震えて小屋の片隅にいたその人。それは、亡くなったはずのアシャで…。

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シーズン1:意地悪な破壊の物語

謎が謎を呼ぶ『カトラ』。同一人物名の存在が出てくるので解説しづらいですね。一応ここでは当初から現存する人物を「名前(本人)」、後から出現した人物を「名前(黒)」と表記して区別しようと思います。

最初は噴火から1年後ですし、行方不明者でも発見されたのかと思います。でもそのグンヒルド(黒)という女性は、ホテルで働いていたグンヒルド(本人)が行方不明になった存在でも何でもなく、ちゃんとグンヒルド(本人)は生存していました。親戚でもない。それどころか記憶が一緒で、まるで同一人物のような…。

そうこうしているうちに第1話のラストで、死んだはずのアシャ(黒)が発見されます。もしかして死者が復活するのか…でもグンヒルド(本人)は死んでいないし…じゃあアシャ(本人)は1年間もどこかで生きていたのか?

そして今度はダリの死んだ息子であるミカエル(黒)まで発見され、いよいよ説明不可能に…。

本作が嫌らしい作りだなと思うのは、死者の復活を描いておきながら全く喜べない展開になること。一般的に大切な人を災害や病気で失えば「戻ってきてほしい」と遺族は願います。本作はまさにその願いが実現したのです。ところが遺族だった人たちは素直に受け入れられません。それどころか出現した“亡くなったはずの人物”を引き金に家族はバラバラになっていくという…。

ミカエル(黒)は学校への放火の過去があり、両親にとっての「子を理解できない恐怖」が再燃してしまい、ついには惨劇が起こってしまいます。一方で、アシャ(黒)はグリマとともに母のアルフェイダーが自殺した過去のトラウマを呼び起こすことになってしまい、あげくにはアシャ(黒)は母と同じように水に身を沈めて死を選びます。

そんなこともお構いなしにさらに事態は混沌へ。ギスリの妻のマグナーも、マグナー(本人)の隣にマグナー(黒)が出没。そしてグリマ(本人)さえもグリマ(黒)と遭遇。

本作のこのドッペルゲンガー的なもうひとりの自分は、ある種の理想を反映した姿で登場し(マグナーなら病気がない、グリマなら婚約者と愛が良好)、本人の屈辱を煽ります。このあたりもかなり嫌悪感を刺激する構図ですね。

ディザスターパニックというのはたいていは災害経験によってバラバラだった人間関係が見直されて強固になるというのが定番なのですけど、この『カトラ』は逆にぐちゃぐちゃになっていくという過程をねっとりと描いており、なんとも意地悪な“人間関係破壊”ストーリーです。

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シーズン1:オチは氷河の中に

では『カトラ』のオチの話。

作中でホテル経営のバーグランは民話を語ります。大昔の「チェンジリング」のゾッとする話。「取り替え子」ってやつであり、よくあるヨーロッパ民話に登場する妖精とかのあれですね。ちなみにカトラ火山はアイスランドに伝わる魔女の名にちなんで命名されたそうなので、アイスランドのあの周辺もそういう摩訶不思議民話があるんでしょうね。

しかし、本作はファンタジーな御伽噺で終わりません。発見されたアシャ(本人)らしき遺体とアシャ(黒)のDNAが一致し、科学的な説明が不可能になってきたとき、ダリがクレバスに降りて目にしたもの、導いた結論。それはあのカトラ火山の氷河の奥深くに隕石が眠っているという推測。その隕石には未知の物質があり、それは何かに反応して生命体をそっくりそのまま複製できるのはでないか。つまり、次々と出現したあのドッペルゲンガーはエイリアン的な地球外生命体ではないですけど、地球外の物質の影響を受けて生まれたのかもしれない。

一気に世界観はSF濃度が増しました。でも荒唐無稽かというとそうでもない。そもそもあのアイスランドの殺風景がいかにも生命誕生前の地球みたいなんですよね。だからそこに生命が誕生していくという光景は太古を思わせつつ、そのきっかけが隕石というのも史実的にもあり得る話です。もちろんあんないきなり複雑な構造を持つ生命は作れないと思いますけど、簡単な構造のバクテリアとかは隕石などの外部的な要因で誕生したのではないかという説もあります。そうやって徐々に生命が誕生していき、荒れ果てた大地に命が溢れるようになっていたのが今の地球です。

このアイスランドの地で地球生命誕生の歴史が繰り返されようとしている。なんともワンダーな世界観じゃないですか(そうも言ってられない深刻さだけど)。

こういう突拍子もない話に思えつつ、裏ではしっかり科学的な考証による土台もある。これぞSFですよ。

同時に考えさせられるのは人間の倫理観というか宗教観であり、やはり同一人物が2人いるのは許されないという価値観が根底にあるんですよね。だからギスリなんかは神の意思に委ねてしまうし、グリマもどちらかを殺そうとする(ちなみにあの最後のロシアンルーレット。作中では明確に描写されていないですけど、弾数と引き金を引く順番からして生き残ったのは本物の方のグリマですね)。

私なんかは「ま、自分が2人いても、とりあえずいっか!」くらいの軽さで片付けてしまいそうではある。マルチバースに慣れすぎているな…。『リック・アンド・モーティ』の世界観にギスリが迷い込んだら発狂してしまうだろうなぁ…。

最終話エンディングではさらに続々誕生するコピー人間のお出ましで終わっていましたけど、個人的には他の生物種はどうなるんだろうかと気になります。作中でも動物のコピーが生まれている描写がありましたけど、絶滅した太古の生物とかも複製できるのかな。アイスランドにはたいして生物がいないのが不幸中の幸いですね。

『カトラ KATLA』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 79%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『カトラ KATLA』の感想でした。

Katla (2021) [Japanese Review] 『カトラ KATLA』考察・評価レビュー