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ドラマ『シークレット・インベージョン』感想(ネタバレ)…MCU陰謀論が自動生成される

シークレット・インベージョン

MCU陰謀論が自動生成される…「Disney+」ドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Secret Invasion
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にDisney+で配信
原案:カイル・ブラッドストリート
恋愛描写

シークレット・インベージョン

しーくれっといんべーじょん
シークレット・インベージョン

『シークレット・インベージョン』あらすじ

アベンジャーズの影の立役者である元「S.H.I.E.L.D.」長官のニック・フューリーは、あの大事件以降、公の場から姿を消していた。地球を離れていたフューリーが久しぶりにこの大地に降り立ったのには理由がある。優れた擬態能力を持ち、効果的な部下として活用していたスクラル人のコミュニティに不穏な動きが起きていた。誰が味方で、誰が敵なのか…その真偽さえも確かめられないままにフューリーは人生を賭ける。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『シークレット・インベージョン』の感想です。

『シークレット・インベージョン』感想(ネタバレなし)

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MCUの世界も信用にぐらつく

最近はもう何も信用できませんよね。

車を修理してくれる会社だと思ったらこっそり逆に傷をつけられていたりするし、マイナンバー諸々のシステムはトラブルだらけだし、見慣れたSNSは「X」に名称をいきなり変えるし…。

しかし、「信用」という概念自体、そもそもが私たちが作りかけた見せかけの代物にすぎないと言えるのかもしれません。「信用するものがない!」と嘆くよりは、私たちがこの不完全な世界をどこまで受け入れ、そしてその不完全さの中でもできる限りの信念や正しさを貫けるか…そういうことが求められているのだと思います。

100%の絶対の信用は存在しないけど、やってはいけない一線はあるでしょ?…という感じですかね。

そんな時代において、この世界もその領域に突っ込んでいくのか…。

どの世界の話? はい、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」です。

最新作ドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』はあのヒーローに救われた世界さえも“不確かさ”という疑念を処理できずに自壊していく姿を描いています。

本作は「シークレット・インベージョン」というコミックを原作としていますが、この作品は以前より映像化への期待がファンの間で高まっていたものでした。かなり壮大な展開が起き、(ネタバレはできないので伏せますが)世界観の常識がひっくり返ることが勃発するからです。

このコミックのタイトルを冠したドラマシリーズの発表がされた際は「え? ドラマシリーズで?!」とびっくりしたものですけど、映画よりもドラマに向いていると判断したのでしょうか。

ドラマ『シークレット・インベージョン』は「ニック・フューリー」を主人公とした初のMCU作品でもあります。あの「アベンジャーズ」を組織したMCUの陰の功労者、フューリー。これまでの作品だと常に裏にいて、何かいつも優位に立ち回る、素性不明だけど頼りになる柱という感じでした。本作ではそのフューリーのプライベートが明らかになり、より人間味溢れる描写が増しています。演じる“サミュエル・L・ジャクソン”も心なしかいつもより楽しそうです。

今作はMCUの中でもまた新しい挑戦がいくつもあり、まずフューリーという超人ヒーローではないキャラクターが主役というのも異例ですし、スパイ・スリラーのジャンルとしては映画『ブラック・ウィドウ』に続いてになりますかね(主役が超人であれば『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』はスパイ・スリラーだったけど)。

レーティングも少し高めで、『ムーンナイト』『ウェアウルフ・バイ・ナイト』と最近のMCUは暴力表現を高めつつあります。

それにしてもMCUのドラマシリーズは2022年8月~10月に配信を開始した『シー・ハルク ザ・アトーニー』以来なので、8カ月ぶりくらいの新作ドラマなんですね。何かと作品作りすぎだと言われがちなMCUですが案外と最近はもうそうでもないです。

ドラマ『シークレット・インベージョン』は誰が味方で敵なのかわからなくなっていく疑心暗鬼スリラーですけど、そういうのはフィクションの中だけにしてほしいものですね。

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『シークレット・インベージョン』を観る前のQ&A

Q:「ニック・フューリー」ってどんなキャラクター?
A:眼帯がトレードマークの男。以前は「S.H.I.E.L.D.」という組織の長官で、「S.H.I.E.L.D.」崩壊後は裏でこそこそと活動してヒーローを支援していました。
Q:『シークレット・インベージョン』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:少なくとも映画『キャプテン・マーベル』は観ておくといいと思います。
✔『シークレット・インベージョン』の見どころ
★疑心暗鬼を煽る不穏なスリラー。
✔『シークレット・インベージョン』の欠点
☆世界観の精密さには欠ける。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:シリーズファンなら
友人 3.5:気軽に暇つぶしに
恋人 3.5:夫婦愛要素あり
キッズ 3.5:やや暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シークレット・インベージョン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ニック・フューリー、ついに本物?

モスクワ。CIA捜査官のエヴェレット・ロスは武器を隠し持って夜の街を歩いています。ひとめにつかないように、ある建物へ。そこはプレスコット捜査官の隠れ家でした。

「ある人が別人、それも人間ですらなかったら?」とプレスコットは意味深なことを語りだします。この1年間、5件のテロで別々の組織が犯行声明、それで緊張を仕組んだ奴がいるそうで、プレスコットは「スクラル人だ。奴らはこの地球で虎視眈々と狙っている。ダンヴァースとフューリーが奴らに新しい星を約束したが今は地球を欲しがっている」と言い切ります。

さすがに荒唐無稽な話なので否定するロス。フューリーの味方なら地球の味方のはず。肝心のフューリーは宇宙に漂う「S.A.B.E.R.」の防衛システム基地にいて、呼び寄せるにはそれなりの理由がないといけません。

プレスコットはおもむろにあるデータを見せます。そのときプレスコットはロスに掴みかかって押し倒してきて、プレスコットは撃ち抜かれます。

ロスは脱出を要請。追っ手に追われ、建物の屋上へ。足を滑らせて落下し、マリア・ヒルが駆け付けます。ロスを追い詰めた追手はフューリーの右腕となっているスクラル人のタロスでした。しかも、ロスはスクラル人が変身していた姿で、マリアは思わぬ状況に立ち尽くします。

その後、ニック・フューリーが地球の地に降り立ちます。そこに長年仕事仲間としてタッグを組んだマリアが迎えに来ます。タロスと落ち合い、事情を聞きます。

タロスは妻のソレンを亡くし、スクラル人の評議会から追い出されていました。今、グラヴィクという強行派の若いスクラル人が勢力を強めており、タロスの娘のガイアも一員になっているというのです。グラヴィクは、大国であるアメリカとロシアを戦争させ、人間の絶滅を企んでいるとのこと。

一方、ホワイトハウスでは、「ウォーマシン」として「アベンジャーズ」の仲間と一緒に戦ったこともあるジェームズ・“ローディ”・ローズがフューリーが地球に戻ったことを傍受で把握し、アメリカ大統領のリットソンに告げていました。アメリカには無断での行動です。

フューリーは夜の街を歩いていると誘拐されます。目の前にいたのはMI6のソーニャ。「わざと捕まったんだ、何か知ってるか」とフューリーは慌てず対応。ソーニャもスクラル人の動向を気にしているようです。

ところかわってモスクワから遠く離れた場所。ガイアは「ニュー・スクラロス」と呼ばれる地帯へ足を踏み入れます。そこはスクラル人が穏やかに暮らす避難所であり、同時にグラヴィクの拠点でもありました。

奥では人間を拘束し、見た目と精神を奪って、スクラル人を人間の世界に忍び込ませています。計画は着々と進んでおり、さらに奥の手も研究していました。

フューリーはこの地球規模の巨大な侵略の陰謀を防ぐことができるのか…。

この『シークレット・インベージョン』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/16に更新されています。
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落ちぶれたニック・フューリー

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』にてフューリーは自身の古巣である「S.H.I.E.L.D.」「ヒドラ」という集団に文字どおり乗っ取られてしまっていました。

以降は世界の裏で暗躍し、ヒーローの後方支援をしていました(『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』)。ただシリーズの集大成『アベンジャーズ エンドゲーム』ではほぼほぼ出番は無く、自分と影すらも消えかかっていて…。

その後は『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』で登場したと思ったら実はスクラル人のタロスの変身した姿であり、「フューリーは地球にいないらしい」という状態がずっと継続していました。

で、本作『シークレット・インベージョン』になりますが、ここで初めてフューリーの内心が明らかにされます。どうやらフューリーはあのサノス騒動で自分も“指パッチン”で消されたのが相当に身に応えたようで、すっかり自信喪失していました

今作のフューリーは以前の頼りがいは消え失せ、見る影もないほどにメンタル面でも弱っています。この既視感、ドラマ『オビ=ワン・ケノービ』と同じですよ。

「私とキャロル・ダンヴァースが新しい故郷を見つける」と豪語したけど、それも失敗してしまった自分を恥じているのがありありと伝わってきます。ちゃんとそういうのずっと気にしちゃうタイプの人だったんだな…。

そこに登場するキーパーソンが、プリシラ(ヴァーラ)というフューリーの妻であるスクラル人。奥さんをずっと放置だったというのも酷い話ですけど、最後はプリシラ(ヴァーラ)にスクラル人とクリー人の和平交渉の外交官になってほしいと大役を任せて一緒に宇宙に戻ります。

そしてもうひとりのキーパーソンがソーニャで、MI6のソーニャはスクラル人の新たなリーダーとなったガイアを引き込んで、この地球で上手く蠢くつもりのようです。ソーニャは、弱り切ったフューリーと違って全然元気で楽しく立ち回っており、“オリヴィア・コールマン”の名演がさすが。

こんなふうに今作のフューリーは、ある意味で自分だけで背負いすぎていた大きな役目を、他の人(とくに女性)に譲り分担するという姿勢をやっと覚えたのであり、そこがこのキャラクターの成長となっていました。

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現実の陰謀論とシンクロする

ものすっごくフィクショナルなドラマ『シークレット・インベージョン』ですが、土台になっている設定は現実の陰謀論から影響を受けています。というか、偶然なのか、今この瞬間に起こっている陰謀論や事件とシンクロすることがやけに多い気がします。

まず「宇宙人が人間になりすまして社会を乗っ取っている」…これは陰謀論の鉄板です。基本的に「○○が社会を乗っ取る」という陰謀論はひっきりなしに山ほど存在します。この「○○」はいろいろこれまで唱えられてきました。ユダヤ人、ソ連(共産主義)、文化的マルクス主義、ジェンダー・イデオロギー…。要するにその時代その時代で一部の大衆が嫌悪感を持ち、拒絶する存在がターゲットにされてきました。

とくに最近の陰謀論主体者は「Qアノン」の勢力が顕著で(ドキュメンタリー『Qアノンの正体 / Q: INTO THE STORM』を参照)、「グレート・リセット」とかなんとか言って、世界が乗っ取られると今も元気に言いふらしまくっています。

加えて、直近では「ワグネルの反乱」が起き、かなりロシア情勢が怪しくなったりもしているわけですが、これも作中でモスクワにてアメリカの反ロシア攻撃に見せかけた偽装工作が行われる展開と一致してしまっています。

また、作中ではリットソン大統領の傍にいたローディが実はスクラル人で、アメリカの国家中枢の機密が敵に筒抜けでした。これもあり得ない話に思えますが、現実では元大統領のトランプが普通に極秘書類を持ち出して騒ぎになっていますしBBC、そんなに非現実的でもない気もしてきます(スクラル人さえ出る幕もないかも)。

こんな感じで、本作『シークレット・インベージョン』は陰謀論者がキャッキャと喜びそうな作品なので、ちょっとモヤっとはしますよね。

ちなみに本作のオープニング・シーケンス、第1話配信直後に「あれはAIで作っている」と報道があり、当時はストライキでAIに反対していたタイミングだったので、マーベルはクリエイターの仕事を奪ったと非難を集めました。ただ、その後にオープニングを作ったスタジオが「AIはツールの一部であり、クリエイターの仕事は奪われていない」と反論する声明を発表。確かに初報の「Polygon」の記事は本作の監督の“アリ・セリム”の「聞いた話」として伝えているだけであり、詳細はわかりませんでした。ただ、それがどんどん話に尾ひれがつき、「あのオープニング自体が完全にAIの自動生成だった!」みたいな噂までSNSでまことしやかに駆け巡る事態に…(オープニングを作ったのは「Method Studios」という業界では有名なスタジオです)。

このAI騒動も結果的にまたも陰謀論的ですよね。一度でも「あれ、AIなんじゃね?」と疑われると情報が誇張されて拡散する…。

そういう時代なんでしょうけど、本作がそれを変なかたちで裏付けるとは…。

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他のMCU作品との整合性が…

現実社会の風刺としても機能しているのか偶発的なのか曖昧な位置づけのドラマ『シークレット・インベージョン』ですが、単純にクオリティとしてやや気になる点も今回は目立ちました。

これはドラマ『シタデル』の感想でも書いたのですけど、こういう「実はこうだった!」という衝撃の展開を連発するサスペンスって、どうしても後出しじゃんけんになりやすく、視聴者が白けるリスクがありますよね。

例えば、第1話の冒頭の「エヴェレット・ロスがスクラル人だった!」は別に許容範囲です。掴みの部分ですから。ただ、第1話ラストの「マリア・ヒルが死んだ!」、第3話の「ガイアが死んだ!(死んでない)」、第4話ラストの「タロスが死んだ!」…。この3連弾はさすがに同じオチを繰り返し過ぎじゃないかな、と。

しかも、スクラル人の偽装やスーパースクラル人の回復能力も加味して観客は想像しないといけないので、この死もどこまで本当かわからず、それはサスペンスとしての楽しさよりも都合よさに映る可能性が生じます。結局、マリア・ヒルの死亡は事実みたいですけど、長年従事してきたキャラのあのあっけない退場はファンには不満があるでしょう。

さらに気になるのが他のMCU作品との世界観の整合性です。

グラヴィクの件ですが、若者が社会に反発して「能力」を手にして混乱をもたらす…というストーリーはドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でもやっています。それと比べるとあちらは人種のテーマに向き合って迫真さがありましたが、今作はやや雑です。「私たちは惑星を持たない民族です」というセリフからも今作のスクラル人はシオニストのようなユダヤ主義と重ねる構図が際立つのですが、それにしたって陰謀的に傾くので余計にノイズでしかありません。

また「エイリアンを受け入れる場が地球にない」という本作の背景も、『ソー ラブ&サンダー』を観た私にしてみれば「え? アスガルドの人たち、普通に地球に棲みついていたよね?」とどうも腑に落ちないのですけど…。

そもそもあのロキだっていくらでも姿を変えて人間社会の転覆を狙ってきたわけで、シェイプシフターの脅威は経験済みのはずで…。今さら地球人以外の種族を敵とみなす緊急法案?という感じだし…。

他にも、終盤でまさかの「キャプテン・マーベル」と同等の能力を手にすることになるガイア。グラヴィクをその力で圧倒しますが、こういう女性がパワーを手にする描写も『シー・ハルク ザ・アトーニー』でもう一段批評をステップアップして描いたはずで…。テーマの深度として後退しているような…。

それ以外だと、頑なにアベンジャーズを動員しないフューリーだけどアントマンくらいなら偵察に使えるから声かければいいのに…とか、あちこちで疑問が残るところが頻発して…。

『シークレット・インベージョン』はMCUの膨れ上がった世界観が実は結構クロスオーバーする要素が多く、一方でリアルなポリティカル・スリラーにしないといけない面もあったので、ゆえに精密さにボロがでたんじゃないかな…。

今後は『マーベルズ』『アーマー・ウォーズ』などへと物語は続くでしょうけど、世界観の整合性の確保は今まで以上に大変になるでしょうね。AI任せでは対処しきれない課題ですよ。

『シークレット・インベージョン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 58% Audience 63%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
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関連作品紹介

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。

・『ミズ・マーベル』

・『ホークアイ』

作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios シークレットインベージョン シークレットインベイジョン

以上、『シークレット・インベージョン』の感想でした。

Secret Invasion (2023) [Japanese Review] 『シークレット・インベージョン』考察・評価レビュー