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『13th 憲法修正第13条』感想(ネタバレ)…「アメリカは犯罪率が高い」の真っ黒なカラクリ

13th 憲法修正第13条

「アメリカは犯罪率が高い」の真っ黒なカラクリ…映画『13th 憲法修正第13条』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:13th
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:エイヴァ・デュヴァーネイ
人種差別描写
13th 憲法修正第13条

さーてぃんす けんぽうしゅうせいだいじゅうさんじょう
13th 憲法修正第13条

『13th 憲法修正第13条』物語 簡単紹介

刑務所への収監者数が世界最多のアメリカ合衆国。この不名誉な統計を後押しするのは、黒人には犯罪者が多いという根強い偏見と差別意識である。それは正確な数字ではないというのなら、どんな実態があるのか。現代のアメリカ社会に公然と存在する、アフリカ系アメリカ人の大量投獄の裏に潜む歪んたシステムを、学者、活動家、政治家が詳細に分析する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『13th 憲法修正第13条』の感想です。

『13th 憲法修正第13条』感想(ネタバレなし)

憲法が国民を苦しめる!?

日本では「憲法を守る」といった場合、大抵それは平和主義を規定した「第9条」に向けられがちですが、日本の憲法には他にも大切な条文が数多くあります。

そのひとつが「第18条」です。

第十八条
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

もしこの第18条がなければ、今、社会問題になっているブラック企業どころの騒ぎではない、労働基準法さえも存在しない世の中になっていたかもしれないのですから。

ところ変わってアメリカの憲法にも、似たような条文があります。それが「アメリカ合衆国憲法修正第13条」と呼ばれるもの。

当然、この条文もアメリカ国民を守るうえで大切なもの…と思いきや、実は違う事情が裏にはあった。それを暴き出しているのが本作『13th 憲法修正第13条』というドキュメンタリー映画です。

この作品は先日発表された米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネートされました。日本ではNetflixで配信されています。アカデミー賞ノミネート作は発表時点では日本未公開なことが多いなか、こうやってすぐ観れるのはうれしいですね。Netflix様様です。

また、本作は「アフリカ系アメリカ人=黒人」の歴史がかなりわかりやすく解説されていきます。最近も、米アカデミー賞作品賞にノミネートされた『Moonlight』や『Hidden Figures』など黒人を主題にした評価の高い映画が続々作られています。こうした作品を隅々までしっかり楽しむためにも、本作は黒人の歴史的・社会的背景を知るうえでの最良の教材となるでしょう。

『13th 憲法修正第13条』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『13th 憲法修正第13条』感想(ネタバレあり)

あらすじ(前半):犯罪大国の秘密

アメリカの人口は世界の5%程度、しかし受刑者数は世界の25%を占める…。なぜこんな異常なことになっているのか。1972年に30万人だった受刑者数が現在は230万人に。なぜここまでの極端な増加になっているのか。

答えはわかっています。

合衆国憲法修正第13条は奴隷的拘束の禁止を規定しています。全てのアメリカ人にこれが適用されます。しかし例外がひとつ。犯罪者は適用外です。それはまさに法の抜け穴でした。

奴隷制度は当時の経済システムでした。南北戦争によって奴隷制がなくなると、経済はガタガタになりました。それをどうすればいいのか。そこでこそ修正第13条です。

南北戦争終了後にアフリカ系アメリカ人たちは一斉に逮捕され、奴隷とそう変わらない状態に。徘徊や放浪など些細な罪で逮捕されました。もはや理由は何でもいいのです。そして労働に駆り出されました。これで不足した経済労働力の穴は埋められます。

それによって黒人がすぐに罪を犯すというイメージが盛んに流布されました。「黒い野獣の卑劣な犯罪」「黒人は手に負えない」「白人女性を襲う」「黒人の支配」…そんな罵詈雑言が平然と社会に流されていき、大衆の頭に染み込んでいきます。それまであった「アンクル・リーマス」の優しいイメージは消え失せました。欲深く邪悪な存在という印象が植え付けられたのです。

それだけではありません。映画もその後押しをしました。D・W・グリフィス監督の『國民の創生』は多大な影響を与え、社会現象になるほどに大ヒット。そこには白人の想いが代弁されており、劇中に出てくる黒人は動物のように卑しく描かれています。

それは単なるフィクションでは済まなくなりました。KKKが復活したのです。

黒人が実際に殺されていき、リンチが横行します。その理由は犯罪の嫌疑をかけられて…

耐えられなくなった黒人は南部から逃げます。事実上の難民状態です。こうして黒人はアメリカの他の都市に住むようになっていきます。

さすがにあからさまな暴力はマズイということになり、今度は人種隔離(ジム・クロウ)が拡大。黒人を分離することで、危険であるというイメージは誇張されていきます。同居してはならない存在になりました。

公民権運動活動家は政治家やメディアからも犯罪者扱い。しかし、公民権運動が達成しようとしたとき次の問題が。犯罪率の上昇です。ベビーブームの世代が大人になった急激な人口変化が原因でしたが、公民権運動のせいで犯罪率が上昇したと責任転嫁されました。黒人に自由を与えたら犯罪が増えたじゃないか…という論調で。

1970年代は大量投獄の時代の始まり。人種問題は犯罪問題にすり替えられました。ニクソン政権は「犯罪」を強調することで、公民権運動、反戦運動、女性解放運動、ゲイ解放運動に対抗しようとしました。

そして麻薬戦争という言葉が生まれます。薬物依存を健康問題ではなく犯罪問題として扱うことになります。これで南部の貧しい白人を共和党に転向させることに成功し、政治家は大満足。

1980年代。今度はレーガン大統領が麻薬戦争を本当に引き起こします。クラックがアフリカ系アメリカ人のコミュニティで拡散すると、その罪を極端に重くする措置を最速で実行。とてつもない数の黒人が家庭から消えました。

最初は政治政略の一部で口先だけだったのに、いつのまにか現実の大量虐殺と同じ効果をもたらすことに…。

悪夢はまだ終わりません。アメリカ社会は時代が変わってもあの手この手で黒人たちを上手い具合に犯罪者として人権を奪い、酷使することになります。これが自由の国、アメリカの不自由な現実。

憲法に染みついた奴隷の伝統は決して消えはせず…。

真っ黒なのはその歪んだシステム

私たち日本人はよく「アメリカは治安が悪い」とか「犯罪率が高い」とか言いますし、実際に統計上はそうなのですが、こんな深刻な闇があったとは…。「治安が悪い」や「犯罪率が高い」以上に最悪なこと、それは国家や社会の腐敗だというのが改めて実感できます。こうなってくると、統計さえも信用ならないです

日本にも人種的な問題は乏しいにしても、類似した事態は起きたりしています。去年に公開された『日本で一番悪い奴ら』で描かれた汚職なんてまさにそうです。

ただ、本作はスケールが違い過ぎる。しかも、目的が全く正義ではないのです。加えて、憲法がそれを支えているとは…銃の問題といい、なんでアメリカはいつも憲法が軋轢を生むのか…。

日本の憲法の「第18条」と“ほぼ”同じ「アメリカ合衆国憲法修正第13条」。

修正第13条
第1節 奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶ如何なる場所でも、存在してはならない。ただし犯罪者であって関連する者が正当と認めた場合の罰とするときを除く。
第2節 議会はこの修正条項を適切な法律によって実行させる権限を有する。

しかし、日本の「第18条」が全ての人に奴隷を認めないのに対して、アメリカの「修正第13条」は犯罪者ならOK。これが、奴隷制度が廃止された今のアメリカにおける新しい奴隷制度として機能している…それが本作に登場する専門家たちの主張でした。つまり、犯罪者が多いのではなく、意図的に増やしている…。もちろん、当事者は否定していましたが、ビジネスになっていることは事実なようで、それだけでもじゅうぶん問題なんですが…。

開いた口が塞がらないです。

ドキュメンタリー映画のお手本

本作ではアメリカの黒人の歴史をひとつひとつ解説しながら、その「裏の事情」につながっていく、その過程が実にサスペンスフル。題材の衝撃性もさることながら、ドキュメンタリー映画として非常に構成が巧みなのが凄いと思います。

こういう何かを暴くタイプのドキュメンタリーは、下手な人だといかにも陰謀論臭くなるものも多いなか、本作は実に客観的です。統計データの活用、専門家の証言の引用、数字やグラフの見せ方…どれもバランスが上手い。

そして、ここが一番重要かもしれないですが、退屈しません。良いドキュメンタリー映画のなかでもテーマは素晴らしいけど、ちょっと眠気が…みたいな作品は割とあります。しかし、本作はブラックミュージックも織り交ぜながら、決して全てが重苦しくならない。やはりここもバランスが絶妙です。ドキュメンタリー映画のお手本のような作品でした。

本作の監督は、公民権運動を描いて2015年のアカデミー賞にノミネートされた『グローリー 明日への行進』の監督もつとめた“エイヴァ・デュヴァーネイ”。私は知らなかったのですが、この監督はヒッフホップをテーマにしたドキュメンタリーでキャリアをスタートしているんですね。どうりで音楽の扱いが上手く、語り口が軽妙なわけです。

本作を観ずしてアメリカの黒人問題を語れないくらいの、外せない一作といえるのではないでしょうか。

『13th 憲法修正第13条』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 91%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

人種差別を扱ったドキュメンタリー作品の感想記事です。

・『SANTA CAMP サンタの学校』

・『殺戮の星に生まれて / Exterminate All the BRUTES』

・『ダリル・デイヴィス KKKと友情を築いた黒人ミュージシャン』

以上、『13th 憲法修正第13条』の感想でした。

13th (2016) [Japanese Review] 『13th 憲法修正第13条』考察・評価レビュー