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『SANTA CAMP サンタの学校』感想(ネタバレ)…サンタクロースは多様性をプレゼントできるのか?

SANTA CAMP サンタの学校

サンタクロースは多様性をプレゼントできるのか?…ドキュメンタリー映画『SANTA CAMP -サンタの学校-』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Santa Camp
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2023年にU-NEXTで配信
監督:ニック・スウィーニー
LGBTQ差別描写 人種差別描写

SANTA CAMP サンタの学校

さんたきゃんぷ さんたのがっこう
SANTA CAMP サンタの学校

『SANTA CAMP サンタの学校』あらすじ

毎年夏に開校し、ベテランのサンタが新人のサンタに歴史と伝統を受け継ぐサンタの極意を教える「サンタ・キャンプ」。しかし、今回は少し様子が違っていた。黒人のサンタや障害を持つサンタ、トランスジェンダーのサンタなどを迎えることになり、新しい試みに挑戦することにしたのだった。世間のサンタ像は「太った白人の男性」として根深く染みついている。そんな固定観念をリニューアルすることはできるのか。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『SANTA CAMP サンタの学校』の感想です。

『SANTA CAMP サンタの学校』感想(ネタバレなし)

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サンタにも多様性を

今年もクリスマスはやってきました。あなたが欲しいものはなんですか?

う~ん、「平等で差別のない世界」が欲しい? それはちょっとサンタクロースには荷が重すぎる…。

いいえ! サンタならやってくれる。だってサンタなのですから。憎悪と陰謀論をまき散らす悪い大人は論外ですが、平等を信じる良い子にはそれに見合ったプレゼントを与えるのがサンタの役割というもの。この期待に応えないなんて、サンタの名が廃ります。サンタは子どもたちに夢と希望を贈らなくては…。

そんな多様性(ダイバーシティ)の時代にふさわしいサンタになろうと奮闘するサンタたちの姿を追いかけたドキュメンタリーが今回紹介する作品です。

それが本作『SANTA CAMP サンタの学校』

日本ではあまりポピュラーではないのかもですが、世界にはサンタの仕事をしている人がいます。どういうことかと言うと、ショッピングセンターとか、地域のイベント会場とかで、クリスマス時期になると、サンタがやってきて、訪れた子どもたちと写真撮影したりする、あれです。

このプロフェッショナル・サンタ…なんでもアメリカには数千人いるらしいですが、誰でも自由にサンタを名乗れるのですけど、そんな中でもサンタの仕事をしている人たちが集まるコミュニティが各地にあります。

『SANTA CAMP サンタの学校』はその中でも「ニューイングランド・サンタ協会」に焦点をあてています。これはその名のとおり、アメリカ合衆国北東部の6州(メイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州)を合わせたニューイングランド地方を活動範囲とするサンタたちが集うコミュニティです。

この「ニューイングランド・サンタ協会」は毎年夏に「サンタ・キャンプ」というサマーキャンプを開催しており、みんなで交流を深めながら、サンタの連帯を再確認し、同時に新人サンタに講習をしたり、サンタをめぐる諸問題を議論したりしています。

このドキュメンタリーはその「サンタ・キャンプ」にカメラを持ち込んでいくのですが、そんなサンタ界隈の“ある変化”への試みをとくに撮らえていきます。それが「多様性(ダイバーシティ)」、英語だと「インクルーシブ」と言いますね。

サンタと言えば、世間のイメージは「おなじみの赤い衣装」「たっぷり髭をたくわえた太った老人」、そして「白人男性」です。「サンタ・キャンプ」にもそんな見た目の典型的なサンタばかりがいつもは集まっていました。

でもそんな一辺倒のサンタばかりでいいのか。そんな議論がこのサンタ協会にも持ち上がります。サンタの予約時に「サンタはみんな白人か?」と聞かれて「うちのサンタは全員白人です」と平然と答えていたけど、もうそういう姿勢ではダメなのではないか。

けれども固定観念はしぶといです。サンタの中にだって「サンタは白人だろう」と考える者もいます。しかし、この「ニューイングランド・サンタ協会」は思い切った挑戦をすることにしました。これまでとは違うサンタも呼んでみよう、と。

本作では、そんな経緯でこの「サンタ・キャンプ」に参加することになったサンタの従来の規範に当てはまらない新しいサンタの3人を取り上げます。

ひとりは黒人(アフリカ系アメリカ人)のサンタクロース。ブラック・サンタです。

2人目は二分脊椎症ゆえに言葉が話せず、iPadで意思疎通するサンタクロース。

3人目はトランスジェンダー男性のサンタクロース。トランス・サンタです。

『SANTA CAMP サンタの学校』はそんな3人の新人サンタを追いかけながら、固定観念を打ち破っていく難しさ、そしてその価値を映し出します。

参加する新人サンタの奮闘も本音を交えて率直に映像に流れますし、高齢の白人男性は保守的な層の中心ですから飛び込む側も不安です。また、中にはサンタ仕事の現場での苛烈な差別的反応も映ります。でもエンパワーメントを与えてくれるのは間違いありません。

そしてそんな多様な新人サンタをどう接すればいいのかと悩みながら葛藤する定番のサンタたちの姿も見どころです。「差別はしたくない」「でも差別せずに共存するってどうしたらいいんだろう?」と素朴に試行錯誤しているその姿も印象的。

こうやって互いに探り探りになりながら、ゆっくりと多様性の実現に向けて歩みを前に進める。こんな風景こそリアルであり、私たちの身近にあるものです。本作はサンタの話ですけど、既視感や親近感があるのではないでしょうか。

『SANTA CAMP サンタの学校』はアメリカ本国では「HBO Max」(今は「Max」)で独占配信されており、日本では「U-NEXT」で取り扱っています。

ベタなクリスマス映画はたくさんあると思いますし、動画配信サービスでいくらでも視聴できますが、このドキュメンタリーは包括性ではずば抜けています。誰も排除しない、クリスマスの心温まるストーリーをぜひどうぞ。

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『SANTA CAMP サンタの学校』を観る前のQ&A

✔『SANTA CAMP サンタの学校』の見どころ
★エンパワーメント溢れるストーリー。
★多様性を探り探りで模索する率直な姿。
✔『SANTA CAMP サンタの学校』の欠点
☆苛烈な差別的バッシングが映るので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:多様性を意義を噛みしめて
友人 3.5:題材に関心ある者同士で
恋人 3.5:クリスマス気分を盛り上げる
キッズ 4.0:全ての子どもに幸せを
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『SANTA CAMP サンタの学校』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『SANTA CAMP サンタの学校』感想(ネタバレあり)

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ブラック・サンタは闘う

ここから『SANTA CAMP サンタの学校』のネタバレありの感想本文です。

『SANTA CAMP サンタの学校』の本題、どうして多様性への試みを決行しようと思ったのでしょうか。無論、ポリコレを押し付けられたわけではありません。

それは「ニューイングランド・サンタ協会」創設メンバーのサンタ・ディックの想いからでした。「私の世代は多様性に関して少し抵抗が最初はあった。でも神はガラクタを創らない」…その力強い言葉を残してこの世を去ったディックにあったのは、間違いなくサンタの精神(スピリット)

創設者のサンタ・ダンを含め、サンタ協会はこの使命を果たすことにしました。

まず白羽の矢が立ったのは、黒人のサンタ。実はアメリカでは以前からちょっとした論争でした。その渦中にいたひとりが、アーカンソー州ノース・リトル・ロックに暮らすクリスです。彼はアフリカ系として娘のエミリーに大切なクリスマスをしてあげたいと思い、肌が黒いサンタのバルーン置物を家の敷地に設置。

ところがこれがネットで批判を集め、とくに「Fox News」など右派メディアがこぞって批判し火に油を注ぎ、「サンタの文化を破壊している」とボイコットを受けました。

でもサンタ協会も言及していましたが、そもそもサンタの起源である聖ニコラウスの肌は白じゃなくて茶色で、赤い服も着ていないし、ふくよかな体型でもありませんでした。世間に定着しているサンタのあのビジュアル・イメージは、早い話がコカ・コーラの宣伝CMの影響が大きいと言われていますThe Washington Post。つまり、元も子もないですが商業的な広告にすぎません。

にもかかわらずクリスの可愛らしい黒人サンタは、南軍の旗がはためく地元では敵視され、あげくに攻撃的な手紙まで送られてきて…。

それをキャンプファイアで読み上げるシーンは本当に辛いものがあります。あろうことかサンタを名乗る者からの人種差別的な手紙。それをその場で燃やして、落胆しかけた自身のサンタの精神に活力を取り戻し、周囲のホワイト・サンタも連帯する。これぞサンタ・キャンプです。

サンタ・キャンプを卒業したクリスは、遠慮なく黒人サンタの置物を増やし、他にも賛同者が黒人サンタを飾り始め、ひとりじゃないと痛感できました。イベントに参加し、子どもに接する彼の姿…本当にサンタらしいサンタの心を持っていましたね。

現在は『キャンディ・ケイン・レーン』などブラック・サンタの表象も少しずつ増えてきましたし…。

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話せなくてもサンタへの情熱は同じ

お次は、バーモンド州バレに暮らすフィン。サンタへの情熱はひと一倍ある人物でしたが、フィンは「二分脊椎」でもあり、言葉が話せません。

「二分脊椎」というのは、胎児期に脊髄や脊椎の癒合不全を生じたものです。「MSDマニュアル」では「長期生存が可能な神経管閉鎖不全の中では最も重篤なものの1つである。この障害は先天奇形全般でも頻度の高いものの1つであり、米国での発生率は約1/1500である」と説明されています。詳しい原因は不明だそうです。

フィンは母のスキと妹のローズに支えられながら、iPadでコミュニケーションをとれるので、別にサンタ業に支障は無さそうです。

だいたいサンタは別にやたらと喋らないといけないキャラクターでもありませんし、第一、世界中の子どもたちと触れ合うならあらゆる言語に精通していないといけないことになりますけど、たいていはサンタは1か国語しか話しません(サンタ・キャンプでさえも全然外国語とか教えてなさそうだったし)。サンタに厳密なトーク・スキルを求めるのはお門違いです。

フィンはサンタお決まりの笑い声「ホーホーホー」だけ発声できるというのがまた皮肉たっぷりで面白いんですが…。

それでもフィンは世間一般からは「障がい者」と見なされるので、サンタに採用はしてもらえない。職能の整合性に関係なしに、「障がい者」だからという理由で弾かれる。あからさまな差別がそこにありました。サンタすらも雇用差別を受けるというのは、ほんと、悲しくなりますよ…。サンタを選り好みするって、どういうつもりなんだ…。別にサンタを神格化するつもりはないけど、でもサンタだぞ?

そのフィンがサンタ・キャンプに来ると、本人は楽しそうです。たぶん根っからのサンタ愛があるのでしょう。iPadから発せられる音声も心なしか気合いが入っています。フィンのあの持ち前のポジティブな姿勢はサンタに向いてますね。

卒業後のフィンにはついに仕事が舞い込んできて、大勢の歓声を浴びながらサンタクロースとして堂々の行進。「医者には植物状態になると言われたけど、魔法のソリに乗っている」という、涙ぐむ母と妹の嬉しそうな表情もステキでした。

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トランス・サンタは子どもの味方

最後は、イリノイ州シカゴ。ここで暮らすリーヴァイはトランスジェンダー男性で、トランス・サンタになってみようと意気込んでいました。自身は幼少期はトランスジェンダーという言葉さえ知らなかったけれども、「子どもの頃にトランス・サンタがいれば…」と涙ぐんで過去を思い出す姿。

わからない人には何もわからないでしょうけど、子ども時代に出会うレプリゼンテーションは本当に大切で…。どんな表象を目にしたか、それだけでも子どもには人生を変えるプレゼントになるものです。

サンタ・キャンプでは、そのあまりに伝統的すぎる男女夫婦の在り方に依存した空間にすっかり辟易してしまい、どうしたものかと頭を抱えていましたが、徐々にそれでも自分らしさを貫いて参加していきます。

サンタのノウハウを身に着けたリーヴァイはさっそく子どもたち、とくにクィアな子どもたちに贈り物を渡すクリスマス・イベントを企画。ところがイベントを開く主催者に嫌がらせや誹謗中傷が相次ぎ、当日もプラウド・ボーイズなどの目立ちたがりの差別主義者が会場周辺に押しかけてきます。

これらの反トランスの人たちが主張するのは、もう耳にタコができるくらいには聞き飽きたいつもの「トランスジェンダリズム陰謀論」ばかりです。クリスマスの文化も気にしていない、ただの荒らし屋です。

そんな中、しっかり子どもたちに寄り添って「味方」になっていくリーヴァイのトランス・サンタ。ひとりひとりにプロナウンス(代名詞)を聞いて、補正下着が欲しいという子にも経験をもとに希望を与える。こんなことは凡百の型どおりのサンタにはできないことでしょう。

そう言えば、リーヴァイのトランス・サンタ組は、女性の不平等に苦汁をなめてきたクロース夫人の集まりでも、クロース夫人の背中を後押しし、思いきって既存の関係性を見直してもいいと突破口を開く手伝いをしていました。

ああいう保守的な空間に佇むしかない女性たちほど、プログレッシブなジェンダーの在り方を提示できる存在の、あえての空気を読まない自信を持った発言というのは、勇気になったのではないでしょうか。終盤の「平等なんて」と愚痴る夫にも負けずに言い返すクロース夫人といい、そこには女性の権利とトランスジェンダーの権利の良い共闘関係がありました。この二者は敵同士ではない、共に家父長制と闘う戦友です。

サンタ協会の人たちも言っていましたが、サンタは架空の人物です。イマジネーションの産物です。だからこそ「サンタはサンタだ」と言い切れます。子どもたちが求めているなら、その求めているサンタがサンタになる。サンタの在り様は無限大です。

「ニューイングランド・サンタ協会」の取り組みひとつで何かが一変するわけではありません。このドキュメンタリーが映す変化は漸進的であり、ほんのわずかな始まりでしょう。

でもサンタクロース自体がそうやってゆっくりと築き上げられてきたものだということも忘れてはいけません。何百年もかけてサンタは創造されていきました。きっとこれもサンタの創造のひと欠片の雪玉になるはず。そんな雪玉を積み重ねてできあがる大きな世界で、サンタはこれまで以上に愛されていくことを願っています。

『SANTA CAMP サンタの学校』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 82%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

サンタクロースやクリスマスを描く映画の感想記事です。

・『ジングル・ジャングル 魔法のクリスマスギフト』

・『ノエル』

・『シングル・オール・ザ・ウェイ』

作品ポスター・画像 (C)2023 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max

以上、『SANTA CAMP サンタの学校』の感想でした。

Santa Camp (2022) [Japanese Review] 『SANTA CAMP サンタの学校』考察・評価レビュー