おもてなし、しろ!…「Disney+」ドラマシリーズ『エイリアン:アース』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
原案:ノア・ホーリー
動物虐待描写(ペット) ゴア描写 性描写
えいりあんあーす
『エイリアン アース』物語 簡単紹介
『エイリアン アース』感想(ネタバレなし)
エイリアン万博へようこそ
満を持して開催された「大阪・関西万博」。しかし、企画不備のために大混雑が常態化し、あげくに悪天候で公共交通機関が停止したことで、この日は会場内に閉じ込められる人が大勢発生。そんな中、パビリオンのひとつで展示されていた「宇宙で採取した隕石の欠片」に実は凶悪な地球外生命体が付着しており、酷暑の環境に刺激され、活動を開始。夜中に疲弊しながら待機する来場者たちや報酬未払いに抗議するために訪れていた建設労働者たちに次々と寄生し、戦慄の万博へと変貌していく…!
…というのを、私の頭の中で妄想していました。ええ、ただの妄想です。いいじゃないですか、いろいろな国が集まる万博なんでしょ? エイリアンだって来ますよ。
でも本当に本家のエイリアンが2025年に地球にやって来てしまいました。
それが本作『エイリアン アース』です。
ご存じ、1979年に公開された“リドリー・スコット”監督の『エイリアン』。そのフランチャイズは拡張を続け、つい最近の2024年も『エイリアン ロムルス』という新作映画が公開されたばかりでしたが、今回はドラマシリーズに初参戦です。
正直、「エイリアンもドラマ化なんて、作品が溢れすぎじゃないの?」なんて思ったりもしていましたけど、でも今回は地球にやってくるというじゃないですか…。じゃあ、お迎えしてあげないとな…。
もちろんどこぞのアニメのように「愛すべきお客様にハートフルな今日と最高の笑顔を」と丁寧にウェルカムで迎えることにはなりません。

お察しのとおり、ドラマ『エイリアン アース』は大変なことになっていきます。
一応、時間軸としては1作目の2年前(2120年)を舞台にしているのですが、これまでの作品との整合性はあまり気にしない方向でやっており、とくに過去を描いた『プロメテウス』(2093年が舞台)、『エイリアン コヴェナント』(2104年が舞台)についてはほぼ無かったことになっていると思ってください。
ドラマ『エイリアン アース』のショーランナーとなったのは、ドラマ『FARGO/ファーゴ』を大成功に導いた“ノア・ホーリー”。その実績あってからか、いろいろなフランチャイズを任せられることが多かったのですが、「ダーク・ユニバース」の企画はボツに、20世紀フォックス時代の「ドクター・ドゥーム」の企画もボツに、『スタートレック』の新映画企画もボツに…と、わりと不運な人です。
2017年からはドラマ『レギオン』を手がけ(こちらもマーベル再編で不運でしたが)、監督作として2019年は映画『ルーシー・イン・ザ・スカイ』も公開しました(日本では配信スルー)。
今回の『エイリアン アース』はまた難しそうな企画だったので「大丈夫?」と不安でしたけども、杞憂だったようで久しぶりに“ノア・ホーリー”の絶好調が決まりました。
あまり多くを語れませんが、これまでにない新しい「エイリアン」の世界観を開拓してみせましたよ。
『エイリアン アース』の俳優陣は、主演を飾るのは、ドラマ『シュガー』の“シドニー・チャンドラー”。なお、父親は俳優の“カイル・チャンドラー”です。
共演は、『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』の“アレックス・ロウザー”、『ベスト・オブ・エネミーズ 価値ある闘い』の“バボー・シーセイ”、ドラマ『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の“サミュエル・ブレンキン”、『ニトラム/NITRAM』の“エッシー・デイヴィス”、『ザ・ホワイトタイガー』の“アダーシュ・ゴーラヴ”、ドラマ『The Wilds』の“エラナ・ジェームス”、ドラマ『モスクワの伯爵』の“リリー・ニューマーク”、ドラマ『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』の“ジョナサン・アジャイ”、『スクール・フォー・グッド・アンド・イービル』の“キット・ヤング”、『ハボック』の“ティモシー・オリファント”など。
『エイリアン アース』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信で、全8話。1話あたり約50~60分です。
『エイリアン アース』を観る前のQ&A
A:とくにありません。シリーズ未見の人が本作から観ても大丈夫です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 残酷な描写が多いです。 |
『エイリアン アース』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2120年、ウェイランド・ユタニ社の宇宙船マジノ号は、科学研究のサンプルとしてさまざまな惑星から生体標本を採取するという65年間のミッション中でした。地球から8億500万マイル離れた宇宙の彼方を進んでおり、すでに多くの標本を積み込んでいます。
乗組員たちはコールドスリープのポッドから目覚め、久しぶりの食事と談笑を楽しみます。その後に各自の仕事に移り、一部はまた休息に戻ります。保安責任者はサイボーグであるモローで、厳格な性格です。
一方、地球では有力企業のひとつであるプロディジー社が管轄している絶海の孤島の「ネバーランド」で、とある実験を行っていました。若きCEOのボーイ・カヴァリエにとっては悲願の革命となるものです。
その鍵となるのは、末期症状を患う11歳の少女のマーシー・ハーミット。もうこのままでは亡くなってしまうこの子の意識を人工の肉体(シンセティック・ボディ)に移すという新テクノロジーです。こうして誕生した存在はハイブリッドというべき新たな生命と言えます。
ボーイはアニメ『ピーター・パン』を装置の上部に上映し、飄々としています。マーシーは装置に寝かせられ、目を閉じ、装置は起動。隣にある意識を移し替える予定の肉体は大人の身体です。しばらくして隣の肉体は静かに目を開けるのでした。成功です。
マーシーは『ピーター・パン』に登場するウェンディに似ていると呟いていたので、そう名づけられることになりました。ウェンディは島の雄大な自然の中で新しい体に慣れ、身体能力は常人をはるかに超えています。行動療法士のデイム・シルビアとその夫で科学者のアーサーの保護のもと、心身に問題はないようです。
勢いづいたボーイは、さらに5人の子を被験者にし、スライトリー、カーリー、ニブス、スミー、トゥートルズという新たなハイブリッドを生み出し、「ロストボーイズ」という愛称で呼ばれるようになりました。
そんな中、宇宙彼方のマジノ号では危険な標本(エイリアン)が脱走。しかし、サイボーグのモローは乗員のゾーヤ・ザヴェリの助けを求める声も無視し、乗組員全員が死亡したとユタニ社に報告。エイリアンの攻撃を気にせず、衝突に備えます。
そして、コントロールを失ったマジノ号は、プロディジー社の管理下の都市ニューサイアムに墜落。
そこにはウェンディの兄で、妹が病気で亡くなったと思っているプロディジー社の準軍事医療兵のジョーがいました。墜落事故の知らせを受け、ジョーは部隊に加わり、現場確認に派遣されます。大惨事でした。
そして密かに兄のジョーを島から遠隔で眺めていたウェンディも、ジョーのいる現場に行きたがります。そこに存在するあのエイリアンの存在をまだ知らずに…。
シーズン1:未来のディズニー社?

ここから『エイリアン アース』のネタバレありの感想本文です。
“ジェフ・ルッソ”の音楽と共に静かに(それでいて一瞬の戦慄も合わせて)タイトルが映し出されるオープニングが毎度良い感じで世界観へ誘ってくれる『エイリアン アース』。ドラマと言えども、重厚感は映画級で、クオリティは遜色ありません。
しかし、これまでの映画は明らかに1本の映画的な短いタイムスケールでのスリルを前提にしていました。「宇宙では誰もあなたの叫び声を聞くことはできない」という有名なキャッチコピーのとおり、閉鎖的なシチュエーションで人知れず起きている「異様さ」というのが、その緊張感の最大の味でした。
その点、ボリュームの多いドラマ版はそういう見せ方はできません。そこで本作の製作陣は、ゆっくりと段階的にジャンルを変異させる、その過程を楽しませてくれるという見どころを用意してきました。本作はオリジナルをドラマシリーズとして間延びさせて展開しているわけではなく、完全に新規の領域へと踏み込みます。
最初の第1話は私たちが知っているいかにも『エイリアン』らしい展開です。早々にゼノモーフを登場させ、出し惜しみはしません。
次の第2話は、墜落した宇宙船マジノ号とそれによって半壊した住居ビル、この被災現場を医療救助隊とプロディジー社の派遣部隊が探索するという展開に。この「外部からの探索」は『エイリアン ロムルス』でも観たばかりなので既視感があるのですが、決定的に違うのは第3話の序盤。ゼノモーフ、早々に殺されてしまいます。
「え? エイリアン、終わり?」と思ってしまうほどにあっけない幕引き。でもここからが本番でした。むしろ今までは舞台づくりの準備段階にすぎません。
で、今回の『エイリアン アース』に欠かせない要素があって、そのひとつが本作は大企業間の覇権競争が背景にあるということです。ウェイランド・ユタニ社といういつものこのシリーズの常連(今回は創業者家系のユタニも登場し、やたら和です)の他に、今作からプロディジー社が立ちはだかります。どうやらこの世界は5つのテクノロジー企業による寡占統治状態らしく、ここ最近の私たちの現実社会に目を向けても他人事ではいられない様相です。
そして本作でメインで描かれるのがプロディジー社。このCEOのボーイ・カヴァリエが、まあ、ウザさ120%の軽薄な若造なのですけど、彼が自己陶酔気味で無我夢中になっているのが人工知能体のシンセ(Synths)のボディに人間の意識を取り込んだ「ハイブリッド」と呼ばれる存在の創造です。
そのボーイは『ピーター・パン』が大好きらしく、今作がディズニー傘下ということもあって贅沢に映像素材を使いまくり、『ピーター・パン』要素を大きく盛り込むオマージュをみせていきます。
しかし、これは考えようによってはプロディジー社は未来のウォルト・ディズニー・カンパニーとも言えなくもないですよね。
全然、近未来のディズニー社はこういう企業になっていそうだし…。レトロフューチャーでディズニーを痛烈に風刺していると考えると、このドラマの面白さがまた違った味わいになってくると思います。
シーズン1:もうコンテンツ(商品)じゃない
そして『エイリアン アース』でもうひとつの新しい面白さが、多様なエイリアン同士の駆け引きがみられること。
このフランチャイズではやはり何と言ってもゼノモーフが圧倒的に君臨していたわけですし、今回もそれは同じなのですが、他のエイリアンもかつてないほどに存在感を放っています。それはときに競争相手であり、ときに利用し合ったりもする、何とも言えない生物間相互作用です。
とくにあれですね、目玉エイリアンがお見事ですね。「Trypanohyncha Ocellus」という名らしいですけど、不気味なほどの観察力と分析力で見事に人間や他のエイリアンを利用し、知性で優勢に持っていく…。じっと状況を見つめる羊はシーズン1の象徴だった…。
第5話では、マジノ号で起きたことが描かれる過去回ですが、あのチームワークゼロな人間たちが気持ちいいくらいにエイリアン連携プレイにやられていく姿(水筒の演出とかわざとらしいほどにキマる)。モローに同情したくもなる…。
それあってのネバーランド。ここではまさにエイリアン版の『ジュラシック・パーク』です。管理できると思いあがっている人間が、あられもなく管理対象の生命に蹂躙されていきます。
しかし、そこで先導者となっているのが、ウェンディとロストボーイズたちのハイブリッド陣営。彼らは「創られた存在」であり「商品」でしたが、しだいに主体性に目覚めます(トゥートルズは「アイザック」、カーリーは「ジェーン」という名前のアイデンティティを自ら決定もするようになる)。
最後のゼノモーフとさえも協力関係を手にし、「私たちが支配者」と言い切るあのラスト。そうか、今作はこの方向性でいくのか…と納得です。若者たちの反逆の精神であり、企業支配への反抗ですね。
創造したキャラクターに反撃され、支配権を乗っ取られたディズニー。金儲けしようとニヤついて余裕ぶっこいていたら、経営陣と創作者は檻の中。“ノア・ホーリー”、なかなかぶちあげてくれるじゃないか…。
ということで、シリーズでも随一で愛着の湧くキャラクターに溢れた物語であり、続きが楽しみです。頑張れ、目玉!
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)FX エイリアンアース
以上、『エイリアン アース』の感想でした。
Alien: Earth (2025) [Japanese Review] 『エイリアン アース』考察・評価レビュー
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