さらに恐怖を進化させて…映画『エイリアン:ロムルス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年9月6日
監督:フェデ・アルバレス
えいりあん ろむるす
『エイリアン ロムルス』物語 簡単紹介
『エイリアン ロムルス』感想(ネタバレなし)
また元気な赤ちゃんですよ
1979年に公開された“リドリー・スコット”監督の『エイリアン』は、あらゆる意味で象徴的な映画となり、今に至るまでさまざまな表象の分析がなされてきました。
モンスターパニックのジャンルの産声となり、恐怖演出のお手本になりました。大企業独裁のテクノロジー・ディストピアな世界観は、底辺労働者の目線で階級格差社会を風刺しました。また、当時は新鮮であったヒロイン像を作り上げ、女性キャラクターの役割を押し広げ、フェミニズムやクィアな批評もなされました。さらに、“H・R・ギーガー”による生殖器を模したモンスターデザインは、性嫌悪や性暴力と重ねた物語解釈も可能とし、単なるグロい以上の多角的な深みを与えました。
そんな『エイリアン』シリーズの最新作が2024年に登場です。
それが本作『エイリアン ロムルス』。
もともと本国アメリカでは「Hulu」独占配信映画として初期には企画されていたものでしたが、劇場公開に変更。やっぱり『エイリアン』シリーズは劇場のスクリーンで上映されてこそですよ(『プレデター ザ・プレイ』も劇場公開してよ…)。
『エイリアン』シリーズの映画としては、2017年の『エイリアン コヴェナント』以来で7年ぶり。と言っても、映画はもう6作も作られていて、今回で7作目ですけどね。
一応、全ての映画は同一の世界観で成り立っており、時系列がありますが、公開順に時系列が並ぶわけではありません。
時系列で並べ直すと、『プロメテウス』(2012年)は2093年、『エイリアン コヴェナント』(2017年)は2104年、『エイリアン』(1979年)は2122年、ゲーム『エイリアン アイソレーション』(2014年)は2137年、『エイリアン ロムルス』(2024年)は2142年、『エイリアン2』(1986年)は2179年、『エイリアン3』(1992年)は2179年、『エイリアン4』(1997年)は2381年となります。
本作『エイリアン ロムルス』は1作目と2作目の間の話であり、比較的とっつきやすい映画です。そして、これまでの全ての『エイリアン』シリーズの良いとこどりな結集体となっています。
なので「私は『エイリアン』シリーズならあの映画が一番好きだな~」という各自で好みが異なるファンの誰にでも何かしら刺さるように出来上がっているんですね。八方美人な映画とも言える…。
この『エイリアン ロムルス』を監督したのが、2013年のリメイク版『死霊のはらわた』、そして2016年の『ドント・ブリーズ』で一躍話題となり、その後も『蜘蛛の巣を払う女』やドラマ『CALLS コール』で才能を発揮していた“フェデ・アルバレス”。今作でも良い仕事をしました。すっかりリメイク担当みたいになってるけど。
俳優陣は、『ザ・クラフト: レガシー』や『プリシラ』の”ケイリー・スピーニー”、ドラマ『インダストリー』の“デヴィッド・ジョンソン”、ドラマ『暗黒と神秘の骨』の“アーチー・ルノー”、『ロザライン』や『マダム・ウェブ』の“イザベラ・メルセード”、ドラマ『Tell Me Everything』の“スパイク・ファーン”、これが本格的長編デビューとなる“アイリーン・ウー”など。
大物俳優は登場せず、若手で構成されたキャスティングであり、これまでの『エイリアン』シリーズの中でも最も若者集団で成り立っており、かつ人種構成も多様ですね。
いつもどおりの『エイリアン』らしい恐怖が満載ですが、直接的なゴア描写はないので、案外と見やすいんじゃないかなと私は思うのですけども、ホラー慣れしすぎた私の感覚は全然あてにならないからな…。
『エイリアン』は久しぶりという人も、初めてという人も、どうぞこの出産に立ち会ってみてください。
『エイリアン ロムルス』を観る前のQ&A
A:シリーズ未見の人が本作から観ても物語は理解できますが、1作目の『エイリアン』を観ておくと世界観をより知ることができます。さらに時間があれば『プロメテウス』の鑑賞もオススメです。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ初見でも |
友人 | :気軽にエンタメを |
恋人 | :怖さを一緒に |
キッズ | :怖いのが平気なら |
『エイリアン ロムルス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
2142年、無人探査機がゆっくりと宇宙空間を航行しています。宇宙に漂っているのはUSCSSノストロモ号の残骸。そこから”何か”を採取して持ち帰ります。それは鉱物のようなものに覆われており、武装隊が見守る中、レーザーで解体され、さらに奥の施設に運ばれます。後にはそれが抜け出したような型の痕跡だけが残され…。
ところかわって、コロニー「ジャクソンズ・スター」。劣悪な環境の惑星の鉱山で労働者として暮らす孤児のレイン・キャラダイン。目覚めてもまた労働が待っているだけの日々です。他にも大勢の労働者がおり、ウェイランド・ユタニ社が厳重に管理していました。
レインにとって再プログラムされたアンドロイドのアンディが兄のように親しい存在です。アンディはアンドロイドへの偏見ゆえにときに酷い扱いを受けますが、レインは支え、アンディもレインを支えていました。
契約を強制的に延長され、この労働に終わりが見えない中、レインは元恋人のタイラーから「放棄された宇宙船に行き、コールドスリープの機械を回収しよう」という誘いを受けます。詳しく話を聞きに行くと、今はもう使われていない宇宙ステーションがあるらしく、そこでコールドスリープ装置を盗みだせばそれを使って遥か彼方の惑星に逃げ出すことができるらしいです。これでこの過酷な労働から解放されます。
この計画には施設侵入のためにシステムにアクセスできるアンドロイドが必要不可欠で、タイラーはアンディを参加させたいのでした。
計画に参加しているのは、他にはタイラーの妹で妊婦のケイ、タイラーの従弟のビヨン、ビヨンの恋人でパイロットのナヴァロ。計6名となります。
やむを得ずレインは説得に従って運搬船で出発します。
その宇宙ステーションは「ロムルス」と「レムス」に分かれており、「ロムルス」のほうにお目当てのものがあるようです。
タイラー、ビヨン、アンディが中へ入ります。レインはモニターで見守ります。無事にドアは開き、重力ジェネレーターに悪戦苦闘しながら動力を起動。しかし、コールドスリープのチェンバーを確認するものの肝心の燃料がありません。
そこで3人は現在も稼働している大型のコールドスリープ装置から燃料を抜き出すことにします。ところが、現場は何か惨劇が遭ったようで、変死体があります。
もっと奥へ進んでいくと、何かの動作でロックダウン。施設に閉じ込められてしまいます。
このままでは出られないので、体調不良なケイを置いて、レインとナヴァロが救援に向かいます。施設環境の変更で船内温度は上昇していました。
打開策としてロックダウンを無効にするために、レインは損傷したアンドロイドのルークのチップをアンディにインストールすることにします。
そのとき、得体のしれない生物が襲いかかってきて…。
シリーズの美味しい部分を全部!
ここから『エイリアン ロムルス』のネタバレありの感想本文です。
『エイリアン ロムルス』は前述しましたけど、シリーズの全作品の美味しい部分を全部載せたフルコースみたいな贅沢な映画でした。一方で、盛り込みすぎてボリュームが食べきれないほどに散らかっているわけでもなく、しっかりスマートなホラー/スリラーのジャンルの体型を維持しており、そのバランスが上手いです。
前半は大企業支配の管理下で底辺労働者たちが謎の宇宙ステーションに向かうところから始まります。そのじわじわと怖さが増していく展開の多くは『エイリアン』の1作目と大きく重なります。恐怖演出も既視感があるものが多いです。今作のフェイスハガーはだいぶ元気にわらわらと動き回っていましたけどね。
その最中、1作目の事件を踏まえた出来事なので、過去作と繋がっていくのですが、あの宇宙ステーションで行われていた研究が判明し、「プロメテウス」の単語が登場することで、映画『プロメテウス』との接続も提示されます。相変わらずのろくでもないウェイランド・ユタニ社…。
あの『プロメテウス』は神話チックな語り口だったので、かなり作品同士の接続が難しそうだなと思っていたのですけど、『エイリアン ロムルス』はほどよくサンプリングしていましたね。
空間のデザインとしては、ゲーム『エイリアン アイソレーション』を参考している部分も大きいのだろうなと思います。シリーズ作の要素の散りばめかたも似ている気がします。
そして「後半の脱出するぞ!」というパートに投入すると、成体エイリアンの追い詰め方は『エイリアン3』も彷彿とさせますが、最後は迎え撃つわけです。エイリアン大群の猛襲に対してパルスライフルで対抗したり、上下アクションの中で激しくせめぎ合ったり…。この手に汗握る攻防はまさしく『エイリアン2』ですね。成体エイリアンの能力は『エイリアン コヴェナント』っぽさもありました。
でもこれで終わりにさせてくれません。最後の最後で隠し玉。ケイから生まれたのは、異様な長身の怪物(「オフスプリング / ”Offspring”」という名前がついているらしい)。エイリアンとヒトのハイブリッドは『エイリアン4』にもあったのですが、今作ではそれを徹底的におぞましいビジュアルで映像化してくれました。
このやりすぎなくらいに極めつけの恐怖をぶちまける感じ、“フェデ・アルバレス”監督らしいなと思って、観ているときはニンマリしてしまいました。
エイリアン以上の怪物をだしてしまうのは禁じ手かもしれませんが、あのミュータントはこのシリーズが行きつく最悪の創造としては必然的だとは思いますし…。
ラストは唯一生き残ったレインが想いを託して眠りにつくという1作目に立ち返る帰結。いろいろありましたけど、綺麗に終わりました。
なんだろう…『エイリアン ロムルス』を1本鑑賞しただけで、全シリーズをおさらいで一気見したような満腹感がある…。
バディ主人公の魅力
シリーズのレガシーを詰め込んだ『エイリアン ロムルス』ですけども、何も全てが過去作の繰り返しではありません。新しい部分も確かに練り込まれていました。
まず若者たちの物語になっていること。とくに今回の「人生の一発逆転を狙ってやや稚拙な計画で他者のエリアに迂闊に足を踏み入れてしまう若者たち」という図式は、そのまんま『ドント・ブリーズ』の冒頭と同じです。
若者たちの間には絶妙に不調和が漂っているのですけど(とくにアンドロイドのアンディを対等な存在として認識していないあたりとか)、序盤から施設潜入時は男性と女性のパーティに分かれることになります。そして封鎖によって互いが合流するのですが、男女が揃うと基本はろくなことが起きません。
そんな中、レインとアンディが最終的にバディのような関係を深めていきます。シリーズの象徴的なヒロインであるエレン・リプリーは、基本的に単独で作品を背負っていくキャラクターとして確立していきましたけど、今作のレインは独りでは何かを成せない。あのアンディがいてこその強さがあり、妹兄の絆が強調されるストーリーでした。
レインを演じた”ケイリー・スピーニー”も幼めの風貌の俳優で、“シガニー・ウィーバー”とは全然違うのですが、アンディ演じる“デヴィッド・ジョンソン”とのタッグで補い合って、抜群のポテンシャルを引き出していたと思います。
もともと1作目の『エイリアン』は「黒人が最初に死ぬわけではないホラー」として語られることもある作品なのですが(「黒人のキャラクターが最初に死ぬというのはホラーの人種的ステレオタイプとしてよく取り上げられるひとつ)、今回のアンディはアンドロイドながら活躍の場がたっぷり用意されていましたね。これも過去作の無機質で冷たい印象が濃かったアンドロイドとはだいぶ違います。
おなじみのスクリーム・クイーンの座を担ったのはケイを演じた“イザベラ・メルセード”でした。出産、お疲れ様です…。
ひとつだけ不満があるとすれば、もうひとりのアンドロイドのルークです。モンスター演出も実物のアニマトロニクスなどで撮影現場の特殊効果できっちり作り上げており、こだわりを感じさせる出来栄えが作品の品質の底上げになっていましたが、このアンドロイドのルークは一部で批判を浴びました。
というのも、今作のルークは、1作目でアンドロイドのキャラクターであったアッシュを演じた“イアン・ホルム”にかなり似せています。外見だけでなく、声もAIで“イアン・ホルム”風に加工しているようです(The Mary Sue)。
“イアン・ホルム”は2020年に亡くなっているのですが、こういうふうに亡くなった人の存在をCGIやAIで蘇らせるように作品に登場させることは、一部では「デジタル降霊術」と揶揄されるほどに嫌悪されています。存命の人間で本人の許可を得ているなら良いのですけどね。
別に『エイリアン ロムルス』のルークはオリジナルのデザインでも良かったわけで、ここまで“イアン・ホルム”に依存する必要はないのに…とは私も感じました。エイリアンじゃない、そっちの生理的な気持ち悪さは要りませんからね。
ともあれ、『エイリアン ロムルス』は『エイリアン』フランチャイズに活力を取り戻す一作となりましたが、シリーズを大幅に拡張しているわけではありません。現在、ドラマシリーズ版も製作中ですが、そちらの健闘も見ないと何とも言えない感じでしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
以上、『エイリアン ロムルス』の感想でした。
Alien: Romulus (2024) [Japanese Review] 『エイリアン ロムルス』考察・評価レビュー
#モンスターパニック #エイリアン