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映画『アビゲイル』感想(ネタバレ)…女の背中を押すヴァンパイア・ガール

アビゲイル

女の背中を押すヴァンパイア・ガール…映画『アビゲイル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Abigail
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年9月13日
監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
児童虐待描写
アビゲイル

あびげいる
『アビゲイル』のポスター。白いバレリーナ姿の少女を上から映すデザイン。

『アビゲイル』物語 簡単紹介

互いに面識のない6人の男女が、ある犯罪の遂行のために集められる。彼らに命じられたのは、富豪の娘であるバレリーナの少女アビゲイルを誘拐することだった。まだ幼さの残る子ども相手ではあるが、それぞれの得意分野を活かして計画は順調に進み、あとは郊外の屋敷で少女を少し監視するだけとなる。それさえ終われば多額の報酬が手に入るはずだったが、予想外の展開に恐怖することに…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アビゲイル』の感想です。

『アビゲイル』感想(ネタバレなし)

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ドラキュラの娘、誘拐しました

女性の名前としてしばしば見かける「アビゲイル」。元は聖書ヘブライ語に由来していて、「私の父の喜び」を意味します。ヘブライ語聖書においては、古代イスラエルの王のダビデの妻となるイスラエル人女性です。

今や世界中で「アビゲイル」の名の人たちが活躍していますが、今回はその名を冠した映画です。

それが本作『アビゲイル』

本作は…これは日本の宣伝では隠してないので言っていいんですよね? 「誘拐した少女はヴァンパイアだった」と書かれているとおり、そういう映画です。吸血鬼映画です。

日本の宣伝だけがバラしているわけではなく、本国のアメリカでも吸血鬼映画であることは明かしたうえで劇場公開しています。

というのも、本作は「ユニバーサル・ピクチャーズ」の配給なのですが、ユニバーサルは自身のスタジオの成功の象徴である「ユニバーサル・モンスターズ」(1920年代から50年代にかけてユニバーサル・スタジオが製作していたホラーモンスター映画の一群)を、この2020年代から新しく再解釈して映画化する試みを連発しています。

『透明人間』(2020年)、『レンフィールド』(2023年)と続いており、クラシックを自由にアレンジして独自作を編み出しており、好調です。ダーク・ユニバース…? え、何のことですか…?

『アビゲイル』はそれに連なる吸血鬼映画です。物語の接続性はなく、完全に独立しています。

それにしても最近のユニバーサルは吸血鬼映画を、本作や『レンフィールド』(2023年)の他にも、『ドラキュラ デメテル号最期の航海』(2023年)、『Nosferatu』(2024年)と連発しているな…。まあ、吸血鬼、人気だからね…。

でも『アビゲイル』は『女ドラキュラ』(1936年)を下地にしていて、しっかり埋もれない個性があります。「誘拐した少女はヴァンパイアだった」というのもバラしても全然面白さは減退しません。詳細は言えませんが、ジャンルを盛り盛りにして、あれこれとサービス精神豊富に楽しませてくれます

ホラーですが、恐怖でゾっとさせるよりは、ユーモアも交えつつ、エンターテインメントに特化してくれている感じですかね。そこまでこってりとギャグ寄りではないですけど、ジャンルを知っている人ほど笑いどころは多いです。

『アビゲイル』を監督するのは、「レディオ・サイレンス」という制作集団の“マット・ベティネッリ=オルピン”“タイラー・ジレット”のコンビ。もともとは音楽活動をしていましたが、2010年代からホラー映画を作り始め、『レディ・オア・ノット』で注目が増し、2022年の『スクリーム』と続く『スクリーム6』でキャリアが躍進。すっかりホラー映画の定番監督となりました。

“マット・ベティネッリ=オルピン”&“タイラー・ジレット”の監督コンビ作が日本でこれほど広く劇場公開されるの、本作が初じゃないかな? 前は3作連続で配信スルーだったから…(『スクリーム』シリーズを劇場公開しなかったのは損失だったと本当に思う)。

登場人物が多く、俳優陣も顔触れ豊か。監督とは『スクリーム』からの付き合いである“メリッサ・バレラ”が主演を務めています。“メリッサ・バレラ”は2023年からのイスラエル・ハマス戦争に対してイスラエルの残虐行為を批判する姿勢をみせたことで、『スクリーム』シリーズから降板させられるという事件があったばかり。フィクションだけでなく現実の暴力と恐怖に毅然と立ち向かう“メリッサ・バレラ”を私も支持します。今作の“メリッサ・バレラ”もカッコいいです。

他には、『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』“ダン・スティーヴンス”『アントマン&ワスプ クアントマニア』“キャスリン・ニュートン”『猿の惑星 キングダム』“ケヴィン・デュランド”、ドラマ『コンステレーション』“ウィル・キャトレット”、ドラマ『ユーフォリア』“アンガス・クラウド”、ドラマ『ベター・コール・ソウル』”ジャンカルロ・エスポジート”など。

なお、“アンガス・クラウド”は2023年に25歳の若さで亡くなってしまい、本作は遺作のひとつとなっています。

本作の顔となる吸血鬼少女を演じるのは、『マチルダ・ザ・ミュージカル』に抜擢された”アリーシャ・ウィアー”です。今作でもミュージカルで培った魅力が発揮されています。

『アビゲイル』を鑑賞して憂鬱を爆発四散させてください。出血過多にお気を付けて…。

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『アビゲイル』を観る前のQ&A

✔『アビゲイル』の見どころ
★ユーモアを交えた吸血鬼エンターテインメント。
✔『アビゲイル』の欠点
☆吸血鬼の要素を知らずに鑑賞するのは難しい。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:気分転換に
友人 4.0:気軽なエンタメ
恋人 4.0:ジャンルが好きなら
キッズ 3.5:残酷描写は多いけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アビゲイル』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

劇場のスポットライトがあたる舞台で「白鳥の湖」に合わせて舞うひとりのバレリーナの少女、アビゲイル。本番さながらの練習で、真剣です。しかし、その裏で6人の男女が待ち構えていることを知りませんでした。

彼らはこの12歳のアビゲイルの誘拐を命じられて一時的にチームを組んでいるのです。互いに見知らぬ相手です。元刑事のフランク、巨漢のピーター、ハッカーのサミー、狙撃担当のリックルズ、逃走車運転担当のディーン、医師のジョーイ。この場かぎりの仮の名前です。

夜、アビゲイルは練習を終え、待機する車に乗ります。その車体の下には発信機がすでにつけられており、誘拐チームも行動を開始します。ひと足先に屋敷にハッキングしてセキュリティを解除。部屋で待ち伏せします。

アビゲイルが部屋のベッドに座って電話を終えた瞬間、隠れていた数人で押さえつけ、注射で眠らせます。急いで大型バックにアビゲイルを詰め、屋敷から退散。警報が鳴り響きますが、すぐに逃走車が到着。慌てて乗り込み、逃げます。

追手もなく、やっと成功を確信し、一同は緊張感を解きます。

チームが到着したのは、この誘拐の首謀者であるランバートが待つ屋敷。ランバートは一同の仕事を褒め、次にアビゲイルの父親から5000万ドルの身代金を要求するという計画を話します。身代金が手に入れば全員で山分けします。

後はその間の24時間、このアビゲイルを監視して世話し、屋敷を守らないといけません。ランバートは全員のスマホを取り上げ、去っていきます。

6人は暇を持て余します。アビゲイルは専用の部屋に閉じ込めています。後は時間の問題で、こちらが何かすることではありません。6人は互いをどこまで信用すべきか探り合いながら会話を重ねます。

ジョーイは目隠しされているアビゲイルの様子を見に行きます。怯えた口調です。目隠しをとってあげると、まだ幼さの残る顔つきがそこにはありました。ジョーイはアビゲイルを丁重に扱います。手錠をかけると、「私の父について知ってる?」と聞いてきます。さらにジョーイの去り際、アビゲイルは「これから起こることが残念」と意味深なことを囁きます。

ジョーイはフランクにアビゲイルの父について尋ねます。何かに勘付いたフランクはアビゲイルに部屋に行き、銃を突きつけて「父親は誰だ!?」と問いただします。

アビゲイルは「クリストフ・ラザール」と口にします。その名を耳にしたフランクは慌ててこの計画から降りようとします。

何でもラザールは裏社会のマフィアのボスで、その残忍さは悪名高く、恐れられていました。とりあえずフランクは計画続行することになりますが、今までのように気楽に構えてはいられません。ラザールの刺客が襲ってくる可能性もじゅうぶんあります。

一同は警戒を強化し、緊迫しながら何が起きるのかと怯えます。

ところが恐怖は予想していない方向から現れ…。

この『アビゲイル』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/09/13に更新されています。
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絶対に楽しい6人の生贄

ここから『アビゲイル』のネタバレありの感想本文です。

『アビゲイル』は“マット・ベティネッリ=オルピン”&“タイラー・ジレット”の監督コンビの才能であるホラー・コメディ・アクションのバランス感覚を絶妙に維持して両立させる技が炸裂していました。フィルモグラフィーでどんどん磨かれている気がする…。

序盤から作品の前提はオールド・クラシックな雰囲気を漂わせています。撮影場所はアイルランドで、これは怪奇小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』の生みの親である“ブラム・ストーカー”を感じさせます。そして、冒頭でバレリーナ姿のアビゲイルが舞う音楽はピョートル・チャイコフスキーが作曲したバレエ音楽の定番『白鳥の湖』。こちらは映画『魔人ドラキュラ』(1931年)のオープニングでも使われました。

なのでいかにも「クラシックなモンスター映画が始まりますよ~」と匂わせつつ、でも序盤で展開されるのは完全にコテコテな「ケイパーもの」です。

しかもこの6人が妙にチグハグで「大丈夫か、こいつら…」と観ているこっちを楽しませてくれそうな期待を100%アップさせてくれます。

とくに空気の読めないディーンは最初のコミックリリーフで、一番最初に死ぬ存在ですが(首ちょんぱ)、じゅうぶんに印象を残してくれますし、ディーン亡き後もサミーとピーターが凸凹男女で笑いをもたらします。サミーは腐敗遺体プールで全身浴するハメになったり、アビゲイルに噛まれちゃって吸血鬼化に怯えたり、散々なのですが、しっかり美味しいところは確保してる…。個人的にはスクリーム・ガールならぬスクリーム大男としてベタな大絶叫をみせてくれるピーターも好きになりますね。ピーターのやけくそでアビゲイルを押さえつける戦闘スタイルがアホすぎてずっと見ていたい…。

賢さを象徴していない(ここ大事)眼鏡をかけているキャラであるフランクもきっちり笑いどころを持ち合わせていました。後半の本のギャグは、この映画のシチュエーションが『そして誰もいなくなった』と同質である言及なのですが、最後にあんなしょうもないギャグでオチつけるとは…。

もちろん血の量も本作のアホっぽさの最たるところ。いちいち血が盛大に爆発的に飛び散りますからね。これくらいの仰々しさがちょうどいいんです。

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ドSだと思ったら人生の先輩でした

そんな阿鼻叫喚でワーワーギャーギャー騒ぎまくっている人間たちを愉悦しながら観察して楽しんでいる本作の吸血鬼であるアビゲイル。

ドSなヴァンパイア・ガール(実年齢は子どもじゃないのだろうけど)を”アリーシャ・ウィアー”が実に魅惑たっぷりに演じていますが、観客も同じ立ち位置なので、今作の吸血鬼少女とシンクロするんですよね。

「私も吸血鬼になるの?」と怯えるサミーにアビゲイルがイタズラ心で「maybe」と告げるセリフも良いし、ニンニクや十字架を嘲笑ったり、わざと手加減して様子見するあたりとか、舐め切っているのがたまりません。

非常に嗜虐趣味を満たしてくれるマニアックな映画になってますよ。

本作の下地となっている『女ドラキュラ』は、女性の吸血鬼がフェティッシュさを超えてレズビアン表象としてクィア・コードとなったりしてきましたが、本作にその要素はないです(そちらの方向ではドラマ『ファースト・キル』が扉を開いてます)。

ではこの『アビゲイル』の吸血鬼少女はどういう表象なのかなと考えてみると、何よりもまず子どもの無邪気さ(ときに残酷さと紙一重)です。子ども自体をフェティッシュには描かないことで、子どものセクシュアライゼーションは避けてます。

同時に、それだけでなく、父権に虐げられる立場も浮き彫りにさせることでちょっと深みがでていました(最後に”マシュー・グード”演じる吸血鬼父が登場し、”え、想像していたよりセクシーなお父さんじゃないか…”とちょっとドキドキしたけども)。

アビゲイルは「父に愛されていない」と自嘲気味に答え、人間をいたぶってストレス解消するしかないと思っていたようですが、ラストで父に反抗する姿勢を示し、小さな一歩を踏み出します。

最近の吸血鬼作品は、『レンフィールド』『伯爵』もそうですが、男性吸血鬼を家父長制や有害な上司・権力者などと重ねる傾向が目立っていますね。古典的な吸血鬼文学など昔は病気とか性的逸脱者とかのイメージでしたけど、時代は変わったな…。

今作もランバート、そして漁夫の利で一発逆転の頂点を狙う姑息なフランクといい、終盤ではクソな男が調子に乗って大暴れしますが、シスターフッドの連携で木の杭を打ち込まれ、ジ・エンドです。

そのアビゲイルと絆ができるジョーイとのエピソードとの絡め方もほどよいものでした。子どもとの距離ができてしまっていたジョーイが、今回の血みどろの経験の中で、もう一度、子どもと向き合う勇気を得る。ドSなヴァンパイア・ガールだと思っていたら、意外に真っ当な人生の先輩になってくれたのでした。

ラストの引き際といい、『レディ・オア・ノット』と似ていて、“マット・ベティネッリ=オルピン”&“タイラー・ジレット”監督は女性を血塗れの体験の中で成長させて去っていかせるのが好きなのかな。

私もドSなヴァンパイア・ガールを見習って、もっといろいろなものに反逆していこうと思います。

『アビゲイル』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

吸血鬼を題材にした作品の感想記事です。

・『伯爵』

・『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』

作品ポスター・画像 (C)2024 Universal Studios

以上、『アビゲイル』の感想でした。

Abigail (2024) [Japanese Review] 『アビゲイル』考察・評価レビュー
#吸血鬼 #ケイパー