テクノロジーは弱者をケアするという幻想を粉砕する…映画『M3GAN ミーガン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年6月9日
監督:ジェラルド・ジョンストン
動物虐待描写(ペット) 交通事故描写(車)
M3GAN ミーガン
みーがん
『M3GAN ミーガン』あらすじ
『M3GAN ミーガン』感想(ネタバレなし)
新しいホラーアイコンです
間違った情報が紐づけられる役に立たないマイナンバーカードのシステムしか作れない人間がAIを正しく運用できるのか…全くその気がしないです。
ただ、マイナカード以上にAIは世界に急速に蔓延し始めており、社会はその対応にてんやわんやしています。AI企業の株を買え!と市場は白熱し、AI会社の買収も勃発。一方でクリエイターはAIに作品を奪われる!とボイコットし、AIが不正や偽情報拡散に加担する事態も発生。コロナ禍の次はAI熱のパンデミックなのか…。
100年後に今の時代はどのように振り返って語られるのかな…。「AI第一次混乱期」みたいな表現になるのかな。
しかし、AIと言えば映画です。映画はAIのテーマを現実よりも先んじて論じてきました。『2001年宇宙の旅』(1968年)、『ターミネーター』(1984年)、『A.I.』(2001年)、『エクス・マキナ』(2015年)…。それなのになんで私たちはいざ現実社会でこんなにもAIの論議に疎いんだろう…。フィクションだと思って油断していたからか…。
ともかくAIが現実で身近になり始めた今、映画はAIをどう描くのか。かつてないほどにそれが問われる時代になってきました。
そんなピリピリした2023年にその緊張感をあえて吹き飛ばすかのようなノリで登壇してきたAI映画が話題をかっさらっていきました。
それが本作『M3GAN ミーガン』です。
『M3GAN ミーガン』はAI搭載の人形(実際はほぼオモチャの域を超えたハイテク・アンドロイドなのだけど)がしだいに暴走して恐怖を引き起こすというホラー映画です。
設定だけ聞くと、最近のリブート版の『チャイルド・プレイ』とほぼ同じじゃないか?と思うのですけど、『M3GAN ミーガン』はアプローチを変えてきています。
たぶん製作上は当初はそのつもりはなかったのでしょうけど、最終的に『M3GAN ミーガン』はZ世代をターゲットにTikTok的なバズリを上手く引き当て、最速でホラーアイコンとして印象に刻まれることに成功しました。やはりホラー映画は恐怖の象徴がアイコンになってこそですね。
今作のAI搭載の人形「ミーガン」は少女の見た目ながら不気味な愛嬌があり、ダンスも踊るし、ビジュアルがとことんキャンプなので、クィアなアイコンとしてもLGBTQコミュニティで話題になったり…(映画自体にはクィアなキャラはオープンにはでてこないんですけど)。
その若い世代でバズった『M3GAN ミーガン』を生み出したのは、“ジェイソン・ブラム”と“ジェームズ・ワン”のコンビ。意外に久しぶりのタッグで、『インシディアス』シリーズ以来です。“ジェイソン・ブラム”は今やハリウッドのホラー映画の最大生産者。『ザ・スイッチ』『ブラック・フォン』『ソフト/クワイエット』などイキのいい奴を次々と送り込んできました。“ジェームズ・ワン”も『死霊館』シリーズを成功に導き、大作を経験して『マリグナント 狂暴な悪夢』で小中規模ホラー映画に原点回帰。こちらも現在のハリウッドのホラー映画界の立役者です。
この2人が揃ったら、そりゃあ面白いものができますよ。
『M3GAN ミーガン』を監督するのは、『Housebound』の“ジェラルド・ジョンストン”。脚本は『マリグナント 狂暴な悪夢』の“アケラ・クーパー”で、原案の“ジェームズ・ワン”と前から考えていたネタみたいですね。
俳優陣は、『パーフェクション』『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』の“アリソン・ウィリアムズ”が主人公を、『ブラック・ウィドウ』で子ども時代のエレーナ・ベロワを演じた“ヴァイオレット・マッグロウ”が物語の中心に立つ少女を演じています。
昨今の日本では海外の大手スタジオのホラー映画が軒並み劇場公開されずに配信スルー状態で、『ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』『Smile スマイル』『スクリーム6』などが映画館からハブられてきました。だからこそ『M3GAN ミーガン』は貴重な新人ホラー映画として躍り出ていってほしいところです。
なお、『M3GAN ミーガン』は案外と残酷描写は抑えめで、このジャンルとしてはレーティングも低くなっています。みんなを誘って観に行きやすいです。まあ、でもミーガン人形は容赦ないですけどね…。
『M3GAN ミーガン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽なエンタメ |
友人 | :一緒に盛り上がる |
恋人 | :ホラー平気なら |
キッズ | :少し残酷描写あり |
『M3GAN ミーガン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):理想のオモチャ?
買ってもらったオモチャと一緒に車の後部座席に座る子どものケイディ。前方の座席にいるのは両親ですが、父も母も口論しながらの運転で危なっかしいです。ただでさえ視界は雪で悪く、落ち着きません。いったん停車しますが、その瞬間、大型車両が衝突し…。
ところかわって、玩具メーカー「FUNKI(ファンキ)」で研究者として働くジェマは「M3GAN(ミーガン)」という人間のようなAI人形の開発に勤しんでいました。今は剥き出しのボディですが、頭部に皮膚マスクを装着するとリアルに表情が動きます。
会社側は他者の模造品にシェアを奪われているので早く安価な商品を作れと命じてきますが、ジェマはこのハイテクなロボットに執心しており、究極のコンパニオンになることを目指していました。しかし、人形の頭部が爆発し、その失敗っぷりを露呈。上司のデヴィッドもうんざりして去っていきます。
そんな中、両親を交通事故で失ったケイディは叔母であるジェマが引き取ることになりました。他に選択肢もありません。
ジェマの家に連れて帰ると、家の前でお隣の犬が吠えかかってきます。お隣さんは防除剤を噴霧してこちらの敷地まで流れてきており、ちょっと迷惑です。
家に入るとホームアシスタントデバイスが着信を報告。ここには子ども向けの本なんてなく、ロボットに憑りつかれたひとりの女性が暮らしているだけ。
ケイディはまだ両親の死のショックをひきずっており、何をしてあげられるかとジェマは困惑するばかりでした。セラピストのリディアが来ますが、時間がかかるのは明白です。ジェマとケイディの2人だと気まずい空気が流れます。
ある日、ジェマの仕事部屋に来たケイディは昔ジェマが作ったロボットに関心を持ちます。ブルースというロボットでごつい見た目ですが、モーションキャプチャーで動かせ、ジェマが腕の装置をつけると、連動してロボットも稼働。3Dカメラやセンサーがついているのですが、高すぎてオモチャになりませんでした。
けれどもそのロボットに目を輝かせたケイディを見て、ジェマはあのミーガンをちゃんと完成させようと決意します。
そしてついに完成しました。子ども部屋のような社内のショーケースで、ケイディを連れてきて、等身大の子どものようなミーガンと対面させます。リアルに瞬きしながら動き出し、ケイディをプライマリー・ユーザーとして登録。自己紹介すると一緒に机についてお絵かきしだします。何も書かれていないように見えましたが、水をかけると絵が浮かび上がりました。
それを固唾を飲んで見守っていたデヴィッドは感激。「赤字覚悟で投資しよう。テスラもハスブロも怖くない」とやる気満々です。
ミーガンを家に連れてくるとケイディはノリノリで案内。以前の落ち込みが嘘のように今のケイディは元気です。優れた丈夫な材質と自律学習を兼ね備え、親は子育てから大きく解放されることを謳うミーガン。それは子どもの生活もサポートすることが立証されていきます。
そうしているうちに、ミーガンは独自に情報収集し、ケイディの過去もリサーチしていました。周囲をスキャンしながら観察し、ケイディに害を与えるものを特定します。
そして実力行使にでることに…。
ホラー界のアイドルは踊って殺す
ここから『M3GAN ミーガン』のネタバレありの感想本文です。
『M3GAN ミーガン』はジャンルとしてはそんなに真新しくないものの、既存のジャンルをスマートにアップデートしており、ビジュアルとテーマ性の融合が明確で気持ちがいいです。この感覚は、リブート版の『透明人間』に近いかな。
ビジュアル面で言えば、やはり本作の華である「ミーガン」です。
初登場時から不気味さ全開で、ジェマ&ケイディの家庭に馴染みながらも、少しずつ狂気を滲ませていく過程をじっくり描いていました。
コントロールできると思い込んでいる存在が実は全然コントロールできやしない代物だったというのはスリラーの定番ですけど、ジェマはあくまでケイディに次ぐ管理権限2番目のユーザーにすぎないというのが致命的なミスで…。なんでトップ管理者にならなかったんだよって感じですけど(開発者ですらあるのに)。ペアレンタルコントロールは大事だな…。
ミーガンも犬に首を噛みつかれてズタボロになってからのあの静かな怒りの蓄積、そこからの犬殺し、隣人殺し、イジメっ子殺しと殺戮のオンパレード。イジメっ子のブランドンを襲うときにまさかの4足歩行で疾走してくる獣(ビースト)モードがまた印象的。
この「え? そんな動きできるの?」という意表を突くアクションは『マリグナント 狂暴な悪夢』を彷彿とさせます。
そして本社の廊下にてデヴィッドをダンス&串刺しで惨殺。ホラーならゆっくり気配を隠して近づくか、いつの間にか傍にいるという演出がベタですが、こんなふうにノリノリで踊ってくるのはミーガンならでは。さすがホラー界のアイドルだ…。
ちなみにこのミーガンは一部を除いて実際に人間が演じており、“エイミー・ドナルド”という子役が顔にマスクをつけて撮影しています。この“エイミー・ドナルド”は熟練のダンス経験者だそうで、どおりであのミーガン、踊りが本格的に上手いわけです。
終盤は自宅での決戦。ミーガンも本性を剥き出しにしてきますが、そこで救世主となるのがケイディが操作するごついロボット「ブルース」。登場時から絶対にここぞのシーンで活用されるなと思っていましたが、想像どおりの大暴れでした。思うんだけど、このブルースもじゅうぶん建築や採掘とかで有用だと思うから、実用的に売れるんじゃないかな。ジェマは就職先、間違えてるよ…。
ケアに効率性や革新性は求めてはいけない
『M3GAN ミーガン』の軸となるテーマには「身近な死を経験した者のケア」があり、これもホラー映画ではよくある題材です。
ただ、『M3GAN ミーガン』はまさに今の時代にこそ忘れてはいけない教訓を与えてくれます。それは「テクノロジーがケアの役割を果たしてくれる」という幻想の問題です。
AIもそうですが、近頃ではAIは話し相手などメンタルヘルスのケアとして役に立つのでは?という注目のされ方もされることがあります。確かに有益な面もありそうです。生身の人間ではなく、AI相手なら悩みを話せるという人もいるでしょう。
しかし、それでいいのか?と本作は投げかけます。
作中ではジェマはケイディとの対話を積み重ねていく手間を省略し、ミーガンというテクノロジーに頼ることでその肩代わりをさせようとします。効率化を図ったわけです。
けれどもこれは一見するとケアが上手くいっているように見えましたが、実際はケアとは異なる状況を生んでしまっていました。つまり、自分をケアしてくれたんだと勝手に解釈してしまうだけで、現実では手懐けられているだけ。ある種のAIによるグルーミングですね。
結局、セラピストの助言どおり、ジェマはケイディとしっかり向き合って一歩を進めることにします。どんなに技術革新があろうとも、ケアというのはこのステップが大切なのだ、と。
要するに、テクノロジーというのは、一時的なツールになっても、解決策にはなりません。ケアされているとは実感できないものこそ、大切なケアに繋がっていることもあります。ケアに重要なのは効率性や革新性ではないのです。
『アイの歌声を聴かせて』など、「テクノロジーがケアの役割を果たしてくれる」というのも間違いなく私たちに居心地のいい物語なのですが、その理想に誘惑されてしまう心情をグっとこらえて、現実の複雑な人間性と苦労をしてでも向き合うこと。『M3GAN ミーガン』はビジュアル面ではハチャメチャな映画ですけど、テーマはとても真っ直ぐで誠実です。
『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』でもそうですが、こういうAIロボットとケアの題材では、いかにして安易な技術過信に陥らず、人間の複雑さを紐解けるか、そこが作品の立ち位置として試されるんじゃないかなと思います。
まあ、でも『M3GAN ミーガン』はホラー映画です。続編も決定済みなので、次はどう来るかわかりませんけどね。
本作のラストではミーガンをチップごと破壊するも、家のホームアシスタントデバイスにミーガンは退避したように見えますし、ライバル社の模造品ミーガンが大量に出回る気配も漂わせていました。これは2作目でかなりのジャンル的な大盤振る舞いを見せるかもしれません。
個人的には「ミーガンvsアナベル」も見たいのだけど…。凶悪な技術ホラーと凶悪な心霊ホラー。どっちが勝つかはわからないけど、最後は仲良くなってほしいです(人間には最悪の友情)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 78%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
以上、『M3GAN ミーガン』の感想でした。
M3GAN (2023) [Japanese Review] 『M3GAN ミーガン』考察・評価レビュー