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『マリアンヌ Allied』感想(ネタバレ)…映画でも現実でも泣くしかないブラッド・ピット

マリアンヌ

映画でも現実でも泣くしかないブラッド・ピット…映画『マリアンヌ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Allied
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年2月10日
監督:ロバート・ゼメキス
恋愛描写
マリアンヌ

まりあんぬ
マリアンヌ

『マリアンヌ』物語 簡単紹介

1942年、カサブランカ。秘密諜報員のマックスとフランス軍レジスタンスのマリアンヌの異なる立場の二人は、重大なミッションのために夫婦を装うことになる。その任務は、ドイツ大使を狙うというものだった。互いの本心など気にせず、ただひたすらに任務のために生活がある。他人に疑われてはいけないので緊張を解くことはできない。その後、ロンドンで再会した2人は本当の恋に落ちるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『マリアンヌ』の感想です。

『マリアンヌ』感想(ネタバレなし)

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泣いていいよ、ブラッド・ピット

食品売り場やデパートの一角がピンクでハートな飾りつけだらけになる、チョコが最も売れる時期“バレンタイン・シーズン”に突入しました。そうなれば、映画業界もこれに便乗したいと考えるのは当然の世の流れ。ピッタリな恋愛映画を公開して、カップル客を呼び込みたいところ。

そして、2017年、日本の映画配給業界がまさに目を付けた“バレンタイン・シーズン”用映画のひとつ(なのかもしれない)が、本作マリアンヌ

『フォレスト・ガンプ 一期一会』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の名匠“ロバート・ゼメキス”が、日本でも知名度がダントツ高い“ブラッド・ピット”を主演にして描く、重厚なラブストーリー。確かにこれ以上ない理想的なチョイスです。

でも、あんまりそう悠長なことを言ってられないのが現実…。というのも、去年はブラッド・ピットは妻のアンジェリーナ・ジョリーとの離婚騒動、そして親権争いで大いに揉めに揉めました。それはもうスキャンダル大好きなメディアはピラニアのように食らいつき、この話題を貪ったものです。なんか、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの関係を描くドキュメンタリー映画まで製作が動いているとか。ブラッド・ピットは現実でも泣いてたんです、きっと。

すっかり、恋愛においては負のイメージというか、散々な目に遭った男という印象しか残っていないブラッド・ピット(映画配給側は微塵も表に出さないですが)。彼に、バレンタインのキューピッドを背負わせるのは、追い打ちにしかならない気がする…。間違ってもインタビューとかで、恋愛トークを持ち掛けてはいけない雰囲気。まあ、パートナー選びは慎重にという教訓を身をもって教えてくれるという意味では適役じゃないか、ともいえるけど。

こんなこと書いておきながらあれですが、カップルで観賞する際は、隣の人といずれ親権争いするかもしれないとか、余計なことは考えずに観てくださいね。

他人の愛のもつれ事情はもうこの感想でも置いておきましょう。話題にすべきは、“ロバート・ゼメキス”監督作ですよ。彼と言えば、巨匠であり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だ、『フォレスト・ガンプ 一期一会』だ…と一時は誰もが称賛する絶好調な道を進んでいたのですが、CGアニメ制作に興味を持ち始めたのが運の尽きで、そこから興行的にも失敗の連続。下手をしたら結構な負債を抱えたんじゃないかという気もしなくはないですが、2012年から実写映画に舞い戻り、割と大人な作風の映画を連発し、ついさっきまでのファミリー映画の担い手というイメージをサクッと捨ててきました。この転身はなかなかに大胆でしたけど、意外に成功しているので本当に良かったです。

『マリアンヌ』は恋愛映画という目で見ると非常にベタベタな感じがしますが、随所に監督の作家性も光っており、“ロバート・ゼメキス”監督が関心が持ったのもわかります。ちなみに脚本は“スティーヴン・ナイト”という名脚本家が手がけており、彼は監督もしていて『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』なんかは知る人ぞ知る感じ。

さすがベテラン勢で作っただけはある重厚感なのでお楽しみに。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『マリアンヌ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):愛のふりをして本物になる

1942年、フランス領モロッコ。砂漠にパラシュートで降下するひとりの男。乾いた砂地をひたすら歩いても何もありません。しかし、前方に車両を確認。その車は停車し、男は乗り込みます。

車内で無言のまま、鞄の中身を確認。身分証明書、紙幣、そして銃。さらに指輪も。

「あなたの妻は紫色のドレス。目印はハチドリ」

そう運転手は手短に口にします。

男は鞄の中にあった服に着替えて身なりを整え、指定の場所にある別の車に鞄をしまいます。そしてパーティ会場へ。ハチドリの柄のそばに指示どおりの女性がいました。

その女性は駆け寄ってきて抱き合い、キスをします。女性は「パリから来た私の夫よ」と仲間に紹介します。

夫婦は丁重にその場を後にして車に乗り込みます。

「マックス・ヴァタン」「マリアンヌ・ボーセジュール」と互いに本当の自己紹介。

2人は工作員であり、任務で夫婦を演じることになっていました。「任務に関係ないことは話さない」と言うマリアンヌ。カサブランカに慣れていないマックスにマリアンヌはここでの生き方を伝授します。もちろん仲睦まじい夫婦のふりをして…。

家に帰り、「パリ訛りは最悪だ」と言われるマックス。これではフランス系モロッコ人は騙せてもパーティに来るパリっ子には見抜かれてしまう…。2人は10日後の大使のパーティに潜入しないといけないのです。

屋上で寝てと言われ、従うマックス。カサブランカの夜は静かです。マリアンヌはあくまで役に徹します。マックスはそれに従順に動きます。

「戦争後は何をする?」「先のことはわからない」

翌日、マリアンヌからフランス人らしい生活仕草を教わり、体に染み込ませようとするマックス。次に外へ出かけます。夫婦の姿を世間に見せつけないといけません。

マックスは任務の障害となりうる人物を発見し、手早く仕留めます。こういうことに関する実力は一流でした。

マリアンヌは社交が得意で、すぐにみんなを楽しませ打ち解けることができます。パリで何があったのかと聞くと、Vセクションからの支援がなくて大変だったことが察せられます。

2人は短い期間で関係を深め、ドイツ大使館の連絡係であるホバーとの対応に備えます。失敗はできません。

そして任務はついに最重要な瞬間に…。

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車を出るとき、夢は醒める

『マリアンヌ』はお話し自体はすごくベタ。

スパイ同士が恋に落ち、そして悲しい結末が待つ…なんてありきたり。これだけのプロットなら凡百の作品があるでしょう。

しかし、本作の監督はあの“ロバート・ゼメキス”。この映画はその舞台からもわかるように、不朽の名作『カサブランカ』(1942年)からの引用が多いです。男女の思いがけない再会と愛の再燃が濃厚に描かれてロマンス映画の代表作となった『カサブランカ』ですが、それをある意味ではオマージュするというよりも思いっきりなぞってしまう疑似リメイクとさえ言えるようなそのまんまな設定です。映画愛を感じるアプローチですね。

また、前作『ザ・ウォーク』(2015年)では、リアルで人が嘔吐するほどの高所恐怖体験を提供した彼ですから、『マリアンヌ』でも徹底した映像表現に抜かりはありません。

本作でも視覚効果が光っていました。映像が絵画的というか、ちょっとどころかかなりオーバーな演出が重要な各場面で目立ちます。少し絵作りとしてはやりすぎなのですけど、この監督的には、どうせなら映像で思いっきり印象づけてほしいという思いなのでしょうか。

冒頭、“ブラッド・ピット”演じるマックスがパラシュートで砂漠に降り立つシーンからして異様です。童話みたいなファンタジーに見えます。

それからも印象的なシーンの連続。猛烈な砂嵐の中でのカーセックス(車、埋まっちゃうよ!)。ナチスの高官を撃ち殺す豪快な乱射(諜報員なのに、もはや暗殺ではないよ!)。爆撃と銃弾飛びかう中での出産(なんでよりによってこんな時に!)。他、多数です。

物語の平凡さに反比例するかのような印象的な視覚効果は、主人公となる二人の、諜報員であるがゆえに決して表にはできない心理を表現するのに絶妙な効果を発揮していたと思います。

心理表現といえば、とくに「車」。マックスが潜入地に入るのも車であり、マリアンヌと本音で出会うのも車の中。そして、砂漠で愛を深めるのも車の中。まさに「車の中にいる=二人の虚構の世界にいる」です。最後に、マリアンヌが車を出た瞬間、虚構の世界が終わりを告げます。

こうした印象的な視覚効果と演出に加えて、“ブラッド・ピット”と“マリオン・コティヤール”の熱演が見事合体してました。まあ、言ってしまえば美男美女の典型的なパターンなのですけど、この二人だからこそこの物語を引っ張っていけるだけのパワーがあり、そこにスリルももたらしてくれます。『007』といい、スパイってどうして美形なんですかね。目立つだろうに。実際のスパイはあまり美人の人はなれないのかなぁ…。

逆に言えばロバート・ゼメキス監督と二人の名俳優がいたからこそ凡作にならずに済んでいるともいえ、改めて凄いなぁと実感。あまりの映像力に、一種の作品全体が走馬灯なんじゃないかとすら思えてくる、そういうオーラがありました。

ただ、それでも話の地味さは完全には消せておらず、物語が大きなサスペンスもなく、トントン進むのは気になりましたが…。マリアンヌもさすがに迂闊すぎでしたね。別人になりきるならピアノくらい弾けるように準備しておけよ、と。

また、本作は『ザ・ウォーク』のときと違って、映画体験という意味でのこれまでにないインパクトのある視覚効果・演出もなかったのも残念。もちろん前述した映像センスは光っていたのですけど、それがインタラクティブな面白さになっているわけではないので、やっぱり食い合わせは悪いかもしれない。結果、全体的に物足りなく感じてしまいました。

“ロバート・ゼメキス”は“絶対にVFXは使いたい”マンなので、あとはそれにバシッとハマるような題材を見つけられたら最高なのですけど。それでいて大人向けの作品っていうのは厳しいのかな。

ともかく『マリアンヌ』は100%能力を引き出すことはできなかったのかも。

あ、ブラッド・ピットは応援してます。映画のような悲しい出来事にも負けず、頑張ってください(謎の応援団)。

『マリアンヌ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 61% Audience 64%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

以上、『マリアンヌ』の感想でした。

Allied (2016) [Japanese Review] 『マリアンヌ』考察・評価レビュー