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ドラマ『ハーレム Harlem』感想(ネタバレ)…黒人女性はパワフルじゃないといけないの?

ハーレム(ドラマシリーズ)

黒人女性はパワフルじゃないといけないの?…ドラマシリーズ『ハーレム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Harlem
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にAmazonで配信
原案:トレイシー・オリヴァー
人種差別描写 性描写 恋愛描写

ハーレム

はーれむ
ハーレム(ドラマシリーズ)

『ハーレム』あらすじ

ニューヨークのハーレム。この街にスタイリッシュで野心的な4人の黒人女性が集っていた。恋愛とキャリアのバランスに悩んで奮闘する新進気鋭の大学講師、常にデートの相手を入れ替える抜け目のないテック企業家、本音を隠せずに思ったことをそのまま口にする歌手、そして恋に恋するタイプのファッションデザイナー。ハーレムの高学歴の黒人女性に苦労は尽きない。それでも彼女たちは共に前に進んでいく。

『ハーレム』感想(ネタバレなし)

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黒人女性版の「SATC」

90年代の終わりから00年代の始めにかけて話題沸騰となったアメリカのドラマシリーズがありました。それが『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』です。

このドラマは、ニューヨーク・マンハッタンを舞台に30代独身女性たちのリアルな日常を赤裸々に描き、恋愛やセックスにまつわる本音に共感する人も続出し、世界中で大旋風を巻き起しました。ファッションのトレンドにもなりましたね。当時からハリウッドは男性主体の業界ですから、こういう女性の素を描く作品のヒットは貴重で、新しい流れを作る起爆剤にもなったと思います。

そんな『SATC』から年月が経過し、その続編となる新しいドラマシリーズ『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』が2021年末に配信が開始。今度は50代になって新たなライフステージを歩む女性たちの物語となり、こちらもファンを中心に注目を集めています。

その続編ではひとつ大きな変化があり、それは白人特権と向き合うストーリーの側面が濃くなっていること。女性という点ではマイノリティでも白人という点ではマジョリティだった主要登場人物たち。やはり今の時代はその白人という特権に無自覚ではいられません。ましてやここはニューヨーク。これこそが現代のリアルです。

そんな自分たちの特権性に四苦八苦しているドラマを観ているとふと思います。なら当のマイノリティな人種の女性たちの物語はないのだろうか…と。

もちろんそんなドラマ、あります! ということで今回紹介する作品はこれ。『ハーレム』です。

本作は同じく現代のニューヨークが舞台。正確にはニューヨークのハーレムという地区がメインです。そしてそこで精一杯に生きている比較的高学歴な30代の黒人女性(全員“今は”独身)の4人を主役にしており、そんな彼女たちの友情、恋愛、性、仕事…あれこれを赤裸々にノリノリで描いています。

まさに黒人女性版の『セックス・アンド・ザ・シティ』です。

こんな作品を待っていたという人も多いであろうドラマ『ハーレム』を生み出したのは、“トレイシー・オリヴァー”。脚本家としてはまだ若いのですが、『バーバーショップ3 リニューアル!』(2016年)、『リトル』(2019年)、『サン・イズ・オールソー・ア・スター 引き寄せられる2人』(2019年)など、脚本を手がける仕事を積み重ね、とくに脚本作『ガールズ・トリップ』(2017年)のように女性たちの友情モノを扱った物語は好評でした。

今作『ハーレム』はその“トレイシー・オリヴァー”が最も得意とするところが炸裂した内容ですね。

製作総指揮には、『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』で監督もした“エイミー・ポーラー”、歌手の“ファレル・ウィリアムス”なんかも名を連ねています。

エピソード監督は、『スペース・プレイヤーズ』の“マルコム・D・リー”、ドラマ『ギルモア・ガールズ』の“ニーマ・バーネット”“リンダ・メンドーサ”などが手がけ、脚本には短編『隔たる世界の2人』の“トレイヴォン・フリー”も参加しています。

そして賑やかなドラマを盛り上げる俳優陣。ひとりは『シャザム!』にもでていた“ミーガン・グッド”、さらにドラマ『Empire 成功の代償』の“グレース・ギアリー”、『Sing It!』の“ショニクア・シャンダイ”、『Good Trouble』の“ジェリー・ジョンソン”。この4人が主役です。

共演は、ドラマ『Pバレー: ストリッパーの道』の“タイラー・レプリー”、『パージ:大統領令』の“フアニ・フェリス”、そして『天使にラブ・ソングを…』でおなじみの“ウーピー・ゴールドバーグ”。そう言えば“ウーピー・ゴールドバーグ”もニューヨーク出身なのか…。

『ハーレム』はクィア表象も満載です。主役のひとりはレズビアンだし(しかもクィア向け出会い系アプリでIT起業家として大成功している)、バイセクシュアルのキャラクターも登場します。

『ハーレム』はAmazonプライムビデオで独占配信中。シーズン1は全10話(1話あたり約30分)。観やすいのでぜひ空き時間にどうぞ。

日本語吹き替え あり
山田みほ(カミール)/ 中原麻衣(クイン)/ 浅野まゆみ(タイ)/ 青山桐子(アンジー)/ 荒井勇樹(イアン)/ 綱島郷太郎(ジェイムソン) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:女性友情モノが好きなら
友人 4.0:仲のいい友達と
恋人 4.0:ロマンス要素は多め
キッズ 3.0:性描写が多少あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハーレム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):モソ族になれない!

ヒマラヤ山脈の辺境の地に「モソ族」と呼ばれる民族がおり、この民族は母系社会でまさに女性の王国、女性がコミュニティを仕切るのが当然でした。通い婚という習慣があって女性が相手を選び、男性の決定権はなく女性の都合が重視されるので、男をとっかえひっかえしてもいいのです。

しかし、21世紀のニューヨークのハーレムでは女性が自分の人生と恋愛で主導権を握るには難しい…。モソ族のようになりたいのならば、女性同士の絆が不可欠…。ハーレムの高学歴の黒人女性は男性より明らかに選択肢が少なく、ハッキリ言えば男性不足。妥協するかそれともモソ族のように妥協せずに相手探しに集中するか、その判断をしないといけないのです。

モソ族について学生たちの前で講義で語る人類学者の非常勤講師のカミール・パークスも、黒人女性としていろいろな岐路に立たされてきました。今はカンザス州立大学から常勤教授のオファーがあり、条件は確かに魅力的。でもこのコロンビアでの職場も気に入っている…。今の教授の女性は「予算がとおりしだいあなたを正規雇用する」と言ってくれ、キャリアの未来が開けて感謝します。

さっそく友達に報告がてら集合です。カミールには仲の良い女友達が3人います。ひとりは「Q」という有色人種のクィア向けデートアプリを開発するタイ。白人経営者から75万ドルの買収提示を華麗に断ってきたばかりのやり手のアントレプレナー。もうひとりはファションデザイナーとして成功し、自分の店を持っているクイン。そしてそのクインのルームメイトで、今は歌手の仕事を得るために奮闘しているお喋りなアンジー

カミールとアンジーは街を歩いているとある男性を目撃します。それはイアンという名の男で、実はカミールの元カレ。コックを目指してパリに行ってしまったはずなのに…戻ってきたのか。相変わらずセクシーですが、今のイアンに恋人がいるのか、イアンはSNSをやってないのでプライバシーはわかりません。いや、私はモソ族だと自分に言い聞かせるカミール。

タイはシェイラという女性と交際していますが、すぐに関係は終わります。クインは男探しに夢中になるもいつもろくな男ではありません。アンジーは気楽に男と寝るスタイルを謳歌中。

カミールは学生のマリークがしつこくアプローチしてきて、なんとなく彼でもいいかという気分になりますが、ベッドを前に彼とのプレイの趣味は全く合わないことに気づき、我に返ります。こんなんじゃダメだ…私は何をしているんだ…。

またもバーで仲間とトークが止まらないでいると、そこで偶然にイアンを見つけてしまいます。ゆっくりと後ろから近づき、肩に手を伸ばすカミール。しかし、話しかけられません。

一方、カミールの教授が「女性の定義」云々の騒動に巻き込まれて停職処分になってしまい、後任でやってきたのが同じく黒人で著名なプルイット教授でした。正規雇用する話は振り出しに戻り、なんとかこのプルイット教授に認めてもらわないといけません。

そんな中、イアンはミラという女性と婚約したことを知り、心かき乱されるカミールでした…。

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シーズン1:タイの物語

『ハーレム』に登場する主役4人は同じ世代の黒人女性ながらそれぞれの人生はバラバラです。それでも一緒に助け合っているのが、本作のシスターフッド。

まずタイ。本名は「タイシャ」のようですが、本人はそう呼ばれるのは嫌いなようです。タイは昔はIT企業の社員でしたが、全然女性の意見が通らないので自分で起業。そこで成功したのがクィアな有色人種向けの出会い系アプリでした。あの4人の中では経済的にも最も自立していますね。

自身もレズビアンなタイ。普段は短い関係を持つことの繰り返し。けれども白人のアンナと良い関係になり、彼女と人生を捧げたいと思い始めますが、しかし彼女は白人。有色人種向けのアプリを作っているくせに白人と付き合っていいのか…とプライドが邪魔をします。このへんは成功した黒人女性ならではの葛藤でしょうか。

また、タイは実はブランドンという夫がいたことが発覚。同性愛を自覚する前の話であり、勢いで家を飛び出してきたのでした。タイにとっての急所になっており、この過去とどう決着するかが気になるところ。子宮摘出の件もあるし…。出会い系アプリじゃなくて、別れを切り出すのに使えるアプリが必要ですね…。

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シーズン1:クインの物語

お次はクイン。彼女は裕福な家柄ということもあって、4人の中では最もリッチです。しかし、リッチだからといって悩みがないわけではありません。その裕福さゆえに悩みを打ち明けられず、抱え込んでしまう弱さも作中では吐露していました。

クインは昔はなんと金融会社に勤めており、そこからファッションデザイナーとして方向転換したことがわかります。クインの人生課題のひとつが母の束縛からの解放です。テナント代の値上げに苦しむたび母親にお金を借りるしかなく、また母からは早く男性と一緒になって落ち着いた家庭を持ってほしいと思われています。だからこそストレスとプレッシャーもあって、男に飛びつきがちなのでしょうけど…。ある種の女性らしさの押し付けに最も苦しんでいるのがクインだとも言えます。

そんなクインは母との付き合いもある議員を目指すイサベラという女性と出会い、そんなイサベラが気になりだし始め、自分も女性に好意を持つ人間だと自覚に至ります。こうしてクィアな1歩を進み始めたクインは、ここから本格的に脱女性規範へと突き進んでいくのでしょうか。

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シーズン1:アンジーの物語

アンジーはシーズン1第8話で明かされたのは、歌手として実はかなり成功していたという過去。派手な生活を送れるほどでしたが、急に契約解除。一気に落ちぶれてしまうという、ニューヨークの芸能界の厳しさを突きつけられたかたちです。

そのアンジーにめぐってきた最大のチャンスはあの『ゲット・アウト』のミュージカル

このミュージカル『ゲット・アウト』が本当にしょうもなくて笑ってしまうのですが、笑いつつもそこで炙り出される人種差別の非情。作品の本質を何もわかっていない、冒涜的なミュージカル化にぶちギレるべきか、それともぐっとこらえてキャリアの機会を受け入れるべきか。まあ、原作者のジョーダン・ピールからの上演中止命令というオチなんですけど…。

アンジーはあの4人の中では意外に真面目で、人種差別にも真っ当に向き合おうとしているわけで、誠実な人ほどキャリアアップできない(逆に同じ黒人でも差別に無頓着でスルーできる人ほど機会がめぐってくる)という黒人女性の苦悩が伝わってきます。

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シーズン1:カミールの物語

そしてカミール。彼女のエピソードは典型的なアカデミックな世界でサバイバルしようとするマイノリティ女性の葛藤がありありと滲み出るドラマでした。

カミールはSNSではフォロワーも多くて、リアルでも学生の人気は高いんですね。でも学問上のキャリアは前に進まない。マイノリティな人種でなおかつ女性。だから普通の人の何倍も努力しないといけない。こういう苦悩は、ドラマ『ザ・チェア 私は学科長』でも描かれていましたが、たぶん全世界の共通でしょう。

自分の代わりに准教授に任命されたのが明らかに有能な黒人の人物で、「もし白人だったら人種差別のせいにできたのに…」と自虐混じりに己の無力さを痛感してしまったり…。

テニュア(終身在職権)を得るのに全身全霊を捧げているのですが、その勢いを削ぐのが恋愛関係。イアンのパリ行きについていくつもりでいましたが、これは自分のキャリアを崩落させるだけではないかという不安が爆発。結局はイアンと別れます。婚約指輪まで用意していたイアンも傷ついていたみたいですが、でもカミールの苦しさは男性のイアンとはまた構造が全然違います。カミールの感じるあの恐怖に寄り添ってあげればよかったのに…。そして今度はジェイムソンとの板挟み。

作中でも言及されていましたが、ああいう高学歴の若い有色人種女性の理想のロールモデルのひとりはアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)なんでしょうね(ドキュメンタリー『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』も参照)。でも現実は厳しい。

強い黒人女性じゃないといけないというプレッシャーに晒され、戯曲『ピグマリオン』みたいな変身を求められる黒人女性たち。けれども作中ではそんな彼女たちの感傷的で弱々しい姿をあえて見せる場面もあり、名シーンでした。

こんなふうに命綱のように機能しているシスターフッドは今のハーレムにも無数にあるのでしょうね。

『ハーレム』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 95% Audience 76%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios

以上、『ハーレム』の感想でした。

Harlem (2021) [Japanese Review] 『ハーレム』考察・評価レビュー