この人形、変態です…映画『アナベル 死霊博物館』(アナベル3)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年9月20日
監督:ゲイリー・ドーベルマン
アナベル 死霊博物館
あなべる しりょうはくぶつかん
『アナベル 死霊博物館』あらすじ
超常現象研究家ウォーレン夫妻の家に、強烈な呪いを持つ恐ろしい人形アナベルが運び込まれ、地下の博物館に厳重に封印される。ある日、夫妻が仕事で家を空けることになり、娘のジュディはシッターとしてやって来た年上の少女メアリーやダニエラと3人で一夜を過ごすことに。ところが、ダニエラが勝手に博物館へ入り込み、アナベルの封印を解いてしまう。
『アナベル 死霊博物館』感想(ネタバレなし)
アナベルさん、3度目ですね
あなたが何者でもない、ただクリエイティブな欲求を煮えたぎらせるだけのキャリアが真っ白な人間だとして、ハリウッドで監督というかたちでバンバン大活躍したいなら、最短コースの登竜門は間違いなく「ホラー映画」でしょう。
アメリカの映画界では「ホラー映画で成功すること=大作映画監督への第1歩」となっている一面もあります。小規模な舞台かつ知名度の低い俳優を用いるので低予算で済むこと、アイディアしだいで上手くいけばバズりやすいこと、そうした費用対効果の高さから良質ホラーは非常に重宝されます。アメリカにおける映画を観る一般観客層にもそうしたホラーを楽しむ土壌が代々出来上がっているのも大きいのでしょう。記録的大ヒットを叩きだしやすい環境があります(無論、ダメだったらとことんダメですが)。
近年のアメリカ映画業界で最もこの“ホラー映画コース”で華々しい大成功をおさめた人物といえば、それはもちろん“ジェームズ・ワン”です。2004年の『ソウ』で大注目を浴びたアジア系のこの男は人種の壁もなんのその、ハリウッドで大躍進を遂げ、後に『ワイルド・スピード』シリーズの『ワイルド・スピード SKY MISSION』と、DC映画の『アクアマン』の監督を務め、今やハリウッドを牽引するビックシリーズに携わった人間になりました。
そんな“ジェームズ・ワン”がシリーズの旗揚げを担い、今もシリーズ全体をプロデュースしている作品群が「死霊館ユニバース(The Conjuring Universe)」です。2013年の『死霊館』を1作目としてスタートさせ、スピンオフの『アナベル』シリーズも同時的に展開し、最近では『ラ・ヨローナ 泣く女』という新路線も導入し、とどまることをしらないこの死霊館ユニバース。
その最新作が本作『アナベル 死霊博物館』です。
こちらはその名のとおり『アナベル』シリーズの作品でそのシリーズに限定すれば『アナベル 死霊館の人形』(2014年)、『アナベル 死霊人形の誕生』(2017年)に続く3作目となります。
「アナベル」という古い人形が巻き起こす怪事件を描くということでは一貫しているこのシリーズ。このアナベル人形、あまりにもコテコテに顔が不気味で、一度見ると忘れられませんが、これまでの作品ではその人形が辿ってきた陰惨な歴史が描かれてきました。そして『アナベル 死霊博物館』ではアナベル人形がシリーズ最重要人物であるウォーレン夫妻のもとに来て、あのいわくつきの品々をコレクション(兼封印)している例の博物館部屋に置かれてから起こる事件を描いています。原題も「Annabelle Comes Home」と、なんかアットホーム。なので時系列的には『死霊館』の前にあたるんですね。
シリーズとしてはさすがの死霊館ユニバースも勢いに陰りが見えますが、『アナベル 死霊博物館』でさえも製作費の8~9倍近くは相変わらず興収で稼ぎ出しているので、まだまだ現役で走ってくれそうです。
監督は“ゲイリー・ドーベルマン”。彼はそんな新人というわけでもなく、これまでの『アナベル』シリーズ、そして『IT イット』シリーズの脚本を手がけてきており、一応『アナベル 死霊博物館』で監督デビュー。『アナベル 死霊人形の誕生』で監督を務めたデヴィッド・F・サンドバーグは後にDCアメコミ映画『シャザム!』の監督に抜擢されましたから、この“ゲイリー・ドーベルマン”もどうかなと思いますけど、この人の場合はすでに製作面でも仕事していますし…。逆に今回は新人監督の起用はなかったんですね(ピッタリな人材がいなかったのか、それとも堅実でいこうと思ったのか)。
主役となるのはウォーレン夫妻の娘のジュディなのですが、『死霊館』と続く『死霊館 エンフィールド事件』ではスターリング・ジェリンズが演じていましたが、さすがに子役は成長するので、今回は新しく“マッケナ・グレイス”にバトンタッチしています。この子は『gifted ギフテッド』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』、『キャプテン・マーベル』と最近は引っ張りだこの人気っぷり。
ホラーが苦手という人もちょっと頑張ってみるのもいかが? ほら、ネタ化しながら観ると楽しくなれますよ。日本の宣伝でもアナベル人形を巡業させて遊んでいますから(TikTokまでしている)。まさかこの宣伝に関わった人が後にあんな目に遭うとはね…(露骨なフラグを押し付ける)。
事前にシリーズ全作を見ておかないと話がわからないということは一切ないのでご安心を。ただ、ちょっと過去作を見ておきたいなと思ったのなら、スピンオフとして本作に連なる「アナベル」シリーズよりも、ユニバースの原点となるシリーズオリジナル1作目の『死霊館』を見ておく方がいいです。他の「アナベル」シリーズよりも『死霊館』の方が関連性が深い一作なので。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ホラー好きの嗜み) |
友人 | ◯(アナベルと一緒) |
恋人 | ◯(ほどよい恐怖を効果的に) |
キッズ | ◯(残酷描写はほぼない) |
『アナベル 死霊博物館』感想(ネタバレあり)
アナベルとおるすばん!
突然ですが、ホラー映画に過剰に恐怖心を感じてしまって不得意とする人のために、この感想では『アナベル 死霊博物館』のあらすじを怖くないように紹介します(まあ、もともとホラー映画の感想文章ってその作品の怖さを減退させる効果がありますけど)。
1968年。心霊研究家として活動するエドとロレインのウォーレン夫妻は、アナベル人形という非常に恐ろしい力を宿した人形をある人物から手に入れ、自宅に持ち帰ろうとします。車の後部座席にアナベル人形をちょこんと座らせて運転するウォーレン夫妻。いや、箱にしまうとかいう発想はないのかと思うのですが、お気づきかと思いますがこの夫妻、専門家のはずですが絶妙に隙が多いです。
もっと言うならアナベル人形も今回はずいぶんと大人しい。過去作では無理に移動させられるとあの手この手で“ここがいい!”と駄々をこねたものなのに、よっぽどウォーレン夫妻が気に入ったのか。
ここで車のエンジンが何の脈絡もなく停止し、ライトも消えます。はい、アナベル人形の小粋なジョークです。周りによくわからん死霊がうじゃうじゃよってきますが、アナベル人形のファンです。さすが死霊界のアイドルですね。この後、エドが死霊に突き倒されてやけに綺麗に横っ飛びしますが、ファンの嫉妬って怖いものですよ…。
なんやかんやで帰宅。ウォーレン夫妻はアナベルを椅子に座らせます(なぜいつも揺れる椅子なんだ…)。神父と一緒に除霊的祈祷行為(効果なし)をし、そのままガラス張りのコレクション・ケースにしまわれるアナベル人形。割とこの場所が気に入ってそう…。
それから少し月日が経ち、ウォーレン夫妻には10歳くらいになる娘のジュディがいて、ある時、夫妻が仕事で出張にでるので、シッターのメアリーに娘と家を任せていきます。ジュディは学校で孤独な日々で、イジメられ中。まあ、親が心霊研究家というのは好奇の目で見られるのも当然か。しかし、ジュディはジュディでしっかり霊が見える体質で、今日も学校では今は亡き学校の校長先生の亡霊が見えているのでした(死後も職場にいるなんてご苦労様です)。
友達もいないジュディにはメアリーとその友人のダニエラだけが唯一のフレンド。家で仲良く留守番生活をエンジョイする3人。
しかし、この日の夜が地獄の始まりで…。実は自動車事故で父を亡くした過去を持つダニエラは、その喪失感と罪悪感から、どうにかして父に想いを伝えたいと常々考え、ゆえに心霊研究家であるこのウォーレン夫妻に関心を持っていたのでした。ある時、ダニエラはひとり、例の博物館部屋へ。扉の鍵は割と普通に見つかります(うっかりウォーレン夫妻の発動)。不気味な品々が並ぶ中、ケースの中に入っていたアナベル人形が動く、というか前のめりに頭をゴツンと倒れ、びびるダニエラ。
ちなみにこのアナベル人形は磁器人形なので結構しっかりした材質なはず。固定すらしないウォーレン夫妻(案外、どうでもいいんじゃないか)。なお、モデルになった実在のアナベル人形はラガディ・アン人形なので布製です(あんな怖い顔じゃありません)。
アナベルはベテラン変質者
『アナベル 死霊博物館』の中盤以降は、“ジェームズ・ワン”本人が言っているように完全に『ナイト ミュージアム』。アナベル人形の真価を発揮。コレクション・ルームのあらゆる呪いの物品が本気モードに覚醒します。
こんな力があるなら、やっぱりアナベル人形をこの部屋に置いたのはミスなんじゃないですか。危険なものを一か所に集めるという発想が間違いで、ウォーレン夫妻は『ジュラシック・パーク』を絶対に見ていないですよ…。
とにかく一瞬にして魔界と化したこの家で、魑魅魍魎のよくわからない存在と対峙することになったジュディ、メアリー、ダニエラ、そして外にいたボブことパルメリ。当然ながら阿鼻叫喚の大パニックです。
花嫁姿の幽霊は自由気ままにロンリーでうろついているし、外には黒い狼男みたいな怪物(正確には「ブラックシャック」というイギリスの伝承に出てくる黒い犬の霊なのだろうけど)が徘徊中。ここで鶏小屋に逃げていたボブの目の前で、1羽の鶏が「どれ、俺が様子を見てくるよ」(私にはそう聞こえた)と外に出ていき、断末魔をあげるシーンが本作の最もドラマチックで泣ける場面です。ええ、そうです。
珍妙なアイテムもいっぱい。あの少し先の未来が見えるというドラえもんの道具みたいなテレビはオカルトというか、普通に便利だと思いますけど。ギリシャ神話に登場する神「フェリーマン」の逸話に出てくる硬貨もあって、ちょっとウォーレン夫妻の骨董品収集の守備範囲、広すぎやしませんか。「Feeley Meeley」という手さぐりゲームの飛び出す手は、ちょっとジャパニーズホラー感がありましたね。
いや、日本のホラーといえば、本作にはありました、和風甲冑が。あれは一応、鬼らしいのですけど(確かに角があった)、しっかり日本語も流暢にアジア系要素を出してくれるのはさすが“ジェームズ・ワン”。信頼できます。いつか日本舞台の本格ホラー、やってくれないかな…。
もちろん、我らが大将アナベル人形もどこぞのピエロに負けないくらいの大暴れ。相変わらずの神出鬼没で、以前にも増して“粘着”ストーカー性格がエスカレートしている…。そんなところから覗くなよ…っていう場所にいる。そしてついにジュディのベッド布団の中にまで。もうこれは変態です、アウトです。
はい、被告人。名前はアナベルでいいですね。無言ですか、じゃあ、続けますよ。あなたは少女の布団の中に無断で忍び込んでいた、未成年へのわいせつ罪で起訴されています。罪状について異議はありますか。その…椅子を揺らしているのはどういう意味ですか。裁判官への侮辱ですか。誰か、話のわかるやつを連れてこい。
女子力にタジタジのアナベル?
『アナベル 死霊博物館』はこれまでのシリーズ作とは違って、作品自体が非常にコンパクトにおさまっています。いわゆる『ホームアローン』に通じる、大人たちがいない一夜の間に子どもたちが騒動を丸くおさめるために頑張る、ワンシチュエーション・ドタバタ劇。
そのため過去作のようないつ命を失うかもわからない緊迫感は薄めで、どこかマイルド。ファミリー映画だといっても詐欺ではないでしょう。
案の定、肝心な時にいないウォーレン夫妻に代わって奮闘するのは、まだ年端もいかない10歳のジュディと、ティーンエイジャーの女子二人&外野一人。ここで面白いのはジュディのポジションで、普通だったらわかりやすいスクリーム・ガール的な年相応の幼い役回りになるものなのに、本作では心霊現象に関しての造詣が深いゆえに、専門家ポジションになっているんですね。やけに肝が据わっている全登場人物中でも最も賢いジュディの立ち振る舞いがなんか妙に作品の雰囲気をかき回しており、良いスパイスになっています。
メアリーとダニエラの二人も良くって、何がいいかといえば、この手のティーンが出てくるホラーorスリラーはたいてい色恋沙汰もしくはセックスネタが絡んでくるのが定番です。でも今作では唯一の男であるボブは最後の終息後にオチで合流するだけで、基本女子の力のみで解決してしまいます。リメイクされた『ゴーストバスターズ』じゃないですけど、幽霊くらい女も倒せますよ!というあえての軽さが気持ちいいです。
やるべきことはアナベル人形をあのケースに戻すことなので、もっと早くに終結できたんじゃないかと思わなくもないですし、畳みかけるような恐怖の連打がそれほどなかったので、個人的にはシリーズ最恐とはとても言えないですが、挑戦を感じる作品ではありました。
そもそも「死霊館ユニバース」の作品はどれも、1)ほぼ無名の俳優を使う、2)低予算で作る、3)ホラー以外のジャンルに浮気しない…という条件をずっと守り続け、それでいてその中で可能なアプローチを模索し続けており、この作り手の一貫性は本当に凄いと思います。
次は本家「死霊館」シリーズの3作目が待っているとのことで、いよいよ何かしらの大団円か、はたまた意外などんでん返しが待っているのか、ちょっとワクワクしてきました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 70%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
以上、『アナベル 死霊博物館』の感想でした。
Annabelle Comes Home (2019) [Japanese Review] 『アナベル 死霊博物館』考察・評価レビュー