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『ザ・クラフト:レガシー』感想(ネタバレ)…黒魔術系女子はリブートでも強い

ザ・クラフト:レガシー

リブート版であり、続編でもある…映画『ザ・クラフト:レガシー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Craft: Legacy
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:ゾーイ・リスター=ジョーンズ
イジメ描写

ザ・クラフト:レガシー

ざくらふとれがしー
ザ・クラフト:レガシー

『ザ・クラフト:レガシー』あらすじ

黒魔術にハマる女子高生3人が、新しいメンバーを迎え入れることで魔力に目覚める。人間関係、セクシュアリティ、肌の色、見た目へのコンプレックス等、それぞれコンプレックスをもつ女子たちが、黒魔術を通じて悩みを解決しようとする。人生は摩訶不思議な楽しさで様変わり。しかし、その矢先に事態は4人の思いもしなかった方向に転がっていく。

『ザ・クラフト:レガシー』感想(ネタバレなし)

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あのカルト映画が復活

青春時代によく経験することと言えば? 勉強? 部活? 恋愛? 友情? …いいえ、オカルトです!

皆さんはティーンのときにオカルトにハマったでしょうか。私は占いすらも信じない人間だったので、そういう類のものは全然気にしていなかったのですけど、なぜかオカルトというものは若者を惹きつけます。私が中高生の頃は「こっくりさん」が流行っていた気がする…。今の10代はどんなオカルトが流行しているのかな。

日本ではオカルト的なことに興じていたからといって、それで「変な奴」扱いされることはあまりないと思うのですけど(一種のパーティーゲームみたいな娯楽になっている感じもある)、アメリカではオカルトに夢中になる子は「ゴス」「フリーク」の部類にラベルされ、学校序列で下と見なされて虐められがちです。

映画においてもオカルト・マニアな子たちは常に浮いた存在として描かれてきました。学校を舞台にした作品なら、背景に映る奇妙な集団…みたいな。

そんな影の子たちを主役にすることでカルト的な人気を集めた青春ホラー映画がかつて存在しました。その作品とは1996年に公開された『ザ・クラフト』(アンドリュー・フレミング監督)です。

この『ザ・クラフト』は当時としてはとにかく異色でした。

まず主役が4人いて全員が女の子なのです。90年代はまだまだ今と違って女性が主役になる企画が通りにくい時代でした。女性が登場するにしても役割は固定されがちです。ホラーならば、トロフィーになるセクシーなヒロイン、殺されるバカな役、叫ぶ担当、処女…こんな程度。しかし、この『ザ・クラフト』は全員が女子で、男子が脇役に回っています。加えて4人も女子が出てくるので、女性だからこの役目を背負うということもなく、フラットに描かれています。アフリカ系の子も混ざっており、多様性にすら富んでいます。

そして前述したとおり、この主人公となる4人の女子は黒魔術などオカルトに熱中する、完全にクラスで浮いた存在なわけです。勝ち組からかけ離れた、負け組のグループ。その影になっていた女子が主役になっているのですから、イレギュラーな立ち回りをしています。

さらに物語も、オカルト好きな女子4人が本当に黒魔術に目覚めて大変な騒ぎを起こしていくというもので、とくに後半になると映像的なインパクト大な展開の連発で、「これはカルト映画になる!」というのも納得の存在感。ましてや当事者なら「私たちの映画!」と信仰したくなります。

設定としては『キャリー』に似ているのですけど、『ザ・クラフト』はそこからさらに進化した、当時のオカルト・ガール・ムービーのトップランナーでした。こういう作品があるんですから、やっぱりホラーは男性向けみたいな認識は全くおかしいですよね。

その『ザ・クラフト』がまさかの2020年になって再始動。それが本作『ザ・クラフト:レガシー』です。

本作はリブートでありつつ、ちょっぴり続編要素もある、そんな立ち位置の作品。前作とストーリーの大枠は同じ。でも中身はいろいろ変わっています。

具体的にどう変わったのかは後半の感想で語るとして、ひとつ事前に紹介すると、以前よりもフェミニズムを土台にしたシスターフッドが主軸となり、さらにジェンダーやセクシュアリティに関する要素が追加されて色濃くなった感じでしょうか。

相変わらず黒魔術なオカルティズムは満載ですけどね。

監督は“ゾーイ・リスター=ジョーンズ”で、俳優として活動していましたが、2017年に『バンド・エイド』という映画で監督デビューしました。

俳優陣は、引っ越ししてくる主役の子を、『パシフィック・リム アップライジング』で大抜擢されて活躍し、その後も『ホテル・エルロワイヤル』や『ビリーブ 未来への大逆転』と起用が続いている“ケイリー・スピーニー”が熱演。個人的には“ケイリー・スピーニー”の出演作の中では本作が一番ハマっている気がします。

他には『ブロッカーズ』の“ギデオン・アドロン”、『セラとチーム・スペード』の“ラヴィー・シモーン”、ドラマ『POSE』の“ゾーイ・ルナ”といった若手から、『ミッション:インポッシブル3』の“ミシェル・モナハン”、ドラマ『X-ファイル』の“デヴィッド・ドゥカヴニー”などの大人勢まで。

残念ながら日本では劇場未公開で、配信スルーになってしまいましたが、オカルト好きは気軽に鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(過去作を知らない人でも)
友人 ◯(オカルト好き同士で)
恋人 ◯(気軽に観れるエンタメ)
キッズ ◯(そんなに怖い描写はない)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・クラフト:レガシー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):4人目の参加

とある部屋。いくつもの蝋燭を灯してそれらを囲みながら、お喋りしつつ、儀式にのぞむ3人の女子。揃えて何かを唱え始めます。目を閉じ、呪文を終えると…何も起こらない。

呪文は無理ではないかと弱音をこぼしつつも、タビー、フランキー、ルーデスは本に載っているとおりにやっているかを確認。今回は時間を停止させるはずでしたが、時間の無駄になっただけでした。北、南、東…と担当しつつも、あとひとつメンバーが足りないからだと推測しますが、どうにもできません。

一方、リリーは母の運転する車で移動中。引っ越しです。住み慣れた場所を離れるのは少し悲しく、涙もこぼれます。しかし、いつまでもナーバスではいられません。

母・ヘレンの新しい夫であるアダムが迎えます。リリーはまだアダムとそこまで打ち解けていませんが、アダムの方はフレンドリーで仲良くなろうと、リリーが持っていたカメラに興味を示し、3人の写真を撮ります。そのとき、庭にを見かけてちょっと驚くリリー。

アダムにはすでにティーンである3人の息子がいて、それぞれを紹介され、ぎこちなく挨拶。母はアダムとイチャイチャしてばかり。家では男の割合がグッと増えて、リリーにしてみればどうも落ち着きません。

そして学校へ。授業を受けていると何やらざわつき、ティミーというクラスメイトの男子にリリーは笑われます。何かと思えば、リリーは生理で出血しており、床に血痕が垂れていました。

慌ててトイレの個室に駆け込み、ひとり涙を流し、屈辱に耐えるリリー。そこに誰がが来ます。心配してくれる3人の女子は同じクラスでした。タビー、フランキー、ルーデス。学校では黒魔術にハマる変な女子として知られています。4人が並んで歩くと、視線を感じます。リリーが首にかけているアクセサリに興味を持つ3人。

別の日。あの意地悪なティミーがまた廊下で絡んできます。とっさに手で押すと体格の大きいティミーはロッカーに打ち付けられてしまいました。なんでそんなに力が入ったのか?

授業中も変な気分です。居残り中に声が聞こえ、外に出るとテンションが高いタビー、フランキー、ルーデスの3人に遭遇。やたらと早口で小難しい言葉を喋っていく3人。「魔女だよ、あんたもね」

この3人はリリーに魔力があると直感し、仲間に加えたいようです。今自分たちが取り組んでいることを説明し、ステージ4までいけばシェイプ・シフトができると豪語。「クリステン・スチュワートがいいんだよね」なんてずいぶんお気楽です。

「西がいなかった。あなたが西になれる」と求められ、「私たちの力として4番目になってほしい」と懇願され、しぶしぶ承諾するリリー。こうして4人になりました。

さっそく野外の林で儀式を始めます。サークルを作り、4人で輪になり座って、何かを感じる…両手を上げ、呪文を唱える…。

すると、時間が止まった…一瞬だけ。あまりの衝撃に4人は大歓声をあげます。信じられませんが、ついにやりました。

それからはもうやりたい放題。空中浮遊を試したり、指から火を出したり、時間停止でイタズラしたり、呪文を試しては大はしゃぎ。自分たちを見下していた同級生にこれまでの鬱憤を好きなだけ晴らしていきます。

あの憎たらしいティミーにも呪いをかけて、繊細で真面目な子に変身させてしまいました。すっかり従順になり、自分たちの仲間にさせて、いい気分です。

しかし、魔術には代償がつきもの。事態は思わぬ方向に転がり始め、4人の友情にさえもヒビが…。

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生理とオカルトと女子の絆

前作の『ザ・クラフト』(1996年)と比べると、この『ザ・クラフト:レガシー』は良い部分と悪い部分が両極端に分かれたかなというのが私の素直な感想です。

まず良い部分から。一番の改良と言えるのは、主役のあの4人のアンサンブルだと思います。本作ではシスターフッド要素が強化されました。ベタと言えばベタなのですが、あの生理からの打ち解け合う展開はホッコリします。上手いなと思うのは、リリーが教室で受けた屈辱にあの3人は心の底から同情しつつも、生理という現象に対してある種のオカルト思考を発動させてもいて、そのどっちつかずな軽い感じがまだ絶妙にリリーの心に抱える不安を自然に取り除いているということ。あの3人を前にすると悩んでいた自分もばからしく思えてくる、そういう安心感があります。

もちろんあの「初潮を迎える」という出来事は、リリーの魔力の開花を意味してもいるのですが…。

それからの4人になってからの実に楽しそうなこと。あの他愛もない魔術遊びだけで2時間くらい観ていたい気分。

主人公のリリーを演じた“ケイリー・スピーニー”もベストキャスティングでした。前作『ザ・クラフト』のときは引っ越してくる主人公を“ロビン・タニー”が演じていたのですが、ある意味では見た目も王道のヒロイン像だったと思います。その一方で今回の“ケイリー・スピーニー”は最初からステレオタイプな女の子っぽさがない容姿をしており、個性が立っていて良かったです。劇中でクリステン・スチュワートのことが触れられますけど、まさにそんな方向性のような。

なんでも“ゾーイ・リスター=ジョーンズ”監督が若い頃にあんな感じだったそうで、容姿を理由にけなされることもあったのだとか。

今作のリリーの境遇(いきなり男ばかりの家庭環境に変わる)というのも、監督本人の経験談とのことで、本作のリアリティにもなっています。

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加害者になってしまう恐怖

『ザ・クラフト:レガシー』の面白かったポイントその2。それはジェンダーやセクシュアリティに踏み込んだストーリーになっているということです。

魔術を会得した4人は好き勝手に楽しみ、やがてウザったかったティミーに呪文をかけて何でも言うことをきく従順な男子に変えます。

ところが5人で部屋で秘密を打ち明けるゲームをしていると、ティミーはおもむろに自分がバイセクシュアルであることをカミングアウト。涙ながらの苦しそうな告白に、おふざけムードが吹き飛び、真剣に聞く4人は「さすがにマズいことをしてしまったのでは…」と焦ります。要するに呪文で強制カミングアウトをさせてしまったわけで、これは相手の尊厳を傷つけるのも当然。

しかも、リリーは魔術的な何やらでそのティミーに自分に好意を持つように仕向けることまでしてしまいました。

そしてティミーはその出来事の後に自殺したと学校で聞かされ、完全に一線を越えて取り返しのつかないことをしたと自覚。

このセクシュアリティをめぐる一連の出来事はとても今の時代の青春を取り巻く環境にとっては身近であり、案外と無自覚にやってしまいかねない行為でもあり、“気が付けば加害者”というホラーを体感させてくれます。実際にリアルでは魔術はなくともああいうノリからの加害行為は頻発するものですからね。

さらに本作には捻りがあり、実はあのティミーは自殺ではなく殺人であり、犯人はアダム。つまり、ヘイトクライムであったと明かされます。二重の恐怖ですね。

本作は、アメリカのLGBTQ表象をモニタリングしている組織「GLAAD」が選定する「GLAADメディア賞」において最優秀映画(世界リリース)にノミネートされました。『ハピエスト・ホリデー』『ザ・プロム』『マ・レイニーのブラックボトム』『オールド・ガード』と並んでのノミネートです。ただ、その中でも『ザ・クラフト:レガシー』は当事者を主体にするのではなく、当事者を傷つけてしまう外野を描くという点で特異な作品でした。

私としてはもっとセクシュアル・マイノリティの抱く、もしくは取り巻く恐怖というものを、ホラーやスリラーでジャンル化してもいい(もちろん単に偏見まみれのものは論外だけど)と思っているので、こういう作品の登場は歓迎したいところです。

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バトルはやや物足りない

『ザ・クラフト:レガシー』の前作と比較してのマイナス面は終盤です。それまでは結構面白かったのですけど、後半になるにつれ、雑になっていく感じがありました。

とくにアダムとの対決のくだりです。今作はシスターフッドを重視しているので、最終的にはアダムがボスになる…ここは納得です。アダムはヘレンにシェイプ・シフトしていると判明するシーンで、その実態を暴露する展開も悪くはありません。

ただ、その後のバトル展開はどうもチープです。VFXを単に使ってほぼ棒立ちで戦っているだけですから。あそこはもっと魔術を駆使したあの手この手のバトルを見せるところでしょう。

前作の『ザ・クラフト』はそれができていて、終盤の魔術乱闘がとても斬新な映像で表現されており、そこが何よりも面白さの頂点でした。それを削ぎ落された本作『ザ・クラフト:レガシー』はガッカリしてしまうのも無理ないかな、と。

前作の「オカルト趣味女子vs本物の魔女ガール」の対決がやっぱり名シーンですね。

『ザ・クラフト:レガシー』のラストでリリーの本当の母親が前作のナンシーであると明かされるサプライズがあるのですが、ナンシーが終盤のバトルでピンチのときに駆け付け、一気に戦闘がド派手になっていたら、今作はカルト映画としてまた時代を更新したと思うのだけど…。『ヘレディタリー 継承』くらいの限界突破を見せれば満点でした。

全体的に映画時間の97分は短すぎたかなと思います。120分くらいでも良かったです。

黒魔術を楽しむ際は、悪い奴だけに呪文をかけようね。

『ザ・クラフト:レガシー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 29%
IMDb
4.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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・『ヘレディタリー 継承』

・『ウィッチ』

作品ポスター・画像 (C)2020 Columbia Pictures Industries, Inc. and Blumhouse Productions, LLC. All Rights Reserved. クラフトレガシー

以上、『ザ・クラフト:レガシー』の感想でした。

The Craft: Legacy (2020) [Japanese Review] 『ザ・クラフト:レガシー』考察・評価レビュー