私は指パッチンができません…映画『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(アベンジャーズ3)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年4月27日
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
アベンジャーズ インフィニティ・ウォー
あべんじゃーず いんふぃにてぃうぉー
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』あらすじ
6つ集めれば世界を滅ぼす無限の力を手にすると言われる「インフィニティ・ストーン」を狙い、地球に襲来した宇宙最強の敵サノス。その巨大な存在に対し、これまで幾度となく世界の平和を救ってきたアベンジャーズを始めとするヒーローたちは、これまで経験したこともないような想像を絶する激しい戦いを強いられる。
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』感想(ネタバレなし)
ついてきてますか?
ついに2018年最大のお祭り映画がやってきました。作品シリーズに夢中な人はワクワクして夜も眠れないでしょうし、ある程度映画好きの人は「どうなんだろう?」程度の関心レベルだろうし、全く興味ない人は何もないかのように冷静沈着でスルーするでしょう。そんな人によってガラッと反応が変わるのがアメコミ映画の特徴ですが、個人的には今のアメリカ映画界で商業的に最も成功していると断言できるマーベルが、この集大成的な作品『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』で何を見せてくれるのか…そこだけが関心事です。
この前作にあたる『ブラックパンサー』でアメコミ映画のネクストステージを見せてくれたとも思っているので、今作は“わっしょい♪ わっしょい♪”と盛り上がっている人の波に便乗して雰囲気だけ味わえればそれでいいかなと…そんなスタンス。
何より登場するキャラの多さですよ。もう紹介するのもバカらしいです。予告動画では有名どころの主要キャラしか紹介していなくて、本来であれば“もっとちゃんと紹介しろ!”と怒ってもいいのに、さすがに今回は“しょうがないよね…”となる。それくらいの数です。これじゃあ、ますますホークアイの出番がないじゃないか…。
で、毎度の問題ですが、本作に至るまで18作品を重ねてきた「マーベル・シネマティック・ユニバース」。これだけ作品数も多いと、最低限何を観ればいいのか。実際に鑑賞したうえで断言しておきますけど、今作、これまでの作品を見てきた積み重ねがあってこその映画になっています。“一見さんお断り”の雰囲気がいまだかつてないほど大きいです。たぶん今作で初めてマーベル映画を観るなんて人がいるとしたら、もう唖然とするのではないかな…いろんな意味で。
私的なオススメは『アベンジャーズ』、『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』は必須として、余裕があれば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。これでなんとか最低限ギリギリをクリアできる…かな。結構、それでもツラいと思いますが…。
このシリーズを追うこと自体が史上最強の難敵と化しているような状況ですが、時間がある方は“マーベル・マラソン”を頑張ってください。
ちなみに本作はマーベル映画史上かつてないほどネタバレ禁止を徹底した厳戒態勢なんですよね。公式関係者さえもネタバレに気を付けてとコメントするほど。このブログでは明記していますが、ここから先の後半ではガッツリとネタバレありで書いています。というか、ネタバレなしで感想を語るなんて今作は無理ですよね…。あらためて注意です。
強大な力を持つ6つのインフィニティ・ストーンを集めてガントレットに装着することで、全宇宙の生命体の半数を指をパチンとさせるだけで消滅させられる力を手にしようとする「サノス」。それを阻止しようとするアベンジャーズやガーディアンズといったヒーローたち。その戦いを描くのが本作です。これ以上の情報はもう言えません。
ちなみに私は指パッチンが上手くできないのですけど、つまり私がインフィニティ・ストーンを装着したガントレットを手にしても何もできないんですか…。あ、どうでもいい? そうだよね…。
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』感想(ネタバレあり)
お祭り映画クラッシャー
はい、ネタバレしますよ(最終警告)。
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』はブロックバスター大作としては、アメコミ映画史どころか、全映画史においても記録にないようなとんでもない出来事が物語の結末として起こります。
それは正義の主人公たちが悪役に負けるということ。負けるなんて生易しいものじゃない、「完全敗北」です。絵に描いたような全滅。だから、あれだけネタバレ厳禁だと言っておきながら、公式の煽り宣伝文句の「アベンジャーズ、全滅」が一番のネタバレになっているのですよね。
普通、映画に限らず善と悪が存在する物語のシナリオは、主人公側である正義が悪に負けそうになりながらも、紆余曲折のドラマを乗り越えながら、最終的には悪に勝つというのが予定調和です。“勝つ”といっても、その方法は色々で、文字どおり物理的に倒すこともあれば、諦めさせたり、改心させたり、とにかく最後は善がマウントをとります。
観客もそれは重々理解しているので、どうやって勝つのか、それを楽しみにしています。つまり、本作の宣伝の「アベンジャーズ、全滅」も、全滅はしかけるのだろうけど、最終的には勝つのだろう…と期待します。その過程であんなキャラとこんなキャラが共闘しているのを見る…それがお祭り映画というものです。
そういう意味では、本作は“お祭り映画クラッシャー”でしたよね。“わっしょい♪ わっしょい♪”と盛り上がるつもりが、顔面をボコボコになぐられているだけで終わるんですから。映画を見てスッキリしたい人は非常に気まずいことになります。
本作はあの今まで数々の苦難を乗り越えてきた、いわば選ばれしヒーローたちが“負ける”ことにちゃんと説得力を持たせているのは凄いなと思いました。もちろん、ヒーローたちも確実に進化しています。アイアンマンのあの装備はチートですよ。でも負ける。開始早々、ソーとハルクという暴走クラスに強い奴らが完膚なきまでに叩きのめすシーンを観客に見せたのち、さらに一応アベンジャーズ中では最強という扱いのヴィジョンやスカーレット・ウィッチが全力を出せない状況をつくり、そこからサノスは時間を増すごとに底なしのようにパワーアップしていく。絶望的状況の演出が上手かったです。
アンチ・ディズニー
ただ、ヒーローたちが苦境に立たされ、本気で全滅するかもなということは、ある程度のマーベル映画情報を事前に仕入れてきている人は予測していたかと思います。そもそも本作はもともと前後編の一作目となる予定であり、すでに来年には「アベンジャーズ4(仮題)」が控えているわけです。
でも、その予想以上にあまりにもな完全敗北っぷりに私も驚きました。たぶん鑑賞した人の中では、「普通に負けて終わっただけじゃん!」と不満の声も聞こえてきそうです。そうなんですよね、普通に負けて終わっただけ。だから異例なのです。
私はハッキリ「アンチ・ディズニー」的だと思いました。ハッピーエンドの否定、正義の否定、仲間の否定、愛の否定…。とくに印象的なのは劇中で幾度となく各キャラたちがとる「愛のための犠牲」が無駄に終わるシーン。最初はロキが愛する兄のために犠牲になってサノスに刃を向けるも、撃沈。次にピーター・クイルが愛するガモーラの願いを叶えるかたちで苦渋の決断で彼女に銃を放つも、無駄に。最後にはスカーレット・ウィッチことワンダが最後の手段として愛するヴィジョンのインフィニティ・ストーンを彼ごと破壊するも、時間の巻き戻しで無効に。これだけ同じシチュエーションが繰り返されるのですから、脚本製作陣はわざとやっているのでしょう。
そもそも『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』ではヒーローが戦いの最中で起こしてしまう犠牲についてをテーマのひとつに入れていました。結果、愛などの大義のためなら少数の犠牲で大勢を救えることも理解しつつ、それでも犠牲は極力出すべきではない…そういうある種の正論的な結論に各ヒーローたちは至っているわけです。
それを本作はたった一作でパチンと消し飛ばす。つまり、これまでのマーベル映画が積み上げてきた集大成を全否定しているともとれます。こんな挑戦的なこと、通常はできません。やはりマーベルこその余裕なのか…。
地球のポリコレの完全敗北
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』は実質、サノスが主人公の映画といっていいのではないでしょうか。
サノスの思想が非常に物語の鍵になっています。生命の繁栄のためには過剰に増えた生命は有害なので、半数を消そうという考え。これ自体は非常にニヒリズムであり、悪役によくいるタイプで珍しくありません。
しかし、ヒーローが「愛のための犠牲」という選択をとるのに対して、サノスは「さらなる大義のために愛さえも犠牲」にする。それがよくわかるのが、サノスが涙を流しながら娘同然に可愛がってきたガモーラの命を奪うシーンです。これによってサノスにもひとつの道理の通った行動原理が存在し、それ自体はヒーロー的とも言えなくもないものがある感じもします。ラストのサノスの哀愁ある感じは悪役というよりは、自分の仕事をやり遂げて定年退職を迎えたお父さんって感じじゃないですか。
個人的には今回のサノス、『マイレージ、マイライフ』という映画に登場したジョージ・クルーニーが演じた解雇宣告人のような、仕事上やむを得ず汚れたことに手を染める労働者みたいな感じで、親近感が沸きます。「フハハハ! 愛などくだらん! 貴様らを八つ裂きにしてやる!」みたいな悪役ではないラスボスは新鮮でした。
マーベル映画はこれまでその作品の裏側に比較的わかりやすい社会風刺や政治問題をメタファーに入れ込むことを得意としており、本作の監督である“ルッソ兄弟”なんかはとくにそれで評価も集めていました。一方、本作はそういう“ルッソ兄弟”十八番の正義的な要素を揺らがせることの究極系だったのではないでしょうか。非常に“ルッソ兄弟”らしいですよね。
言い換えれば、ある人にとっての正義は、別の人にとっての正義とは相容れないということ。正しさって何だ? 愛ってそんなに大事か? そんなことを衝撃的なストーリーで問い直す映画は、まさに個人の正義が氾濫する時代の今、作られるべきだったと思います。
でもまだ作品は続く。“覆水盆に返らず”とはならない世界観。これからいくらでもひっくり返せますが、しかし、どうオチにするのか。やっぱり「愛のための犠牲」が一番というお約束にするのか、個人的にはさらなる未踏の一線を越えてほしいです。せっかくここまでしたのだから。
少なくとも製作陣いわく、次の「アベンジャーズ4(仮題)」は一般的な続編ではないらしく、ということは、今作の結末の続きが語られるわけではないのかも…。とすると、それって、ひょっとして…。
今後の注目作は間違いなく『アントマン&ワスプ』の次の『キャプテン・マーベル』でしょう。
来年こそ真のお祭り映画になるのかな。そして、今作で活躍を一切見せなかったホークアイの出番はあるのか…いっそのことサノスを倒すのはホークアイでも…いや、ないか…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 85% Audience 91%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
関連作品紹介
マーベル・シネマティック・ユニバース作品の感想記事の一覧です。
・『アントマン&ワスプ』
・『キャプテン・マーベル』
・『アベンジャーズ エンドゲーム』
(C)Marvel Studios 2018
以上、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』の感想でした。
Avengers: Infinity War (2018) [Japanese Review] 『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』考察・評価レビュー