大作に会社も救ってもらう?…Netflix映画『グレイマン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本:2022年にNetflixで配信、7月15日に劇場公開
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
グレイマン
ぐれいまん
『グレイマン』あらすじ
『グレイマン』感想(ネタバレなし)
今後のNetflixはブロックバスターに注力?
映画などの動画配信サービスの先陣にして王者として業界を切り開いた「Netflix(ネットフリックス)」。しかし、その勢いがついに陰りを見せ始めました。ユーザー数の伸びが著しく鈍化したのです。
各社がそれぞれの動画配信サービスを展開するようになり、今や動画配信サービス競争が熾烈を争うように激化。コロナ禍による巣ごもり需要はそれに拍車をかけました。従来のようにNetflix一強ではいられません。
とはいえNetflixがすぐに企業として傾くというわけでもなく、いまだに2億2067万人の会員がいて、2022年第2四半期で79億7000万ドル(約1兆1000億円)の売り上げを記録しているのですから、心配になるような話ではないです。
それでもNetflixの経営スタンスは変わってくるでしょう。実際、Netflixはあれだけ以前は否定的だったのに方針転換して「広告付き低価格プラン」を提供する予定を発表していますし、アカウントを共有しているユーザーに追加の料金を支払わせる仕組みを用意したり、そもそも料金を値上げしたりと、あの手この手で収益を安定させるべく手段を講じています。
このビジネス形態だけでなく、配信する作品にも何か変化は起きるのでしょうか。考えられることと言えば、より収益になりやすい作品を優先して製作するのではないかということ。そんな中でおそらく今後注力するであろう映画のタイプが人気俳優をガンガン起用した派手な大作映画です。
Netflixは昔はブロックバスターとは対極にある存在なんて持て囃されたりもしましたが、現在は状況が変わりました。皮肉なことにNetflixはどんどん既存の大手映画会社のような雰囲気が増しており、それこそ巨大ハリウッドスタジオが昔から作っていたような、スター俳優を起用しまくって、爆発やらアクションやらを詰め込んで、ド派手に物語がぶっとんでいく、そんな大作映画を生み出すのに積極的になりました。例えば、『6アンダーグラウンド』(2019年)、『スペンサー・コンフィデンシャル』(2020年)、『オールド・ガード』(2020年)、『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年)、『レッド・ノーティス』(2021年)など。こうしたオリジナル大作映画は視聴者数も爆増となって好調で、Netflix側も手ごたえを掴んでいるのだと思います。
今回紹介する映画もそのひとつ。それが本作『グレイマン』です。
本作も規模が物凄くて、製作費が2億ドル超えの最も高価なNetflixのオリジナル映画の一本となりました。
内容はぶっちゃけて言ってしまえばありきたりです。秘密の暗殺者が陰謀に巻き込まれて世界を巡りながらド派手にアクションしていく…。はいはい、いつものあれね…っていう感じ。
ストーリーのオリジナリティとかはどうでもいいと開き直っていますよね。たぶん映画館で見るよりもNetflixで家で視聴するのはハードルが低く、ちょっとした関心を惹きつける刺激的なポイント…つまり「有名俳優がでている」とか「派手で豪快なアクションが見られる」とか、そういう売りさえあればいいという、かなり打算的な背景があって、こういう大作映画が今のNetflixでは量産されやすいのかな、と。
『グレイマン』は人気俳優が投入されまくっています。まず主人公を演じるのは、『ラ・ラ・ランド』『ナイスガイズ!』でおなじみの“ライアン・ゴズリング”。2018年の『ファースト・マン』以来の4年ぶりの映画出演です。
そして悪役を演じるのは、キャプテン・アメリカ役で今も愛されている“クリス・エヴァンス”。正義の“せ”の字もないクソ野郎を熱演しています。
また、“ライアン・ゴズリング”とは『ブレードランナー 2049』で共演した“アナ・デ・アルマス”、ドラマ『Marvel アイアン・フィスト』の“ジェシカ・ヘンウィック”、ドラマ『ブリジャートン家』の“レゲ=ジャン・ペイジ”、『ライフ・アズ・ファニータ』の“アルフレ・ウッダード”など。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で印象的な演技を見せたあの女の子を演じた“ジュリア・バターズ”もでています。
『グレイマン』の監督は、マーベル・シネマティック・ユニバースのインフィニティ・サーガを牽引した立役者である“ルッソ兄弟”。彼らのスタジオは『タイラー・レイク 命の奪還』『チェリー』とMCU俳優を起用した映画をこのところ立て続けに作っていますが、今回もその流れですかね。
『グレイマン』はNetflix独占配信ですが、鑑賞するなら大画面を推奨します。画面ごと壊れるんじゃないかというくらいに迫力満点です。
『グレイマン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年7月22日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :アクション好きは大満足 |
友人 | :エンタメで盛り上がる |
恋人 | :ロマンス要素無し |
キッズ | :やや暴力表現あり |
『グレイマン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):暗殺者になったはいいけど
2003年。とある刑務所で服役中のコート・ジェントリーはCIAのドナルド・フィッツロイと面会していました。なぜ自分なんかにと思っていると「君を出してやる」と唐突に言われます。「条件は?」と聞くと「仕えてもらう。CIAに」と語り、見えない存在(グレイ)として秘密の暗殺者部隊「シエラ」の一員になってほしいとリクルートしてきたのでした。そこに属せば永遠に従事することになる…。でもジェントリーにとってはその手を掴むしかありません。
18年後。バンコク。大勢で賑わうパーティ会場にジェントリーは佇んでいました。今はシエラ・シックスです。そこにCIAエージェントのダニ・ミランダが話しかけてきて、サポートをしてくれます。ラングレーからの無線に応え、本部長のデニー・カーマイケルと最終確認。目的はダイニングカーと呼ばれる人物の暗殺です。シックスの腕は評価されていました。
隠していた銃を構え、配置に。ターゲットは天井の上階。しかし、子どもが近くにいるので撃つのを躊躇います。弾詰まりだと言って少し待機。警報が鳴り、ターゲットは移動。シックスは直接近づき、大胆にもそこで仕留めようとします。ダニ・ミランダも援護です。
なんとか建物外で追い詰めると、そのターゲットは「俺はシエラ・フォーだ」と口にし、何かを知っているような口ぶりです。そして死ぬ間際にデータチップを渡されました。
怪しいと勘づいたシックスは姿をくらまし、近くのネット喫茶でデータを確認。でも認証キーがいるので見れません。これは協力がいる。そこで昔に自分をリクルートして今は引退しているドナルド・フィッツロイに連絡を取ります。
一方、CIA本部長のカーマイケルはスザンヌ・ブリューワーを補佐に付けて組織を裏切ったと思われるシックスを追わせることにします。そしてその指揮を任せることにしたのはロイド・ハンセン。スザンヌは「あいつはサイコだ」と反対します。ロイドは残酷すぎてCIAをクビになった男であり、拷問を楽しむような奴です。それでも「ロイドを消せ」とカーマイケルは電話をかけます。
脱出地点に到着したシックスは輸送機に乗りますが、飛行中に襲われます。元上司のフィッツロイも姪クレアを人質にされてしまい、シックス殺害命令をだしてしまったのでした。
その危機を乗り越えてシックスは絶体絶命の現状を打破しようと策をめぐらせます。まずは身分を偽る必要があるのでパスポート偽造業のもとへ行きますが、そこも罠でした。残虐なロイドは手段を選びません。世界中の暗殺者を大金で動かしてシックスを追わせます。
対するミランダもまたCIAの組織の傲慢なやり方に疑問を持ち始め、単独でシックスに合流しようとしますが…。
滅茶苦茶アクションの責任はCIAがとります
『グレイマン』には原作があって、アメリカの小説家である“マーク・グリーニー”の2009年から刊行されている「暗殺者グレイマン」シリーズです。“マーク・グリーニー”はあの「ジェック・ライアン」シリーズでおなじみの“トム・クランシー”と親しく、彼の亡き後にシリーズを引き継いでいます。
映画版である『グレイマン』は主人公は同じでも中身は相当に変わっていて、ほぼ映画オリジナルと思っていいくらいです。CIA御用達の暗殺者部隊「シエラ」を皿にして、そこに「殺し屋をやめたくなったけどやめさせてくれない主人公」というこれまたベタな食材を配置し、さらにハリウッド的な火薬量多めの大爆発アクションを繰り広げるという大味トッピングが加えられています。
やはり食べ応えがあるのはアクションです。
冒頭からやたらと派手な場での暗殺ミッションが開幕。なんでそんな下から撃つんだよ?とツッコみたくなる暗殺方法に始まり、結局は会場大騒ぎの暴れっぷりでやらかし、花火発射場真っ只中でのシエラ・フォーとの1対1バトルが勃発。シチュエーションは意味不明ですが、絵面としてはカッコいいです。
次は輸送機での戦闘。どんどんボロボロになる飛行機(でも長持ちしてくれるからすごい)。そこからの落下中の戦いといい、見せ場の連発で観客を飽きさせません。今回の“ライアン・ゴズリング”はどんな状況でもカッコよさを保つな…。
続いての派手バトルは、プラハのオペラ座周辺で警察に捕まって手錠でベンチに固定されてからの大襲撃。あれはもう第二次世界大戦のプラハの戦い並みに壮絶でしたよ。これはもうロイドに責任をとらせるとかいう次元じゃないでしょう。国際問題に発展してアメリカ大統領がクビになるレベルだよ…。
路面電車内での格闘、ミランダによるカーチェイス込みでの追跡、最後の大脱線。これでもかとアクションを盛り盛りにしていてお腹いっぱいになります。
最後のロイドとの一騎打ちは、これまでの派手さをあえて排して、最小限の肉体と肉体のぶつかり合いに集中しており、そこのギャップも良かったです。
総じてアクション完成度はべらぼうにクオリティ高く、その手のジャンル好きの人は手を叩いて喜べる映画だったと思います。
世界市場を狙うキャスティング
『グレイマン』のもうひとつの特徴はキャスティング。
主役はアメリカの白人ですが、全体的にとても多様な人種で構成されています。なんかこうなってくると本当にどこの世界でも暗殺者はいるんですよという背景も見えてきて面白いです。
この多様性溢れる顔触れですが、私が思うにこれもNetflixの戦略が大きく影響しているんじゃないかなと思います。というのもNetflixは大手のハリウッド企業と違って、ビジネスの舞台はアメリカが中心ではなく、世界あちこちを市場として捉え、展開しないといけません。だからこそその地域ごとの市場にアピールできる要素が作品にも求められます。
例えば、『グレイマン』にてローンウルフという名で登場して異彩を放っていた単独の暗殺者。彼を演じたのは“ダヌーシュ”という俳優で、日本では全然知られていない人ですが、インド映画界では超大物です。2019年の主演作『Asuran』というアクション映画はインド国内で大ヒットし、高く評価されました。この“ダヌーシュ”を起用することはインド市場を意識しているのは間違いないでしょう。Netflixはインドでも競争にさらされていますからね。
つまり、『グレイマン』は世界隅々で再生されるような隙のないキャスティングをしようとしている。この傾向は今後も顕著に観察できると思います。
女性キャラクターも男性と対等に活躍しており、恋愛要員みたいなヒロイン・ポジションではなかったのも印象的です。そもそもロマンス要素が一切無くアクション特化していますからね。『007』は恋愛が邪魔だなと思っていた人にはちょうどいいです。
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』からアクションでも魅せている“アナ・デ・アルマス”の今作では終盤の重火器モードもなんかアグレッシブすぎましたし、男と男の不毛な喧嘩にラストで文字どおり一発説教をかます“ジェシカ・ヘンウィック”もクールでしたし…。
敵であるロイドは“クリス・エヴァンス”がノリノリで演じていましたが(終盤のぶざまにやられていくも刃物を取り出して調子に乗る感じとかウザさが癖になる)、あのちょび髭といい、どことなく白人至上主義者っぽい粗雑な軽さも感じる雰囲気があり、ある程度は役作りで意図しているのかな。
今作でももう何度見たことかという“役立たずCIA”が鎮座していましたが、でも最後に映っていたCIAの幹部の1人は“ジョー・ルッソ”監督が演じていたし、この世界の黒幕はきっと“ルッソ兄弟”なんだよ、たぶん。
動画配信サービス競争でNetflixにどんな結末が待っているかはわかりませんし、これほど業界の変化が大きいと5年後さえも予想できませんが(イーロン・マスクにNetflixが買収されてたらどうしよう)、『グレイマン』の続編は作ってくれそうですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 90%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
Netflixのアクション大作映画の感想記事です。
・『レッド・ノーティス』
・『スペンサー・コンフィデンシャル』
・『6アンダーグラウンド』
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『グレイマン』の感想でした。
The Gray Man (2022) [Japanese Review] 『グレイマン』考察・評価レビュー