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『バクラウ 地図から消された村』感想(ネタバレ)…あつまれ、バクラウ村!

バクラウ 地図から消された村

観光客は歓迎するけど行儀の悪い奴は…映画『バクラウ 地図から消された村』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Bacurau
製作国:ブラジル・フランス(2019年)
日本公開日:2020年11月28日
監督:クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアノ・ドネルス
ゴア描写

バクラウ 地図から消された村

ばくらう ちずからけされたむら
バクラウ 地図から消された村

『バクラウ 地図から消された村』あらすじ

村の長老が亡くなったことをきっかけに、村では大勢の人が集まった。しかし、村で不可解な出来事が次々と発生。インターネットの地図上から村が突然姿を消し、村の上空には正体不明の飛行物体が現れる。さらに、村の生命線ともいえる給水車のタンクに何者かが銃を撃ち込み、村外れでは血まみれの死体が発見される。これは暴力と惨劇の幕開けだった。

『バクラウ 地図から消された村』感想(ネタバレなし)

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ブラジルからやってきた怪作

「ヨタカ」という鳥をご存知でしょうか。

耳慣れない名前の鳥だと思います。宮沢賢治の短編小説「よだかの星」はこのヨタカのことですけど。

ヨタカは全世界的に広く分布する鳥で、小鳥ほどではないにせよそこまで大きくないサイズ。しかし、このヨタカの一番の特徴は夜行性だということです。つまりこの名前も漢字で書くと一目瞭然。「夜鷹」ですね。英語でも「ナイトホーク」と呼ばれたりもします。

夜行性の鳥と言えば真っ先にフクロウを思い浮かべますけどヨタカも忘れてはいけません。地味かもしれませんが(実際に昼間はじっとして隠れているので見えづらい擬態色をしている)、ヨタカも立派な捕食者なのです。夜になれば獲物を探して飛び回ります。

今回紹介する映画はタイトルにこのヨタカの名前を冠しています。それが本作『バクラウ 地図から消された村』というブラジル映画です。

「バラクウ」でも「バクウラ」でも「バラウク」でもないです。「バクラウ(Bacurau)」はヨタカを意味するそうです。

なぜヨタカなのかは映画を観ていけばわかる…かもしれません。とにかく本作はネタバレができない作品なので紹介するのも少し慎重になってきます。

物語は…なんて説明すればいいのだろうか。ある村があります。OK? 次にある人がやってきます。OK? そして変なことが起きます。OK? さらに殺戮に発展するのです。以上。

どうしよう、すごく雑な語りにしかなっていない…。でもしょうがないです(開き直り)。本作は観客に提示される情報が少なく、観ている側も「なんだなんだ!?」という感じで鑑賞することになるのです。だからその「?」が頭にいっぱい浮かぶ感覚を大事にしたいので、ネタバレなしの段階では変に情報を与えすぎない方がいいなと。この映画に似ていますとか言うとそれも余計な先入観になるし…。

まあ、あれです。人がいっぱい残酷に死ぬ映画ですから、そういうのが好きな人は観るといいんじゃないですか(雑な提案)。

『バクラウ 地図から消された村』は2019年のカンヌ国際映画祭に出品され、大きな話題となっていました。結果、『バクラウ 地図から消された村』は『レ・ミゼラブル』と並んで審査員賞を受賞。この年の栄光に輝いたのは『パラサイト 半地下の家族』でしたが、この『バクラウ 地図から消された村』もじゅうぶんに匹敵する狂った怪作で、あらためてコンペティションに並ぶ作品が濃かったんだなぁと思いますね。監督

はブラジルの“クレベール・メンドンサ・フィリオ”という人で、実は以前から注目を集めていました。前作の『アクエリアス』(2016年)もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出されており、高評価を獲得。なので新作の期待も当然あったでしょう。そしてその眼差しに見事に血しぶきを浴びせる、良い意味でとんでもない映画として今作『バクラウ 地図から消された村』を送り込んできました。共同監督に“ジュリアノ・ドネルス”という人も名前を連ねています。

俳優陣は、『蜘蛛女のキス』でアメリカでも有名となり、監督前作の『アクエリアス』でも主演していたブラジル人女優“ソニア・ブラガ”。さらに『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などラース・フォン・トリアー作品の常連としても知られ、最近では『異端の鳥』にも出ていた“ウド・キア”

また作中でも欠かせない村人たちを演じているのはエキストラで参加した方々だそうで、ある意味、本業の俳優よりも印象に残るかもしれません。

とにかくミステリアスに物語が進行していきますので、観終わった後は誰かと語りたくなる映画です。後半の感想では私なりにあれこれと部分的に考察もしていますので(ブラジルの歴史的・社会的背景を含めて)、気になった方は一緒に『バクラウ 地図から消された村』を散策しましょう(現地には行かないですよ)。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(変わった映画マニアはぜひ)
友人 ◯(奇怪な物語を語り合って)
恋人 △(恋愛とかしている場合ではない)
キッズ △(残酷描写がたくさん)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『バクラウ 地図から消された村』感想(ネタバレあり)

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あつまれ、バクラウ村

ブラジルの辺境。舗装されていない道路を走る1台のタンク車。運転席に男、助手席に女。目指している場所はバクラウ村という小さな村です。村の長老である老婆カルメリータが亡くなったことで、村総出で弔いが行われるため、テレサは故郷の村に戻ろうとしていたのでした。

村ではが貴重であり、このタンク車も水を運ぶための村の生命線です。村は今、水をめぐる利権争いに巻き込まれているらしく、妨害工作によって川の上流で水を止められてしまい、かつてない深刻な水不足に見舞われていました。

タンク車は走行中に道路に落ちていた何かのモノを踏みつけます。前方には事故で横転したトラックがあり、どうやら積み荷が落ちたようです。人の遺体も無造作に地面に横たわっており、それは棺でした。

テレサはバクラウ村に到着。赤いキャリアケースをひきずり、村の中へ。村といっても建物が少しだけ立ち並んでいるような本当に小さな一画です。そこにはびっくりするくらいの人が集まっており、追悼のためにひしめき合っていました。

長老の遺体の前に行き、黙祷を捧げた後、みんなで歌いながら行進。棺を運びます。こうして村を支えたリーダーの死を嘆き、別れを済ませる一同。

翌日。村は何事もなく日常が戻っていました。各々が自分の暮らしをしています。

その村にやたらとうるさい感じでやってきた男。トニーというらしく、選挙のキャンペーンで訪れたようで、拡声器で村人に向けて語りだします。しかし、誰一人として家から出てこず、ブーイングだけが飛んでくる始末。実はこのトニーは水利権をめぐる争いに関与しているとされ、村では嫌われていました。この男を支持する雰囲気は1ミリもありません。しかたなく罵詈雑言に耐えられず大音量で音楽を流すことで逃げに徹するトニー。

そんな村では異変が少しずつ起きていました。

あるとき、子どもたちはおじさんとタブレットで授業を受けていましたが、地図を画面に映しだして故郷のこの村を探そうとするも見当たりません

またあるときは、モーターサイクルで走っていた男が、空飛ぶ円盤がついてくるのを目撃。それはやけにハッキリと見えるほどに存在感が抜群でした。

夜中には大量の馬が村に出現。何事かとみんな外を見て確認します。どうやら近くの農場から逃げてきたようです。

そして村には欠かせない貯水タンクが銃撃されたように複数の穴があいていました。バケツでなんとか水を受け止めようとするも意味なしで、貴重な水は地面に無残に流れていきます。

そんな状態の最中、2人のカップルがバイクで村に立ち寄ります。観光で立ち寄ったのか、外国人と思われる2人はやけに派手ないでたちです。

一方、村にやってきた馬を持ち主に返そうと農場に向かった2人の村の男は、車の中で無慈悲に殺された遺体を発見。農場の家の中にも死体があり、ただならぬ事態を察知します。

そこに村を訪れていた例のカップルバイクと遭遇。そしてあろうことか、このカップルはおもむろに銃を取り出し、この村人2人を躊躇なく撃ち殺しました。その様子を上空に浮かぶ円盤型のドローンが撮影しており、何やら指示が飛びます。

カップルとこの円盤ドローンはある場所に。そこには他に人がいて、中心にいるのはマイケルという男。この人間たちは村人をターゲットに「狩り」をしてポイントを稼ぐという観光をしていました。

その狂気が村に迫っていることを知ったバクラウ村の人たちは黙っているわけにはいきません。ついに行動を開始することに…。

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SFなの!?

『バクラウ 地図から消された村』はほんと出だしからわけがわかりません。まさかいきなり宇宙から始まるとは思わないじゃないですか。地球を映したやけに壮大な映像。人工衛星が意味深にフレームインして、何?という困惑を増します。良いメロディの音楽がかかっていると思ったら、そこにグワングワンと不協和音が重ねるというBGM演出も不気味。

本作の“クレベール・メンドンサ・フィリオ”監督はジョン・カーペンターのファンだそうで、本作もあからさまにジョン・カーペンターへのオマージュが捧げられています。最初の導入は辺境の村で『未知との遭遇』的なSFっぽいファースト・コンタクトが起きるのか!?とザワザワさせるものです。

序盤はテレサという女性の視点で村が描かれます。この村がまた歪です。

まずそもそも私たち観客には全然情報が提示されないわけです。なのでここで描かれている村の描写が普通なのか特殊なのか、それも判断がつきません。テレサも村出身なので説明役はいないんですね。

長老の葬儀というわりにはみんなが普段着で、これでいいのかと思ってしまいますし、その行列を車の後ろに取り付けられた巨大ディスプレイが先導していたりして、珍妙光景を眺めている気分(あまり悲しそうな感じもしないような…)。

その普通がわからない状態の中、さすがにこれは異常だろうという出来事が連続しておきます。村人も不思議がっているあたりを見ると、これは村の価値観からしてもイレギュラーなんだなと伝わってきますが…。

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狩る者としてやってきたのは…

そしてそこに村にとってはよそ者であるバイク乗りのカップルが登場。これはジャンル映画だったらこの村に迷い込んだ人間が酷い目に遭うという、そういうお約束かなと思うものです。

しかし、ここでこのバイク乗りのカップルの意外な正体が判明すると、同時に本作にある構図が浮き彫りになり、あのSFっぽいルックは見せかけだとわかります。

つまり、本作は人間狩り映画であり、村人は今まさに狩られようとしているのだ、と。この構図はネタバレになりすぎるとあれなので詳細は控えますけど『ザ・ハント』に極めて近いですね。

要するに“持つ者”が“持たざる者”を娯楽的に狩るという格差社会を土台にしたやつです。この“狩る側”の連中がまあ典型的といいますか、クズそうな奴の集まり。初登場時からやや仲悪そうで(こういう奴らが一致団結した試しは基本はないのだけど)、それを証明するようにイヤホンで指示されたとおり、目の前をバイクカップルを射殺。当人はゲームのつもりかもしれないですけど、ただの言いなりで動くアホです。

そんな“狩る側”の人間はもちろん外国人憎悪な感情があるのでしょう。村人を未開の地に暮らす低俗な存在程度にしか思っていません。あまりにもそのまんますぎるUFO風の円盤ドローンも、村人たちを小馬鹿にしている感じが漂っています。

しかし、このバクラウ村の人たちはそんな見下されるような人間ではありません。現代人なのです。スマホやインターネットだって使っているし、ごく普通の良識もある。そして村の危機は対立も乗り越えて立ち上がるのです。

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本作を理解するための重要な存在「カンガセイロ」

後半になると、今度は逆襲のターン。村人たちが“狩る側”となって、あの調子に乗った異邦者を八つ裂きにしていきます。ここからはひたすらに痛快で、こっちも謎めいた雰囲気に警戒していた気分が吹っ飛びますね。

この雰囲気はいわゆる「Weird West」と呼ばれるものです。つまり、アメリカの西部劇を別ジャンルや別の国と組み合わせたスタイルです。

『バクラウ 地図から消された村』はとくに終盤の村一丸のリベンジ展開を見ると、完全に西部劇と同様の構造だとわかると思います。ブラジルで西部劇なんて新しいなと感じるかもしれませんが、ブラジル映画をある程度見慣れている人ならこれはあるキーワードに気づくのではないでしょうか。

それは「カンガセイロ」です。

この「カンガセイロ」については題材になっていた『荒野の殺し屋』というブラジル映画の感想のときにもちょっと自分の勉強がてら整理したのですが、もう1回おさらい。

1900年代前半のブラジルでは権力を強める政府を嫌い、農村部は独自に自衛組織を結成していました。それが「カンガセイロ」であり、武装した荒れくれ者たちとして治安維持でも邪魔者排除も何でもやります。言ってしまえばビジランテであり、ダークヒーローのような存在でもあり、今もブラジルでは国民的人気を集める者として語り継がれているようです(有名なカンガセイロとして「ランピオン」がいる)。だから西部劇と構造は同じです。

バクラウ村も当然歴史的に過去にはカンガセイロのお世話になっていたのだと思います。その過去では村のコミュニティ内でも利権をめぐって対立もあったのでしょう(カンガセイロがどっちにつくかはカネとコネしだいだと思いますが)。

そして今回、村は再び権力者にとって危機にさらされます。作中では水をめぐる問題が根本にありました。ブラジルは天然資源が豊富な国ですが、水に強く依存しており、水力発電も盛んです。そのわりには水道などのインフラは脆弱で、都市圏ですら2020年でも汚染水が蛇口から流れて大問題になっています。加えて気候変動による猛暑や森林伐採による保水能力低下による水不足など(アマゾン川の水位が過去40年間で最低レベルだとか)、複合災害が押し寄せたことで、今のブラジルは水が火種になっているそうです。

そのただでさえ大混乱の中、うざったいことに人種差別全開なよそ者もやってくる始末。村人にすればいい加減にしろって話です。

もうこうなったらカンガセイロを復活させるしかないよね…というのがこの『バクラウ 地図から消された村』の意図する物語の主軸なんだと思います。

まあ、今のブラジルの大統領は「熱帯のトランプ」の異名を持つボルソナロ大統領ですからね。権力者への信用性なんてゼロになるのも無理はありませんし、カンガセイロ復活待望論も本気で農村民の願いかもしれませんけど。

権力者や差別主義者の皆さん、バクラウ村に手を出すと大変なことになりますよ。

『バクラウ 地図から消された村』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 86%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 CINEMASCOPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA

以上、『バクラウ 地図から消された村』の感想でした。

Bacurau (2019) [Japanese Review] 『バクラウ 地図から消された村』考察・評価レビュー