ザ・ハント
映画『ザ・ハント』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Hunt
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年10月30日
監督:クレイグ・ゾベル

ザ・ハント

あらすじ

広大な森の中で目を覚ました12人の男女。そこがどこなのか、どうやってそこに来たのか、誰にもわからない。目の前には巨大な木箱があり、中には1匹のブタと多数の武器が収められている。すると突然、周囲に銃声が鳴り響く。何者かに命を狙われ、散り散りになって逃げ惑うことになる一同。ひとり、またひとりと絶命する中で、ついにこの黒幕とその狙いが判明する。

『ザ・ハント』感想(ネタバレなし)

不幸が重なった“人間狩り”映画

さあ、秋です。秋と言えば、紅葉狩り、キノコ狩り、人間狩り!

はい、ということで突然話題を振った「人間狩り」。今この文章を読んでいる方で「人間狩り、したことあるよ~」という人はいないと思うのですが、リアルな体験に花を咲かせる猟奇的なサイトではありません。もちろん映画における「人間狩り」というジャンルの話です。

ここで言う「人間狩り」というのは、そのままの意味で「人間たちが互いに殺し合ったりするようなシチュエーション」が発生するジャンルのこと。ただ一方的に殺人鬼に殺されるのは「マンハント」と呼ばれますが、何かしらのルールのもと殺し合いを興じることになるものは「デスゲーム」と呼称されます。2000年の日本映画『バトル・ロワイアル』にちなんで「Battle royale」と海外でも呼ばれたりもしますね。

フィクションでこのジャンルが楽しまれるようになった歴史は意外にも古く、映画だと1932年の『猟奇島』が有名で、これはリチャード・コネルの短編小説「The Most Dangerous Game」が原作になっています。最近だと『ハンガー・ゲーム』シリーズのような大作もありますし、規模もさまざまで枚挙にいとまがないです。ただ、多くの作品で共通するのは、上流階級の人間が仕掛け人になっているというパターンであり、人間狩りは上下関係があるからこそ生じるものというお約束があります。

このジャンルが昔から親しまれているのもそういう格差社会を露悪的に風刺するのにぴったりだからなのでしょうかね。それに何よりも人類の最大のタブーでもありますから。

そんな今も昔も人間の内なる悪意を小突く格好のネタである「人間狩り」を題材にした最新映画が登場しました。それが本作『ザ・ハント』です。

本作は割とスタンダードな「人間狩り」の王道を貫く一作なのですが、本国アメリカでの公開時からちょっと話題を集めていました。当然バイオレンスな内容です。しかし、公開を予定していた2019年9月を間近にしてアメリカで銃乱射事件が起こってしまいます。そこで配給のユニバーサルは公開を急遽延期して、結局2020年3月としました。まあ、銃乱射事件が映画の公開スケジュールに影響を与えるのはアメリカではよくあることです。

ところがご存知のとおり、2020年3月は新型コロナウイルスのパンデミックが世界的に猛威を振るい始めた時期であり、『ザ・ハント』は劇場公開したものの、すぐにデジタル配信に切り替わってしまいます。まあ、銃乱射事件よりもパンデミックで社会不安がかつてなく急増しているこの時期の方が本作の公開は好ましくないのではないかと思わなくもないのですけど…。

そんなこんなで数多くの「人間狩り」映画の中でも滅多にないシチュエーションで公開を迎えた本作ですが、まだ騒がせた話題があります。それは本作の内容をめぐってあのドナルド・トランプ大統領がハリウッド批判を展開したことです。どうやら本作が「リベラル(トランプ大統領を支持しない層)が保守(トランプ大統領を支持する層)を殺していく」ストーリーだから…ということらしいですが…。まあ、でもトランプさんは豊富な映画を嗜むことはそんなしない人だと思うので、たぶん本作も観ていないでしょう。もともとトランプ支持者層はハリウッドに批判的で、彼らとしてはハリウッドはリベラル寄りだと思っているらしいです(私はハリウッドはすごく保守的だと思うんですが)。

ともかく下から右からあれこれと銃弾をくらうことになった『ザ・ハント』ですが、日本ではとくに騒がしさもなく静かに公開を迎えました。「全米封印の問題作!」とか煽りに煽っていますけど、前述したとおり普通に公開はされていますからね。それにしてもこの日本の宣伝ポスター、やっぱり日本語にすると途端にダサさがアップするの、なんとかならないのだろうか…。

監督は『コンプライアンス 服従の心理』というこれまたセンセーショナルな題材に手を出した作品で注目を集めた“クレイグ・ゾベル”。製作はホラー映画界を牽引して絶好調の“ジェイソン・ブラム”です。ブラムハウス・プロダクションズは映画、作りまくりですね…。

俳優陣は、主演はドラマ『GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』で話題になった“ベティ・ギルピン”。また、『ボーイズ・ドント・クライ』や『ミリオンダラー・ベイビー』など挑戦的なキャリアが印象的な“ヒラリー・スワンク”、『ブロッカーズ』などコメディ映画で活躍する“アイク・バリンホルツ”、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の“イーサン・サプリー”など。いっぱい登場人物は出てくるのですが、まあ、死んじゃうので…。

あなたも友達を誘って(映画で)人間狩りをしてみませんか? ハロウィンですし。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ジャンルが好きなら)
友人◯(ふざけられる仲のいい友達と)
恋人△(相手が興味あるなら)
キッズ△(子どもは仲良くしよう)

『ザ・ハント』予告動画

↓以下の予告動画はネタバレが多少あるので気になる人は観ない方がいいです。ちなみに日本の公式サイトでは黒幕が誰なのかまでネタバレしているのですけど、いいのかな…。






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ザ・ハント』感想(ネタバレあり)

ここはどこ?なぜ殺されるの?

誰かがテキストでメッセージを送り合っている画面。「もうすぐ殺しまくれる」とその内容はずいぶんと物騒です。冗談なのか、本気なのか、それはわからず…。

ところかわって飛行機内。VIPルームでくつろぐ男。客室乗務員と気楽に会話をします。すると奥から謎の大男がふらふらとやってきます。明らかに場違いなその男はランディという名らしく、なんだか自分でもわからないようで混乱しています。そこに医者だと言う男がなだめ、横に安静にさせます。そして、ペンを貸してくれと頼み、そのペンでその男を首をグサリと刺しました

血を吹きだし、苦しむその大男。「まだ開始前だぞ」と周囲の者は慌てます。すると今度は、突然の攻撃を受けて暴れるランディの目をヒールでぶっ刺す赤い服の女が現れます。そして何事もなかったかのようにスタスタ立ち去ってしまいました。

大男の遺体を運ぶ者たち。ある部屋まで引きずります。そこには他にも倒れた人がいて…。

目を覚ます女性。口には猿ぐつわ。そこは野外でどこかの林の中です。そばに同じ状態の人がいて、声をかけます。さっぱり事情もわからず、歩いていくと、同じ状態の人間が複数ふらついている開けた場所に到着しました。全員で男女12人。いずれもここがどこで、なぜここにいるのか、理由は皆目見当が尽きません。

その草原の真ん中に大きい木箱とバールがあります。他にやることもないので、ひとりがこじ開けようとすると「罠じゃないか」と別のひとりが指摘。みんなが警戒して隠れます。それでも開けるのを強行。箱の一面が外れ、中から出てきたのは…可愛い子ブタ。さっぱりわからない。

さらに箱からものものしい銃器が出てきます。刃物もあって、ちょっとした武器ショップ状態です。

木箱のふたには鍵があり、それで猿ぐつわがとれました。とりあえずみんなで武器を共有し、使い方がわからない人には教えてあげます。

さあ、ここからどうしよう。そう思った瞬間。突然、ライフルで狙撃される一同。金髪の女性の頭部に命中、即死です。二丁スタイルで連射して特攻するように立ち向かう人もいますがハチの巣にされるだけ。走って逃げた女性は落とし穴に落ちて串刺し。男が助け出すも今度は地雷を踏んでしまい、お陀仏。もはやここはベトナム戦争よりも酷い戦場です。

ある男はフェンスまで逃げます。合わせて4人が合流。このままここにいれば何者かに殺されるのは必須。なんとか乗り越えようとします。しかし、矢が飛んできて、やむを得ずひとりを残して逃げるしかありません。

森の中の殺風景な道路を走り、ポツンと佇むスタンド店へ。すぐに籠城する3人。「ここはどこだ?」と店員に聞くと、「アーカンソー州のエレイン」だと老夫婦店員は困惑しながら答えました。店の電話を使って、911に通報。「拉致された」と訴えるもあまり真面目に相手にしてくれません。

すると店のものを食べていた女性が泡を吹いて苦しみだします。ふと店員の方を見ると、ガスマスクをつけた店員が有毒なガスをまきました。それは用意周到な罠であり、なすすべもなく3人はやられてしまいます。

死体を処分する夫婦店員。「3人片づけたわよ」と連絡。そこへ別の女性がやってきます。少し緊張感が発生する中、店員は普通に振る舞います。しかし、じっと状況を窺っていたその女性はこれまでの人間とは違いました。女性は身軽な動きで店員を射殺、慣れた手つきで制圧します。店の外の車に仕掛け爆弾があるのにもすぐに察知し、逆に待ち伏せをしようと茂みに隠れます。

いまだに状況は不明な点だらけ。しかし、この女性、クリスタル・クリーシーの存在は想定外だったようで…。

ザ・ハント

風刺としてはやや弱いような…

『ザ・ハント』は「人間狩り」映画としては王道で、日本の宣伝では「富裕層」と「貧困層」の対立であると語られています。しかし、アメリカの政治情勢に少しでも詳しいならすぐにわかることですが、本作はそういう構図というよりは、もっと政治的な対立構図、つまり「リベラル層」と「保守層」の衝突が題材になっています。いわゆる大統領選でもおなじみの「ブルー・ステート」と「レッド・ステート」ですね。

作中では「ManorGate」という「リベラルなエリートが庶民を誘拐してどこかで人間狩りをしている」という陰謀論が保守層の中には広まっており、たまたま自分の過激なテキストがその「ManorGate」の証拠だと炎上してしまい、キャリアをダメにされた“ヒラリー・スワンク”演じるアシーナ・ストーンが「だったらマジで人間狩りしてやろうじゃないか!」と腹いせに炎上騒ぎを起こした奴を集めて復讐する…というのがだいたいの真相です。

一部の保守層の中には陰謀論が本当に絶大に支持されており(「QAnon」が有名ですね)、それこそトランプ大統領が率先して陰謀論を流布しているくらいですから、深刻な状態になっています。それを逆手にとって「ざまあみろ」としてやるのが首謀者の狙いです。

狩られる側の参加者も典型的な保守層思考を随所に駄々洩れさせています。みんな威勢はいいかもしれないけど、やっぱり無力です。

ところが集めた参加者の中にうっかり手違いでランボー並みの強靭な戦闘能力を持った女性が混ざってしまったことで事態が計画どおりに進まなくなってしまいます。

本作の風刺の意図は確かにわかります。わかりやすすぎるくらいです。ただ、私としてはいささか風刺が雑ではないかと思ったりしました。

そもそもリベラルな人はみんな富裕層ではないですし、保守的な人はみんな貧乏ではありません。裕福な保守派も相当な数がアメリカには存在します(だからこそ実社会で権力を維持できている)。当然、貧富だけでなく価値観も実際はバラバラでそんな単純な話ではありません。トランプ大統領を支持するリベラルだっていますし、支持しない保守派もいます。その多様さを本作はあえてなかったことにしており、そこがまず都合がよすぎます。

そして最終的に2人の女性の対決に集約されていくのですが、その一種の共通認識をもたらすオチの部分。つまり、「あ、私たちは全然別の世界の存在だと思っていたけど案外と同じ部分もあるね」という物語の一応の起承転結の仕掛けになるのが「ジョージ・オーウェルの『動物農場』を読んでいる」なんですね。

正直、そのシーンを見た時、私も「だからなんなんだ」と思ってしまいましたよ。ちょっと安易すぎないか。あれです、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の喧嘩をやめるきっかけを思い出しました。「え、それで?」っていう…。「動物農場」なんて有名な作品、政治思想に関係なく読むでしょうし、解釈はいろいろあるでしょう。

だったらまだ2人のもっと大きな共通点である「女性」としての社会的立ち位置とか、そういうのでも良かったでしょうに。だいたい本作は主要キャラが白人ばかりで、それ以外の人種はほとんど出てきません(列車の移民くらい)。おそらく人種を出してしまって下手にこの題材で殺し合いさせると、それこそ人種差別やヘイトクライムを煽ると思って抑えたのではないかと勘ぐってしまいます。でもそれって風刺としてはやっぱり弱いかなと思うのです。

本作の風刺は「両陣営を揶揄いたい」という志に対してどうも1周遅れ感は否めません。これだったら『ザ・ボーイズ』の方が何百倍も風刺できています(あれもギリギリ現代的ですけど)。個人的にはやっぱり『サウスパーク』くらい斜め上でぶっとんでいる程度がいいですけどね。

アクション・バトルにしてほしい

また『ザ・ハント』は風刺うんぬん以前に単純にデスゲームものとして面白さに欠ける気もします。

最近のデスゲームものとして大成功をおさめたのは『パージ』シリーズだと思いますが、あちらのように本来はデスゲームとして楽しませるには何かしらのルール設定が前提にないといけません。

しかし、本作はそのルールが全くもって曖昧です。最初は事情もわからない中で徐々にそのルールが判明していくのかなと期待して観ていたら、一向にわからないまま人だけが死んでいきます。

ゆえにルールを出し抜くという面白みはありません。だいたいあの最初に提供された武器も全然活かされてきませんし、この人間狩りの企画者は何を楽しんでいるのかさっぱりです。じわじわ殺さないと意味ないだろうに。

その割には仕掛け自体は大掛かりですけど、その大仕掛けを活用することもなく、本当にただ環境として登場して終わっていくという…なんとも宝の持ち腐れじゃないですか。

せめてもっと狭いシチュエーションで争わせた方が、政治対立というものを風刺する意味でも有効だったのではないかなと思います。無駄に広すぎた感じはありましたね。

私としてはあのブタ(オーウェル)をもっと利活用してほしかったです。囮で敵の拠点に放り込むとかそんなブタの無駄遣いではなく。ほら、『ベイブ』みたいにブタはいろいろなことができますからね(フィクションとリアルを勘違いしている妄言)。

『ザ・ハント』の唯一のオリジナリティがあるとすれば、終盤の女性同士のファイティング・シーンの迫力かな。争う理由としては割と「勝手にしてくれよ」という話なのですけど、その戦闘自体は見ごたえがありましたし、家という室内空間を上手く使っていて普通にアクション映画としては楽しいものでした。デスゲームじゃなくて全編この2人のアクションバトルにすれば良かったのに…。

そういうわけで、アメリカ大統領選挙の11月以降、アメリカがリアルでこの映画みたいな状況になっていないといいのですけどね…。

『ザ・ハント』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 66%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved.

以上、『ザ・ハント』の感想でした。