美容整形の広告は滅んでください…Netflix映画『アグリーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:マックG
恋愛描写
あぐりーず
『アグリーズ』物語 簡単紹介
『アグリーズ』感想(ネタバレなし)
美容整形の広告だらけの時代で
インターネット上のウェブサイトを眺めていると、それなりの頻度で目にすることになるネット広告の中でもとくに目立つのが美容整形に関する広告です。
しわやくすみを消すだとか、歯を綺麗にするとか、髪を増やすとか…。その手の広告は、わざと「醜い」とされる状態を画像で見せつけて、それがいかに劇的に変わるかを示そうとします。その大半は誇大広告であり、こちらの「自分って見た目が酷いんじゃないだろうか」という劣等感を焚きつけて、誘導しようと狙っています。
ちなみにこの「シネマンドレイク」のサイトでは、美容整形絡みの広告は表示されていないと思うのですけど、それは広告の設定で美容に関するカテゴリを丸ごと表示しない設定にしているからです。広告収入が減りますよと警告されようとも、私はそういう広告を目にしたくないので…(ただ、カテゴリごと非表示にできない広告もあるので、このやり方は完全に不快な広告をシャットアウトできないのですが…)。
日本はネット広告にかなり批判が寄せられているにもかかわらず、政府や業界の規制があまり進んでおらず、やりたい放題になってしまっている現状があります。個人的には美容整形の広告は一切禁止にしてもいいくらいに思っていますけどもね…。
そんな美容整形に関してSFで風刺した映画が今回紹介する作品です。
それが本作『アグリーズ』。
原題は「Uglies」。「ugly」は「醜い」という意味です。
本作は、“スコット・ウエスターフェルド”というアメリカのSF作家が、2005年から展開しているディストピア小説シリーズを映画化したものです。日本でも原作は「アグリーズ」という邦題で一部出版されています。結構、前の作品なんですね。
2005年あたりの当時はアメリカではヤングアダルト小説が大ブームとなっており、この原作もそのトレンドに乗っかってヒットしていました。出版からすぐに20世紀フォックスが映画化権を獲得していたようですけども、企画は始動せずに宙ぶらりんに。結局、2020年から再び企画が再稼働し、「Netflix」で独占配信される映画となりました。
ヤングアダルトらしくこの『アグリーズ』も10代のティーンの関心を引き寄せる題材になっており、16歳になると完璧な美しさを持った容姿に変える手術を受けることになる世界を舞台にしています。究極の美容整形でみんな綺麗になれる…それは本当に理想なのか。このSFはそんな問いかけをしながら、日頃から美の規範に晒されているこちらを揺さぶってきます。
基準的な美しい容姿を良しとする世界の恐ろしさを描いたSFは映画界でも定番のサブジャンルですが(2023年は『バービー』という大ヒット作もありました)、『アグリーズ』はヤングアダルト向けに特化したかたちですかね。
『アグリーズ』を監督するのは、どんなジャンル映画でも何でもこなせる“マックG”。『リム・オブ・ザ・ワールド』(2019年)、『ザ・ベビーシッター キラークイーン』(2020年)、『ファミリー・スイッチ』(2023年)と、ここ最近はすっかり「Netflix」専属監督になってます。
『アグリーズ』で主人公を演じるのは、『ザ・プリンセス』や『ファミリー・アフェア』などで多彩に活躍する“ジョーイ・キング”。何でも“ジョーイ・キング”はこの『アグリーズ』の原作の大ファンだそうで、11歳のときに読んで夢中になり、自分で「Netflix」に映画化の企画を持ち込んだとのこと。10代の読者が映画化を動かす時代なんだなぁ…。
“ジョーイ・キング”と共演するのは、『海底47m 古代マヤの死の迷宮』の“ブリアンヌ・チュー”、『パーフェクト・ファインド』の“キース・パワーズ”、ドラマ『アウターバンクス』の“チェイス・ストークス”、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の“ラバーン・コックス”など。
美容整形をしてみたいと魅了される子どもたちもそう珍しくない今の時代。『アグリーズ』はまだまだ通用する力を持っているのではないでしょうか。
『アグリーズ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年9月13日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に見やすい |
友人 | :気ままに眺めて |
恋人 | :暇つぶしのエンタメ |
キッズ | :子どもでも見られる |
『アグリーズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
数百年前、人間社会は化石燃料に依存していました。そして地球の限りある天然資源を浪費し、戦争に突入しました。彼らは「ラスティ」と呼ばれ、自滅への階段を進んでいきました。科学者たちは残された文明の保持を命じられます。その努力で、革命的な再生可能エネルギーを作りだすことに成功しました。それが「ホワイト・タイガー・オーキッド」という花です。
それでも人間の一番の脅威は変わらりませんでした。人々の違いが争いを生み、階級や国境を作るのです。分かり合えず対立はまた再燃しました。そこで次なる解決策となったのが「トランスフォーメーション(転換手術)」。全員が16歳の誕生日に見た目を変える手術を受け、完璧な姿「プリティ」となるのです。これなら誰もが健康で幸せで美しいまま…。手術を受ける前の人たちは劣った存在「アグリーズ」と呼ばれることに…。
15歳のタリーは殺風景な部屋でプリティになった自分をシミュレーションして期待していました。あと3カ月で16歳です。友人のペリスは明日でした。屋上からは華やかな都市のビルが遠くに見え、プリティとなった人たちがパーティーに明け暮れているのが確認できます。
翌日、16歳を迎える若者が集められ、ドクター・ケーブルのスピーチを聴きます。この手術を確立した第一人者です。美しさをともなった未来を語り、若者たちからは歓声が上がります。
タリーはペリスとの別れを惜しみます。1カ月後に橋で会おうと約束します。ペリスとはこの寮に来てからずっと一緒に支え合ってきました。互いの手のひらに傷をつけ、友情を誓い合ったのも思い出です。
残ったタリーが手術を受ける日が近づいてきます。ペリスとは連絡はとれていません。
夜、部屋を抜け出し、約束のために都市へ繋がる橋へ。人影はないです。居ても立っても居られず、タリーは都市エリアに侵入してみます。拾ったマスクで変装し、華やかな世界にいざ足を踏み入れ…。それはまるで別世界。喜びと幸福に満ち溢れていました。
ガルボ・マンションに到達し、見違えるような容姿となったペリスを見つけます。でもタリーだと認識しても、なぜか冷たい反応。あの手のひらの傷もないです。見た目どころか中身も別人のようになっています。
疑問だらけでしたが、侵入者を検知して警報が鳴ります。タリーは慌てて逃走。
橋の付近で同級生のガリが助けてくれました。ガリの本当の名前はシェイだそうで、同じ誕生日だとわかります。意気投合し、ホバーボードの使い方も教えてくれました。
シェイはスモークという手術に反対する人たちが集うとされる場所を信奉しており、禁止されている書籍も密かに生徒の間でやりとりしていました。シェイは手術よりも、この今を楽しむことに満足しているようでした。スモークは実在するのかもわからない場所ですが、シェイはそこに行きたいようです。
森の中の川をボードで通って2人はラスティの廃墟へ。そこで火をつけると、合図となり、デヴィッドという人物が来るらしいです。手術はしないとシェイは意思を口にします。タリーとなら行きたいと誘ってくれますが、タリーは「プリティになりたい」と拒否します。シェイはスモークへの行き方を暗号にした紙を渡してくれ、ボードで独り行ってしまうのでした。
タリーは手術の日となりました。しかし、なぜか自分だけスペシャルズ管理局に別の場所に連れて行かれてしまい…。
ジョーイ・キングの成長
ここから『アグリーズ』のネタバレありの感想本文です。
『アグリーズ』は映画になってもいかにもヤングアダルト!というセンスそのまんまで、私なんかは懐かしく感じてしまいます…。2010年代前半はこういう映画が勢いあったなぁ…。
2020年代でも英語圏ではヤングアダルト小説はいっぱいでているのですけど、この2000年代に作られたヤングアダルト小説にはこの時代っぽい初々しさがある感じがする…。私見だけども…。
たぶん「この映画は2006年に劇場公開されました!」と言っても何も知らない人なら騙せそうな気がします。
タリーを演じた主演の“ジョーイ・キング”もキャスティングとしては合っているとは思いました。ヤングアダルト小説の世界を引っ張れそうな若手俳優という感じです。“ジョーイ・キング”は幼い頃の本格メインデビューの2010年の『ラモーナのおきて』で“セレーナ・ゴメス”と共演し、ある意味、若手のバトンタッチをリアルタイムで経験してきた俳優ですが、2018年の主演作『キスから始まるものがたり』で得た「Netflix」とのコネクションを利用してこんな『アグリーズ』の企画を押し通すまでに成長していたとは…。
そして、このシリーズでもうひとりの主人公格となるシェイを演じた“ブリアンヌ・チュー”。原作でも黒髪のキャラクターなので、アジア系の起用は何も違和感もないですが、“ブリアンヌ・チュー”によって快活な反抗心がより強調されて魅力的な存在になっていました。ホバーボードも似合います。
また、悪役となるドクター・ケーブルに“ラバーン・コックス”をキャスティングしたのも上手くハマってました。正直、この映画一本だけだと、ドクター・ケーブルのキャラクターの背景も何もわからないので、本当にただのマッド・サイエンティストな奴にしか思えないし、まあ、こういうヤングアダルト小説には定番の存在ではあるのですが、“ラバーン・コックス”だから個人的には観ていられる…。
という感じで、『アグリーズ』は良質な俳優陣に支えられて、エンターテインメントとして暇つぶしに鑑賞するにはちょうどいいボリュームの映画ではありました。
テーマが霞む細部の甘さ
一方で『アグリーズ』の不満点を挙げるなら、やはり壮大な世界観を持つSF系のヤングアダルト小説にありがちなことですけど、全体的にストーリーの展開が早すぎて、やや急ぎ足に進んでしまう部分が気になります。
まず主人公のタリーと関係性が構築されるのはペリスです。彼とのあの寮施設に来た時からの交流が深まっていった過程は、ハイスピードの回想で描かれるのですが、そこは良しとして…。
次にサっとシェイとの関係に移行します。ここも2人の急速なフレンドリーシップの深まりを、“マックG”監督らしいテキパキとした手腕で描いてくれます。
そして「ペリスとの約束をとるか」「シェイとの新たな人生をとるか」という選択肢を迫られるのですが、そこには「美しくなりたい」という利己的なタリーの感情も混ざっています。
さらに続いては、スモークのキャンプ地でデヴィッドとの関係性を作りだしますし…。
このように本作のタリーはかなり自己中心的なキャラクターに思われやすいですし(それはこういう世界観なのでしょうがないところもあるのだけど)、この映画の脚色による素早いパート進行もあいまって余計に多情仏心に見えてしまっていました。
本作のラストは原作1巻のとおりに映画化した結果なのですが、原作よりもタリーに感情移入しづらいかもしれません。あの終盤も相当に駆け足でしたね。
もうひとつの不満点は、ルッキズムに対する原作出版時の2000年代から映画配信時の2024年の時代の捉え方の変化をどこまで表現できているかです。
現在は「Yassification」なんて言葉があります。これは画像編集機能を使って自分や誰かの写真の顔を極端に大幅に編集して、主に美麗に変えようとする行為を差します。たいていはそうした行為を批判するために使用される用語であり、「yassified」といってその編集された画像に対して「これはやりすぎだ」とかああだこうだと論争が起きるのがネットでは日常茶飯事です。
そうした今も起きているルッキズムと重ねてこの映画を語ることもできます。
ただ、本作はどっちかと言えば美容整形”手術”のほうに焦点をあてており、本作の手術は作中でデヴィッドの両親から明らかになるとおり脳に悪影響を与える危険性があるレベルで、もう画像編集どうこうの次元ではないです。
だから微妙に論点がズレやすいんですよね。そんなインフォームドコンセントもない医療倫理を無視した手術なら、美容整形に限らず大問題ですから。
また、このルッキズムを問うテーマを正面に打ち出しながらも、起用されている多くの俳優がわりと顔立ちの整った俳優ばかりというのも、なんだか白々しく映るんじゃないかなとは思います。
そもそもルッキズムを助長してきたのは、ハリウッドのようなエンターテインメント・コンテンツ。自己批判的であるためにも、もう少しこの産業を批評する要素も取り入れたほうが良かったかもしれません(『バービー』はそこに踏み込んでましたが…)。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『アグリーズ』の感想でした。
Uglies (2024) [Japanese Review] 『アグリーズ』考察・評価レビュー
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