リリー・ジェームズとセバスチャン・スタン共演…「Disney+」ドラマシリーズ『パム&トミー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にDisney+で配信(日本)
原案:ロバート・シーゲル
性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写
パム&トミー
ぱむあんどとみー
『パム&トミー』あらすじ
『パム&トミー』感想(ネタバレなし)
インターネット性犯罪の原点
SNS上で女優やモデルのグラビア写真を勝手にあげている無関係な個人アカウントはよく見かけます。たいていは“いいね”などを稼いでフォロワーをお手軽に増やすためにやっていると思われますが、その写真の大半は写真集の画像であり、引用の範疇を超えているので明らかに著作権侵害です。
同時にこの行為の背景には女性蔑視もあるでしょう。女性を性的に扱ったコンテンツであれば安易にSNSで拡散することに躊躇いない人は多いです。その裏には「肌を露出している女なんて俺ら男のオモチャなんだし、晒し者にしたって女の自業自得だろう。そういう仕事しているんだし…」という感情が透けて見えます。つまるところ、これはインターネット性犯罪でもあり、女性をモノとしてしかみなしていない文化がその行為を助長しています。
無論、相手が有名な女優やモデルであってもダメなものはダメです。正当化される理由はありません。ただ、対象が性的な女性であれば、この常識が麻痺する人が世の中にはわんさかいる…。
今回紹介するドラマは、このようなインターネットにおける女性搾取の歪んだ構造による初期の被害者となった著名人を描いた作品です。
それが本作『パム&トミー』。
本作は伝記モノであり、「パメラ・アンダーソン」と「トミ・リー」というセレブ・カップルを題材にしています。日本では知らない人もいるかもですが、この2人は90年代頃にはアメリカでは超有名でした。パメラ・アンダーソンはモデルでしたが『ベイウォッチ』の出演でセックスシンボルとしてさらに知名度をあげ、トミ・リーの方は何かとスキャンダラスな話題に事欠かない「モトリー・クルー」というバンドのドラマーとして勢いに乗っていました。この2人が1995年に電撃結婚し、マスコミも大盛り上がり。
ところがさらなる出来事が勃発。なんとこのパメラとトミーの私的な映像をおさめたテープが流出してしまったのです。その“私的”というのは要するに性行為を映したものであり、セレブのプライベートなセックステープはたちまちネタにされます。
このドラマ『パム&トミー』はそのセックステープ流出事件をメインに描いたものなのですが、私は観る前は「どうせお騒がせカップルをお下品に描くハチャメチャなやつなんだろう」と思っていました。
でも実際は違いました。いや、確かにハチャメチャな部分は大いにありますよ。本作は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信されているのですが、再生前に「若干の肌の露出」と注意表示されるのですけど、もろにおっぱいとかペニスが映ります。しかも、トミーが自分のペニスと会話するというぶっとんだシーンもあるし…。「R18+」指定なのだけど、一体何が「若干」なのだろうか…。ちなみに乳房はメイクで、ペニスはアニマトロニクスで映像化されているそうです。
まあ、そんな表面上は際どい映像が目に付く、題材の世間イメージどおりのドラマではありますが、中身で主軸になっているのは性犯罪です。つまり、これは私的な性的映像が外部に流出して拡散させられるという今では当たり前に蔓延しているインターネット性犯罪の初期の事件を描くものなんですね。
そしてとくにパメラの性的被害に遭った被害者としての苦しみが強調して取り上げられています。世間からは淫らに体をだすバカな女として見下され、全く対等に扱われない。そんな女性がまだほとんど前例のないインターネット性犯罪(そもそもインターネットというものがあまり一般化していない)の餌食となり、それが性犯罪だとまるで認知されない社会の中で必死に闘っていく。そういう極めてフェミニズム色の強い作品なのが『パム&トミー』です。おそらく配信日も国際女性デーに合わせているんだろうな…。
そういう内容なので、本作は性被害に遭われた方にとってはフラッシュバックを刺激する心理的トラウマに繋がる描写も多いです。なので注意はしてください。
でもとても題材に真摯に向き合った作品だと私は思いました。何よりもパメラ・アンダーソンという当時は散々に消費されたひとりの女性に対して尊厳を取り戻すようなドラマでもあると思いますし…。
本作『パム&トミー』の原案は『レスラー』や『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』の脚本を手がけた“ロバート・シーゲル”。
製作総指揮には“ミーガン・エリソン”や”スー・ネーグル”が関わり、制作した「Annapurna」というスタジオは過去にも『スキャンダル』『ハスラーズ』『ブックスマート』といった女性主体の作品を手がけており、私の中では信頼できるスタジオのひとつになっていますね(レズビアンの“ミーガン・エリソン”が設立したスタジオってところも好印象)。なお、本作にもさらっとバイセクシュアルのキャラクターが登場し、レプリゼンテーションをカバーしてます。
各エピソードの監督は、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の“クレイグ・ガレスピー”、『私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望』の“レイク・ベル”、ドラマ『Pose ポーズ』の“グウィネス・ホーダー=ペイトン”、ドラマ『A Teacher』の“ハンナ・フィデル”です。
そして大変身で主役を熱演するのは、“リリー・ジェームズ”と“セバスチャン・スタン”の2人。とくに“リリー・ジェームズ”は今まで『シンデレラ』など王道系のヒロインが多かっただけに、今回の演技はキャリアを更新するベストアクトだと思います。
『パム&トミー』は全8話(1話あたり約35分~60分)です。
オススメ度のチェック
ひとり | :女性差別問題に関心あるなら |
友人 | :真面目に語り合える人と |
恋人 | :夫婦の在り方を考えさせる |
キッズ | :R18+指定です |
『パム&トミー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):こうしてテープは盗まれた
1995年7月。とある邸宅で改装工事が行われていました。ランド・ゴーティエは1階の室内で作業していましたが、上から聞こえてくる住人の喘ぎ声がどうしたって耳に残ります。その淫らな声が止んだかと思ったら、パンツ一丁の男が様子を見に降りてきました。彼はトミー・リー。有名なドラマーです。
トミーはおもむろに「ベッドはこっちにしよう。360度鏡に囲まれた感じで」と指示。急な変更にコストがかかるとランドは告げますが「そんなもの知るか。カネは気にしない」とトミーは我が物顔。妻であるパメラ・アンダーソンを横に乗せて颯爽と車で行ってしまいます。
ランドはカネに困っていました。エリカという妻がいましたが、別居中に離婚を求められるもカネを払えない始末。あの改装は当初の企画にないことを次々と追加されるので費用が膨らんでおり、まだ支払われてもいませんでした。あげくに高価なウォーターベッドを望むトミー。
同僚のロニーにもいい加減にした方がいいと言われ、ランドは文句を言いにトミーの邸宅の中へ足を勧めます。そこに下着姿のパメラがいて、慌てて退散するランド。妻のそんな姿を見られたトミーは怒り狂い、ランドたちにぼったくり業者だといちゃもんをつけ、カネは払わずにクビだと宣告。さらに銃まで突きつけてきます。
これはもう話できる相手じゃない。堪忍袋の緒が切れたランドはトミーとパメラの邸宅に侵入し、金庫を盗むことにします。
なんとか重い金庫をひとりでバレずに強奪し、ランドは中を確認。銃や紙幣がたくさんあり、有頂天になります。そこにHi8テープがひとつあり、再生機器がないので、昔の顔なじみに頼ります。実はランドは以前はオースティン・ムーアというAV男優でした。
ミルティ・イングリーというアダルトビデオのクリエイターの知り合いのところに向かい、2人でテープを再生。その映像に驚愕。なんとトミーとパメラのプライベートなホームビデオであり、セックスをしている光景まで映っている…。
これは…きっと大金になる。そう確信した2人はこの千載一遇のチャンスに飛びつき、テープでひと儲けしようと企むのですが…。
男にはわからない、搾取される女性の苦痛
『パム&トミー』は序盤は哀れな改装業者のランド・ゴーティエによる、なんともみっともないクライムサスペンスで始まります。しかし、本当の犯罪は盗みの後からでした。テープの無許可な公開です。ただし、放棄書がないなら盗品ので扱えないと各所で断られ、最終的に思いついたのがインターネットで足がつかないように宣伝するということ。これが全ての始まりでした。
本作の実質的主人公にして真の被害者はパメラ・アンダーソン。当時からセクシャルな著名人として位置づけられていた彼女ですが、そんなパメラにも夢があり、それが明かされる第3話は切ないです。パメラは『王様と私』が好きな映画だと打ち明けるとおり、根はとても真面目。ジェーン・フォンダのように反戦活動もして、フェミニストでありセックスオブジェクトでもあるようなそういう矛盾した存在になりたい…。『ベイウォッチ』の撮影でも懸命にセリフのあるシーンにやる気を見せるなど、隋所で健気であり、そんなパメラのキャリアを台無しにするあのテープ流出事件の酷さがことさら残酷に映ります。
何よりも本作のパメラが見ていて可哀想でたまらないのが、誰も彼女に公然と支援する人がいないこと。
自身の私的な性生活映像が大衆の晒され、「犯されているみたいだ」とショックを受けるパメラ。でも世間の大多数の男たちはそんな本人の思いなど気にもしない。こういう女性を性的に搾取することに悪びれもしない文化は昔からあったことですが、それがインターネットという最新のテクノロジーでより露悪的にヤバさを増している。
その新興のレイプ・カルチャーがハッキリとパメラ単独に牙をむく第6話は最も辛いエピソードです。
裁判の録取のためとはいえ、「あなたは娼婦ですか」などとあまりにも無礼すぎる質問を受け続け、例のビデオを間近で見せられ、屈辱で吐きながら耐えるしかできない。
テレビ出演したときに「心境は?」とクソみたいな司会者に聞かれ、「最悪よ」と真顔で答えて場がシーンとした後に、いつものおどけた口調に戻る、あの場面の苦しさといったら…。
「私は自分の体の使い道を自分で決めることはできない」「男にはわからない」…この言葉が全てを物語っている。
この時点のパメラは孤独な被害者。でも、このインターネット性犯罪はこの時代以降全ての女性を餌食にしていくのですが…。
被害者面する男、利益をくすねる男
『パム&トミー』にでてくる男たちは前述したとおり、女性を性的に搾取することに悪びれもしない文化を疑いもなく享受する、揃いも揃ってクソ野郎なのですが、本作の嫌なところはそんな男たちのバリエーションを見せてくるところ。ミソジニーの多様性とか見たくもないんですけどね。
基本的に本作はどんどん対戦相手が変わる男同士の意地の張り合いバトルにパメラが巻き込まれ被害を受けていくという展開になっていきます。
まず事の発端を作るランド。彼は冒頭からずっとテープを公共に売りさばくのは性犯罪だという自覚が微塵もありません。ポルノだからいいじゃないかと思っているわけです。その違いに気づくのは第7話でエリカに説教されてやっとです。彼は賃金未払いの件は確かに可哀想ですが、それありきで劣等感をくすぶらせて(そこにはエリカとよりを戻せないことの苛立ちもあるけど)、「俺は被害者なんだ!」と終始そういう側でしか自分を見ようとしない態度。既視感ある…。“セス・ローゲン”も男の醜さを演じさせたらさすがのクオリティですね。
そのランドの最初の対立相手になるトミー。彼もパメラとの馴れ初めの時点でちょっとストーカー気質で描かれ、テープ流出以降は「俺たち一緒だよな」と同じ被害者面をしますが、そこにある決定的なジェンダーの差にまるで自覚がない。ペニスをネタにして笑いをとれる男と、ひたすらに尊厳を削られていく女の構図が明確に対比され、やがては夫婦の亀裂へと繋がる。作中でトミーさえもパメラをポルノ的なモノとして捉えているという本音がちょこっと漏れ出るシーンがありますが、えぐいです。
そのランドとトミーの争いをよそにちゃっかりカネを儲けて国外へトンズラかますミルティ。トミーの次の男の意地合戦の対戦相手となるペントハウス誌のボブ・グッチョーネ。全く無能な弁護士…ほかいろいろ。
そして最終ラウンドでしれっと参戦し、美味しいところを根こそぎ持っていくセス・ワルシャフスキー。動画自体がネットに無料であがるという当時としては画期的なアプローチにより、ドットコムバブルを制したポルノサイトの成功者のひとりですが、彼のあの上から目線的な理屈をこねくり回して余裕ぶりながら自分の利益を得ていく論客的態度。これも既視感ありすぎる…。ちなみにセス・ワルシャフスキーも訴えられて海外にトンズラしています。
寄り添う女性はいるけれど…
『パム&トミー』は鑑賞していて傲慢な女性搾取の横暴に怒りが沸々と蓄積されていくドラマですが、作中にはパメラに寄り添おうとしてくれる女性もわずかに視認できます。
これはニュースとしての事件性があるといち早く気づく記者の女性とか、録取のときにパメラに同情的な視線を向ける記録係の女性とか。
でも助けは差し伸べられない。そこに何よりも社会における女性の簡単には声をあげられない抑圧というものがあって…。たぶん2020年代だったらパメラに味方をする女性たちがインターネットで大量に現れて、ハッシュタグ・アクティビズムで連帯すると思いますが、当時はそれはなかった。
そんな中で観客の公正な主張を代弁してくれるのがエリカです。彼女とそのガールフレンドのセックステープの動画への反応が印象的。ものすごく健全でロマンチックだったと感想を述べ、男たちがポルノのネタにして騒いでいるのとは対照の見方を提示します。そういう視点をクィアなキャラクターがもたらしてくれるのもいいですね。
ラストはパメラの出産に立ち会って喜ぶトミーとの仲睦まじい姿をカメラで撮るシーンという皮肉で、どこか優しいオチ。本作自体が題材の2人を搾取的に描いていないのも良かったです。
その後の2人がどんな顛末を辿ったのかは以下の記事に詳しいです。
『パム&トミー』を観た後は『バーブ・ワイヤー/ブロンド美女戦記』の感想も変わってくるかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 60%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Annapurna Television, Disney パム・アンド・トミー
以上、『パム&トミー』の感想でした。
Pam & Tommy (2022) [Japanese Review] 『パム&トミー』考察・評価レビュー