第79回カンヌ国際映画祭が2026年5月12日~23日にわたって開催されました。長編コンペティション部門の最高賞であるパルム・ドールには、“クリスティアン・ムンジウ”監督の『Fjord』が選ばれました。
一方で、カンヌ国際映画祭には「クィア・パルム(La Queer Palm)」と呼ばれるLGBTQ+をテーマとした独立した公式賞も存在します。
今回はその第79回カンヌ国際映画祭(2026年)のクィア・パルムにおける、受賞作と選出作の映画を紹介しています。
- 長編映画
- 『Teenage Sex and Death at Camp Miasma』
- 『Du Fioul dans les artères』(Flesh and Fuel)
- 『Amarga Navidad』(Bitter Christmas)
- 『La bola negra』(The Black Ball)
- 『La Vie d'une Femme』(A Woman's Life)
- 『Coward』
- 『Garance』(Another Day)
- 『ナギダイアリー』(英題『Nagi Notes』)
- 『The Man I Love』
- 『Les Matins Merveilleux』(Marvelous Mornings)
- 『Tangles』
- 『Roma Elastica』
- 『Jim Queen』
- 『Elephants in the Fog』
- 『Club Kid』
- 『Marie Madeleine』
- 『La Gradiva』
- 『Seis meses en el edificio rosa con azul』(Six Months in a Pink and Blue Building)
- 『Clarissa』
- 『Virages』(Summer Drift)
- 『Cœur secret』(A Secret Heart)
長編映画
『Teenage Sex and Death at Camp Miasma』
受賞作
「ある視点」選出。クィアな映画監督がスラッシャー映画を撮ろうとする中で狂気に陥っていく、『テレビの中に入りたい』の“ジェーン・シェーンブルン”(Jane Schoenbrun)監督らしく、相変わらずメタなアプローチが炸裂します。今回はタイトルも含めてキマっています。ノンバイナリー当事者である“ジェーン・シェーンブルン”監督は、2026年はさらなる飛躍の年となりました。次はコンペティションかな? そうあってほしいな…。
『Du Fioul dans les artères』(Flesh and Fuel)
審査員賞
「批評家週間」選出。フランス・ポーランド合作の、“ピエール・ル・ゴール”(Pierre Le Gall)監督作。フランス人とポーランド人のトラック運転手の男2人が仕事中に出会って、良い関係になっていく感じのロマンス映画とのこと。労働者階級の非異性愛な物語の不足を補給してくれるのでしょうか。
『Amarga Navidad』(Bitter Christmas)
「コンペティション」選出。説明不要の“ペドロ・アルモドバル”(Pedro Almodóvar)監督作。今度はクリスマス・コメディのようです。笑えるコメディとは違うかもですが…。この監督であれば、いつもどおりのセンスを期待できるでしょう。
『La bola negra』(The Black Ball)
「コンペティション」選出。スペイン・フランス合作で、『ホーリー・キャンプ!』の“ハビエル・カルボ”(Javier Calvo)と“ハビエル・アンブロッシ”(Javier Ambrossi)の監督作。1932年、1937年、2017年を舞台に、3人のゲイ男性の人生をまたいでいく叙事詩となっていると説明されています。
『La Vie d’une Femme』(A Woman’s Life)
「コンペティション」選出。フランス・ベルギー合作の、“シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ”(Charline Bourgeois-Tacquet)監督作。中年期の感情の激変を描き、そのうえ中年女性同士の恋愛がそこに織り込まれているみたいです。クィア映画が増えるのは良いことですが、中年女性のクィア映画が増えるのはなおさら良いことです。
『Coward』
「コンペティション」選出。『Girl/ガール』や『CLOSE/クロース』の“ルーカス・ドン”(Lukas Dhont)の新作がやってきました。今回はこれまでとガラっと変わって、第一次世界大戦のベルギーの塹壕戦線にて迸る同性愛を映し出しています。これはクィアな歴史を掘り下げる意味でも、個人的にかなり楽しみですね。
『Garance』(Another Day)
「コンペティション」選出。“ジャンヌ・エリー”(Jeanne Herry)監督のフランス映画。LGBTQコミュニティにとっては問題作であった『アデル、ブルーは熱い色』で主演した“アデル・エグザルホプロス”を迎え、アルコール依存症に向き合う女優の葛藤に添えるかたちで、クィアなロマンスも探究している模様。
『ナギダイアリー』(英題『Nagi Notes』)
「コンペティション」選出。日本からは“深田晃司”監督の映画がクィアネスをお届け。“松たか子”が演じる主人公は同性愛者として明示的に描かれているようで、日本社会で疎外される当事者の葛藤が穏やかな視点で映し出されているとのことです。“深田晃司”監督は『恋愛裁判』といい、近年は日本の性規範を問い直すテーマが目立ちます。
『The Man I Love』
「コンペティション」選出。“アイラ・サックス”(Ira Sachs)監督の新作は、1980年代の激動のニューヨークを舞台に、エイズと診断されたゲイの舞台俳優が人生を歩んでいく姿を描くものとなっています。“ラミ・マレック”主演で、メインの俳優陣にはオープンリー・ゲイの俳優はいないようですが…。
『Les Matins Merveilleux』(Marvelous Mornings)
「スペシャル・スクリーニング」選出。“アヴリル・ベッソン”(Avril Besson)監督作のフランス映画は、南フランスで繰り広げられるレズビアン・ロマンスですが、お相手となるのはトランスジェンダー女性。演じるのもトランスジェンダー当事者のモデルである“ラヤ・マルティニー”です。
『Tangles』
「スペシャル・スクリーニング」選出。『塔の上のラプンツェル』(Tangled)ではないですよ。“リア・ネルソン”(Leah Nelson)監督のアメリカ・カナダ合作のアニメーション映画は、アルツハイマー病の母の介護のために保守的な町に戻ることになった、クィアな女性を主人公にしているとのことです。
『Roma Elastica』
「ミッドナイト・スクリーニング」選出。『コナン・ザ・バーバリアン』をフェミニズムに再構築した『She Is Conann』など個性的な映画を生み出してきた“ベルトラン・マンディコ”(Bertrand Mandico)監督の2026年の映画もやっぱりクィアな味。今作はイタリア映画の歴史へのオマージュが満載らしいですけど…。
『Jim Queen』
「ミッドナイト・スクリーニング」選出。ゲイ男性を異性愛者に変えるウイルスが蔓延するパンデミックで、アイデンティティの存続の危機!? そんなぶっ飛んだ設定のフランスのアニメーション映画を届けてくれるのは、“マルコ・グエン”(Marco Nguyen)と“ニコラ・アタネ”(Nicolas Athane)のコンビ。
『Elephants in the Fog』
「ある視点」選出。この“アビナシュ・ビクラム・シャー”(Abinash Bikram Shah)監督作は、ネパールの村を舞台に、トランスジェンダー女性のコミュニティを描いているそうです。トランスジェンダー女性が行方不明になった悲劇的な事件に触発されて制作されたとのことで、何をどう伝えるのか。
『Club Kid』
「ある視点」選出。ゲイ当事者でこれまでのフィルモグラフィーでもゲイ・ライフを丁寧に描いてきた“ジョーダン・ファーストマン”(Jordan Firstman)監督の新作は、ニューヨークのゲイ・ナイトライフの活気溢れるシーンを景気よく描いてくれます。この監督なら映像は保証付きですね。
『Marie Madeleine』
「カンヌ・プレミア」選出。“ジェシカ・ジェネウス”(Gessica Généus)監督のこの映画は、ハイチを舞台に、とあるセックスワーカーが福音派の信者と恋に落ちていく展開が描かれるとのこと。“ジェシカ・ジェネウス”監督は、2021年に『Freda』で長編映画監督デビューしたばかりですが、まだまだ伸びていってほしいところ。
『La Gradiva』
「批評家週間」選出。“マリーヌ・アトラン”(Marine Atlan)の長編映画監督デビュー作で、ポンペイ遺跡への旅をとおして、クィアな青春が浮かび上がってくる物語だそうです。クィア・アートに興味ある人なら、なおさら面白そうです。“ヴィルヘルム・イェンゼン”の『グラディーヴァ あるポンペイの幻想小説』から着想を得たのだとか。
『Seis meses en el edificio rosa con azul』(Six Months in a Pink and Blue Building)
「批評家週間」選出。“ブルーノ・サンタマリア・ラソ”(Bruno Santamaría Razo)監督の半自伝的な物語で、1990年代初頭のメキシコシティを舞台に、クィアな目覚めを描いていくものとなっています。長編映画監督デビュー作ですが、以前まではクィアなドキュメンタリーを撮っていたみたいですね。
『Clarissa』
「監督週間」選出。“アリエ・エシリ”(Arie Esiri)と“チューコ・エシリ”(Chuko Esiri)の2名の双子監督のこの映画は、ヴァージニア・ウルフの小説『ダロウェイ夫人』を現代風にアレンジしたものだとか。ナイジェリアのラゴスに舞台を変え、バイセクシュアルな関係性が今と昔を繋ぎ、ポストコロニアルな視点が漂うとのことで、早く観てみたい一作です。
『Virages』(Summer Drift)
「ACID」選出。“セリーヌ・カリドロワ”(Céline Carridroit)と“アリーヌ・スーテル”(Aline Suter)の両監督が作り出したのは、スイスのジュネーブでレースのために古いフォルクスワーゲン・ビートルを修理しようと決意したトランスジェンダー女性をメインにしたストーリー。トランスフォビアとミソジニーの傷が残る中、再スタートできるのか。
『Cœur secret』(A Secret Heart)
「ACID」選出。“トム・フォンテニール”(Tom Fontenille)監督の親にカメラを向けたこのドキュメンタリーは、愛するパートナーの死を経験した父の次なる再出発を映し出すもので、性別移行を始め、今や多彩な趣味を楽しむ64歳の女性になった姿をありのままに撮影しているとのこと。人生はまだまだこれから…。
カンヌ・クラシックス、短編映画の選出作品の紹介は割愛しています。
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