ウサギの骨に注意…映画『スターヴ・エイカー 召喚』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2023年)
日本公開日:2026年9月11日
監督:ダニエル・ココタジロ
動物虐待描写(ペット) 性描写
すたーぶえいかー しょうかん

『スターヴ・エイカー 召喚』物語 簡単紹介
『スターヴ・エイカー 召喚』感想(ネタバレなし)
イギリスのウサギに注意
「ウサギ(兎)」と言えば、日本では『古事記』の「因幡の白兎」の話が昔からあるせいか、縁結びなど縁起の良い動物のイメージがあります。
一方で、イギリスでは昔は魔女や魔術と関連付けられてきたそうで、ウサギにはどこか不気味な印象がつきまとっていた側面もありました。
だからこそ、海外のホラー映画の中には、『ウィッチ』(2015年)や『アス』(2019年)のように、ウサギが恐怖の象徴的な動物として用いられているのにも説得力があります。


そんな中、ウサギのホラーの決定版的な映画が登場しました。実質的にウサギが主役のような、王道のフォーク・ホラーのイギリス映画です。
それが本作『スターヴ・エイカー 召喚』。
本作は2023年に製作され、イギリス本国での一般劇場公開は2024年で、日本では2026年に劇場公開されました。
原作があって、イギリスの作家である“アンドリュー・マイケル・ハーレー”の2019年の小説を映画化したものです。
物語は、イギリスの田舎に引っ越してきたある家族を主軸に、超自然的な恐怖に包まれていきます。先ほども説明したとおり、ウサギが重要な存在になってくるのですが、詳しくはネタバレになるので観てのお楽しみ。なお、ウサギと言っても野生動物の「野ウサギ」ですからね。
基本的にスローペースでじわじわと進行するストーリーなので、じっくり味わってください。とくに民間伝承や動物を土台にしたホラーが好きな人にオススメですね。
『スターヴ・エイカー 召喚』を監督したのは、2017年にエホバの証人として育った自身の経験を基にした『Apostasy』で長編映画監督デビューを果たした“ダニエル・ココタジロ”。そっちの過去作も日本で公開されないかな…。
俳優陣は、ドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の“マット・スミス”と、ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』の“モーフィッド・クラーク”。作品自体はミニマムなのですけど、キャスティングは現在の二大ファンタジードラマシリーズで主演を飾る俳優2人の共演となりました。


共演は、ドラマ『捜索者の血』の“エリン・リチャーズ”、『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』の“ロバート・エムズ”、ドラマ『ホーンブロワー 海の勇者』の“ショーン・ギルダー”など。
日本では普段は野生のウサギなんて見かけることはほとんどないと思いますが、この映画を観た後だと、ウサギが怖くなるかもしれません。まあ、でも今の日本だとウサギのキャラクターと言えば『ちいかわ』の「うさぎ」だから、あの印象は覆しきれないところはあるか…。なんならこの映画を「ちいかわ」と「ハチワレ」に見せてあげたい…。
ちなみに愛玩動物がでてくる映画だと毎度恒例の質問ですが、「ウサギは死にますか?」という質問をぶつけられたら、本作の場合だと「最初から死んでいるところから始まります」という珍妙な回答をすることになりますね。
『スターヴ・エイカー 召喚』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 子どもの死が描かれ、トラウマに苦しむ描写があります。また、馬が傷つけられるシーンが一部にあります。 |
| キッズ | 殺人や性行為の描写があります。 |
『スターヴ・エイカー 召喚』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
イギリスの田舎、平原が広がる地帯。そこにポツンと建つ1軒の家に、大学で考古学の講師をしているリチャードとその妻のジュリエット(ジュールズ)は、その2人の子どもである息子のオーウェンと暮らしていました。
この家がある場所は、リチャードの亡き父が所有していた石垣に囲まれた元農場であり、僻地なので周囲には何もありません。今は動物もおらず、閑散としています。
ある日、町で他の子どもたちとオーウェンが遊んでいる中、リチャードとジュリエットは木の下でくつろいでいました。しかし、突然悲鳴が聞こえます。何事かと駆け寄ると、その悲鳴は女の子のもので、ポニーが目を潰されて真っ赤な血を流して傍に倒れていました。
リチャードがやや離れたところで座っているオーウェンの傍に行くと、彼は血の付いた木の枝を持っていました。
翌日、リチャードが仕事に出かけた際、ジュリエットはオーウェンに「昨日は何かあったの?」と慎重に質問します。オーウェンはうつむいたままうやむやな返事をするだけです。
喘息持ちのオーウェンはこの自然の豊かな地に引っ越せば改善するかと思っていましたが、あまり期待どおりにはなりませんでした。オーウェンはてんかんや脳損傷などの症状を診断する脳波検査(EEG)を念のために受けます。でも異常は見つかりません。
ジュリエットはオーウェンがジャック・グレイという人物の口笛の音を聴いたと言っていると口にします。その話にリチャードの顔色が変わります。リチャードはときどきオーウェンの面倒を見てくれる旧知の友人ゴードンが変な話を吹き込んだのではないかと疑います。
リチャードと外で歩いているときもオーウェンはゴードンから聞いたという話をよくします。できるかぎり、子どもといる時間を増やそうとするリチャード。オーウェンもなんだか無邪気さを取り戻しているような感じがします。
ある日、リチャードが仕事に出かけている間、ジュリエットは玄関の外でぼんやり風景を見ていました。すると霧と風が立ち込め、ジュリエットは変な感覚になります。
ふと気がつくと、背後の戸口扉でオーウェンが倒れていました。
急いで病院に連れていきますが、オーウェンは息をしていませんでした。リチャードも駆けつけ、狼狽するジュリエットの傍によるも、オーウェンが亡くなったと医師に告げられ…。

ここから『スターヴ・エイカー 召喚』のネタバレありの感想本文です。
野ウサギに化けて…
前述したとおり、『スターヴ・エイカー 召喚』はイギリスの民間伝承を土台にしています。
『ウォーターシップダウンのうさぎたち』の舞台のような場所で物語は展開し、どうやら時代設定は1970年代のヨークシャー地方のようです。まだまだ伝承というものがテクノロジーに上書きされることもなく残存していてもおかしくない時代ですね。
タイトルにもなっている「starve acre」は直訳すると「飢えた土地」という意味ですが、イングランドにはこういう名前で呼ばれている地があちこちに存在するそうです。そしてたいていそういう地は、どういうわけだか何も植物が育たず、まるで精気の存在しないかのようだとか…。
こうした地には、魔女が埋葬されている…といった言い伝えが付随していることが多く、地域住民からは忌み嫌われています。
その魔女は野ウサギに変身することができるともされています。野ウサギは狩猟対象の動物ですが、今作の野ウサギは人間社会に侵入し、恐怖を植え付ける存在です。
『スターヴ・エイカー 召喚』は、地域色の濃いホラーであり、その土地の祟りや風土が恐怖として襲ってくるタイプの作品は日本でも定番です。本作はそこに動物をメインで絡ませていることになりますが、単純なアニマル・パニックではありません。
言ってみれば、ただの小さな野ウサギでしかない…。しかも、野ウサギはそこに佇んでいるだけ。そんな存在なのに、人間の家族が不穏に脅かされていく。だからこそ怖い。
『スターヴ・エイカー 召喚』のこの野ウサギの扱いかたは非常にストイックですが、とても効果的に自然と超自然的怪奇の境目をあやふやにし、私たちの安寧を揺るがしていたと思います。
もちろんその演出にはあのヨークシャーによくある荒涼とした曇り空のロケーションも見事にハマっています。陰鬱さを醸し出すには最適すぎますね。実際、野ウサギを日本のよくある農地の風景で見かけても全然怖くないですからね…。
あなたの飼っているウサギも?
私は最初に『スターヴ・エイカー 召喚』を観始めたときは、『ペット・セメタリー』の路線になるのかなと思いましたが、より歪んだ変化球をみせていきました。
確かにあのジュリエットとリチャードの夫妻は最愛の我が子であるオーウェンを失い、悲壮感に沈んでいました。しかし、その陰鬱さはどこまで人間の感情によるものだったのか…。
本作はその恐怖の正体があの家族にどこまで影響を与えたのかは曖昧なままです。ゆえに底知れず恐ろしいのですが…。
オチまで言ってしまうと、あのリチャードが亡き父から譲り受けた農場の土地はどうやら最初から「精霊の世界の入り口」があり、要するに呪われた地だったようで、おそらくリチャードの父もその呪いに憑りつかれて亡くなったものと推察されます。
ジュリエットとリチャードの夫妻は新参者ですが、先に息子のオーウェンがその呪いの影響を受け、「ジャック・グレイ(ダンデライオン・ジャック)」にそそのかされていきます。しかも、近所のゴードンもすっかりこの怪奇の餌食らしく、もうジュリエットとリチャードの夫妻はここに移り住んだ時点で詰んでましたね。
3人の生贄が必要だということで、子ども、男性、女性…とそれぞれが死に、最後はしっかり条件を揃えて、夫妻は幸せでいっぱいに。めでたし、めでたし…。
それにしても野ウサギの介入がやはり見どころでした。まずリチャードが考古学者なのですけど、あの髪型からもわかるとおり(作中でもツッコまれていた)、わりと若い文化に影響されている新しい研究者だと思われます。それが極端に古い呪いに一方的にやられていってしまうという構図。残酷ですね。
本人は発掘作業を無我夢中でしている中で、その学術的好奇心が最悪の蓋を開けていくという展開もまた嫌らしいです。
そして骨の野ウサギが、骨格標本状態からしだいに内臓、血液、心臓、眼球、毛皮と「肉体」を得ていくその過程。映画化されて視覚的になったからこその恐怖が倍増しています。野ウサギくらいの大きさだとその肉体の変化が観察しやすいので、余計にグロテスクさも際立ちます。
その野ウサギがいつの間にかあの夫婦の間に「子」としての立ち位置を獲得し、事実上、すり替わっていく…。これは野生動物がペットへと家畜化されていく過程(ウサギはもちろん犬や猫も通った歴史の道)を、ある意味で非常におどろおどろしく解釈し直すような流れであり、そう考えると不気味さはもっと増すでしょう。わざわざペット化されたウサギまで登場させるあたりもかなり嫌味な演出ですね。
『スターヴ・エイカー 召喚』はウサギ・フォーク・ホラーとして見事な貫禄の一作でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『スターヴ・エイカー 召喚』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)House Starve Acre Limited, Acre Film LLC, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute 2023 スターヴエイカー スターブ・エイカー
Starve Acre (2023) [Japanese Review] 『スターヴ・エイカー 召喚』考察・評価レビュー
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