サンタの話じゃないよ…Netflix映画『セキュリティ・チェック』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:ジャウム・コレット=セラ
交通事故描写(車) 恋愛描写
せきゅりてぃちぇっく
『セキュリティ・チェック』物語 簡単紹介
『セキュリティ・チェック』感想(ネタバレなし)
クリスマスはこの仕事も忙しい
ホリデーシーズン(クリスマスから正月にかけて)が近づけば近づくほど大忙しになる業種というのが世の中にはありますが、毎度ながら職業の格差がでやすい時期ですよね。ある仕事の人は「休みだ~!」と長期休暇を満喫できるけど、ある仕事の人は「はぁ…これからキツイんだよなぁ…」と溜息しかでない…。そのためか、若干世間がギスギスしてくるような…。
華やかな雰囲気に流されるばかりでなく、この時期にこそ地道に頑張って働いているいろんな人たちに感謝しながら過ごしていきたいものです。
今回紹介する映画は、そんなクリスマス時期にある場所で働いている人たちが主人公です。
それが本作『セキュリティ・チェック』。原題は「Carry-On」。
本作の舞台はアメリカの大都市の空港。クリスマス時期ともなれば、旅行客を中心に空港内はごった返すことになりますし、当然、そこで働いている人たちは昼夜問わずに大忙し。円滑に旅客機の運航を実行するべく、理路整然と労働に徹し、突発的に起きるトラブルに対処しています。
この映画『セキュリティ・チェック』はそんな空港の業界裏側を映し出してくれるわけですが、ただの日常の労働風景では片付きません。その忙しい日にあろうことかテロの不穏な策略が蠢き、ひとりの労働者が対処するハメになってしまいます。
こういう「空港を舞台にしたサスペンス・スリラー」は定番であり、有名どころだと『大空港』(1970年)のようにジャンルとして確立しています。一定の面白さが担保されていると言えるでしょう。大勢の人たちがいる中で「犯人は誰か?」「どんな被害にまで拡大してしまうのか?」というシチュエーションを活かした緊張感が作りやすく、そしてタイムリミットが生まれつつも予測不能な展開が連発していく…。手に汗握ること間違いなしのジャンルです。
『セキュリティ・チェック』もそのジャンルの新作なのですが、中心となる職業がパイロット、客室乗務員、管制官などではなく、保安官、しかも手荷物検査をしている現場の人…というあたりが特徴です。実際にそういう職業の人には申し訳ないですけど、手荷物検査をしている保安官の存在感はかなり地味です。映画だとたいていは描かれても背景の人で終わりがち。いるにはいるけど主役にはさせてもらえません。
手荷物検査をしている保安官を主人公にして、サスペンスは成り立つのか?と思うのですけど、これがしっかりハラハラドキドキさせてくれるのがこの映画です。
『セキュリティ・チェック』を監督するのは、『ロスト・バケーション』や『トレイン・ミッション』などこの手のサスペンスは大得意の“ジャウム・コレット=セラ”。2014年には航空保安官を主人公にして飛行機内でのサスペンスを描く『フライト・ゲーム』も監督しました。今回は空港の手荷物検査の場から始まるという、より条件が厳しい設定に挑戦です。やっぱり『ジャングル・クルーズ』や『ブラックアダム』のような大作よりも、こういうジャンルのほうが“ジャウム・コレット=セラ”監督の持ち味が楽しめていいですね。
『セキュリティ・チェック』で主演を務めるのは、“タロン・エジャトン”(タロン・エガートン)。最近は『ロケットマン』や『テトリス』などで幅広く活躍してきましたが、本作のような労働者階級の役柄が一番似合っている気がします。
共演は、『パープル・ハート』の”ソフィア・カーソン”、『AIR/エア』の“ジェイソン・ベイトマン”、『ピアノ・レッスン』の“ダニエル・デッドワイラー”、ドラマ『ベター・コール・ソウル』の“ディーン・ノリス”など。
先ほども言ったように、『セキュリティ・チェック』は緊迫のサスペンスですがクリスマス・ムービーにもなっています。新たな『ダイ・ハード』枠になるかな?
『セキュリティ・チェック』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年12月13日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 殺人の描写はあります。 |
『セキュリティ・チェック』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
空港近くの深夜のクリスマスツリー売り場。タクシーを降りて手さげカバンを持って入ってくる帽子の人物。おもむろに銃を置きます。カバンには札束が詰まってあり、傍で作業をしていた髭面の人は中身を確認。しかし、血を吹いてその場で死亡します。さらに駆け付けた男も射殺し、火を放って現場を隠蔽。車の鍵を奪って後部にキャリーケースがあるのを目視します。
ところかわって、イーサンはパートナーのノラと家で寄り添っていました。まだ日も明けないうちにノラと一緒に出発します。今日はクリスマス・イブですが、2人とも仕事。同じ職場です。
イーサンはロサンゼルスの空港の運輸保安官として働いています。本当は警官になりたかったのですが、ダメでした。ノラは夢を追うことを提案。イーサンも難しそうだと思いつつ、検討してみます。
ノラはノースウィンド航空のオペレーションディレクターです。空港に着くと、イーサンは関係者以外立ち入り禁止のドアを通って、裏側へ。そこは乗客の荷物を大量に扱う場です。
スタッフのミーティングがあり、その後にイーサンはダメもとで上司に昇進できないかを聞いてみます。当然ながら厳しい答えしか返ってきませんが、手荷物のX線検査担当をやらせてもらい、やる気を試してくれるようです。
さっそく乗客が待ち受ける手荷物検査の場につきます。スイッチを押し、荷物が流れていき、目の前のモニターに荷物の中身が映ります。
すぐにある乗客が「これは私のものじゃない」と、片耳だけのイヤホンを渡してきます。それを手にした瞬間、イーサンのスマホにメッセージが…。装着するようにという指示です。耳につけると、見知らぬ人の声が一方的に指示を出してきます。明らかに今の状況を把握しており、イタズラではないことはすぐに察せました。
平静を保って仕事の席に戻り、また手荷物のスキャン画像のチェックのモニターの前に佇みますが、謎の声とのやりとりは続けます。なんでもマテオという乗客の手荷物を何も問題視せずに通せということらしいです。
こっそりスマホでノラに通報しようとすると、それもバレており、指示に従わないならノラを殺すと脅迫されます。しかも、ノラが妊娠していることも知られています。個人情報がなぜ…?
さすがに焦りが募るイーサン。すぐ近くの列に並ぶ乗客は停滞する手荷物検査に不満の声をあげています。遠くで見ている上司も大丈夫かと心配そうですが、助けは呼べません。
その頃、ある火災現場に到着したロサンゼルス市警の刑事のエレナ・コールは、これが単なる火事ではなく、かなり怪しい動きがあったことを隠すものであると分析。独自に捜査を急いで進めていきます。
同時刻、イーサンはどんどん追い詰められていき、手荷物検査の場で打開策を考えていましたが…。
TSAの意地をみせる
ここから『セキュリティ・チェック』のネタバレありの感想本文です。
『セキュリティ・チェック』は「アメリカ合衆国運輸保安庁」の人たちがひたすらに大変な目に遭う映画です。服にデカデカと「TSA」と書かれているとおり(階級章のマークでどのレベルのキャリアなのかわかる)、「Transportation Security Administration」の略称で呼ばれるこの職業は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロに際して編成され、もっぱら空港の荷物などに危険物がないかをチェックすることに専念しています。
そうは言っても、できることはせいぜい荷物チェックです。それが本来の仕事です。本作の主人公であるイーサンのように、いきなりテロリストの策略の道具にされてしまうなんて勘弁したいところ。
序盤から「え? 俺にどうしろと?」というイーサンの困惑が見ていて可哀想でしょうがありません。完全に貧乏くじをひかされた状況。ただの手荷物のX線検査をしているだけの人間には責任が重すぎます。
しかも、監視状態にあり、スマホも何も使えないし、誰の助けも呼べない孤立無援。空港の中なのに孤島にいるみたいな感じがあの手荷物検査の場では起こっていました。
一応、運輸保安官の名誉のために書いておきますけど、あれはもう運輸保安官の責任の範疇を超えていますからね。まずハッキングされてしまうような空港のセキュリティシステムがおかしいし、スナイパーライフルで狙撃できるような建物構造もダメだろう…と。運輸保安官にはどうしようもできない空港の欠陥ですよ。
しかし、この絶体絶命の状況から意地の粘りをみせるのが本作の面白い部分でした。“ジャウム・コレット=セラ”監督は「追い詰められた主人公が危機をひっくり返して逆に攻め入っていく」というターンに入ったときがとにかく急激に面白く演出するのが上手いです。
最初にイヤホンから聞こえてくる音の情報しかないので、そこで相手を特定できないかと探りを入れていく戦法。これ自体は犯人がわりとあっさりこちらに正体を現すのであまり意味ないのですが、イーサンの空港に特化した空間把握のスキルが光ってきます。
でもそれでは勝てません。やはりイーサンにとって空港は空港でも乗客がたくさんいるこのフロアは通常は仕事場ではありません。
だからこそ物語の舞台が空港の「裏側」に回ったとき、一気にイーサンが水を得た魚のように強さを増していくことになります。
あの後半で巻き起こる犯人の手先となっているマテオとの荷物運搬場でのコンベアに流されながらの揉みあい格闘シーン。これぞ裏側!という映像の楽しさをみせてくれます。
そして犯人に見つかるのですが、キャリーケースを大きいものと取り換えることで、旅客機に乗っても乗客席の上の棚に荷物が入らずに貨物室へと移動させられてしまうということまで予測しての戦術。まさに運輸保安官ならではの知識で犯人を出し抜くわけです。ここは「運輸保安官、カッコいい!」と思わず惚れてしまいそうになる反撃でしたね。
ツッコミどころはあるけど…
『セキュリティ・チェック』は空港サスペンス・スリラーとしては主人公のイーサンだけに活躍を絞っているので、もっと群像劇としてのチームプレイを見たい人にはやや物足りないところもあったと思います。
ノラの活躍場面もいろいろ欲しかったです。ほぼ終盤あたりまで人質の役割ぐらいしかなく、せっかくのその職業的ポジションなのだから、あれこれとこちらも知識が役立っていく展開を観たかったですし…。
刑事のエレナ・コールは…頑丈だなという印象が一番残りますね…。あれだけの大事故で無傷で生還し、すぐさまに現場に駆け付けるという職務優先姿勢。少し休んでほしい…。というか手荷物検査よりもあのエレナの身体をスキャンして損傷がないか診てあげてほしい…。
全体的なツッコミどころもあるので、そこはどこまで気にするのかという問題ですかね。
個人的に気になるのは、空港でトラブルが発生したとき、トラブルの危険度に応じてどの段階で「空港離着陸の停止」を命じるのか。2024年にも新千歳空港にて制限エリア内にある店舗でハサミが紛失したという理由でおよそ2時間にわたって保安検査が中断するという騒ぎが起きましたが、わりと些細に思えることでも保安検査のやり直しなど、思い切った対応がとられる印象があります。もちろんそれはセキュリティ安全対策を最優先に考えてのことなので、利用客は大迷惑でしょうけども、そこはしっかりしないといけない部分です。
日本とアメリカでは対応マニュアルも違うでしょうが、たぶんテロの可能性ありと一報入れば、それだけで「空港離着陸の停止」の措置が念のために取られるのではないかな、と。もしそうなってしまったら飛行機内でテロを起こすなんて無理です(空港内ならまだいくらでも可能だけど)。
そう考えると今回の犯人の「外国による飛行機テロ事件をでっちあげて国内危機感を煽って軍事産業を儲けさせたい」みたいな狙いとの整合性を考えると、相当に無理のあるアプローチだったんじゃないかな…。
ターゲットをテロで殺す方法は他にいくらでもありますし…(そもそも今の軍事産業って他の分野ですでにたんまり儲けているのは…という疑問もあるけど)。
ちなみにアメリカの保守系の政治家の中には「TSA」の廃止を掲げている者も前からいて、2度目の“ドナルド・トランプ”大統領の政権に突入するこれからのアメリカがどうなるのかはわかりません。もし「TSA」が無くなって民営化しても、保安検査は行われ続けるでしょうが、予算も減るのでますますこの仕事をしている人たちは割に合わないでしょうね。
この映画のラストみたいに、クリスマス気分の暖かいオチに現実が着陸することはないかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
×(悪い)
作品ポスター・画像 (C)Netflix セキュリティチェック
以上、『セキュリティ・チェック』の感想でした。
Carry-On (2024) [Japanese Review] 『セキュリティ・チェック』考察・評価レビュー
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