DCユニバースをロック様が仕切り直す…映画『ブラックアダム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年12月2日
監督:ジャウム・コレット=セラ
ブラックアダム
ぶらっくあだむ
『ブラックアダム』あらすじ
『ブラックアダム』感想(ネタバレなし)
DCユニバース、どこへいく?
DCがまたも波乱と混迷の様相を呈しています。
2013年の『マン・オブ・スティール』から始まった「DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)」。先行するマーベルの「MCU」を後追いするようなかたちでの始動でしたが、2017年の『ジャスティス・リーグ』の興行不調からそのシリーズは暗礁に乗り上げます。
しかも、DCEUを引っ張って来た中心的人物である“ザック・スナイダー”が『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』という置き土産を残して事実上降ろされてしまいました。映画やドラマにおける制作現場でのハラスメント問題なども多数持ち上がる中、シリーズは方向性を変えます。
ユニバースとして複数の作品をクロスオーバーさせる方針をやめ、あくまで個別に作品を作り上げて、多少の緩いクロスオーバー程度なら許容する…そんなスタイルになりました。
こうしてDC映画は走りながら新たなフォームに移行。『ジョーカー』(2019年)、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020年)、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)、『THE BATMAN ザ・バットマン』(2022年)など多数の個性作を生み出し、ゴタゴタあったけど安定してきたからOKだなと肩をなでおろしたと思います。
ところがまたも激震が…。映像作品を作る「DCエンターテインメント」は「ワーナー・ブラザース」の傘下であり、そのワーナーは通信メディア大手「AT&T」に属していたのですが、そのAT&Tがワーナーメディアとディスカバリーの合併を発表。2022年4月に「ワーナー・ブラザース・ディスカバリー」という企業として生まれ変わりました。
それはつまり経営陣の変更を意味します。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーを率いることになったのは“デヴィッド・ザスラフ”。年間300万ドル(約4億1千万円)の年俸と年間2200万ドル(約30億円)のボーナスを受け取るという世界でも破格の高給エグゼクティブとなったこの新指揮者は、大規模なリストラを決行し、経営改革に乗り出します。
さらに作品の打ち切りも実行。とくに騒然としたのがDC映画『Batgirl』の公開取りやめ判断です。すでに映画が完成していたにもかかわらず、お蔵入りするというのは異例で、大きな批判と失望も招きました(詳細は以下のサイトも参考に)。
そしてこのやりたい放題の“デヴィッド・ザスラフ”がDC映像作品に対して「MCUみたいにするべき」と決定し、DC映像作品群は一転してクロスオーバーしてひとつのユニバースを形成するスタイルへと変更を余儀なくされます。
それまでDCシリーズをまとめていた“ウォルター・ハマダ”は退任し、“ジェームズ・ガン”と“ピーター・サフラン”がDCスタジオの代表に就任することが決定。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を成功に導いた“ジェームズ・ガン”ですから実力はじゅうぶんですが、かなり大変な舵取りになることが予想されます。
とにかくDC映画(「DCユニバース(DC Universe / DCU)」という呼称になるらしい)は企画練り直しが進んでおり、現在製作中の映画も再撮影と公開延期が行われ、今後どうなるかまだ誰も先は見通せません。
『ブラックアダム』はフェーズ1?
で、前置きがすごく長くなりましたが(まあ、どうせこのへんの企業に不都合な側面はパンフレットとかでも掲載できないしょうし)、本題の『ブラックアダム』です。
『ブラックアダム』は2022年に満を持して公開されたDC映画の最新作。とくにこのDC大改革の発表後に公開された最初の一作ということで、おのずと関心は「どんな作品でくるのか」という方向性に集まります。
実際のところ、まだ詳細な説明などはないのですが、おそらくこの『ブラックアダム』はMCU化することにしたDCUのいわばフェーズ1のひとつを構成する作品になると思われ、基幹として位置づけられると想定されています。
ただ、この『ブラックアダム』はものすごく変わった映画です。新しいブラックアダムという主人公を軸にしているので単独作品として楽しめるのですが、一方で他の作品で補完される部分も微妙にあるという、なんとも中途半端な「クロスオーバー?」みたいな感じになっています。すごく今のDCの立ち位置のあやふやさを象徴しているとも言えるけど…。
まず『ブラックアダム』には『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』とドラマ『ピースメイカー』にいたキャラクターが一部登場します。また、『シャザム!』にでてきたキャラや設定も現れます。
なので「あれ、これ誰?」みたいになったときはその関連作を観ればわかります。
ところが全然過去作映画に登場していないキャラクターも平然と最初からいたかのような顔つきで登場するのでこれが余計に混乱を生みます(原作コミックファンならすんなり理解できるのですが)。
その新キャラ要素が「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)」というヒーローチームです。過去にドラマでは登場していたのですが(個別のキャラは異なる)、映画では本格的には初登場。いきなりさも当然のようにヒーローチームが活躍し出しますが、「あれ、これ誰?」となってもこのキャラ達に関しては過去作を振り返っても登場していないので注意してください。
JSAはコミック史上初のスーパーヒーローチームで歴史もあるのですけど、まさかこんな感じでしれっと映画初出演するとは…。
そんなこんなで意外にボリュームが多くで整理も大変な『ブラックアダム』。でも映画自体は意外なほどに見やすくまとまっています。
これも監督の“ジャウム・コレット=セラ”のおかげでしょうか。それとも基本は主演の“ドウェイン・ジョンソン”が敵をボコる!というシンプルな映像だけに終始しているからでしょうか。
とにかく『ブラックアダム』、DC映画の何度目かはわかりませんが新たな再始動を見届けてあげてください。
『ブラックアダム』を観る前のQ&A
A:特にありません。あえて言うなら『シャザム!』と『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を観ておくといいです。
オススメ度のチェック
ひとり | :エンタメを満喫 |
友人 | :気楽に見れる |
恋人 | :派手な映像を一緒に |
キッズ | :子どもも興奮 |
『ブラックアダム』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ブラックアダム降臨!
一般に知られた文明よりもはるか前の文明として栄えた「カーンダック」。この国のアン=コット王はサバックの冠という闇の魔術に繋がる品を欲し、鍵となる結晶「エテルニウム」を奴隷たちに採掘させていました。
ある日、奴隷がエテルニウムを発見しますが兵士はその奴隷を殺します。すると奴隷のひとりの少年はその結晶を奪ってみせ、きっかけに反乱が巻き起こります。少年は捕まり、斬首刑となりますが、殺される瞬間に不思議な世界に移動。そこで魔術師から力を授かり、「シャザム!」と叫ぶと英雄「テス・アダム」に変身するのでした。
こうして傲慢な王の支配を終わらせ、テス・アダムはどこかへと姿を消してしまいます。
年月は経過。現在のカーンダックは街が軍に占拠され、武装したギャングが大勢蔓延っていました。
考古学者のアドリアナ・トマズ、弟のカリーム、同僚のサミール、イシュマエルの面々は、厳しい警戒の街に侵入。岩山の採掘場へ向かい、遺跡に立ち入ります。
しかし、サミールがギャングに殺されてしまい、内部のテス・アダムの墓らしき空間でアドリアナは宙に浮かんでいる冠を入手すると、ギャングに追いつかれ、絶体絶命に。
アドリアナはその場で「シャザム」と読み上げると衝撃が起き、テス・アダムが召喚されます。
テス・アダムは圧倒的なパワーでひとりを灰に変え、銃弾も無傷。茫然と見上げるアドリアナでしたが、テス・アダムは空中に浮かびながら外へ。戦闘ヘリや武装車両に囲まれても殲滅してしまいます。
アドリアナの車両の前に歩いてきてロケットをキャッチするテス・アダム。エテルニウム爆発で傷を負い、飛び立ったと思いましたが昏睡して落下。
テス・アダムはアドリアナの息子アモンの部屋で目覚めます。5000年経過していると説明され、この街を救ってほしいと言われますが、テス・アダムは英雄になることに興味なし。飛び立ってしまいます。
アモンは武装ギャングを挑発し、アダムにアピール。アダムは仕方なくギャングを瞬殺します。
そんな異様なパワーの存在が出現したことを感知した米国政府の高官のアマンダ・ウォラーは、この一件に対応するべく、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)を派遣。
リーダーで空を自由に飛び交うカーター・ホール(ホークマン)、幻覚の魔術を操るケント・ネルソン(ドクター・フェイト)、風を操作するマクシーン・ハンケル(サイクロン)、巨大化できるアルバート・“アル”・ロススタイン(アトム・スマッシャー)。
この4人がテス・アダムの前に立ちはだかりますが…。
ツンデレ・マッチョ
『ブラックアダム』は物語の構図としては『ジャスティス・リーグ』に似ていて、ヒーローチームがあって、最初にそのヒーローチームと敵対するとんでもない強い奴がいて、それでもさらなる悪が現れるので終盤にはみんなで協力して倒す…そんないつもの感じです。
『ブラックアダム』が違うのは、物語はあくまで1匹狼のアンチ・ヒーロー的なブラックアダムの始点になっていること、そしてヒーローチーム結成の過程を全く描いていないということです。
とくに非常にテンポが速いので「見やすさ」という観点では気持ちよく作られています。冒頭からめちゃくちゃ速いですよね。カーンダックの説明とかもポンポン進んでいき、漫画のコマ割りのようなスピード感。アクションもVFXを駆使した豪快さありきで、精密な体術とかを眺めるような雰囲気はありません。
主役のブラックアダムのキャラクター性も明快で、要は「絶対にヒーローになんかならないんだからね!」と言いながら子どもを助けちゃうツンデレ・マッチョなんですよ。
敵はわりと盛大に殺されていくのですが、製作上で残酷なシーンはカットされたそうで、確かに血はほとんど出ていません。みんな灰になるか、ドロドロになるか、画面外から消えるかです。スーパーマンのアクションを粗暴にしたような感覚であり、極めて漫画チックにエンタメ化されています。
全く背景が描かれないジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)のメンバーも、しっかり個性が際立っているので、単純に眺める分には飽きません。アトム・スマッシャーとサイクロンの若者ペアの掛け合いも良い意味で砕けていて楽しいですし、何かとブラックアダムとぶつかり合ってしまうホークマンとそれを観戦しているドクター・フェイトという絵面も笑ってしまうほどほんわかです。
これは完全にその人の好みに左右されますが、『ジャスティス・リーグ』がもっさりしていてスローペースで鈍重だったなと不満な人は、この『ブラックアダム』はかなり快適にエンジョイできたのではないでしょうか。ある種の対極を狙って作られたような映画でしたね。
“ジャウム・コレット=セラ”監督の軽さというのが上手く引き出された映画だったと思います。
主役がこんななので大雑把だけど
そんな『ブラックアダム』ですが、この単純明快さは裏を返せば、それ以上の深みも何もないことを意味してもいて、昨今のあらゆるアプローチで挑もうとしているヒーロー系アメコミ映画の群雄割拠の時代において、この本作は突出した個性は薄めです。
“ドウェイン・ジョンソン”がでている!というスター性だけで売りになるような感じ…(この今のハリウッドでここまでスター性がある俳優として君臨しているだけでも凄いですけどね)。
キャラクターの背景の描き込みが薄いのもファンダム的には難点で、例えば、本作の描かれ方だとファンダムが熱狂するほどの素材にはなっていない…。描写が薄すぎるのでそこまでのヘッドカノンを刺激する効果もないくらいです。なんかもったいないですよね。
ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカの潜在的な魅力がくすぶっている…。ドクター・フェイトが犠牲になる覚悟を決めても、観客としてはたいして知らないキャラなのでなんのエモーショナルな感情も沸き上がってこないし…。
考古学者のアドリアナの描写も貧弱だなと思います。結局は学術的な専門性よりも子を守るという母性的な側面が強調される出番ばかりでしたから。
社会の描写のリアリティも乏しく、カーンダックがどういう国家なのかも曖昧で、それなのにアマンダ・ウォラーのようなアメリカ政府側の人間は平然とヒーローを他国に派遣してくるし…(『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の犯罪者チームを密かに送り込まざるを得ない設定と完全に矛盾している気がする)。
終盤では民衆蜂起も描かれており、少しばかり政治色をだしているのですが、ものすっごく雑なので、こんなのでは今の中東とかのひっ迫した政治状況で抗議している人の現実感とは全然雲泥の差です。
ブラックアダムというキャラクター性ゆえなのでしょうけど、作品全体がやることなすこと大雑把になるという副作用は避けられないのかな。
ポストクレジットでは、“ヘンリー・カヴィル”演じるスーパーマンと対峙し、いよいよさっそくクロスオーバーを予感させます。絶対“ドウェイン・ジョンソン”自身がマッチョ対決したいだけだな、これは…『ワイルド・スピード スーパーコンボ』と同じ匂いがする…。
将来的な新生DCユニバースは映画、ドラマ、アニメ、ゲームなどがユニバースとしてガッツリ接続していくとのことで(一部作品を除く)、ファンは消費で忙しくなりそうですね。シリーズのひとつの主軸としてどんな大々的なストーリーを設定するのか、そのあたりも気になりますが、今は全く見えてきません。
DCでも『アベンジャーズ エンドゲーム』級のどデカいのを一度くらいは観てみたいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 39% Audience 89%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
DCエクステンデッド・ユニバースの映画の感想記事の一覧です。
・『THE BATMAN ザ・バットマン』
・『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』
作品ポスター・画像 (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
以上、『ブラックアダム』の感想でした。
Black Adam (2022) [Japanese Review] 『ブラックアダム』考察・評価レビュー