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『アーミー・オブ・シーブズ』感想(ネタバレ)…Netflix;動画再生回数1回の男が盗む

アーミー・オブ・シーブズ

動画再生回数1回の男はゾンビよりも金庫を愛している…Netflix映画『アーミー・オブ・シーブズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Army of Thieves
製作国:アメリカ・ドイツ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マティアス・シュヴァイクホファー

アーミー・オブ・シーブズ

あーみーおぶしーぶず
アーミー・オブ・シーブズ

『アーミー・オブ・シーブズ』あらすじ

銀行員のディーターは自分では一流の金庫破りだと自負していたが、伝説の錠前師ハンス・ワーグナーが生み出したとされる4つの金庫の逸話を得意げに語る動画を投稿するしかできない男だった。そんなある日、謎の女性にスカウトされ、欧州を股にかけて伝説の金庫3つを狙う強盗一味に加担する。世界はアメリカで発生したというゾンビパニックの騒動に注目している。この隙に難攻不落の金庫を突破することはできるのか…。

『アーミー・オブ・シーブズ』感想(ネタバレなし)

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金庫破り、ゾンビ抜きで!

昔、私の祖父母の家にダイヤル錠の小さな金庫があったのですが、なんとなくなイメージであの数字と目盛りがいっぱいあるダイヤルをくるくる回せば開くのだろうなということは子どもながらにわかっていました。しかし、あのダイヤル錠、実際に開けるとなるとかなりクセのある動作を要求されるんですね。そのことはだいぶ後になって大人になってから知りました。所定のダイヤル番号をカチカチっと合わせればパカっと開くと思ったら大間違い。最初は4回右に回すとか、あれこれ決まりがあって、それを理解していないと番号をわかっていても絶対に開けられません。

バカみたいな感想ですけど金庫ってよくできているんだなぁ…。

そんな初歩的な金庫でも悪戦苦闘する私ですから、鉄壁の守りを持つセキュリティ・トップクラスの金庫なんて開けられるはずもない。でもこの映画ではヘッポコそうな男がそんな金庫を開けるべく挑戦してみせます。しかも3つも。それが本作『アーミー・オブ・シーブズ』です。

本作を理解するうえでまず言っておかねばらないのは、本作は2021年5月に日本含む全世界でNetflixオリジナル映画として独占配信された『アーミー・オブ・ザ・デッド』のスピンオフだということ。『アーミー・オブ・ザ・デッド』は突如としてゾンビパニックが起きてしまい、壊滅状態となったラスベガスを舞台に、危険をものともしない奴らがチームを組んで、大金が満載だという金庫を強奪するべく挑むという映画でした。

『アーミー・オブ・ザ・デッド』の監督はクセのある作家性でDC映画などを牽引してきた“ザック・スナイダー”。後悔を吹き飛ばすべく生まれた『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』以降、ワーナーから捨てられた“ザック・スナイダー”がNetflixに移ったということで、ファンの間でも話題の一作でした。

そっちの映画では一応は綺麗にオチがついたのですが、この本作『アーミー・オブ・シーブズ』はそのゾンビパンデミックが起きた直前の時期を描く前日譚になっています。といってもゾンビと戦う話ではありません。ゾンビは世界情勢として「アメリカではゾンビパニックが起きている」ということが情報として提示されるだけ。

じゃあ、メインは何なのかというと、金庫破り。今度はゾンビ抜きの金庫破りです。主人公は『アーミー・オブ・ザ・デッド』でもディーターという名で登場したあの若い男。彼がひょんなことから国際的強盗集団のチームに参加し、伝説の3つの金庫を狙うべく、世界を飛び回る…というストーリーです。

やっていることは前作と同じなのに、ゾンビを無くすだけでさも新しいことをしているような感じにさせる…。ゾンビ映画からゾンビを抜くという発想はなかった…。

“ザック・スナイダー”は脚本と製作を手がけていますが、監督の方は“マティアス・シュヴァイクホファー”(マティアス・シュバイホーファー)という人が担当しています。この人は本作の主人公を演じている俳優であり、自分で自分の大活躍する映画を撮っているという、潔さ。

共演は、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で話題になり、『ワイルド・スピード ジェットブレイク』でも活躍していた“ナタリー・エマニュエル”。なお、今作でも大型車を乗り回しているのですけど、偶然の一致なのか…。

他には、コメディアンでパキスタン系の“ガズ・カーン”、コスタリカ出身の“ルビー・O・フィー”、スコットランド人の“スチュアート・マーティン”、フランス人の“ジョナタン・コーエン”、日本とフランスのハーフの“中井ノエミ”など。相変わらず多彩な人種を揃えており、賑やかです。

ゾンビはメインではないので味付けとしては以前よりもはるかに大人しめですが、“ザック・スナイダー”印の痛快なクライムサスペンスが展開されていきますので、難しいことは考えずにエンターテインメントとして満喫できるのではないでしょうか。

ちなみに前日譚なので前作を観ておかないと物語がわからないということはありません。むしろ『アーミー・オブ・シーブズ』を観ると『アーミー・オブ・ザ・デッド』を続けて観たくなってくるのでまんまとNetflixの策略にハマってしまいますね。

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『アーミー・オブ・シーブズ』を観る前のQ&A

Q:『アーミー・オブ・シーブズ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年10月29日から配信中です。
日本語吹き替え あり
烏丸祐一(セバスティアン)/ 沢城みゆき(グウェンドリン)/ 朝井彩加(コリーナ)/ 阪口周平(ブラッド・ケイジ)/ 後藤光祐(ロルフ)/ 山岸治雄(ドラクロワ)/ うえだ星子(ベアトリクス)/ 楠大典 / 宮島依里 / 杉浦慶子 ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気軽にのんびりと
友人 3.5:暇つぶし感覚で
恋人 3.5:ロマンス要素あり
キッズ 3.5:泥棒サスペンス好きなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アーミー・オブ・シーブズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):金庫を3つも!?

昔、ミュンヘンの工房にみんなから尊敬されている錠前師でハンス・ワーグナーという男がいました。職人仕事を丁寧にしていた彼は妻子を亡くしてからというもの、やる気を失ってしまいますが、人生最後の力作として4つの金庫を生み出します。その名は「ラインゴルト」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」。開けられるのは特別な者だけ。そしてもうひとつの金庫を作り、自分がその中に入り、誰にも開けられずに息を引き取り、海に沈められたのでした。3つの金庫は今も使われており、「神々の黄昏」だけは噂すらも聞かれず存在はあやふやに…。

セバスティアン・S=ヴェーナートはそんな逸話を自室のノートパソコンの前で語り、動画に収めてアップロードします。誰か視聴してくれるかな…。

自称「スーパー金庫破り」のセバスティアンは、幼い頃から金庫に夢中で、部屋に閉じこもってはその金庫破りの腕を磨いていました。今の仕事は銀行員。退屈です。いつもの仕事で受付に座り、来客の罵声を聞くだけの時間。職場のテレビでは「ラスベガスでゾンビ大量発生」などと報じていましたけど、ここはいたって平穏…。

家に帰り、自分の投降した動画の様子を見ると、再生回数が1回になっていました。しかも、コメントで場所を指定され、腕試しだと書かれています。

よくわかりませんが褒めてくれるのかと思ってセバスティアンは言われたとおりの時間にベルリンへ。謎の地下の場所に案内され、いきなり聴衆の前へ。何人かが金庫の前に立っており、「用意、スタート!」の掛け声。

どうやら金庫破りの腕を競い合っているらしいです。次のステージに進めるのはこの中の4人だけ。セバスティアンはとりあえずやってみせます。そしてファイナルに進出。一騎打ちです。でも簡単でした。サクっと開けてしまうセバスティアン。「新チャンピオンの誕生です!」

観衆が沸き立つ中、そこである女性と目が合います。

そんなこともありましたが、結局はよくわかりませんでした。またいつもの日課。コーヒーを買って、振り返ると…あの金庫破り闇バトルで見かけた女性が立っている。びっくり。

その女性、グウェンドリンはずっと監視していたらしく、窃盗に関しては一流の腕前で、店内の客のモノをあれこれ盗んでみせます。ここに来た理由は、自分の所属する国際手配された泥棒で世界的な強盗団に勧誘しに来たとのこと。しかも、ターゲットはあのハンス・ワーグナーの金庫で、アメリカの感染爆発のせいで、3つの金庫がジュネーブに運ばれてお払い箱にされようとしているというのです。つまり、これを逃がすとあの伝説の金庫はこの世から消える…。これは味気ない人生を変えるチャンス。

こうしてセバスティアンは参加することに。

チームは他に3人。ハッカーのコリーナ・ドミンゲス。ドリフトの達人のロルフ。筋肉ムキムキなブラッド・ケイジ。これだけ。

この総勢5人で短い期間に難敵の金庫を3つも開けられるのか…。

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オシャレではない、オタクだ!

『アーミー・オブ・シーブズ』は要は「銀行に侵入して金庫をこじ開ける!」というだけの話であり、クライムサスペンスとしてはシンプル。まあ、3つも開けないといけないのですけど。

ただ、『オーシャンズ11』『ミニミニ大作戦』のような既存のケイパーものと違い、オシャレ感はほぼないです。その代わり、明らかに漂っているのはオタクくささであり、これぞ“ザック・スナイダー”らしいオタク愛。基本的にはダサい奴らをカッコよく見せる天才ですからね、このクリエイター。

本作のチームメンバーも個性は違えど根っこの部分はオタクです。オタクという言葉を蔑称ではなく誇りにしているようなタイプです。

運転担当のロルフは「マリオカート」好きであり、現実でも客の高級車をガンガンに乗り回して遊んでいるだけの奴なのですが、本作内でもたぶん車を運転できればそれでいいんでしょう。

アレクシス・ブロスキーニ、またの名をブラッド・ケイジは、元はいじめられっ子なのですが、アクション映画に感化されて肉体改造に目覚め、今ではマッチョな身体を手に入れた、どう考えてもアメコミ映画で見たことありそうな男。見た目は屈強でも精神面はオタク的未熟さを抱えており、女性関係も支配的な独占欲を示すインセル体質は変わってません。

そしてハッカーのコリーナ。弟のためにその場の思いつきで「パイレーツ・オブ・カリビアン」新作を流出させた実績を持つ、なかなかにヤバイ女。おそらくパソコンのデスクトップ画面から推察するに、アニメとかのオタクなのか。意外に一番にオタクとしての親和性があります。

最後はグウェンドリン。彼女も真面目そうに見えてやっぱり内側は金庫オタクというか、盗みのオタクであり、モノを盗んで豪遊するよりも盗む行為にプライドがあります。

この2人の女性がなんだかんだでオタク・フレンドリーで最終的には味方してくれるのは、主人公のセバスティアンのようなオタク男の理想の具現化ということなのでしょうけど…。

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追う側もなかなかに心配になるダメ男

『アーミー・オブ・シーブズ』の主人公はその中でも指折りのオタク風情が全開。

妄想の中では最高の金庫破りを気取っていますが、現実社会では何もできず…。そんな中で理想的な女性が自分の目の前に現れて、自分を充実した世界に引っ張ってくれる、これぞ典型的なオタク男性が夢想する展開に。

ただ、このセバスティアンは女性とよりも金庫とヤる方が好きそうな奴であり、実際に金庫を前にしたときのテンションはグウェンドリンもドン引きするほどに気持ちがわるい…。まあ、オタクなんて客観的に見たらそういうものです、ええ。

しかも、本作は設定上は各金庫が「ニーベルングの指環」の逸話になぞらえてあるという、なんともこれまたオタク臭の強いことになっているわけです。実のところ、その設定がこの金庫破りの難易度に関わっているのかは不明ですし、金庫を破る際の謎解きに使われていく明確な描写もないので、完全に設定としての飾りでしかないのですが…。

そんな「大丈夫なのか、このオタクたち…」と観客も心配になってくるのですが、ここでこの無謀な強盗団を追うインターポールのドラクロワがまた別の意味で「大丈夫か…」と不安になるダメ男で…。空回りしている自尊心だけが高い迷惑な奴であり、いちいち部下のビアトリクスがフォローしてくれているのが痛々しい…。

ともかくそんな追う側もダメダメなので、なんとなくこのサスペンス映画は気が抜けるというか、そこまで絶体絶命の緊張感を味わうことなく気楽に流れるユルさがあり、それが持ち味になっています。その部分は前作の命を懸けたスリルとはまるで違っていますね。

個人的には終盤の締めはかなり急ぎ足で片付けた感じもあり、やや物足りないかなとは思います。セバスティアンも助けてもらうだけ助けてもらって、逆に何か他者にしてあげるということもなく、ルードヴィッヒ・ディーターとして新たな逃亡生活に移行してしまいますからね。『アーミー・オブ・ザ・デッド』に繋げることを第一に考えているとは言え、もうちょっと主人公の成長が見たかったです。

ルードヴィッヒ・ディーターという主人公の漫画を描いていた男がまさに漫画の架空の主人公と一体化するというのは“ザック・スナイダー”的にはアツい展開ではあるのはわかるけど。

そもそもあの金庫、ほんとにセキュリティが強固だったのか?…全くこちらとしてはさっぱりだったけど、やはり金庫という構造物の難しさを視覚的な映画で見せるのは難しいですよね。本作にはドラマ『LUPIN ルパン』みたいな緻密なトリックとかはないし…。

『アーミー・オブ・シーブズ』で学んだのは、金庫は一般人には使いづらいけど、泥棒は簡単に扱えるということですかね。金庫の中身は定期的にチェックしましょう。ゾンビが来る前に。

『アーミー・オブ・シーブズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 88%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix アーミーオブシーブズ

以上、『アーミー・オブ・シーブズ』の感想でした。

Army of Thieves (2021) [Japanese Review] 『アーミー・オブ・シーブズ』考察・評価レビュー